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31 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/07/29(木) 02:01:12 ID:1TGytqQU0 あたしの名前は、堂上晃。 「いたい! いたい! いたい! ギブアップ! ギブアップ!」 「ねえ、あたしのことすき?」 いつからあたしは、詩宝を男性として意識していただろう。今ではもう分からない。 「すき! すきだからおねがい、はなして!」 「じゃあ、おおきくなったらけっこんしてくれる?」 分からないが、かなり幼い時分からであるのは間違いない。 「け、けっこん? それは……うわあああああ!!」 「どうなの?」 「いたい! いたい! する! するから!」 少なくとも、あの日、公園でプロレスごっこをしながら将来を誓い合ったときには、あたしは詩宝に完全にイカれていた。 「じゃあ、ぷろぽーずして」 「ぷ、ぷろぽーず?」 「そう。けっこんしてっておねがいするの。しないなら……」 「す、するからまって! あ、あきら、ぼくとけっこんして!」 泣きながらあたしにプロポーズした詩宝。 そしてあたしは、彼を受け入れた。 「うん。いいよ。そんなにいうならけっこんしてあげる」 あの後、あたしは詩宝を家に引っ張って行き、“せいやくしょ”を書かせた。 『つむぎや しほう は 18さいになったら とうしょう あきら を およめさんに します。』 という文面だ。拇印も押させた辺り、あたしはなかなか冴えていたと思う。 保存用、観賞用、実用の3通を作らせたのは言うまでもない。 それ以降、あたしは特に婚約のことを持ちだすこともなく、ごく普通の幼馴染のように詩宝との日々を過ごした。 一々口に出して言わなくても、詩宝と将来結ばれるのは決定事項だと思っていたから。 しかし、小学校に上がったある日、あたしは詩宝の態度がおかしいことに気付いた。 あたしを特別扱いしないのだ。 他の有象無象の女共と、あたしと、詩宝は同じような態度で会話をしている。 本当なら、あたし以外の女とは、口を聞いてもいけないのに。 これはもう一度、“ぷろぽーず”をしてもらわないと駄目だろうか。 そんな風に思い始めていた矢先、プロレスラーだったあたしの父が引退した。 引退の原因は、怪我か何かだったと思う。 それはさておき、ある夜あたしは父に呼ばれた。 話を聞いてみると、父が現役時代に取れなかったタイトルを、あたしに取ってほしいとのこと。 そのために、男の振りをしてプロレスラーになってほしいと言われた。 はっきり言って、子供心に馬鹿馬鹿しいと思った。 男の振りなんかしたら、詩宝と大手を振って付き合えない。その1点だけを取ってみても、論外に思えた。 しかし、一晩いろいろ考えて、引き受けることにした。 それは、男に偽装するのを、詩宝に手伝ってもらおうと考えたからだ。 そうすれば、四六時中詩宝とくっ付けるし、詩宝と秘密を共有することになる。 なかなか魅惑的なシチュエーションではないか。 32 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/07/29(木) 02:01:40 ID:1TGytqQU0 翌朝あたしは、男としてプロレスラーになると、父に伝えた。 その代わり、条件を出した。 男装するに当たって、周囲を誤魔化すのを詩宝に手伝ってもらいたいから、それについて詩宝と詩宝の両親を説得すること、というものだ。 父はこれを承諾し、詩宝の両親に話を持って行った。 幸い、詩宝の両親が極めてノリ易い性格で、父の申し出を快諾したばかりでなく、詩宝を説得するのを手伝ってくれた。 詩宝自信は、父や詩宝の両親から話をされたときは渋っていた。 しかし、あたしが涙ながらに(嘘泣き)、父の意思を継ぎたいのだと言うと、すぐに応じてくれた。 やはり、彼は優しい。 それからしばらくして、あたしは詩宝と一緒に小学校を移り、それ以降は男として過ごした。 そして、父が所属していたプロレス団体に入団し、選手として活動し始めた。 ちなみに、あたしが入団したプロレス団体では、あたしが女であることをみんな知っていた。 それはそうだ。父はそこの選手だったのだから、家族構成ぐらいみんな知っている。 だが、そこはショービジネスであるプロレスのこと、父の野望を息子が継ぐと言う筋書きも面白いということで、黙認された。 