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784 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:25:44 ID:cZRhL+3d 【放課後、四時半2年2組の教室まで来てください】 なんて事が書かれた可愛らしいデザインの手紙が自分の通学鞄の中に入っていたら、男子ならどう思うだろう? ダーリン!とか言っちゃう宇宙人の襲来?それとも昼は高校生、夜は怪盗の二束草鞋の生活を送る高校生からの挑戦状? 答えはどちらもNO、放課後の四時半(僕は緊張しすぎて三時半から、つまり放課後になってからずっと)に僕を待っていたのはフィクションの美少女達ではなく、五、六回しか喋った事しかないクラスメートだった。 名前は藤松小町さん、通称マツコ。その人だ。 成績は上位にいつも名を連ね、得意科目であるらしい生物はこの間学年三位。 イメージカラーは赤、というか好きな色なんだが、赤い眼鏡を愛用している。 さらっと艶やかで細い黒髪、毛穴、シミ、そばかす、膿なんて無い白い肌、垂れ目がちな瞳、通った鼻筋、整った眉、のどごし最高の声。 抜群の小顔に、肩甲骨辺りまで伸びた髪から可愛らしくコンニチハしている美味しそうな耳。身長は百六十あるかないかぐらいで、胸はBかC、ウエストは細い。お尻は……水泳の時に見たが、何となく愚息が反応する。 パーツ一つずつ説明するとこんなものだが、簡単に言うところの少女類清純科美少女であり、彼女をオカズに励んでいる男子生徒の話も聞く。 噂によると、事後あまりの可愛さと、励んだ後による徒労感の相乗効果により精神薄弱になり、三日間は寝たきりになるらしい。 恐るべし、マツコ。 そのマツコが四時半になるか、ならないかぐらいで黒板側のドアをスライドさせ、颯爽と登場した。 ビックリしたのは二人共だったらしく、互いにリアクションを見せた。 僕としてはシーヤ派かシーア派の胡椒と山椒が効いたテロリズムジョークを想定して、教室の後ろの方に待機していたのだが、マツコの登場に思い切り舌を二回噛んでしまった。 マツコも僕が先にいることに驚いたのか、垂れ眼がちな大きな瞳をパッチリと大きく開いて、内心の驚きをドラクロアの『群集を導く自由の女神』並みに表していた。 「ごめんなさい、時間丁度になってから来ちゃって」 開口一番にマツコこと藤松小町は謝辞を告げてきた。相変わらず喉ごしのいい声だ。思わず聞き惚れてしまう。 そんな事を思いながら話し出そうとすると、また舌を噛んでしまった。 近く、舌癌になる恐れがある。 「いや、別にいいよ。それに丁度に来るってすごく器用だと思う」 慰めになっているか、いないかで競りに掛けられそうだ。ちなみになっている方の倍率は四百五十八倍、大穴だ。 「この手紙くれたの、藤松さん?」 彼女は首を縦に振って肯定を表現した。 「で、四時半に呼び出して、話って何?もしかして告白とか!?」 茶化したつもりだった。彼女はまた瞳を大きく開いて驚いた風に見せると、視線を四方に泳がせた。 それからさっきの喉ごしのいい声とは違う、うわずって擦れた声で小さくて弱い声で「うん」と言った。 「は?」 「えっと、だからその……」 「待て、藤松それって……」 「神谷君、す、好きです」 ウソ告だよね? 785 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:29:56 ID:cZRhL+3d この辺りで自己紹介と自己評価をしよう。 僕の名前は神谷真治(かみや しんじ)、八月二十九日生まれ、身長百七十二センチ、八十二キロ。 体型はぽっちゃり……、まぁちょっとした肥満体型でお腹のぜい肉には規律と言うものが無くだらしなく垂れ下がっている。 首を擡げれば、首の所に脂肪の塊で谷が出来る。 クラスに通っているキャラは面白い奴、愉快な奴、まぁ言うなれば道化師だ。 昔からそうやって来たから、これは僕の処世術であり、癖でもある。 断じて言うが、僕はモテない。 今までの人生の中で好意を向けられた事が一度たりとも無いのだ。経験の無い人は分からないだろうが、そう言った人はもうどこかに諦めを付けていて、仕方無いなとか思ってしまっている。 