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29 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/11(日) 23:19:11 ID:yVaTlJH9 時刻は午後11時57分。俺は今屋上へと続く扉の目の前にいる。 「間に合ったか…」 ライムが指定したリミットまで後3分。ギリギリだがどうにか間に合った。 この扉を開ければライムに会える。 「……ふぅ」 息を吐いて緊張をほぐす。思えばこの三週間、色々なことがあった。 そしてこの扉の先が、その三週間の結末のような気がして中々開けられない。 「守ってみせる」 例え俺の導き出した結末が間違っていても関係ない。今度こそ、彼女を守り通してみせる。 「…行こう」 俺はゆっくりと扉を開けて屋上へ行った。 いつまでも衝撃が来ない。不思議に思い神谷が目を開けると、目の前に背中が見えた。 「…駿…にぃ……?」 それが神谷が意識を失う直前に見た光景だった。 30 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/11(日) 23:21:30 ID:yVaTlJH9 「…誰かと思ったらまさか桃花だったなんてね」 ちょっと計算外だったな、と藤川英は自分の甘さを呪った。 目の前には自分の家のメイド長にして、姉専属のメイドである桃花がいる。 「……英様、何故ここにいらっしゃるのですか」 「ちょっと私用でね。事件の手がかりがここにあるとかないとか、まあ噂があってさ」 「…"何でも屋"ですか。事件というのは…」 「…鮎樫らいむ関係者殺害事件、だよ。面白そうでしょ?」 「…………」 桃花の表情が強張った。…予想していた最悪の可能性が当たってしまったかもしれない。 最近姉さんと桃花の様子は明らかにおかしかったし、何か企んでいるようだった。 全てはあの執事、遠野亙が原因…かな? 「桃花こそ、何でこんなところにいるのかな?」 「このアクアポート…いえ『アクアマリン』は藤川コーポレーションの所有物です。今日は警備のために来ていますが…」 「桃花一人でかい?他の警備員はいないみたいだけど…」 「…無能な者など必要ありません」 「はは、桃花らしいね。で、この女の子は?」 僕の後ろには傷だらけで気絶している女の子がいた。 血のように紅い髪で、歳は13~14くらい…中学生かな。 「このアクアポートに無断で侵入したので排除したまでです」 「…少しやり過ぎじゃないかな?」 「お言葉ですが、それを決めるのは英様ではない。違いますか?」 「そうだね。ところでもしかして、ここに姉さんいたりする?」 「……英様」 「…何?」 殺気を感じた。 昔から、姉さんが孤児だった桃花を拾ってきた時から感じていたけど、桃花は姉さんのことになると見境がなくなる。 彼女の中の何かが暴走するんだ。…こりゃあ早く来てくれないと、僕もこの女の子みたいなっちゃうかもね。 「英様は一つ勘違いをなさっております」 「勘違い…?」 「はい。確かに私は藤川家のメイドですが、正確に言えば里奈様専属のメイドでございます」 「…つまり、どういうことかな」 「つまりは」 「っ!?」 一瞬だった。桃花の蹴りで吹き飛ばされる。咄嗟に両腕で防いだが至近距離。かわせなかった。 「つまり場合よっては英様にも危害を加えるということです」 「……言うのが、遅いよ」 相変わらず鬼神のごとき強さ。戦うメイドさんって凄いね。 31 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/11(日) 23:22:12 ID:yVaTlJH9 「正直今のでおしまいかと思いました」 「…まあ、一応男の子だからね」 こちらに近付いて来る。どうやら女の子より先に、僕を排除することに決めたらしい。 「しかし英様の両腕。今ので使い物にならなくなったのでは?」 「…やっぱりバレてた?」 苦笑する。 たった一発蹴りを受けただけなのに、折れはせずとも痛みで腕が上げられないってどんな蹴りなんだろうね。 「排除します…っ!!」 「……?」 突然桃花の動きが止まった。よく見るとお腹辺りを押さえている。 僕は何もしてないし、あんな小さな女の子なわけもない。一体どうしたのだろう。 「くっ…。小娘が…。油断しました…」 「…まあ好都合かな」 どうやら間に合ったらしい。制服を来た白髪の少女が僕の横に立っていた。 「苦戦してるね、英」 「やあ。