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138 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/08(水) 17:10:54 ID:akRFxQac0 10年前、ある密約が二つの大企業のトップ同士で結ばれた。 元々美空開発と藤川コーポレーションは様々な事業を提携することが多かったが、ある時お互いの"持ち物"に目を付けたのだ。 美空開発の社長である美空昴は藤川家のメイドにして当時すでに軍隊並の戦闘力を持つ桃花を欲した。 そして桃花のDNA情報を基にアンドロイドの桜花を作った。 逆に藤川栄作が欲しかったもの。それは保険だった。 早くに妻を亡くしその妻に似ている娘の里奈を溺愛していた栄作が一番恐れていたもの。それは里奈を亡くしてしまうこと。 だから彼は"保険"として美空開発の力を借り、里奈のクローンを生み出すことにした。 結果的にそれは成功しもう一人の藤川里奈がこの世に誕生した。それが今から10年前の出来事。 お互いの密約は関係者以外には知らされず、特にもう一人の里奈に関しては藤川栄作と美空昴、クローンを担当した科学者、 そして桃花以外は里奈本人すら知ることがなく10年の時が流れたのだった。 「半年前の爆発事故で里奈様は瀕死の重傷を負い……亡くなりました」 あの少女、里奈を寝かしつけた後、俺は桃花に誘われ散歩に出ていた。 空には満天の星空が広がる。 「里奈様が逝ってしまった後、私もすぐに後を追おうとしました」 桃花は俺の少し前を歩いているので表情は分からない。 だけれどもその声は少しばかり震えているようだった。 「でも思い出したんです。"もう一人の里奈様"の存在を」 「もう一人の……里奈」 「旦那様は里奈様を溺愛しておられました。そして里奈様はいつも苦しまれていた」 「苦しむ……?」 愛されて苦しむことなんてあるのだろうか。桃花は俺の言葉を無視して話し続ける。 「だから今度は外にすら出さないかもしれない。そう思うと自然と旦那様の所へ向かっていました」 「……どうした?」 ふと立ち止まる桃花。つられて俺も立ち止まる。桃花は星空を眺めていた。 「……里奈様が亡くなった夜も確かこんな星空でした」 桃花の横に並んで星空を見上げる。本当に綺麗な星空だった。 ちらりと桃花の顔を見て後悔した。コイツは桜花の敵なんだ。 ……そんな泣き出しそうな顔、見るんじゃなかった。 「今思えば……同じだったのかもしれません」 「……同じ?」 「里奈様が亡くなった後も執着して、私はもう一人の里奈様を誰にも触れさせませんでした」 もしかしたら桃花は分かっていたのかもしれない。自分のしたことが間違っているということを。 それでも彼女には里奈が全てだったから止めることは出来なかったんだ。 139 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/08(水) 17:12:32 ID:akRFxQac0 「結局私も……旦那様と同じだったんです」 「……違うだろ」 「要…様?」 我慢出来なかった。 確かに桃花は今まで色々な人達を傷付けた。それは絶対に許せない。 でももし彼女と同じ状況になったとしたら自分ならどうしただろうか。 俺は桃花の行動を否定なんか出来ない。 「さっき見ていたけど桃花といる時の里奈は本当に幸せそうだった」 「…………」 「だから…俺は…桃花は英の親父さんとは違うと思うんだ」 桃花はずっと星空を見上げている。俺もしばらく一緒に見上げていた。 「……要様なら里奈様を託すことが出来そうです」 「……えっ?」 気が付けば桃花は俺を見つめていた。 改めて見る彼女はとても神秘的だった。銀色の髪と深紅の瞳。まるで人ではない何かのようだ。 「私にはやはり逝ってしまった里奈様しかいないんです」 「桃花……」 桃花は悲しそうに微笑んでいる。 初めて見る彼女の微笑みが悲しそうなのがとても残念だった。 「私は里奈様のメイドです。だから……後はよろしくお願いします」 「お、おいっ!?」 