この間、というか中学卒業の打ち上げの帰りにその事を思い、一人自嘲気味に笑ってしまった。 生まれてきて十七年間に一人として僕のことを好きになってくれる異性はいなかったのだ。 これはある意味すごい事なのかも知れない。 恵まれていないルックス、服の上からでも薄っすらとだが分かる体型。 身なりにも余り気を使わなかった性か、ファッションセンスも無い。 あるのは、笑いを取るために培った人並み以上ぐらいの語彙数と知識。それから感覚。ただそれだけ。 面白い人が好きです!なんて女子は大概顔重視になりがちな傾向がある。皆も注意してほしい。 そんな僕にクラスのアイドルが思いを打ち明けた。 断言しよう、これは十中八九ウソ告だ。 知らない人がいるかもしれないので【ウソ告】について少し説明しよう。 ウソ告とは、愛の告白と言う聖なる行為を真似た悪質な手口で男子、または女子を異性、極稀に同性が告白し、告白した相手のリアクションを見て、小さな優越感を満たす詐称の手口の名称である。 ある学者によると、美人局の語源であるという説もある。 場合によるが、この手口を行うのは中学の男子または、中学から高校ぐらいの女子で罰ゲームと称して行われる事が多い。 さらに傾向として女子グループが狙うのはモテない男子を標的にする事が多い。 大概罰ゲームを行うのは可愛い娘である。 女子と言うのは面白い団体行動を行う生物で、ブサイクの方が性根が腐っている事が多く、その性格は狡猾で残虐。 いつも自分の誤魔化しきれない残念なルックスに対して行き場の無い怒りをどこかに発散させようと血眼でスペースを捜している。 女子グループはそういう奴が団体の主導者になることが多く、可愛い娘はそのブスに身に覚えの無い怒りをぶつけられるのである。 保身のために可愛い女子はブスの金魚の糞になることが多く、言いなりになってしまうケースも多く確認されている。 では今回のケースはどうだろう? 藤松こと、マツコはクラスではロンリーウルフ気味で、誰とでも喋れるが、誰とも仲良くないといった感じでどこにも属していない。 多分、何かの縁で先に上げたグループに属してしまい、こうやってウソ告をさせられているのだろう。 僕こと、神谷は確かにブサイクだ。クラスでも一番面白い奴だ。それは間違いない。 リアクションにも定評はある。だからこその選抜だろう。 判断材料がここまで揃うと心の準備も簡単に出来る。断言しよう、これはウソ告だ。 786 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:33:18 ID:cZRhL+3d だけどここで焦ってはいけない。冷静に考えるのが彼女に対する、ウソ告に対する礼儀だろう。 放課後の直後から教室にいた僕だ。もはやこの教室(フィールド)は僕にとってのサンクチュアリである。 座席は横八列。入り口の反対側である窓際を除いて縦は五列。窓際は四席の計三十九。 それが等間隔で並んでいて、教室には僕と藤松さんの二人だけ。 教卓の下、掃除用具入れのロッカーには人はいない。 自信を持って言える。この神谷の眼(ゴッドリバー・オブー・アイ)を突破してくる猛者はこの校舎には存在しない。 つまり、この告白がブラフだと仮定(ジャイ子とあだ名を付けられる女子がブサイクである確立くらい)した場合、仕掛け人兼、オーディエンスが僕たちを見ているのは廊下からとなる。 ここで僕は確認のために首を傾げた。 「へ?」 「……」 ここで藤松が入ってきたドアの方を確認した。 しっかりと閉められている。外の光が漏れてきていないからだ。さっきの藤松さんの声量では外には聞こえていないだろう。 ここで僕が事前に行っていた事も説明しておこう。 教室にはスライド式のドアが二つある。 黒板側、ぞくに言うところの前の扉。それから黒板の対極にある掲示板側にある扉、これを後ろの扉とする。 教室に二つ扉があるのは僕の高校だけでは無いはずだし、逆にポピュラーであると思うのでこのまま話を続ける。 僕は待っている間に後ろのドアを施錠しておいたのだ。 つまり聞き耳を立てていないと今なお続行されているウソ告の進行状況の把握は至難の業だ。 ふむ。 僕は内心安心していた。 これは藤松さんだから意味があるのだ。