遥(ハルカ)。皆も来てくれたんだね」 隣にいるのは同じ高校で"何でも屋"のメンバーで一つ下の女の子。そして 「情けないな~。こないだの埋め女の時みたいに出来ないの?」 「英はもっと鍛えないとな!よし、俺と明日からランニングしよう!」 「女一人に苦戦とは…見損なったぞ英。いくら戦闘が不得意と言ってもな…」 「まあまあ。俺達は6人で一つですから。…助けに来たぜ、英」 次々と乗り込んで来る"何でも屋"の仲間達。これで6対1。数的有利にはなった。 「次から次へと…。皆さん英様の学友の方達ですか。これはお遊びや探偵ごっこではありませんよ?」 「…お遊びだって舐めてると、怪我するよメイドさん。それに仲間を傷付けられて黙っているほど、お人よしじゃないんでね」 「増えたところで変わりません。…排除します」 「皆、行くぞっ!排除されんなよ!」 さてと、僕らが勝つか桃花が勝つか。どちらにしろ彼の役には立ったかな。 「…いるんでしょ?遠野亙君…。ま、頑張りなよ」 32 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/11(日) 23:23:07 ID:yVaTlJH9 時刻は午前0時4分。俺は今確かに屋上にいる。 この屋上は端の方にテラスがあり、そこからの景色の素晴らしさが売りらしい。 …いや、そうじゃない。そんなことじゃないんだ。 俺が言いたいのはそんなことじゃなくて、今俺の目の前に広がっているこの光景は一体何なんだってことで…。 「……里奈?」 「…亙」 そう。何故かこんな時間にアクアポートの屋上に里奈がいる。そして 「……何、してんだよ」 「…それは質問?」 その近くには赤い"何か"が広がっていて、その中心には…。 「ラ…イム…?」 「正確には、だったもの…だけどね」 そう。その中心には金髪を赤く染めたライムが横たわっていた。 「ライム!?ライム!!おいライム!!しっかりしろっ!!」 ライムを抱き抱える。どうやら腹部を深く刺されているようだ。 身体は彼女自身の血で血まみれだった。 「……わ……た…ゴホッ!」 「ライム!?ライム!!俺だ、亙だ!!」 瀕死だがまだライム生きていた。 まだ死んでない。そう、諦めてたまるか。必ず助けてみせる。 「…わ……た……る……来て……く…」 「今は喋るな!すぐ助けてやるからな…!」 ライムの傷口を押さえながら近くのベンチに寝かせる。これ以上の出血は致命傷になる。 「………わ…た…」 「少しだけ勘弁な。終わらせてくるわ」 覚悟を決めろ。もう皆が幸せになれる結末なんてないんだから。 振り返って里奈を見つめる。手には血で赤く光るナイフがあった。 「これ?桃花に借りたの。というか、桃花を退けたんだ…」 「…神谷のおかげでここまで来た」 「ああ、回文さんか。可哀相ね。今頃、死んでるわよ?」 「…何でここにいるんだ?」 「鮎樫らいむに呼び出されたのよ。亙の携帯から、アタシのアドレス見たって」 …風呂上がりにライムが俺の携帯を見てたのは、そういうことか。 「…ふふふ、あははははははははは!!」 「…何がおかしい?」 「だってその娘、"私から亙を取らないで!?"とか言っちゃって!…本当に思い通りだったのになぁ」 「思い通り…?」 「うん。居酒屋で鮎樫らいむに見せ付けられた時から決めてたの。こいつには絶望して死んで貰おうってね」 「里奈…」 「大変だったんだよ?亙を誘拐して鮎樫らいむを混乱させて。心を入れ替えたフリをして亙に"里奈"って呼ばせて、アドレスを教えた携帯を返す」 信じたくない。…だって里奈は…無関係じゃないのかよ…。 「その後、亙がアタシのことを里奈って呼べば絶対に鮎樫らいむは疑心暗鬼になる。後はアタシが呼び出さされるのを待って、返り討ちにしておしまい」 「…なん…だよ……それ」 何か、今までの出来事は全部里奈が仕組んだ物だったってことか? …ありえないだろ、そんなこと。 「亙には事前に鮎樫らいむがアタシを襲うところを見せれば、返り討ちにしてもアタシの言うことを信じてくれる。…全てシナリオ通りだったんだけどなぁ」 「里奈…だよな?」 「桃花にも色々と手伝ってもらったんだけどね…」 …本当にコイツは藤川里奈なんだろうか。 この二週間ひたむきに俺と接してくれて、一緒に笑いあった、里奈なのだろうか。 「回文さん、やっぱり邪魔だったかな。本当は亙、もっと疑心暗鬼になるかと思ったのに…。入れ知恵されちゃったかもね」 まるで悪戯がバレた子供のように笑う里奈。…理解、出来ない。 