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37 : ◆fyY8MjwzoU :2010/06/27(日) 23:02:08 ID:p2ZcKWO6 「あつ……」  俺は暑さでだるい体に鞭をうち帰宅する。俺の名前は杉岡卓也。とある高校の二年生をやっている。  四月に生徒会選挙をやり役員は全員二年生に変わったのだが運良く俺が副会長に当選し今は副生徒会長という就職、大学に行くのにも結構な評価が来るなかなかおいしいポジションについている。  だが頭は中の中。運動は上の下というどこにでもいそうな平凡な高校生でもある。なんで当選したかは自分でもはっきり言って分からない。  特にめぼしい行事もないまま進んでいき、期末試験になった。今日はその期末試験の二日目だった。俺の学校ではテストは三日に別れ三時間ずつどこかで追加一時間という形式でやっている。  帰った後勉強できるような配慮だろうが俺たち高校生は勉強なぞせず遊ぶだろう。そう! 早く帰れるのだから!  こほん……とにかく早く帰れるのはいいことだ。問題点は帰宅する時間だ。今日は俺たち二年生の追加日。  現在は12時45分。真夏の太陽がお空の中心地点にいる頃だ。果てしなく暑い。太陽の無駄な頑張りに涙する、俺17歳。  これならまだ学校でクーラーを浴びながら睡眠授業をしている方がマシだ。家に帰れば開放感が胸いっぱいに広がるが。  それにしても腹も減り暑さで元気が削られ体から水分がなくなっていく。せめて少しでもいいから満たしたいと俺は考えていた。 「コンビニでもよるかな…」  人類が作った文明の英知の結晶、コンビニ。クーラーで涼しくなり喉も潤せお腹も満たせる。まさに現代の天国。俺はコンビニに向かうことにした。  コンビニの難点は少し値段が高いところだけどこのぐらいは目をつぶっても大丈夫だと思う。時々小銭足りないときあるけど  ふと、コンビニに向かう途中細い通路があった。いつも通っているはずなのに見慣れない道。もともとここらへんは来ても素通りするような場所だから仕方ないけど。  俺はどうするべきか迷った。現代の天国に行って俺の欲求を満たして休憩したいがこの溢れんばかりの冒険心も満たしたい。 「細い通路に行くか」  この高鳴る鼓動の冒険心を満たすことにした。もしかしたらこの先にもコンビニがあるかもしれない。行き当たりばったりの人生。それが男子高校生の華だろう。  孤独を気にせずワクワク、ルンルンとした気分になりながら俺は向かうことにした。    長い間進んでいると小さな喫茶店が見えた。この奥に通路にはもう通路が無いようなのでここで食事にして帰ることに決めた。  どうせ家に帰っても妹が俺のテストの出来を笑うだけだし。そうだよなー。俺の妹は俺と違ってすごく出来がいいからな。勉強も運動も顔も。  妹は男女分け隔て無く優しく接しており(兄除く)校内新聞の週間ランキングでは彼女にしたい女子一年生の部二位になってるし。  なぜか女子にも嫌われていないのが不思議な点だ。こんななんでもできるやつに自分の彼氏取られると思い込むやつもいると思うんだけど。  色々疑問に思ったことがあったので妹に詳しく聞こうと思ったら一言で 「兄貴とは出来が違うのだよ」  といわれ凄くショックを感じたことを今でもはっきりと覚えている。そりゃ俺何にもできないけどさ。  けれどもな。俺だって! 俺も一応校内新聞の週間ランキングに乗ったことがあるし女性にもちやほやされたことがある!  ランキングの内容は……『学校のBLカップルリングで受けだと思う人』である。栄えある二年の部三位だ。嬉しくないよ!  女性は商店街のおばちゃんたち。よくコロッケとか野菜とかをおまけしてくれる。ちょっぴり嬉しい。時々アイスもくれるから暑い日は大助かりだったりする。  と、なぜ妹と俺の不名誉なことを考えているんだ。頭が熱にやられたのか。さて涼もう……  ドアを開けるとチリンチリンと涼しげな音が響く。 38 : ◆fyY8MjwzoU :2010/06/27(日) 23:04:40 ID:p2ZcKWO6 「いらっしゃいませー」  沈んでいる気分で店内に入るとそんな気分を吹き飛ばすような明るい声で出迎えてくれた清楚で可憐なお姉さんがいた。  髪はセミロングのウェーブのかかった茶髪。胸ははちきれんばかりの大きさ。日本人の大和撫子とは違うが綺麗だと思える。  潤んだ唇、少々おっとりしているように見える垂れ目気味の瞳。まるで癒しという言葉を人の形にしたような人物だ。胸元には名札がついておりその名札曰く名前は藤里愛さんらしい。  