これがもしもエミリー・ローズという映画のヒロインからあだ名を付けられた、エミリーこと長友恵美だったなら僕はすぐさま窓を大きく開け放ち、 それから後ろ振り返る事無く飛び降りてルシファー降臨のための生贄になっていたに違いない。 ちなみにエミリー・ローズとはホラーサスペンス物の映画で、中盤まではまぁ面白かったので興味があるなら詳細は各自で調べて欲しい。 またリッカーと称される同じクラスの宮部理香だったなら僕はT-ウィルス感染者となり、親友である平沢を食い殺していただろう。 ちなみにリッカーこと宮部さんは前頭葉が異常に発達しているせいか眉の辺りから額が出っ張っていて、つぶらな瞳が少し怖い事になっている。 風の噂だが、リッカーの特技は舌だけでサクランボのヘタで蝶々結びを結ぶことらしい。 恐るべし、リッカー。 787 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:34:21 ID:cZRhL+3d 藤松さんは緊張しながら僕の返事を待っている。なんで薄っすら涙が浮かんでいるんだろう。 分かってるよ、ドッキリってことぐらい。 しかし高校二年生になってウソ告とは低次元だな。 分かっていて付き合う僕はまだ良いとして、藤松さんが少し可哀相だ。 心にも無い事を言わされて、好きでもない男子と二人きり。僕が陰険な奴ならこれを気に嫌がらせを始めるかもしれない。 しかもこういうのは僕が恥を掻くのを恐れて告白を断ったりしたら場が白けて、グループに戻ったとき藤松さんに矛先が向くんだよな。 『お前の言い方にリアリティが無かった』とか『もっとらしく言えよ、ってかマジで付き合ったら?』とかさらなる難癖を付けられる。 まぁ、僕の最初の驚きのリアクションと、オーケーを出してからドッキリでしたー、と告知されてからのオーバーリアクションを込みにすれば藤松さんも胸を張れる結果となるだろう。 そうさ、僕みたいなぽっちゃりピエロにこんな可愛い女子が好意を寄せてくれるわけ無いだろ。 分かっているさ、分かっているけど……。 なんだよ、これ?全然面白くない。最低の笑いだ。 早く終わらせて、家に帰ろう。どっちかと言うと逃げように近いけど。 「お、おらで良かったら!ぜ、ぜひ!!」 ワザと噛んで、大きな声で答えを返す。 大袈裟なリアクションで、見え見えの罠に飛び込む。 最初に噛んだ患部が少し痛い。意外と深かったのか。 口の中が鉄の味で一杯になる。 さぁ、終わらせてくれ。 「本当?」 可愛らしく目を潤ませ、僕の返答を聞き返す。僕は大袈裟に首を縦に振って肯定を表す。 「よ、よかったー!」 そう言って、藤松さんはさっきから溜めていた涙を溢れさせた。 力無くその場に座り込む藤松さんさっきからずっと涙を拭っている。 そんなにドッキリ成功が嬉しいのか? 僕はそんな事を思いながら罰ゲーム終了を告げる仕掛け人の登場を待っていた。 788 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:35:39 ID:cZRhL+3d えらく長い罰ゲームだな。単純にそう思った。 告白成功から一時間、僕たちは帰路に着いていた。 藤松さんは初々しい感じの彼女といった感じで僕が喋った事以外反応を示さなかった。 それ以外は僕の顔を惚けた感じの普段見ない緩んだ表情で見ているだけで藤松さんから話題を振ることは無かった。 だからバス、電車で僕は藤松さんを笑わせるのに喋りまくった。 僕が話題を提供するたびにウフッといった感じで笑う彼女の表情は筆舌に尽くしがたいモノで、殺人級の代物だった。 危うく僕のオカズリストの石碑に彼女の名前が刻まれるところだった。 そうこうしている内に、地元の駅に着いた。 「じゃ、僕ココだから」 そう言うと、彼女も席を立った。 「あれ?」 「わ、私もここだから」 そわそわしながら、伏せ目がちな彼女は反則的に可愛かった。なぜか僕の方が申し訳なくなった。 「えと……じゃあ、いこっか」 彼女は小さく頷く。乗員からの殺気を孕んだ視線に気付いた僕は急いで車両を降りた。 改札をくぐり、駅を出る。 「神谷くんは…」 「あ、僕はこっち」 初めての藤松さんの問いかけに僕はすぐさま答える。 「私と一緒だね」 ここまでくると今日中のドッキリ宣言は無いのか? 