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130 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/04(土) 00:48:16 ID:YjbkacLc0 廃ビルの屋上にはコンクリート製の小屋が端の方に一つ佇んでいるだけだった。 ということはおそらくこの中に里奈さんがいるはずだ。 「……ふぅ」 小屋の前で深呼吸をする。もしかしたら俺の記憶にも関わることかもしれないから。 「……行くぞ」 ドアノブをそっと捻るとドアが開いた。どうやら鍵は掛かっていなかったようだ。 無用心だなと思うし、同時に何かの罠かもしれないとも思う。 「……暗いな」 小屋の中は暗くてよく見えない。 だが今俺がいる場所はどうやら玄関のようで目の前には外と同じ形状の扉がある。 「…………」 同じ扉のはずなのに開けられない。ドアノブに触るのがやっとだった。 冷たいドアノブの感触が唯一俺を現実に繋ぎ止めている。 ……この中にいるはずなのだ。英の姉さんが。桃花が全てを捧げている人が。 この一連の事件の元凶かもしれない人物が。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。 ……本当にこの中に誰かいるのだろうか。 むしろ誰もいないことを心をどこか隅の方で祈りながら俺は 「……よし」 扉を開けた。 「…………」 部屋の中には蛍光灯の光が広がっており簡素なベッドだけが隅にある。 他に家具は見当たらずこの部屋が最低限の寝床でしかないことを示していた。 「……えっ?」 「………あ…」 そして部屋の真ん中には確かに人がいた。 ……いたのだが目の前の女の子は明らかに小学生くらいで英の"姉さん"である里奈さんとは到底考えられなかった。 艶のある黒髪と大きな目が印象的な日本人形のような端正な顔立ちである。 いずれにしろこの前英に見せてもらった『藤川里奈』ではないことは明らかだった。 「……えっと」 「………き」 いや、待て。今問題なのはそういうことじゃない。 そうじゃなくて目の前の日本人形のような女の子が何故か裸で手には可愛らしい白い布を持っているということが問題なんじゃないか。 だってこの状況はどうみても覗き魔にしか見えないし、もしここで叫ばれでもしたら……。 131 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/04(土) 00:51:50 ID:YjbkacLc0 「お、俺は別に怪しい者じゃ……」 「きゃぁぁぁぁぁあ!?」 何とか説得しようと一歩中に入った瞬間に叫ばれて思い切り頬に平手打ちをされた。 ごく一部のマニア以外、少なくとも俺にとっては全く嬉しくない少女からの平手打ちを受けてしまった。 そして突然の出来事に戸惑っている俺を尻目に少女は部屋の隅にあった黒い塊を掴みこちらに向けていた。 「こ、来ないで!来たら……バリバリするからね!?」 「スタンガンかよ……」 少女の手には鈍く黒光りしているスタンガンがあった。 スイッチを入れるとバチバチと景気の良い音が狭い室内を包む。 スタンガンについては全くの素人だが少女のスタンガンは明らかに改造してあるのではと思った。 なぜなら本来相手を無力化することはあっても殺すことはないスタンガンからは考えられない稲光のようなものが走っていたからだ。 おそらく当てられれば気絶だけでは済まないだろう。 「ト、トウカはどうしたの!?」 「……桃花の知り合いか?」 「答えなさいよっ!」 「おわっ!?」 少女がこちらにスタンガンを突き出すので急いで一歩後ろへ下がる。 まさか桃花を倒した後にこんな小さな敵がいたとは……。 とにかく落ち着かせないと話も出来ないような状態だった。 何とかして少女から里奈さんのことを聞き出さないと。桃花の知り合いなら里奈さんのことを知っている可能性はある。 「トウカに何かあったら絶対に許さないんだからっ!」 涙目になりながら必死にこちらを睨みつける少女の姿に自分がしたことを後悔した。 いくら襲撃事件の犯人で英が傷付けられたとしても桃花にも大切にし、されている誰かがいるはずだから。 そして桃花の場合、それがこの少女だったのだ。 「……桃花は生きているけど俺が傷付けた。本当にゴメン」 だからこそ嘘をつけなかった。 少女を余計に混乱させることは百も承知だったがどうしても無理だった。 この少女を見ていると何故か鮎樫さんを思い出す。 ……彼女も大切な誰かを待っているような、そんな表情をしていた。 「き、傷付けたって!?……あ!」 「へっ?」 少女は大声を俺へ、正確にいえば俺の背後へと向けた次の瞬間、後頭部に鈍い衝撃が走った。 「…はぁはぁ……里奈様には……指一本触れさせません」 「トウカッ!!」 ……どうやら詰めが甘かったらしい。自分の迂闊さを反省しながら俺は意識を手放した。 132 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/04(土) 00:55:30 ID:YjbkacLc0 「中々面白いわね、貴方」 「くっ……」 立とうとするが膝に力が入らない。怪我をしているからじゃない。 圧倒的な力量差を見せ付けられ本能的に戦いを放棄していたのだ。 