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「題名の無い長編その十四第二話」(2010/08/22 (日) 14:44:41) の最新版変更点
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院長室はかなり綺麗だった。
院長の机の上にはノートパソコンが4台置いてあって、いかにも院長室という感じのソファが
入ってすぐに置いてある。
「座っていいよー」
「あ、失礼します。」
「コーヒーと紅茶・・・いや、○○君に黙って炭酸なんてどう?」
「院長、一応お医者さんですよね・・・・?」
「うそうそ、冗談。コーヒーでいいね?」
「はい。」
院長がコーヒーを入れているあいだは互いに無言だった。
この間が何か嫌だった。
「はい、コーヒーね。」
「ありがとうございます。」
湯気のたった黒い液体。コーヒー。
一口飲んで、受け皿の上においた。
院長も一口飲んで、受け皿の上においた。
俺はもしものことが・・・と思い、コーヒーの入ったカップを受け皿を自分から少し遠くにおいた。
「○○君から聞いてるよ。自分の病気はなんなんだって聞いたみたいだね?」
唐突だった。自分から言い出せば良かった。心臓が飛び出るかと思った。
「はい。なにか、親の様子もおかしいし、僕のいる病棟はこのいつもいっぱいの病院にしては、
人が少なすぎる。その割に他の病棟はたくさんの人がいる。」
「・・・・・」
60 :名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 22:45:11 ID:XQkJbV+4
「もしも、の話です。できるなら『そんなことないよ。』と言ってくれると嬉しいですが、
単刀直入に言います。僕は何か特殊な病気なのですか!?」
自分の今の気持ちだった。
いつもの院長の感じで笑い飛ばして欲しい。
それしか願わない。
「・・・、ふー。」
院長が長い沈黙とともに息を吹いた。ため息、という感じでは無い。
「うん。わかった。その質問の重みは君が十分理解していると思う。」
俺は軽く頷いた。
「君も単刀直入にいったのなら、私もそうしよう。覚悟はできてるね?」
「はい。」
覚悟なんてできてるはずもなかった。していたはずなのに。
今ならまだ間に合う、院長に待ってくださいというんだ!と心が叫んでいる。
けれど、口が接着剤でくっつけたように開かない。
「よし。じゃあ言うよ。君の病気は・・・・」
聞きたくない!聞きたくない!今すぐにでも耳を塞げ!と心が叫ぶ。
それも、できない。体が硬直してしまっている。
「直す方法も、予防方も確立されていない未知の病気だ。
日本国内では君が初めての発症者だ。国際的にはまだ12人しかいないとされている。」
聞いてしまった。心のつっかえがとれた感覚とともに、
死の宣告を受けたという恐怖心が心を埋め尽くした。
「具体的には、どんな症状がでるのですか?」
61 :名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 22:46:19 ID:XQkJbV+4
と、振り絞るような声で聞いた。
「うん。発症・・・君の場合は倒れた時、だから一週間前だね。そこから、
だいたい1週間を過ぎると、だんだん体が動きにくくなっていくんだ。
けれど、顔の神経系はなぜか何時までも無事なんだよ。だから、顔以外の体が動かなくなるんだ。
で、発症から一年あたりからだんだん記憶が欠落してくんだ。
最初はつい最近のこと、ひどくなっていくと家族の名前、自分の名前。
最期には誰が誰なのかという事さえもわからなくなってしまうんだ。
」
「一週間!?今日じゃないですか!明日には僕の体が動かなくなるって言うんですか!?」
「いや、違うよ。だんだん動かなくなっていく、と言ったよ。」
「同じようなものですよ!結局は体が動かなくなって、誰なのかわからなくなって、ボーっと過ごして余生をすごすんですよね!?」
「うーん、ちょっと違うかな。ボーっとではなく、痛みに苦しまれるんだ。」
「痛み?神経関係が麻痺するのに?」
「動かなくなる、って言ったけど神経自体は麻痺しないんだ。何故かはわからない。
そして、動かなくなった体の部分が切り刻まれるような痛みが出てくるそうだ。顔は大丈夫だから、悲痛の声と涙を流してくんだ。」
「そ、そんな。死ぬのはいつですか?」
「そんな聞き方はあまり良くないね。この病気で死ぬことはない。けれど、世界で発症している12人は皆、亡くなっている。」
「?なぜですか?」
「あまりの苦痛に舌をかんで死んでしまうんだ。口に噛まないように布を入れても、ちょっとした拍子に噛んでしまうだ。」
「・・・・・・」
辛い現実を突きつけられ、思わず絶句してしまった。
そんな、死ぬより辛いことが起こるなんて・・・
それなら、自殺をしてしまったほうが・・・・
62 :名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 22:47:45 ID:XQkJbV+4
「けど、これだけは言っておくよ。今のうちに自殺をしようなんて考えないことだ。
5例目で、自分で首を吊って死のうとした人がいたんだ。
その病院も発見が遅れて、吊ってから2時間は立っていたそうだ。
心臓は停止していて、手の施しようがなかったそうだ。
家族の同意も得て、黙祷をしている最中のことだったそうだ。突然その人が目を覚ましたそうだ。」
「えっ?それは、死んだのに生き返った・・・って事ですよね。」
「うん、そうなるね。信じれないことだけどね。
その人はまだ発症から2ヶ月だったのだが、いきなり記憶の欠落が始まり、一週間後には痛みに悩まされたそうだ。」
「じゃ、じゃあ僕はどうしたら、いいんです・・・か。」
なぜか涙が出てきた。
あんな親でも家族、妹にも会えない。
それどころか、その記憶もなくして死んでいく、そんなの嫌だ。
「僕からはこれしか言えない。記憶の欠落が始まるまでは、家族の時間を大切にして。
それしか言えない。
ごめんよ、医療が進歩すれば、助かるかもしれないのに・・・・」
そこからのことはよく覚えていない。
たぶん、頭が真っ白で病室に戻ったのだろう。