僕がそんな事を考えていると、藤松さんが僕の顔を不安そうに覗き込んでいるのに気が付いた。 「どうしたの?」 くそっ!その上目遣いは反則だろうがっっ!! 「何でもないよ、大丈夫」 「そう?怖い顔になってたよ?」 「ちょっと来世について考えてただけ、大丈夫」 彼女はウフッとまた楽しそうな笑顔を浮かべると、歩き出した。 僕もそれに続いて歩き始めた。 789 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:39:30 ID:cZRhL+3d 道中は彼女の緊張も解けたのか話題を二、三僕に話を提供してくれた。 どこの中学だとか、好きな食べ物はとか、取り留めの無いものだった。 それからは僕のバイトでの失敗談を話した。ピザの宅配をしていたらホームレスの集団に襲われてピザを取られた時の話だ。 これは鉄板ネタで大概は腹を抱えて笑う。 彼女も彼女の反応から見て腹筋の筋肉痛ぐらいにはなってくれたと思う。 彼女は頻繁に「嘘だよ!」と言っていたが、僕は見たことも無いほどテンションの高い藤松さんを見て嘘だろ?と何度も疑っていた。 話にオチが付いて、丁度僕の家が視界に入った。 その事を告げると藤松さんは残念そうな顔になり、「そう」と小さく呟いた。 「じゃあ、また明日」 「……うん、ばいばい」 どんだけ名残惜しいんだよ。 藤松さんはそのまま踵を返すと、来た道を戻っていった。 「家、もしかして通り過ぎちゃったのかな?」 なんだか悪いことしたな、と少し良心が痛んだ。それと同時に罰ゲームを思い出した。 いつ暴露するんだろう? 鞄を置いて、自室のベット寝転がっていると携帯が鳴った。 送信者は藤松さん。さっき帰り道の通学バスの中でアドレスを交換したのだ。それにしてもアドレスも知らないのに告白とは、いかにもウソ告っぽいな。 【明日は一緒に登校しない?】 そうか、登校の際にドッキリ宣告か。手が込んでるというか、暇な連中だ。 でも、やっぱり藤松さん可愛かったなぁ。 少し残念に思いながらも、僕は藤松さんに合わせるっといった感じの内容のメールを送信してから手を洗いに一階に降りた。
784 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:25:44 ID:cZRhL+3d 【放課後、四時半2年2組の教室まで来てください】 なんて事が書かれた可愛らしいデザインの手紙が自分の通学鞄の中に入っていたら、男子ならどう思うだろう? ダーリン!とか言っちゃう宇宙人の襲来?それとも昼は高校生、夜は怪盗の二束草鞋の生活を送る高校生からの挑戦状? 答えはどちらもNO、放課後の四時半(僕は緊張しすぎて三時半から、つまり放課後になってからずっと)待っていたのはフィクションの美少女達ではなく、五、六回しか喋った事しかないクラスメートだった。 名前は藤松小町さん、通称マツコ。その人だ。 成績は上位にいつも名を連ね、得意科目であろう生物の成績は、この間学年三位。 イメージカラーは赤、というかおそらく彼女が好きな色なんだけど、赤い眼鏡を愛用している。 さらっと艶やかで細い黒髪、毛穴、シミ、そばかす、膿なんて無い白い肌、垂れ目がちだけど大きな瞳、通った鼻筋、整った眉、のどごしのいい最高の声。 抜群の小顔に、肩甲骨辺りまで伸びた髪に、その髪の途中から可愛らしくコンニチハしている美味しそうな耳。 身長は百六十あるかないかぐらいで、胸はBかC、ウエストは細い。お尻は……水泳の時に見たが、少し控えめだった。 パーツ一つずつ説明するとこんなものだが、簡単に言うところの少女類清純科美少女であり、彼女をオカズに励んでいる男子生徒の話も聞く。 噂によると、事後あまりの可愛さと、励んだ後による徒労感の相乗効果により精神薄弱になり、三日間は寝たきりになるらしい。 恐るべし、マツコ。 そのマツコが四時半になるか、ならないかぐらいで黒板側のドアをスライドさせ、颯爽と登場した。 お互いの顔合わせに驚いたたのは二人共だったらしく、互いにリアクションを見せた。 僕としてはシーヤ派かシーア派の胡椒と山椒が効いたテロリズムジョークを想定して、教室の後ろの方に待機していたのだが、マツコの登場に思い切り舌を二回噛んでしまった。 