そのまま何処かへ行こうとする桃花の腕を掴む。 右腕が折れていることに今更気が付くが、包帯が巻いてあるので桃花が手当てをしてくれたようだ。 「里奈様は案外そそっかしい方です。私がいないと……お困りでしょうから」 「…………」 桃花の目からは涙が零れていた。それでも彼女はその涙を拭うこともせずただ涙を流している。 「今の里奈様には手紙を残してあります。私より強い貴方なら……任せられます」 「……何処に行くつもりなんだよ」 果たして行く当てがあるのだろうか。 ……それともそのまま主人の元へ逝ってしまうんだろうか。 「少し考えてみます。桜花に教えてもらいましたから」 「桜花に?」 「はい。生きる意志を桜花に。……彼女には謝らないと行けませんね」 「……ああ」 桜花はやっぱりすごい。氷のように冷たかった桃花の心でさえ溶かそうとしているのだから。 「…私がもし戻って来られたら、謝りに行きます」 「……本当に行くのか?里奈は…」 また桃花は俺に背を向けて立ち去ろうとする。 でも何故か今度は彼女を引き止めることが出来なかった。 140 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/08(水) 17:14:40 ID:akRFxQac0 「要様に任せます。……最後まで迷惑をおかけして申し訳ありません」 「……分かった。里奈は俺が預かる。だから……絶対に帰って来い」 桃花が何処に行くのか。 何をしに行くのか。 そして本当に帰って来るのか。 いつ帰って来るのか。 今の俺には何一つ分からない。かといって桃花を助けられる程の力もない、無力な高校生だ。 だから俺は里奈と一緒に桃花の帰りを待つ。 それが桃花のためにしてやれる唯一のことだから。 「ありがとうございます。……それではお元気で」 桃花は振り返らず去って行く。俺はその背中に 「待ってるからな!だから絶対に帰って来いよ!」 精一杯のエールを送っていた。 桃花たちの隠れ家に帰ると寝たはずの里奈が部屋で待っていた。 目は赤く充血していて目元は泣き腫らしていたのか少し赤く腫れていた。手には手紙を握り締めている。 ……おそらく桃花が里奈に残した手紙だろう。 何と声をかければ良いか困っていると里奈が抱き着いてきて大声で泣き出した。 俺は黙って彼女を抱きしめてやることしか出来なかった。 しばらくして泣き止んだ里奈を連れて自宅に戻ることにした。 どうやらここは桜ヶ崎から2、3駅離れた場所らしく電車に乗って桜ヶ崎駅を目指す。 途中潤に連絡しようとしたがポケットから出した携帯は見事に液晶が割れて使えなくなっていた。 「カナメの家って広いの?」 「まあな。両親は海外でいないし二人暮らしにしては広いと思う」 桜ヶ崎駅行きの電車の中で里奈とたわいのない会話をする。 外は真っ暗で終電が近いせいか、それともローカル線だからか人は疎らでこの車両には俺達以外には3、4人しかいなかった。 141 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/08(水) 17:15:36 ID:akRFxQac0 「カナメって妹と暮らしてるんだっけ?」 「ああ、潤っていうんだ。ちょっとおっちょこちょいだけど良い奴でさ」 歩いている間、色々な話をした。 といっても話しているのは基本俺で里奈はそれを黙って聞いているか、間に質問をして俺がそれに答えるといった感じだ。 そんなやり取りを電車の中でも相変わらず続けていた。 「そうなんだ。潤……友達になってくれるかな?あたし、友達いないから…」 「おいおい、俺がいるじゃねぇかよ」 苦笑しながら里奈に尋ねる。 彼女はつい最近"生まれた"訳だから友達がいなくて当然だ。 そしてどうやら彼女は自分がクローンだとは知らないようだ。まあ当たり前といえば当たり前なのだが。 「カナメは……好きだけど友達じゃ……うーん…」 「……ぷっ」 一生懸命頭を悩ませて考える里奈を見ていると何故か吹き出してしまった。 記憶がないことや社会のことをほとんど知らない、俺以外にもそんな奴がいたことに親近感を覚えたからかもしれない。 