33 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/11(日) 23:24:02 ID:yVaTlJH9 「…何でだよ」 「…何が?」 「何でこんなことした!?里奈は!里奈はこんなことする」 「奴だよ?」 「っ!」 「…アタシね、昔からずっと独りだったんだ。周りは皆アタシのこと、"藤川里奈"じゃなくて"藤川家の娘"としてしか見てなかったから」 「………」 「勿論弟もそういう扱いだったけど、アイツは世渡り上手いからさ。アタシは…無理だったな」 里奈は空に浮かぶ月を見ていた。今夜は三日月だった。俺達を照らし出す。 「だからね、亙が普通の女の子みたいにアタシに接してくれた時、凄く嬉しかった」 …何で泣いてるんだよ。泣きたいのは…こっちなのに。 「生まれて初めてだったの。アタシのこと、普通の女の子として見てくれた人…だからね…」 里奈は泣きながら俺を見つめた。 「どうしても欲しかったの。どんな手を使ってでも。…この世で最も嫌いなお父様の力を利用しても、ね」 「…馬鹿野郎」 「……そうだね」 「…そんなことしたって何にもならないだろ!?皆傷付いて、それでおしまいだ!こんな方法間違いだって、里奈だって気が付いてたんじゃねぇのかよ!?」 「…うん」 「じゃあなんで!?」 「……知らないから」 里奈は泣きながら笑う。まるで元から泣いているんじゃないのか。 そう思ってしまう程、里奈の涙は止まらなかった。 「…知らないんだ、大好きな人を振り向かせる方法。分からないんだ、どうやったら人が喜ぶのか。教えて欲しかったんだ…愛情ってどんな感情なのか」 「……そんなの…」 そんなの皆、手探りだ。そう言いたかったけど、言えなかった。 なぜなら俺には想像出来なかったから。生まれてから一度も自分を見てくれる人がいなかった、彼女の苦痛を。 「…結局、失敗しちゃったけど。やっぱり神様は許してくれないんだね」 里奈はゆっくりと俺から離れてゆく。 「……それでも、忘れない。君と過ごしたこの二週間がアタシの生きている全てだったから。例え偽りでも…それがアタシの"真実"」 その瞬間、里奈はナイフを自分の腹部に刺した。 「り、里奈っ!?」 「来ないでっ!!」 彼女の心からの叫びに思わず身体が固まる。 「一番好かれることが無理なら…。一番嫌われることにしたの。怖いのは、忘れられることだから…」 里奈の腹部からは血が流れ出ていた。 「…だから全部教えてあげたよ。そして亙の目の前で死ねば…きっと亙はアタシのこと、忘れないよね?」 里奈はポケットから小型スイッチのようなものを…! 「里奈っ!?」 彼女を止めようと走り出すが 「ありがとう亙。次は…きっと一緒にいようね」 里奈はボタンを押して アクアポートは爆発した。 34 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/11(日) 23:24:48 ID:yVaTlJH9 大きな爆発音。見上げるとアクアポートの5~13階辺りが爆発していた。 「……姉さん」 僕らはあの後、奇跡的に桃花を打ち破った。 「はぁはぁ…。た、多分皆何処かしら骨折してるな、こりゃ…」 そして今はアクアポートを出て『アクアマリン』の入口辺りにいる。 メンバーの負傷が酷く、登らず引いたのが正解だったようだ。 「…でも、いきなり現れたアイツ、何だったんだろうね…」 実はこの負傷を見ても分かる通り、僕達は完全に負けていた。 しかし桃花にトドメをさされそうになった時、何者かが乱入して来て一撃で桃花を吹き飛ばしたのだ。 「半端なく強かったのは確かだね…っ!」 その隙に僕達は赤髪の女の子を連れてアクアポートを脱出したのだ。 「痛むなら話すな。何か…海有塾(ウミアリジュク)がどうだとか聞こえたけど」 「海有塾…か」 結局桃花がどうなったのかも分からず、事件の手がかりも見つからなかった。 「…まあ何となく察しはついたけどね」 本当は弟として、姉さんを止めるべきだったのかもしれない。 でもお父様の一見贔屓に見えるあの態度が亡きお母様にそっくりな姉さんに対する執着だったということを、僕は知っていた。 だからこそ姉さんの望みを止めるなんて真似、僕には出来なかった。 …姉さんは無意識にお父様から僕を守ってくれていたのかもしれない。 「期待…していたのかな」 僕の代わりに姉さんを止めてくれる。そんな役を僕は遠野亙に期待していたのだろう。 「…とりあえず事前に船を用意しておいた。時期、警察が来るはずだ。