マツコも僕が先にいることに驚いたのか、垂れ眼がちな大きな瞳をパッチリと大きく開いて、内心の驚きをドラクロアの『群集を導く自由の女神』並みに表していた。 「ごめんなさい、時間丁度になってから来ちゃって」 開口一番にマツコこと藤松小町は謝辞を告げてきた。相変わらず喉ごしのいい声だ。思わず聞き惚れてしまう。 そんな事を思いながら話し出そうとすると、また舌を噛んでしまった。 近く、舌癌になる恐れがある。 「いや、別にいいよ。それに丁度に来るってすごく器用だと思う」 慰めになっているか、いないかで言うと、おそらくなってはいないだろう。 「この手紙くれたの、藤松さん?」 彼女は首を縦に振って肯定を表現した。 「で、四時半に呼び出して、話って何?もしかして告白とか……?」 茶化すつもり言葉だった。彼女はまた瞳を大きく開いて驚いた風に見せると、視線を四方に泳がせた。 それからさっきの喉ごしのいい声とは違う、うわずった擦れた声で小さくて弱い声で「うん」と言った。 「は?」 「えっと、だからその……神谷君、す、好きです」 785 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:29:56 ID:cZRhL+3d この辺りで自己紹介と自己評価をしよう。 僕の名前は神谷真治(かみや しんじ)、八月二十九日生まれ、身長百七十二センチ、八十二キロ。 体型はぽっちゃり……、まぁちょっとした肥満体型でお腹のぜい肉には規律と言うものが無くだらしなく垂れ下がっている。 首を擡げれば、首の所に脂肪の塊で谷が出来る。 クラスに通っているキャラは面白い奴、愉快な奴、まぁ言うなれば道化師だ。 昔からそうやって来たから、これは僕の処世術であり、癖でもある。 断じて言うが、僕はモテない。 今までの人生の中で好意を向けられた事が一度たりとも無いのだ。経験の無い人は分からないだろうが、そう言った人はもうどこかに諦めを付けていて、仕方無いなとか思ってしまっている。 この間、というか中学卒業の打ち上げの帰りにその事を思い、一人自嘲気味に笑ってしまったぐらいだ。 生まれてきて十七年間に一人として僕のことを好きになってくれる異性はいなかったのだ。 これはある意味すごい事なのかも知れない。 恵まれていないルックス、服の上からでも薄っすらとだが分かる体型。 身なりにも余り気を使わなかった性か、ファッションセンスも無い。 あるのは、笑いを取るために培った人並み以上ぐらいの語彙数と知識。それから感覚。ただそれだけ。 面白い人が好きです!なんて女子は大概顔重視になりがちな傾向がある。皆も注意してほしい。 そんな僕にクラスのアイドルが思いを打ち明けた。 断言しよう、これは十中八九ウソ告だ。 知らない人がいるかもしれないので【ウソ告】について少し説明しよう。 ウソ告とは、愛の告白と言う聖なる行為を真似た悪質な手口で男子、または女子を異性、極稀に同性が告白し、告白した相手のリアクションを見て、小さな優越感を満たす詐称の手口の名称である。 ある学者によると、美人局の語源であるという説もある。 場合によるが、この手口を行うのは中学の男子または、中学から高校ぐらいの女子で罰ゲームと称して行われる事が多い。 さらに傾向として女子グループが狙うのはモテない男子を標的にする事が多い。 大概罰ゲームを行うのは可愛い娘である。 女子と言うのは面白い団体行動を行う生物で、ブサイクの方が性根が腐っている事が多く、その性格は狡猾で残忍。 いつも自分の誤魔化しきれない残念なルックスに対して行き場の無い怒りをどこかに発散させようと血眼で獲物を捜している。 女子グループはそういう奴が団体の主導者になることが多く、可愛い娘はそのブスに身に覚えの無い怒りをぶつけられるのである。 保身のために可愛い女子はブスの金魚の糞になることが多く、言いなりになってしまうケースも多く確認されている。 では今回のケースはどうだろう? 藤松こと、マツコはクラスではややロンリーウルフ気味で、誰とでも喋れるが、誰とも仲良くないといった感じでどこにも属していない。 多分、何かの縁で先に上げたようなグループに属してしまい、こうやってウソ告をさせられているのだろう。 僕こと、神谷は確かにブサイクだ。 同時にクラスでも一番面白い奴だ。それは間違いない。リアクションにも定評はある。