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158 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/01(木) 19:46:56 ID:A9nOo7hF 屋敷に戻り一度部屋へ行こうとすると声をかけられた。 「やあ、姉さんの新しい召使さんかな?」 そこには藤川さんの弟が立っていた。スラッとしたモデル体型に端正な顔立ち。 髪は金髪の天然パーマだった。名前は確か… 「はい、自分は里奈様の執事の遠野と申します」 「知ってるよ。僕は弟の藤川英(フジカワハナ)。以後お見知りおきを」 「かしこまりました、英様」 「英様って…。まあたまには良いかな。…君、気に入ったよ。彼によく似ているし」 「彼…ですか?」 「ゴメン、こっちの話。それよりも一つ質問してもいいかな?」 「はい」 藤川英は笑顔を崩さぬまま俺に言った。 「昨日は何処へ抜け出したの?」 「……質問の意味がよく分かりませんが」 …落ち着け。ボロを出すな。相手の出方を窺え。 「そうかい?深夜、君が塀をよじ登って出ていったところを見たんだけどな」 「…………」 「ふふっ、身構えなくて良いよ。別に誰かに言ったりしないから」 「…………」 「ただ気をつけてね。桃花はそんなに馬鹿じゃない。もしかしたら君の脱走にも 気がついているかも。それを言いたかっただけだから」 「……分かりました」 「君は彼とどこか似ている。だからズルいかもしれないけど、助言したかったんだ。後は自分で頑張ってね」 それだけ言うと藤川英は立ち去って行った。 「…味方…なのか?」 とにかくもう見付からないようにしないと。 多分藤川英は"危険だから今日は行くな"と言っている。しかし… 「…行かなきゃならないんでね」 約束、そしてライムを守らないと。 「………あれ?」 また違和感。確か昼に聞いたのは……赤い……社長が殺されて……。 …俺は何を考えている?しばらく俺はその場から動けなかった。 夜11時頃。自室で準備をする。勿論ライムに会いに行くためだ。 あれからずっと考えていたが、やはりライムに直接聞いた方が良いと思った。 「……大丈夫だ」 聞いたら…聞いたら何かが壊れそうな気がする。 でも大丈夫だ。 俺は彼女の全てが大好きなのだから。そう自分に言い聞かせる。 「…今日は別ルートで行こう」 とりあえずライムに会いに行かなければ。全てはそれからだ。 一応、藤川英の忠告も考慮に入れて今日は裏から行くことにした。 159 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/01(木) 19:48:00 ID:A9nOo7hF 深夜。静まり返った屋敷の裏口から裏庭へ出る。裏庭はあまり広くないが、 今日一カ所登れそうな場所を見つけた。その先は横道があるのでまず見付からないだろう。 「…………あった」 目的の塀を見つけ近づこうとすると 「こんな時間にどなたですか」 後ろから声をかけられた。瞬間、全速力で走る。 「逃げられると思っているのですか」 後ろから聞こえる冷たい声は明らかに桃花のものだった。 「はぁはぁ…!」 間違いなく捕まったらただじゃすまない。 裏口からのルートは諦めて正面突破に切り替える。 "里奈様を悲しませるようなことをしたら" 「はぁはぁ…!こんな時にっ!」 「排除します」 「っ!?」 間一髪だった。声がした瞬間に角を曲がる。 後ろを振り返るとまさに直前に走っていた場所に桃花の蹴りが牙をむいていた。 「有り得ないだろっ…!」 桃花のポテンシャルは神谷を大学の正門前で軽く退けた時に確認ずみだ。 まともにやり合っても、到底勝てる相手じゃない。 「はぁはぁはぁ…!」 とにかく逃げるしかない。ようやく門が見えてきた。後少しで逃げ切れる。 暗闇だったし、顔は見られていないはずだ。 「急げっ!」 塀を素早くよじ登り思い切りジャンプする。バランスを崩したが大丈夫。 そのまま振り返らず駆け出す。 「お待ち下さい遠野様っ!!」 「っ!?」 思わず急停止する。着地の音がしたので桃花とは20m程の差だった。 「…分かってたのか」 振り返らず応える。近付いてくる気配はない。 「私を誰だと思っていらっしゃるのですか」 「…有り得ないっつーの」 「…どうしても行かれるおつもりなのですか」 「ああ」 「何故…何故分かって下さらないのです」 「………」 「里奈様を満たして差し上げることが出来るのは貴方だけなのに…。私では……出来ないのに」 気のせいだろうか。桃花の声が震えているように聞こえた。 「…ゴメン」 最近謝ってばかりだな、俺。 「どうして私ではいけないんでしょうか。