ちなみに試合のときは、体型が隠れるようなプロテクターを付けて、誤魔化した。 まあ、そんなことはどうでもいい。肝心なのは、詩宝にどんな協力をさせたかである。 まず、学校では、四六時中あたしの側にいさせた。 特に意味はなかったのだが、とにかくそうさせた。 それから、胸を毎日マッサージさせた。 胸が大きくなると女であるのがばれるから、そうならないようにする、という理由だ。 『これで本当に小さくなるの?』と、詩宝は不審な顔をしていた。 あたしも、揉まれると小さくなるかどうかなんて知らなかったが、強引に揉ませた。 実際には全然小さくならず、それどころか風船のように膨張してしまったが、一切構わずに続けさせた。 それから、寝技の練習に付き合ってもらった。 他人と寝技で体をくっ付けたら、女だとばれるから、という理由だ。 さっき書いたように、うちの団体の人はあたしが女だと知っている。 だから意味はない。でもやってもらった。 具体的に言うと、自宅の練習場で、他に誰もいないとき、2人とも全裸になって体にオイルを塗って絡み合った。 なんで裸なのかと訝る詩宝に、こういうものだからと、あたしは言い切って続けさせた。 胸を揉まれるのも裸で抱き合うのも、ありえないほど気持ちがよかった。 絶頂に達して失神したことも、1度や2度ではない。 今からこれでは、詩宝と本当に繋がったらどうなるのかと怖くなったほどだ。 詩宝の方は、いつも顔を真っ赤にしていた。 女としてのあたしを詩宝に実感させ、あたしは満足だった。 33 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/07/29(木) 02:02:18 ID:1TGytqQU0 ところが高校に入学したとき、状況が変わった。 中一条という、成金の雌豚(もっと前の代からの金持なのかもしれないが、成金で十分だ。)が、何を血迷ったのか詩宝に惚れて、接近して来たのだ。 詩宝がフリーだとでも思っているらしい成金豚は、なりふり構わずに詩宝と仲良くなろうとした。 このときになって、あたしは初めて男装していることを悔やんだ。 詩宝と婚約していることを公言しておけば、成金豚の接近を許すことなどなかっただろうに。 しかし、もう遅い。どうするか。 男装を止めて、今からでも詩宝との恋人宣言をするべきか。 そう思っていた矢先、異変が起きた。 成金豚と同じように詩宝と親しくなろうとした別の女共が、次々と不登校になったり、学校を辞めたりしていったのだ。 当の成金豚は、いくら詩宝にベタベタしても平気なのだから、これは誰が考えても成金豚の仕業だろう。 皮肉なことに、あたしは男装していたおかげで、成金豚に邪魔されることなく、詩宝と接触することができていた。 これでは迂闊に男装を解くわけに行かない。あたしは詩宝に、成金豚を振らせる方向に作戦変更した。 あたしは、事あるごとに詩宝に言った。 「あの女はね、詩宝をからかって遊んでいるだけなんだよ」 「元々住む世界が違うんだから。あの女にとって詩宝はただの玩具なんだよ」 そのほか、成金豚に悪いイメージを抱くような噂もたくさん流した。 “メドゥーサ”という仇名を成金豚に付けてやったのもあたしだ。 元々、成金豚は強権的な性格で、逆らう者に容赦がなかったから、あたしは事実に多少の尾ひれを付けるだけでよかった。 さらに幸いなことに、あたしを支援する協力者が何人かいた。 それは、皮肉なことに、詩宝に惚れている女共だった。 さっき言ったように、連中の一部は不用意に詩宝に接近したため、成金豚に学校を追い出された。 しかし、残りは違った。 彼女達は、成金豚の行動に気付いており、急いで詩宝に近づこうとはしなかった。 蜘蛛が餌を待ち受けるように、息を殺して詩宝に接触する機会を伺っていた。 なぜそれが分かったかというと、彼女達があたしに接触してきたからだ。 奴らは詩宝の一番の男友達、ということになっているあたしのところに来て、詩宝の情報をねだった。 あたしは奴らに、詩宝の情報を漏らすような真似はしなかったが、成金豚を詩宝から引き離すのに協力してやると言って、噂を流す手伝いをさせた。 もちろん、あたしのものである詩宝に奴らが劣情を催しているのは、見ていて愉快ではない。 しかし、敵の敵は味方だ。成金豚を倒すために已むを得ず、手を借りることにした。 あたしと詩宝が結ばれた暁には、褒美として、詩宝の性欲処理便所くらいには認めてやってもいいと思う。 あたしは、心が広いのだ。 