だからこその選抜だろう。 判断材料がここまで揃うと心の準備も簡単に出来る。断言しよう、これはウソ告だ。 786 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:33:18 ID:cZRhL+3d だけどここで焦ってはいけない。冷静に考えるのが彼女に対する、ウソ告に対する礼儀だろう。 放課後の直後から教室にいた僕だ。もはやこの教室(フィールド)は僕にとってのサンクチュアリである。 座席は横八列。入り口の反対側である窓際を除いて縦は五列。窓際は四席の計三十九。 それが等間隔で並んでいて、教室には僕と藤松さんの二人だけ。 教卓の下、掃除用具入れのロッカーに人はいない。 自信を持って言える。この神谷の眼(ゴッドリバー・オブ・アイ)を突破してくる猛者はこの校舎には存在しない。 つまり、この告白がブラフだと仮定(ジャイ子とあだ名を付けられる女子がブサイクである確立くらい)した場合、仕掛け人兼、オーディエンスが僕たちを見ているのは廊下からとなる。 ここで僕は確認のために首を傾げた。 「へ?」 「……」 ここで藤松さんが入ってきた入口を確認した。 しっかりと閉められている。外の光が漏れてきていないからだ。さっきの藤松さんの声量では外には聞こえていないだろう。 ここで僕が事前に行っていた事も説明しておこう。 教室にはスライド式のドアが二つある。 黒板側、ぞくに言うところの前の扉。それから黒板の対極にある掲示板側にある扉、これを後ろの扉とする。 教室に二つ扉があるのは僕の高校だけでは無いはずだし、逆にポピュラーであると思うのでこのまま話を続ける。 僕は待っている間に後ろのドアを施錠しておいたのだ。 つまり聞き耳を立てていないと今なお続行されているウソ告の進行状況の把握は至難の業だ。 ふむ。 僕は内心安心していた。 これは藤松さんだから意味があるのだ。これがもしもエミリー・ローズという映画のヒロインからあだ名を付けられた、エミリーこと長友恵美だったなら僕はすぐさま窓を大きく開け放ち、 それから後ろ振り返る事無く飛び降りてルシファー降臨のための生贄になっていたに違いない。 ちなみにエミリー・ローズとはホラーサスペンス物の映画で、中盤まではまぁ面白かったので興味があるなら詳細は各自で調べて欲しい。 またリッカーと称される同じクラスの宮部理香だったなら僕はT-ウィルス感染者となり、親友である平沢を食い殺していただろう。 ちなみにリッカーこと宮部さんは前頭葉が異常に発達しているせいか眉の辺りから額が出っ張っていて、つぶらな瞳が少し怖い事になっている。 風の噂だが、リッカーの特技は舌だけでサクランボのヘタで蝶々結びを結ぶことらしい。 恐るべし、リッカー。 787 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:34:21 ID:cZRhL+3d 藤松さんは緊張しながら僕の返事を待っている。なんで薄っすら涙が浮かんでいるんだろう。 分かってるよ、ドッキリってことぐらい。 しかし……高校二年生になってウソ告とは低次元だな。 分かっていて付き合う僕はまだ良いとして、藤松さんが少し可哀相だ。 心にも無い事を言わされて、好きでもない男子と二人きり。僕が陰険な奴ならこれを機に嫌がらせを始めるかもしれない。 しかもこういうのは僕が恥を掻くのを恐れて告白を断ったりしたら場が白けて、グループに戻ったとき藤松さんに矛先が向くんだよな。 『お前の言い方にリアリティが無かった』とか『もっとらしく言えよ、ってかマジで付き合ったら?』とかさらなる難癖を付けられる。 まぁ、僕の最初の驚きのリアクションと、オーケーを出してからドッキリでしたー、と告知されてからのオーバーリアクションを込みにすれば藤松さんも胸を張れる結果となるだろう。 そうさ、僕みたいなぽっちゃりピエロにこんな可愛い女子が好意を寄せてくれるわけ無いだろ。 分かっているさ、分かっているけど……。 なんだよ、これ?全然面白くない。最低の笑いだ。 早く終わらせて、家に帰ろう。どっちかと言うと逃げように近いけど。 「お、オレで良かったら!ぜ、ぜひ!!」 ワザと噛んで、大きめの声で答えを返す。 大袈裟なリアクションで、見え見えの罠に飛び込む。 