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276 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/04(日) 23:05:50 ID:fZqhz4IH 「…執事を続けたい?」 「今のところ右腕が使えないから、あまり役に立たないかもしれないけど…」 里奈の部屋。俺は執事を続けたいと里奈に言った。やはり仕事はしていたい。 「…別にアタシは構わないけど、亙はそれで良いの?」 「むしろ他に働き口がないんだ。出来ればここで働きたい」 里奈は少し考えているようだった。 まあそりゃあ片腕骨折している奴が雇ってくれなんて言っているのだ。拒否されるのが普通だと思う。 「…良いわよ。じゃあこれからも今までと同じ感じでお願いね」 「あ、ありがとう!本当に助かるよ」 「ううん、むしろありがとう。色々酷い事したのに、まだ普通に接してくれて…」 「…そんな酷い事された覚えはないけどな」 「本当に……変な人」 里奈は微笑んでいた。 桃花は2、3日は出られないようなので代わりの運転手が俺達を大学まで運んでくれた。 里奈は居酒屋のバイトがあるので、昼食を食べた後俺だけ帰ることにした。 「俺だけのために車呼ぶのもな…」 正門前で歩いて帰ろうか迷っていると 「先輩っ!こんにちは…ってどうしたんですかその腕!?」 回文もとい、神谷が近付いてきた。相変わらず真っ赤なツインテールが目立つ。 「神谷か。ちょっと事故にあってな」 「事故って…。まあ良いですよ、それで。どうせ答えてくれないでしょうし」 「それより神谷は授業出なくていいのか」 最近毎日神谷と会っている気がする。 「授業なんかより先輩と会う方が大切ですから」 「…授業出ようよ」 「冗談ですよ。授業はちゃんと出てます。今日はたまたま早く終わっただけですから」 「意外だな。神谷が真面目キャラだったなんて」 「そういえば今日も藤川センパイ待ちなんですか?」 若干スルーされた気がする。まあたわいのない話なのだが。 「いや、今日は一人で帰ろうかと」 「ということは先輩は今日フリーなんですか」 「まあ…フリーだな」 一応仕事中ではある。決して忘れているわけではない。 「じゃあわたしとデートしません?」 「…悪いけど遠慮しておこうかな」 「良いじゃないですか。たまには二人でどこか行きましょうよ」 「でもなぁ…」 「何か奢りますから。お願いします!」 「うーん…」 別に何か予定があるわけではない。 それに里奈の件で、もっと他人を分かろうとすることの大切さも学んだ。 神谷のことも毛嫌いしてきたが、彼女のおかげで殺人事件のことを知れたのも事実だ。 「じゃあ…夕方までなら良いよ」 その瞬間、神谷は目を輝かせていた。 「本当ですか!?やったぁ!じゃあ早く行きましょう!!」 左手をしっかり掴まれ引っ張られる。 「お、おい!そんなに急がなくても…」 「夕方まで後4時間程しかありませんからね!善は急げです!」 そのまま俺は神谷に引っ張られた。…止めておけば良かったかもな。 277 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/04(日) 23:06:59 ID:fZqhz4IH 大学を後にした俺達は駅前のショッピングモールに来ていた。 というか神谷の買い物に付き合わされたと言った方が正しい。 雑貨屋や洋服屋、アクセサリー屋に化粧売り場、本屋にビーズショップと歩き回ったが神谷は結局何も買わず、 ただウィンドウショッピングを楽しんでいた。まあ神谷が楽しいならそれで良いし、 俺自身も駅前にはあまり来たことが無かったのでそれなりに楽しめた。 一通りウィンドウショッピングした後、近くにある『向日葵』という喫茶店に入った。 流石に神谷も歩き疲れたのだろう。店内はお洒落な雰囲気で俺と神谷は奥の方の席に座った。 「今日は暑いですね~。もうすぐ初夏ですもんね」 神谷は頼んだアイスティーを一気に飲み干す。 「おいおい、一気に飲んだら腹こわすぞ」 「いやぁ、暑さには勝てませんから」 「ったく。そういえば何も買わなくて良かったのか?片腕だけだけど、ある程度なら荷物持てたけど…」 「いえいえ。わたしは藤川センパイと違って貧乏なんで。見るだけで十分なんですよ」 「…そうだったのか」 「今からする話は他言無用ですからね。先輩だから話すんですから」 「分かってるって」 「わたしは元々母子家庭だったんです。それでも母は身を削って大学に行かせてくれて。 だから授業も絶対にサボらないし、藤川センパイみたいなお嬢様を見ると…嫉妬しちゃうんですよ」 「それであんなに噛み付いてたのか」 「まあそれだけじゃないですけど…」 俺の顔をチラチラと見る神谷。 「ん?俺の顔に何かついてるのか?」 「はぁ…。いいえ。だから自分でバイトも…あ」 何かマズそうな顔をする神谷。