「あー!今馬鹿にしたでしょ!?」 「してないしてない。ただ……まあその…くっくっくっ…」 「もうっ!カナメなんて知らない!」 頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く里奈。何だかんだ言ってやっぱりまだ10歳の女の子なんだな。 ……桃花が仕えていた里奈さんが20歳だったらしいから約半分、か。 里奈の頭を撫でながらふとそんなことを思い出す。 「ち、ちょっと!勝手に撫でないで……あうぅ…」 「……ん?どうした?顔真っ赤だけど」 「し、知らないっ!!」 里奈はまたそっぽを向いてしまったが頭は撫でられたままだった。 二人を乗せた電車はゆっくりと夜の桜ヶ崎市へと向かって行く。 142 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/08(水) 17:17:08 ID:akRFxQac0 「さてと。とりあえず俺が話すから里奈は黙ってるんだぞ?」 「…………」 自分の家に入るのにこんなに緊張するとは。 そういえばここ二週間程は桜花との訓練に明け暮れていたせいであまり潤を話していなかった気がする。 それに……潤とキスしてしまったことが家に入るのを躊躇わせているようにも思えた。 「……大丈夫。俺が何とかするからさ」 「…………うん」 不安な顔をしながらも里奈が頷く。 そうだ、桃花に任されたんじゃないか。大丈夫、潤だって絶対分かってくれる。 深呼吸をしてインターホンを押す。ピンポーンと気楽な音が響いた。 『……はい』 抑揚が全くないが確かに潤の声だ。 久しぶりに声をちゃんと聞いたが今は早く返事をしないと。 「……ただいま。俺、要だけど」 名前を言った瞬間、いきなりインターホンが切れる音がしてドアが勢いよく開くと中から潤が出て来た。 「あ、潤…ただい」 「兄さんっ!!」 「ぐはっ!?」 そしてそのまま俺に抱き着きもとい突進してきた。堪えきれず後ろに倒れ込む。 それでも潤は俺を離そうとはしなかった。 「兄さんっ!!兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さんっ!!」 「……じゅ、潤?」 なぜだろう。 潤は俺の帰りを待ち侘びていてこんな状況になっている。 それは頭で理解出来ているはずなのにこの身体の震えは一体何なのだろうか。 そして潤の狂気じみている行動は一体……。 「兄さんっ!!探したんだよ!?昨日の夜、廃ビルに行った後連絡が着かなくなったって会長が言って!!それからずっと探したけど見つからなくて!!私、私また兄さんに見捨てられたって思って!!」 「お、落ち着けよ潤……」 急にまくし立てる潤を思わず押し退けようとするが潤は異常な程の腕力で決して離れようとはしない。 「兄さんは分かってない!!私には兄さんしかいないのに!!父さんの時だって兄さんがいなかったら私は!!母さんの時だって!!」 「い、一体何を言って……」 「し、静かにしないと近所迷惑……だよ」 いつの間にか里奈が俺達のすぐ後ろに立っていた。 途中で潤に睨まれながらも最後まで言い切る度胸はたいしたものだ。 143 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/08(水) 17:18:22 ID:akRFxQac0 「……アンタ、誰?」 「え、えっと……あたしは……里」 「まあ別にアンタが誰だって構わないけど…邪魔だから何処か行ってくれない?」 「あ、あたし……」 思わず里奈が言い澱む程、潤の言葉は冷徹だった。 まるで里奈のことを心の底から憎んでいるような言い方だ。 「おい、潤!そんな言い方するな!」 「でもっ!」 「潤っ!……頼むよ。ちゃんと後で説明するから」 「兄さん……」 潤の力が弱まった隙に起き上がり里奈に駆け寄る。潤の言葉で泣きそうになるのを必死に堪えていた。 ……早く休ませてあげたい。その一心で彼女の冷えた小さな手を掴み家に入る。 潤は何か言いたそうな目をしていたが黙って空いている部屋にベットを用意してくれた。 