貴方が…貴方が羨ましいです」 「…桃花」 160 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/01(木) 19:50:20 ID:A9nOo7hF 振り返ると目の前に桃花がいた。 「捕まえました」 「なっ!?」 足払いをされ体勢を崩した俺を、桃花は俯せに押さえ込んだ。地面に倒される。 「ぐぁ!」 そしてそのまま両腕を背中の後ろで押さえられる。 「油断大敵です」 「くっ…!」 抵抗しようとするがびくともしない。 「私が忠告して差し上げたこと、忘れてはいませんよね」 「………排除するのか」 「いえ、そちらは未遂です。しかしここは既に屋敷の外ですね。なので」 変な音がした。木が折れるような音。その瞬間 「っ!?ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」 無意識に叫んでいた。意識が跳びそうなほど激痛が走る。 右腕を見ると普段とは逆に曲がっていた。 「申したはずです。この屋敷から逃げ出そうとお考えなら、腕の一本や二本は覚悟してください、と」 「ぐぁぁぁぁあ!!ぐぅぅぅう!!」 「さて」 桃花はおもむろに懐からナイフを取り出した。 「っ!!」 今度は左腕。必死に庇おうとするが右腕は折れているため使えない。 「ああ、貴方を刺すわけではありませんよ」 「えっ?」 じゃあなんでナイフなんか出す必要がある。 「これは里奈様の"特別"を傷付けた私への罰です」 そう言うと桃花は自分の右腕にナイフを刺した。何度も、何度繰り返す。 「……あ」 止めるべきなのに痛みと震えで声が出ない。 無表情で自分の腕を刺し続ける桃花を見て純粋に思った。 狂ってる。 「何をしているの!!」 桃花の動きが止まった。門の前にはいつの間にか藤川さんが立っていた。 「里奈、様」 「…ふ、藤川さん?」 藤川さんは門の横にある受話器で誰かを呼んでいた。 「…ええ、怪我人よ!今すぐ来なさい!」 ここは屋敷の医務室。医務室がある屋敷自体初めて見たが、 ここには常に医者がいると聞いてさらに驚いた。 「とりあえず固定したから。痛み止めも飲んだし、後は絶対安静だからね」 「…はい」 「じゃあ桃花さんの方診てくるから。お嬢様、後はよろしくお願いします」 「ありがとう、黒川」 黒川と呼ばれた医者は隣の部屋へ去って行った。ここには俺と藤川さんの二人しかいない。 「…痛む?」 「まあ…。でもマシになったかな」 俺の右腕はギプスで固定されていた。 「…逃げようと……したんだね」 「………」 「…どこに行くつもりだったの?」 「……ライムのところです。今からでも、行かないと」 俺は立ち上がる。約束したのだから。 161 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/01(木) 19:51:19 ID:A9nOo7hF 「…そっか」 「…すいません」 「何で謝るの?…行きたいなら行けば?」 意外な答えだった。藤川さんを見ると目には涙がたまっていたが、それでも微笑んでいた。 「…良いんですか?」 「アタシね、気付いたの。今まではね、亙を奴隷みたいにしてアタシの側に置けば、 いつか亙はアタシだけ見てくれるようになるって…そう思ってた」 「………」 「でも実際は逆だった。それにね、アタシが望んでたのは…こんなのじゃない。 もっと普通に…普通に…恋…人…みたいに…」 「…っ」 藤川さんは泣いていた。泣き声を上げず静かに。 「…だからね、もうおしまい」 涙を流しながら笑う藤川さん。俺は少しでも彼女の気持ちを考えたことがあったんだろうか。 「…ふじ……里奈」 「…えっ?」 藤川さん…いや、里奈がこっちを向く。 「…ありがとう。俺、里奈のこと全然分かろうとしてなかった。ゴメン」 「……変な人」 俺は純粋に嬉しかった。 里奈の気持ちは受け取れないけど、それでもただ嬉しかったんだと思う。 里奈が車と運転手を用意してくれたので、それでライムのマンションまで行くことにした。 「帰りはこれで連絡して。迎えをよこすわ」 奪われた俺の携帯電話を渡される。 「勝手にアタシのアドレス登録しておいたけど、良いわよね?」 「ああ。…色々ありがとな」 「とりあえず亙が帰って来るまでに荷物をまとめておくわ。まあ拉致してきたから、服と財布くらいしかないけどね」 時刻は既に午前2時過ぎ。早くしないとライムが不安がる。ただでさえ大変な時期なんだ。 俺が側にいてやらないと。 「わ、亙」 車に乗り込む俺に里奈が声をかける。 「ん?どうした?」 「……ううん、何でもない。気をつけてね」 「おう。じゃあな」 車は夜の闇に消えていった。 「…行っちゃったか」 屋敷の門の前でアタシは一人呟く。 「さて、準備しなきゃね」

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