もしかしたら…。 「なあ神谷。お前、何のバイトしてるんだ?」 「ぐっ…!」 やはりか。何か危ないバイトしてるんじゃないだろうな。 「…人に言えないようなバイトしてるのか?」 「ち、違いますよ!………モデルです」 拍子抜けした。もっと危なげなバイトかと思ったんだが。里奈と同じとはな。 「別にモデルなんか隠す必要ないだろ」 「……14歳までなんです」 「…えっ?」 「だ、だからっ!わたしがモデルしてる雑誌は本来14歳までしか出られないんですっ! でもスカウトされちゃって"君ならごまかせる!"とか言われちゃって…。結構お金になるし…」 髪の色と同じくらい顔を赤くして俯いている。確かに神谷は150cmもないし、顔は童顔だ。 胸も…まあ慎ましいし、一部の層にもろストライクなルックスであることに間違いは無かった。 「全然知らなかったよ」 「当たり前です!もし誰かに言ったら殺しますよ」 有無を言わさぬ迫力を前にして、思わず頷いてしまった。 278 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/04(日) 23:08:56 ID:fZqhz4IH 「じゃあ藤川センパイの屋敷には自分の意志で勤めているんですか」 喫茶店『向日葵』店内。窓の外には夕日が輝いていた。 「ああ。こんな腕じゃ中々雇ってくれないだろうし、里奈も根は良い奴なんだよ」 「…本当に先輩は単純ですね。そこが良いところでもあるんですけど」 「単純?」 「とにかく!油断大敵ですよ、先輩。またいつ藤川センパイが本性を見せるか分かりませんから。特にあのタイプは裏の裏まで考えてそうですし」 「せいぜい気をつけることにするよ。…時間だからそろそろ帰るわ」 「あっ、会計はわたしが…」 「たまには先輩に感謝するんだな。可愛い後輩に奢ってやるからさ」 「…ありがとうございます」 何故か神谷は少し照れていた。 「ではわたしはこっちなので。今日は付き合っていただきありがとうございました」 駅前で神谷と別れる。少し急いだ方が良いな。 「こちらこそ。楽しかったし、良い気分転換になったよ」 「あ、そういえば先輩、昨日の鮎川らいむの事件。気になってましたよね?」 「ああ、でももう大丈夫だよ。俺の勝手な思い込みだったみたいだし」 「そうですか。新しい情報が出たんですけど…まあ噂ですし先輩がいいなら要らないですね」 「俺なんかのためにありがとな。じゃあまた」 「はい。また会いましょう!」 俺は神谷と別れて駅前を走っていった。 神谷は亙が走っていった方向をしばらく見ていた。 そして満足したのか反対方向に歩き出した。 「これ、要らなかったな…」 神谷はメモのような物をポケットから取り出した。 「せっかく睡眠時間を削ってまで調査したのに…」 ここ3日程、ほとんど寝ていないことに神谷は気がつく。 「まあこんな情報、何の役にも立たないしね。もっと先輩の役に立てること、見つけないと」 神谷はメモを丸めると近くにあったごみ箱に捨てた。 「赤い…縁起でもない」 書いてあったことを思い出す。 "殺害現場付近に赤いペンキの跡あり" 「嘘っぽいわね…。大体ペンキって何よ」 言っても信じてもらえないだろう。やはり言わなくて正解だったのかもしれない。 夕日を見ながら神谷は思った。 279 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/04(日) 23:09:59 ID:fZqhz4IH 屋敷の門まで来た時にはすでに5時を過ぎていた。急いで門に近付くと、何故か門が開いていた。 誰か閉め忘れたのだろうか。一応鍵を内側からかけて、庭を走っていると人影が見えた。 「誰だ…?」 近付くと二人の影が見えた。一人は背中を向けていて分からないが、もう一人は里奈だった。 地面に膝をついて腹部を押さえている…。 「っ!?里奈っ!!」 里奈が腹部から出血しているのが分かった俺は、もう一人の方に思い切り体当たりをする。 そいつは不意打ちに耐えられず横に転がった。 「おい里奈!?しっかりしろ!」 「っ…!わ、亙?来て、くれたの?」 里奈は腹部を押さえて出血を止めているが、効果は薄そうだ。どうやら刃物で刺されたらしい。 「一体何があった!?誰にやられたんだ!?」 「…あ、あの人が急に…アタシを…」 やはりさっきの奴か。里奈が指した方向には俺が突き飛ばした奴がいた。 「お前がやったのか!?一体何のつも……えっ?」 影が近付いてくる。顔がはっきり見えた。 「亙、気をつけて!」 里奈が叫ぶがそれどころではなかった。なぜなら 「いきなり突き飛ばすなんて…いくら亙でも怒るよ?」 血がついたナイフを持っているそいつは 「…ラ、ライム…?」 「また会えたね、亙!」 俺に向かって笑いかけたそいつは、間違いなくライムだったから。

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