犯人扱いされる前にこの島を出よう」 「流石会長!じゃあさっさとトンズラだな」 「…英、大丈夫か?」 「…大丈夫。行こう」 姉さん、桃花…。また会えるよね。 35 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/11(日) 23:25:46 ID:yVaTlJH9 「……っ!!」 激痛で目が覚める。どうやらかろうじて生きているらしい。 屋上からここまで落ちてきたようだ。死なせてもくれないとは…神様は意地悪だ。 「…でも後少しね」 全身の感覚がなく周りは火の海。間違いなく死ねる状態と環境だった。 「里奈様!?里奈様!!」 声のした方を見ると桃花がいた。全身がボロボロで所々血が流れていた。 「…桃花」 「里奈様!申し訳ございません。私…私…!!」 「桃花が…大声出すのも……久しぶり…だね」 桃花はアタシを抱き上げる。相変わらず常識はずれの腕力だった。 「…どうか喋らないでください里奈様。必ず私が…」 ……ああ、そうか。この娘がいたんだ。ずっとアタシの側にはこの娘が。 もっと早く気が付くべきだったんだ。男女を抜きにしても、アタシは独りじゃなかったんだって。 「…ゴメンね、桃花。色々…付き合わせちゃって。手まで汚させちゃってさ……嫌な…お嬢様だったでしょ」 「いえ。私は里奈様以外の方に仕える気はありません。私の主は里奈様だけですから」 優しく微笑む桃花。…亙、アタシ少しだけ亙の言っていたこと、分かったかもしれない。 …今更だけどさ。 「桃花…アタシはもう…」 「死なせません」 「………」 「もし里奈様が逝ってしまったら、私もお供します。それがメイドですから」 「…ありがとう」 きっとアタシはもう助からない。それでも最期を誰かと共にいられるのは、幸せなのかな。 36 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE [sage] :2010/07/11(日) 23:26:42 ID:yVaTlJH9 「うっ…」 どうやら気を失っていたようだ。周りは今にも崩れ落ちそうだった。 「……わ…た…」 「ライム!無事か!?」 ライムは腹部の出血以外には目立った外傷はないようだった。二人揃って悪運強いな。 「う…ん…」 「良かっ……っ!?」 周りの建物が崩れきた。どうやら後少しでここも崩壊するようだ。 「くそっ!出口は…」 周囲を見渡すが見えるのは燃え盛る火の手と瓦礫の山。唯一外に繋がる場所は目の前にあるが…。 「いくら下が海でもこの高さは…無理か」 眼下に広がる漆黒の海を見る。 屋上からかなりの高さを落ちてきたので、飛び込んでも…俺一人なら何とかなるかもしれない。 でもライムがいる。こんな重傷の彼女に、これ以上無理させるのは危険過ぎる。 「…い…こ……」 「ライム!?無理するな!寝てろよ!」 フラフラと立ち上がるライム。腹部からまた血が流れ出した。 「だ…い……じょう……ぶ…」 「大丈夫なわけっ……!」 ライムは俺に体重を預けてかろうじて立っていた。 「い…やだ……も…う……はな…れ……た……く……な……い…か……ら…」 ライムを見つめる。彼女の瞳はいつか見た時のように淀んでいた。 …そう、彼女はとっくに壊れていたんだ。 それは里奈を刺した時か。 それとも俺の携帯を見た時か。 あるいは真っ赤になって帰って来た時なのか。 いつなのかは分からない。とにかくもう壊れてしまったんだ。 俺は…俺はそれに気が付くべきだった。もっと早く気付いて彼女の側にずっといるべきだったんだ。 結局、俺は守るどころか逆に彼女を壊してしまったのかもしれない。 「ずっ……と……そ…ば……に……いて…よ…」 「……分かった」 でも決めたから。最期まで彼女と、ライムと一緒にいるって決めたんだ。 だからもう迷わない。 「しっかり捕まってろよ。俺も捕まえて離さないけどな」 「……わ…た……る…」 「…行くぞ」 「……う…ん」 ライムを抱きしめながら前に進む。諦めるのではなく、一緒にいるために。 例えこれからどんな事が起きたって、どんな状況に陥ったって俺達はずっと一緒だ。 「……わ…た…る」 「なんだ?」 「…だ……い…す…き…」 「…俺も大好きだ」 ライムをきつく抱きしめ闇へ飛び込む。どんな悲劇や悲惨な未来が待っているとしても離れない。どんな人生でも俺はきみと…… きみとわたる

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