最初に噛んだ患部が少し痛い。意外と深かったのか。 口の中が鉄の味で一杯になる。 さぁ、終わらせてくれ。 「本当?」 可愛らしく目を潤ませ、僕の返答を聞き返す。僕は大袈裟に首を縦に振って肯定を表す。 「よ、よかったー!」 そう言って、藤松さんはさっきから溜めていた涙を溢れさせた。 力無くその場に座り込み、藤松さんさっきからずっと涙を拭っている。 そんなにドッキリ成功が嬉しいのか? 僕はそんな事を思いながら罰ゲーム終了を告げる仕掛け人の登場を待っていた。 788 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:35:39 ID:cZRhL+3d えらく長い罰ゲームだな。単純にそう思った。 告白成功から一時間、僕たちは帰路に着いていた。 藤松さんは初々しい感じの彼女といった感じで僕が喋った事以外反応を示さなかった。 それ以外は僕の顔を惚けた、普段は見せない緩んだ表情で見ているだけで、藤松さんから話題を振ってくることは無かった。 だからバス、電車で僕は藤松さんを笑わせるのに喋りまくった。 僕が話題を提供するたびにウフッといった感じで笑う彼女の表情は筆舌に尽くしがたいモノで、殺人級の代物だった。 危うく僕のオカズリストの石碑に彼女の名前が刻まれるところだった。 そうこうしている内に、地元の駅に着いた。 「じゃ、僕ココだから」 そう言うと、彼女も席を立った。 「あれ?」 「わ、私もここだから」 そわそわしながら、伏せ目がちな彼女は反則的に可愛かった。なぜか僕の方が申し訳なくなった。 「えと……じゃあ、途中まで一緒に帰ろっか?」 彼女は小さく頷く。乗員からの殺気を孕んだ視線に気付いた僕は急いで車両を降りた。 改札をくぐり、駅を出る。 「神谷くんは…」 「あ、僕はこっち」 初めての藤松さんの問いかけに僕はすぐさま答える。 「私と一緒だね」 嬉しそうに、噛みしめるみたいに藤松さんは言う。 ここまでくると今日中のドッキリ宣言は無いのか? 僕がそんな事を考えていると、藤松さんが僕の顔を不安そうに覗き込んでいるのに気が付いた。 「どうしたの?」 くそっ!その上目遣いは反則だろうがっっ!! 「何でもないよ、大丈夫」 「そう?怖い顔になってたよ?」 「ちょっと来世について考えてただけ、大丈夫」 彼女はウフッとまた楽しそうな笑顔を浮かべると、歩き出した。 僕もそれに続いて歩き始めた。 789 :ウェハース ◆Nwuh.X9sWk :2010/09/10(金) 11:39:30 ID:cZRhL+3d 道中は彼女の緊張も解けたのか話題を二、三僕に話を提供してくれた。 どこの中学だとか、好きな食べ物はとか、取り留めの無いものだった。 それからは僕のバイトでの失敗談を話した。ピザの宅配をしていたらホームレスの集団に襲われてピザを取られた時の話だ。 これは鉄板ネタで大概は腹を抱えて笑う。 彼女も彼女の反応から見て腹筋の筋肉痛ぐらいにはなってくれたと思う。 彼女は頻繁に「嘘だよ!」と言っていたが、僕は見たことも無いほどテンションの高い藤松さんを見て嘘だろ?と何度も疑っていた。 話にオチが付いて、丁度僕の家が視界に入った。 その事を告げると藤松さんは残念そうな顔になり、「そう」と小さく呟いた。 「じゃあ、また明日」 「……うん、ばいばい」 どんだけ名残惜しいんだよ。 藤松さんはそのまま踵を返すと、来た道を戻っていった。 「家、もしかして通り過ぎちゃったのかな?」 なんだか悪いことしたな、と少し良心が痛んだ。それと同時に罰ゲームを思い出した。 いつ暴露するんだろう? 鞄を置いて、自室のベット寝転がっていると携帯が鳴った。 送信者は藤松さん。アドレスは帰りに使ったバスの中で交換したのだ。 それにしてもアドレスも知らない相手に告白とは、いかにもウソ告っぽいな。 【明日は一緒に登校しない?】 そうか、登校の際にドッキリ宣告か。手が込んでるというか、暇な連中だ。 でも、やっぱり藤松さん可愛かったなぁ。 少し残念に思いながらも、僕は藤松さんに合わせるっといった感じの内容のメールを送信してから手を洗いに一階に降りた。

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