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21 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:21:03 ID:CmAoTRFg0 「ど、どうして……?」 「今の女性は、お知り合いですか?」 突然、僕から携帯を取り上げて通話を切った紅麗亜。 その行動の理由を聞こうとしたら、逆に質問されてしまった。 冷ややかな声に気圧され、僕は素直に答えるしかない。 「学校の……先輩だよ」 「お食事に誘われていらっしゃいましたが?」 「うん。たまに……」 中一条先輩は、僕をよく食事に誘ってくれる。 最初のうちは気が進まず、理由を付けて辞退することも多かったが、あまり親切に誘ってくれるので、断るのも悪い気がだんだんして、応じるようになった。 最近は先輩のお屋敷の豪華さにも少しずつ慣れてきて、余程のことがない限りお呼ばれしている。 しかし、紅麗亜はそれが面白くないようだった。「フン」と鼻を鳴らし、こう言う。 「ご主人様たるもの、メイドの作った食事以外口にすべきではありません」 「え……? そんな……」 「あの女は、ご主人様にその禁を破らせようとしました。ご主人様に害を成す存在であることは明白です」 「で、でも……」 「でも、何ですか?」 「あの、その……」 ソファーに座った僕を見下ろす、紅麗亜の傲然たる眼差し。 折れて屈服しそうな心を必死に支え、僕は反論しようとした。 そのとき、再び振動が起きる。今度は紅麗亜の手の中で。 「もしもし」 彼女は何のためらいもなく、僕の携帯の着信に応答した。 『ちょっと! 誰よあなた!? 詩宝さんはどうしたの!?』 中一条先輩の声だ。耳を寄せなくても僕のところまで聞こえてくる。相当怒っているのは間違いなかった。 22 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:21:36 ID:CmAoTRFg0 僕はさらなる恐怖に襲われ、両手はガタガタと震え出す。 「あわわわ……」 何故なら、中一条先輩という人は、普段はとても穏やかで、いかにもおしとやかなお嬢様といった雰囲気なのだが、怒るととてつもなく怖いらしいからだ。 らしい、というのは、僕の前で怒ったことがほとんどないため。 ただ噂によると、先輩の怒りに触れて精神に異常をきたした人は両手の指ではきかないらしい。 “メデューサ”という、怪物並みの2つ名も耳にした。 もっとも先輩をそう呼んだ人は、生徒であれ教師であれ、一日で学校に来なくなってしまうのだけれど。 ともあれ、その中一条先輩が、今、この瞬間に怒っている。僕のせいで。 何とか宥めないと…… 「か、代わって」 立ち上がって手を伸ばしかけた僕だったが、その手は紅麗亜に掴まれ、空しく宙に固定された。 絶望が、全身を駆け巡る。 「ああ……」 一方、先輩の怒声をより間近で聞いた紅麗亜は、全く堪えていない様子だった。 至って涼しい口調で会話をする。 「私は、詩宝様にお仕えするメイドです。ご主人様であらせられる詩宝様に全てを捧げ、身の回りのお世話一切を任されております」 『はあ!? 何寝言言ってるの!? 詩宝さんがメイド雇ったなんて、聞いたこともないわ!』 「今日雇っていただきましたから、当然です。もっとも、何カ月前であろうと、ご主人様があなたに連絡する必要があるとは思えませんが」 『黙りなさい! 詩宝さんにメイドなんかいらないわ! 必要なら私が面倒見てあげるんだから!』 「フッ。御奉仕の何たるかも知らない素人が、出来もしないことを……」 怯むどころか、挑発的な、嘲るような口調で先輩に言い返す紅麗亜。 何のつもりか、先輩の怒りに油をどしどし注いでいる。 23 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:22:13 ID:CmAoTRFg0 『…………』 紅麗亜の言葉が終わっても、先輩の声は聞こえなかった。だが、逆にそれが恐ろしい。 怒りのあまり、口が聞けなくなったのではないか。 紅麗亜の持つ僕の携帯から、放射線が出ているような錯覚がした。 「これ以上、お話しても無駄ですね」 紅麗亜は通話を切った。先輩との繋がりが遮断される。 一瞬ほっとしたのは、僕の心の弱さのせいだろうか。緊張の糸が切れ、僕はソファーに倒れ込む。 そのときになって、ようやく紅麗亜は僕の手を放した。 「今の番号、着信拒否にしておきますね。ご主人様」 打って変わって、上品な微笑を浮かべている。 まさに上流階級のメイドと言うべき風格だったが、言っていることはとんでもなかった。 「ま、待って……」 慌てて止めようとしたが、それよりも早く、紅麗亜は僕の携帯の操作を終えていた。 「解除してはいけませんよ。あの女はご主人様に害を成す毒婦です。ご主人様にメイドが不要などとは……世迷い言にも程があります」 携帯を僕に返しながら、中一条先輩を非難する紅麗亜。 「…………」 「分かっていただけましたか?」 「えっと。あの……」 「ご主人様」 ずい、と紅麗亜は僕に顔を近づけた。