34 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/07/29(木) 02:02:46 ID:1TGytqQU0 そんな具合で努力を続けていたある日、詩宝が学校を休んだ。 病欠だというので、妻であるあたしは当然、彼の様子を見に行った。 病気が重いようなら、看病してあげないといけない。 まあ、実際にはどんなに軽い病気でも、無理やり寝かしつけて看病するつもりだったのだが。 ところが、詩宝の家に行ってみると、メイド服を着た雌豚が居座っていた。 雌豚と言っても成金豚ではない。見たことのない相手だ。 メイド豚はあたしが詩宝の家に入るのを拒み、追い払おうとしてきた。 翌日も詩宝は学校に出て来ず、詩宝の家に行くとまたメイド豚に邪魔される。 始め、メイド豚は、成金豚が詩宝を監視するために寄こした手先なのかと思った。 が、どうもそうではないらしいことに気付く。 メイド豚は、詩宝を家の外に出さないようにしている。 成金豚なら、そんなことをする必要はないだろう。むしろ、自分の屋敷に連れ込みたがるはず。 あのメイド豚はどこからか湧いて来て詩宝に取り憑き、監禁しているのだ。成金豚とは関係なく。 そして、詩宝が学校に来なくなってから3日目。 我慢の限界を超えたあたしは、メイド豚を殴り倒して詩宝を救出するべく、拳に包帯を巻いて詩宝の家に向かった。 プロレスラーが素人と喧嘩をすれば、普通は問題になる。しかし、この場合は監禁されている夫を妻が救出するのだから、正当防衛、緊急避難の範疇だろう。 勢い込んで詩宝の家のインターホンを押すと、案の定メイド豚が出てきた。 接近して顔面にパンチを入れようとしたとき、メイド豚は妙なことを言った。 「おや、あなたは行かれなかったのですか?」 どういう意味だろうか。殴る前に、あたしはメイド豚の真意を探ろうとした。 「行くってどこに?」 「めすむ……中一条様の婚約披露会ですよ」 「なりき……中一条が婚約? 誰と!?」 あたしは思わず、大声を上げていた。 成金豚が詩宝を脅迫して、強引に婚約したのかと思ったからだ。 しかし、それだったら、メイド豚が平然としているのはおかしいと思い直した。 「どこぞの政治家の御曹司だそうですよ」 「え?」 案の定、成金豚の婚約相手は詩宝ではなかった。しかし、成金豚がそう簡単に詩宝を諦めるだろうか。不審に思う。 「新聞にも載っていましたが。ご覧になっていないのですね」 それを聞いて、あたしははっとした。 詩宝と話題を合わせるために、あたしの家では詩宝の家と同じ新聞を取っている。 詩宝やメイド豚が読んだ記事なら、あたしの眼に触れないはずがない。 と言うことは、メイド豚が見た新聞の記事とやらは、成金豚のでっち上げに違いなかった。 メイド豚は、それにまんまと引っ掛かったというわけだ。 もちろん、メイド豚が嘘を吐いている可能性も、ないわけではない。 しかし、嘘にしてはあまりにもお粗末だ。あたしが成金豚サイドに確認したら一発でばれる。 多分、詩宝は今本当に、成金豚の偽の婚約披露会に出ているのだろう。 「じゃあ、詩宝は今いないんだな?」 「その通りです。お引き取りください」 「分かったよ」 あたしは大人しく、詩宝の家から引き上げた。 さて、これからどうするか。 成金豚が、詩宝をそのまま家に返すはずがない。 詩宝がいない間にメイド豚を排除するか、詩宝を自分のところに監禁するかだ。 前者ならいいが、問題は後者だった場合だ。 どうにかして、詩宝を救出する方法を考えないといけない。 メイド豚の場合と違って、成金豚は金で大勢のガードマンを雇っているので、力ずくではやりにくい。 とりあえず、布石を打つことにした。 携帯電話を出し、うちの団体の社長に電話をかける。 「もしもし」 『と、堂上か……?』 「はい。ちょっと急ですけど月曜の予定、空けてください」 『い、いや……月曜はゴルフのコンペが……』 「現役時代の社長も3流でしたけど、プロレス団体の社長が年甲斐もなく練習に参加して、首を折るなんてニュースも3流ですよね?」 『……真っ白に空けておきます』 「どうも」 あたしは携帯の通話を切った。一々自分の立場を分からせてやらないと動かないのだから、面倒臭い男だ。 後は、月曜に詩宝が学校に出てこなかったらどうするか、具体的に考える必要があった。

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