それにしてもお尻も下品ではなく品のある色気が漂って……これは……すごく目の保養です。ここに来てよかったな。体の凹凸がここまで芸術になるなんて……恐ろしい。 「……え、あ、あれ? もしかして……」  俺の顔に近づきジーッと見て首をかしげている。は、もしや胸とお尻の見すぎで!? 神様ごめんなさい……いきなり好感度下げてどうすんだよ。俺! 「あ、わ! すいません! わたしの勘違いでした! お客様とは初めて会うのに! すいません! えっとぉ……お席はどこにいたしますか?」  胸のことではないのか……よかったー。いやいやよくないだろ。胸は見るな。胸は見るな。 「いえいえ。気にしてませんよ。えっと……」  俺は店内を見渡す。そこまで大きくないが立派な喫茶店だ。なかなか広いけれども清潔で人を落ち着かせる。うん。この人のイメージどおりの店だ。  エアコンもついており暑さを感じることはない。見回してふと疑問点が浮かび上がった。この客の少なさだ。お昼時にこれはありえないと思うんだけど。 「え、えっと他のお客様っていないんですか?」 「え! えーっとぉ……滅多にこないです」  うーんここは人が話すにはいいのにな。落ち着くし、愛さん美人だしそれを見に来る男もわんさか居そうなんだけどな。 「えっとそうだ。カウンター席でいいですか?」 「ええ、大歓迎ですよ」  俺は愛さんと話すためにカウンター席に座ることにした。一人で黙々と食べるのも虚しいし。 「こちらがメニューとなります」  トンと心地よい音を立てて水と一緒にメニューが置かれる。メニューは洋食が多くこれぞ洋食! という感じの食べ物が多かった。 「それじゃあ……このクリームオムライスの魚介入りと特製フルーツジュースをお願いします」 「はい分かりました。精一杯つくりますね」  愛さんは鼻歌を歌いながら厨房に向かう。客が来たのが嬉しかったのだろうか? 本当にいいところだと思うんだけどな。この喫茶店  今後のために一応、情報を整理しておこう。えっと店内は確実に不満はないほど綺麗になっている。まるでドラマのセットのようにも思える程綺麗だ。  ここ最近の仮面をかぶっている変身ヒーローが使う場所に使えそうだ。愛さんは美人だよな。色気を出しているが健全な清楚なオーラがたまらない。胸と尻……大きかったな。  いやいやそんなこと考えている暇じゃない。かなり脱線したぞ! ならご飯が壊滅的なのか? それしかないな。うん  数分後彼女はオムライスとジュースをお盆に持ってきてくれた。 「こちら魚介入りクリームソースオムライスと特製フルーツジュースとなります」  俺の想像とは裏腹に見た目は凄くよくいい香りを漂わせ食欲を刺激する。俺は渡されたスプーンでオムライスを崩しクリームソースに絡めてオムライスを食べる。  デミグラスソースではなくホワイトソースをかけているがさてどうか。  オムは柔らかくチーズのようなものがとけたクリームソースにオムライスが絡みあい凄くおいしい。俺のオム=デミグラスソースという方程式は崩れてしまうぐらい美味しかった。  ジュースも果実の味がお互いにいやな風に混ざらなく爽やかで甘みのあるとてもおいしいジュースだった。 「……こんなにいいところなのにどうして人がこないんですか?」  ご飯を食べ終わった後、俺は愛さんにそう質問していた。失礼だと思うが気になることは聞いておきたいのだ。まあわかってたら苦労して無いと思うが。  でも上手いご飯、可愛い店員(愛さんしかいないから愛さんが店長かな?)、清潔で人が安らげる空間。グルメ雑誌に載りそうだと思うのに……どうして人が来ないのだろう。  俺ならお金があれば毎日通うと思うのに。もったいないな。知らない奴は。 39 : ◆fyY8MjwzoU :2010/06/27(日) 23:05:21 ID:p2ZcKWO6 「えっと、たぶん宣伝していないので知名度が低いのと場所が場所なので」 「あ、なるほど。それはあるかも」  確かに道は分かりづらい。あそこの道は気をつけないと分からないし通路が細いから人が気づきにくいのだろう。ここらへんの近所に家もないから立てているのにも気づかれずにいるからな。  一番いいのは店の広告してくれればいいんだけどこの街ではちと厳しいかも。手続きとかあったはずだし。あと広告料もかかるはずだから金銭的な面でもきついと思うし。  いや普通はそういうのも計算に入れるんじゃないのかな。すこし変な気がするぞ。ドジしたのか? まあいいか。 「やはり場所は安かったけど人がこないとダメですね。喫茶店の経営という夢って小学生からの夢だったのですけど」 「夢ですか?」  なんかロマンティックだな。小学生から一途にここまで来たのは。