それ程彼女の戦いは華麗、そして独占的で圧倒的だった。 「どうやら一般よりは才能がありそうだし…まあこれからに期待、かな」 「ちっ…くしょう……」 正直余裕で勝てると思っていた。 自分はこの地域では負け無しだったし師匠からお墨付きが出る程だった。しかも相手はどうみてもか弱そうな女の子。 いくら師匠が注意しろと言っても舐めてかかったことは認める。 「ふふっ、久しぶりに楽しめそうね」 「……はぁはぁ…」 しかしそれらを抜きにしても彼女の強さは異常だ。 仮に最初から舐めずに全力で挑んだとしても今のように一撃でぶっ飛ばされていたかもしれない。 とにかく彼女の力は常人のそれを遥かに凌駕している。 これが俺の彼女に対する第一印象だった。 「名前、教えてもらっても良い?特別に覚えてあげる」 「……白川…要」 見下ろしてくる偉そうな態度が気にくわなくて教えたくなかったが、何故か自然と名前を教えていた。 やはり俺なりに何か感じている所があったのか。 「意外と素直なのね。私の名前は……」 或いはただ単に彼女の名前が聞きたかっただけなのかもしれない。 彼女は長い黒髪を払いながら名前を言った。 彼女の名前は……。 133 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/04(土) 01:00:58 ID:YjbkacLc0 「……んっ」 久しぶりに変な夢を見た。でも今回は潤や会長、遥でもなく……。 「……鮎樫さん?」 「貴方からその名前が出て来るとは思いませんでした」 「おわっ!?」 「おはようございます、要様」 いきなり桃花に声をかけられて思わず飛び起きる。何故桃花が目の前にいるのか。 というかそもそもここは何処なんだ。俺は確かあの廃ビルの屋上で……。 「ここは……?」 「あの廃ビルはバレてしまいましたからね。要様たちの情報収集力には正直驚きました」 無表情で俺に語りかける桃花。 確かに桃花の言う通りこの部屋はさっきの廃ビルと比べるといくらか生活感がある。 相変わらずベットは一つだが冷蔵庫やキッチンもあり扉の奥には廊下がある。 この分だとシャワーやトイレもちゃんとありそうだった。 「……俺を気絶させたのは…」 「申し訳ありません。ああでもしない限り要をここへ連れては来られないと思いまして」 「…何で俺を連れてきた?大体要"様"って一体どういう心変わりだよ」 「私は自分より強い方には敬意を示します。そして要様には里奈様を託す為に来てもらいました」 真剣な口調で桃花が言う。 でも里奈様を託すってどういうことだ。そもそも俺の目的でもある里奈さんは一体何処にいるんだ? 「トウカ~?タオル何処~?」 「申し訳ありません!今持って行きますので!」 廊下から幼い声が聞こえてくると桃花が慌てて部屋から出ていった。 手にタオルを持っていた所を見るとどうやら持って行く途中だったようだ。 134 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/04(土) 01:08:07 ID:YjbkacLc0 しばらくすると扉が開きさっきのスタンガン少女と桃花が出て来た。 少女の髪の毛がまだ濡れていて風呂上がりのようだ。桃花が少女を俺の目の前まで連れて来る。 少女は何やら気まずいようでしばらく黙っていた。 「…………」 「………えっと…」 こっちまで気まずいので何か話し掛けようとすると 「ご、ごめんなさい…」 「えっ?」 少女が口を開いた。 「あ、あたし……カナメのこと…悪い人だと思って……」 ここまで聞いてさっき小屋でスタンガンを向けられたことについてだと分かった。 まあ夜にいきなり男がノックもせずに入って来たら不審者だと思われても仕方ないよな。 ……というか悪いの俺じゃないか? 「それで……何とかしないとって…あたしっ!」 「ゴメンな。悪いのは俺の方だよ。わざわざ謝ってくれてありがとな」 妹がいるからだろうか。無意識に少女の頭を撫でる。 真っ黒で艶のある髪の毛は風呂上がりで少し濡れていたが良い手触りだった。 「あっ……」 少女の方は頭を撫でられ慣れていないようで緊張気味だったが、しばらくすると目を細めてリラックスしていた。 こうして見るとまるで猫みたいだな。 「どうやら仲直り出来たようですね」 「うんっ!トウカの言う通りカナメは良い人だね!」 桃花に呼びかけられ彼女の方に飛びつく少女。ピンク色のパジャマが似合う彼女はよく見ると誰かに似ている。 最近何処かで見たような……有り得ない。だってこの少女はまだ小学生くらいだ。 有り得るわけ……ない。 「……せっかくだから自己紹介してはどうですか?要様も気になっていらっしゃるようですし」 桃花が俺を見ながら言う。 彼女の燃えるような紅い瞳が妖しい光を湛えていた。 少女が頷いて口を開く。 ……ああ、そうか。だから桃花は少女に敬語を使っていたんだ。 信じられなかった。有り得るわけないと思っていた。 でも少女からは確かに彼女の面影が見られて……。 「あたしの名前は里奈!よろしくね、カナメ!」 笑顔で自分の名前を言った少女こそが……英の姉さんである藤川里奈だったんだ。

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