僕は仕方なく、 「わ、分かったよ……」 と返事をする。 しかし、そのときの僕は、明日先輩に会ったら何て言って許してもらうか、専らそれを考えていた。 「…………」 だが、それも紅麗亜にはお見通しだったようだ。 「それほど怖いですか? あの女性が」 「え……あ……」 紅麗亜は腰を曲げ、目線を座った僕と同じ高さにしていた。 何を答えていいか分からず、言葉に詰まる。 「ご心配には及びません。ご主人様は、何があってもこの私がお守りいたします」 そう言うと、紅麗亜はそっと目を閉じた。 「……? !!」 気が付くと、唇を吸われていた。 人生で、初めてのキスだった。 24 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:22:44 ID:CmAoTRFg0 初めて会ったときには、もう生涯の伴侶と決めていたと思う。 しかし、それからも会うたびに、知るたびに、私はあの人に惹かれていった。 その誠実さに、勇敢さに、優しさに。 紬屋詩宝さん。 私、中一条舞華の全てと言ってもいい人。 でも、詩宝さんの方は、すぐには私にうち解けてくれなかった。 私の家や、女性にしては高すぎる私の身長、その他の忌々しい要因のせいで、違う世界の人間だと見なされていたようだ。 見えない壁を作られていた。 その壁を叩き壊すのに、私はあらゆる努力を惜しまなかった。 何度もアプローチし、会話を重ね、いろいろな場所に誘った。 これは内緒だが、詩宝さんにちょっかいを出す雌虫が近付かないよう、金にあかせて様々な策略も巡らした。 その甲斐あって、今ではかなり距離が縮まってきたと思う。 今日も2人の仲を進展させる作戦を実行する予定だった。それなのに…… 「どういうことよ、一体!?」 何故いきなり、詩宝さんのメイドなどと名乗る雌が出てきて、2人の会話を邪魔するのか。 怒りのあまり、目の前が真っ赤になりそうだった。手に持った受話器が、嫌な音を立てて軋む。 「お嬢様、どうされたのですか?」 テーブルを挟んで向かいに座る、赤いスーツ姿の若い女性が私に声をかけてきた。彼女は、私の秘書の1人だ。 もう1人の秘書は今部屋の外にいて、詩宝さんを迎える準備を進めている。 だが、その準備もあのゴミのせいで…… 「急に電話を切られたのよ。かけ直したら訳の分からないことをのたまわれたわ」 「まさか、あの詩宝様が……何かの間違いでは?」 「その間違いが起きたのよ。今詩宝さんに、メイドを名乗る害虫が取り憑いてる」 「そんな……詩宝様の女性隔離作戦に抜かりはなかったはず……」 驚く秘書。しかし、私はそれほどでもなかった。 あの作戦には、いくつか穴もあったからだ。 「エメリア。あなた確か、詩宝さんの家にカメラとマイクを付けるのに反対したわね?」 「はい……詩宝様のプライバシーを考えますと」 「それが甘かったのよ! 家にいる詩宝さんに、毒虫がたかる可能性もあったのに!」 とうとう怒りを抑制できなくなった私は、木製の机に正拳を振り下ろした。天板が真二つに割れ、乗っていたものが周囲に散乱する。 25 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:23:22 ID:CmAoTRFg0 「も、申し訳ありません……」 秘書のエメリアは、縮こまって謝罪をした。テーブルを割って多少怒りの収まった私は、彼女を慰めた。 「いいのよ。あなたの意見を採用したのは私の責任だわ。でも、このミスは取り戻すわよ」 「はいっ!」 そのとき、部屋のドアがノックされた。 「……どうぞ」 「あ、舞華。行って来るよお」 父である。人の気も知らないで能天気なものだ。 私にとっては、人生で唯一の伴侶を得られるかどうかの瀬戸際だが、中一条グループにとっても、理想の後継者が手に入るか否かの正念場のはずだ。 もっとも、父ごときにそれが理解できなかったからと言って、責めるほど私は狭量でもないが。 私は父に、いたわるような声で言った。 「お父様。出かけなくていいわ」 「え? でも、朝まで帰ってくるなって、舞華が……」 「予定が変わったの。ビジネスではよくあることでしょう?」 「そ、それはそうだが……」 手もなく私に言い含められる父。すごすごと自室に戻って行った。 これぐらい簡単に、詩宝さんも私のものになればいいのに…… 「ソフィ!」 部屋を出て、もう1人の秘書を大声で呼ぶ。青いスーツを着た秘書は、すぐにやってきた。 「ボス。もう少しで準備完了ですけど?」 「予定が変わったわ! 詩宝さんの家に行くから、すぐに車の用意をして!」 「イエス、ボス!」 ソフィは外に走って行った。私達2人も後から続く。 「ああ。こんなことならお食事に呼んだとき、媚薬を仕込んでレイプしてもらえばよかったわ!」 「しかし、お嬢様。それでは詩宝様のお心に傷が」 「その温い思考の果てに今の状況があるのよ! 馬鹿!」 玄関から庭に出た。余程悪い目つきをしていたのだろう。 たまたま目が合った庭師が失禁し、枝から転落した。

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