出来るようで出来ないことだよな。 「ええ、夢。昔弟と約束してたのですよ。一緒に喫茶店やって店を盛り上げて雑誌に載るほど有名になるんだって」 「なんかいい話ですね。弟さんはどうしたんですか?」 「……いなくなっちゃったのですよ。昔に」 「すいません。こんなこと聞いて」  つらかっただろうな。弟が死んでしまって。これって聞いたの薮蛇だったよな。でも凄いな。夢への妥協点を見つけて諦めないで夢を一人でもやろうとしてる。羨ましいな。 「気にしないでくださいね。もともと弟が手伝ってくれなくても喫茶店をやるつもりでしたしね。夢である喫茶店は開店できましたから私は幸せなんですよ……ジュースのおかわり入りますか?」 「あ、はいお願いします。って有料?」 「二杯目は今のところ無料ですよ。人が来ないですし食材が余っていますので」 「やっぱり赤字ですか?」 「建てたばっかりなんですがやっぱり赤字になります……ね」  開店したばっかりだと貯金もあるだろうな。この人に限って無計画にやったとは思えないし。たぶん広告って存在忘れてるけど 「うーんおいしいし値段も手ごろだしいいところなのにうーむ」 「え、あ、えっと……なんで親身になってくれるんですか」  困った質問が来た。どうして考えるのか。やっぱりアレしかないよな。はずかしけど」 「ここの料理がなんか……その……懐かしくて」 「懐かしいですか?」  ほ、ほら! やっぱりキョトンとなってる! おかしいんだよね。きっと! 「い、いやまずいとか時代遅れとかじゃなくてなくて」 「え、あ、別に責めて無いですよ。つい嬉しくて。それにしてもおかしな人ですね。こんな必死に言い訳して」 「そうですか? ……あ、生徒会の皆にもよく言われる」 「やっぱりそうですか」  生徒会の人数は俺あわせて10人だがたぶん俺のことをおかしいと思ってるのは九人中九人だろう。  去年の運動会での借り物競争で動かないものでわざわざ人体模型取りに行ってたからな。  あのあとクラスメイトとファミレス行って大笑いされた経験が……アレはなかなかつらい。  そういえばあそこのパフェはおいしかったからついついいろんな人に紹介しちゃったんだよな。 「あ、そうだ!」  愛さんはいきなり大きな声を出した俺を見て首をかしげる。 「どうしたんですか?」  俺はキランとひらめいた。その手があった。そうすればなかなかいけるな。 「現状を改善する方法を考え付いた! 明日食材を用意して待ってくださいね!」 「え、ええいいですけど」 「なら決まりです!」  そんな中携帯がなり始めた。着信は我が妹の杉岡茜からだった。まったくいいところなのに。 40 : ◆fyY8MjwzoU :2010/06/27(日) 23:05:44 ID:p2ZcKWO6 『兄貴! どこで油売ってんの!』 「どこって喫茶店でぐうたらしてるだけ」 『い、家に早く帰ってきなさいよ! あーもう! 兄貴のその頭は空っぽなの!? テストだって明日もあるんだし! 何! またあの生徒会長と話してるの!?』 「あーはいはい。どうせ頭空っぽですよー。ちなみに俺は一人寂しく飯食ってたよ!」  俺はとりあえず返事をして通話を切った。めんどくさい奴から電話が来たものだ。今帰らないとうるさいよな。たぶん……。  あいつストレス溜めやすいからなー俺が家にいないときに沸点ギリギリになると俺の部屋の者とっていってボロボロにするからな。なんか湿ってるときあるし。  黒魔術でもあいつやってるのか不安になってきたな。マジで。兄としてはそれはやめてほしい。存在がイタくなるし、透明にして即死魔法を唱えていつ俺を殺すか分からないし。 「すいません俺家に帰りますね」 「こちらこそ長く留まらせてすいません」 「いえ! まったく気にしてませんよ! ええ。それじゃ明日また来ますね!」  少し得した気分で俺は店から出て行く。こんないい喫茶店を発見したんだ。明日来るのが楽しみで仕方ない。それにあの作戦も楽しみだ。 「あ、まってください!」 「ほへ? なんですか?」 「えっと、その名前何というのですか?」  あ、そういえば自己紹介してなかったな。俺は名札のやつで分かったし。ん? でも別に要らないような? いやこんな美人に名前覚えてもらえるだけでも素晴らしいことだな。 「えっと杉岡幸一です」 「幸一……さんですね。いってらっしゃい」 「はは、行ってきます」  ちょっと照れくさくなって駆け足で店外へ行く。あのままいたら恥ずかしさで体が熱くなっていたかもしれないな。外の空気はそれ以上に俺の体を蝕んで暑かったけど。

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