里奈は相当疲れていたようでベットに入った途端、すやすやと寝息を立てていた。 「……ふぅ、寝たみたいだな。良かった」 やっと一段落着いたのでソファーに腰掛ける。隣では潤が右腕の包帯を換えてくれていた。 「ありがとな。色々手伝ってくれて」 「家族だもん。当然じゃない。それよりあの女の子……」 潤が俺に寄り添いながら聞く。 ……潤は悪くないんだ。誰だって家族が一日中家に帰らなかったら不安になる。 特に俺達は二人しかいないんだから……さっきのことは仕方ない。 ただ取り乱しただけだ。自分に言い聞かせる。 それでも胸の奥に引っ掛かった何かは消せなかった。 「……ああ。要組の皆を集めてくれないか?俺にあったこと、全部皆に話したいんだ」 「……分かった。ちょっと待ってて」 果たして何処まで皆に伝えるべきか。 特に英には何て説明すれば良いのか、全く思い浮かばなかった。 144 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/08(水) 17:19:33 ID:akRFxQac0 リビングには要組のメンバーが集まっていた。 俺が話し始めて約1時間。誰ひとりとして口を挟まず、時折会長が煎れてくれた紅茶を飲みながら話を聞いてくれた。 色々悩んだが結局桃花や里奈さんのこと、そしてクローンの里奈のことを正直に話すことにした。 皆の反応は、特に英は信じられないといった様子だったが実際に寝ている里奈の顔を見た瞬間、信じるしかなくなったようだ。 「そんなことが私たちの両親の間で行われていたとはな……」 「……正直、まだ受け入れられないかな。姉さんが……死んだことも」 英と会長はショックを隠しきれないようだった。 お互いに両親がしたことを全く知らなかった上に英は身内を一人亡くし、いきなりその人のクローンがいたと言われた訳だから当然だ。 「……そういえば桜花は…」 「彼女なら廃ビルで保護した。幸いコアは損傷が軽くてな。一ヶ月程で完全修復するらしい」 「そっか。良かった…」 桜花は何とか助かったらしい。本当に良かった。 桜花と過ごしたあの日々は確かに彼女にも存在していることに安堵した。 「しかしアンドロイドにクローン…。正直突然過ぎてまだ実感がねぇな」 亮介の言葉に皆が頷いていた。確かにその通りだ。 もし俺が当事者でなかったならアンドロイドとクローンがいたと言われても、はいそうですかで納得出来る事態ではないだろうし。 そう思うと俺の話をすぐに信じてくれた要組の皆をとても心強く感じる。 「あの子、どうするの?」 「……とりあえずウチで預かろうと思う」 「に、兄さん!?」 遥の質問に答えた俺を、潤が"信じられない"と言った感じで俺を見ている。 「桃花に…託されたからさ。勿論、英が引き取りたいって言うなら……」 「……僕には、まだ無理かな。姉さんの死をちゃんと受け入れられるまでは」 英の表情は何処か辛そうでいつもの飄々としている彼からは掛け離れていた。 「英……」 「……ゴメンね、要。迷惑かけるけど……姉さん…をよろしく頼むよ」 「…ああ、任せとけ」 英と握手をする。よく見ると二人とも右腕を骨折していた。 しかも二人とも桃花にやられたことを思い出し苦笑する。 英も同じことを思っていたらしく何となく笑えてしまった。 「私も出来る限りのサポートをしよう。もし人手不足になった時は教えてくれ」 「俺もちょくちょく顔出すぜ。要っちが里奈ちゃんに変なことしないようにな!」 「りょ、亮介てめぇ…」 「ケーキ、貰ったら持って来る」 「おう、ありがとな遥」 場所が何処であろうと俺達が集まれば関係ない。 シリアスな雰囲気は何処へやら、気が付けばいつもの生徒会室での日常が繰り広げられている。 久しぶりの平穏につい気が緩んでいる自分がいた。 だから気が付けなかったのかもしれない。 その様子をさっきから無言で傍観している潤の存在に。 そして彼女の光のない澱んだ瞳にも。 「……認めないよ」 ぽつりと口にした言葉は誰にも届くことはなかった。

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