「ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十四話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十四話」(2010/09/16 (木) 10:08:43) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

145 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十四話 ◆AW8HpW0FVA :2010/09/15(水) 19:37:25 ID:IGAMPonY 第十四話『西方の統一』 ピドナを攻略したシグナムは、そこから軍を動かさず、今後の統治について話し合った。 これは、勢力の拡大により、今までの統治方法に限界が来てしまい、 新たな政策を模索せざるを得なくなったからである。 火急の問題として上がったのは、占領地の統治についてと、流民の救済についての二つだった。 話し合いの結果、占領地統治については、シグナムが土地を郡と県に区分し、 郡には守、県には令を派遣し、支配させる、所謂、郡県制を提唱し、それを実施する事になった。 この制度により、政府の命令がスムーズに行き渡るだけでなく、 さらに君主が役人を選んで派遣するので、君主権力の強化にも役立った。 次に、流民の救済に関しては、トゥルイとバトゥが、 流民達に田畑を与え、それを戸籍として登録し、 そこから上がる収穫物を税として取るという民屯を提唱し、それを採用した。 この制度は、税の割合は五:五とかなり高かったが、戸籍が持てるという旨味もあってか、 多くの流民達が役所に殺到した。この制度は戦時中にはあまり役に立たなかったが、 戦後三年が経ってから、多くの作物が実り、非常に大きな成果を上げる事になった。 とりあえず、大まかな事は決め終えたシグナムは、城壁に上った。 春の心地よい風が、シグナムの顔を撫でた。ここにいると、外の騒乱が嘘の様だった。 気持ちよく風に当っていると、後ろから声を掛けられた。トゥルイとフレグだった。 「気持ちよさそうですね」 「シグナム様、私も混ぜてください」 二人はそう言うと、シグナムの許可なく傍に侍った。 シグナムが咎めない時は、了承されたという意味であると二人は心得ていたのだ。 シグナムは苦笑いした。この二人に完全に癖を見抜かれていると分かったからだ。 元より断るつもりなどない。シグナムは身を乗り出し、外の景色を眺めた。 ピドナは大平原にある都市であり、城壁からは地平線の彼方まで見る事が出来る。 シグナムはすぐにここが気に入った。トゥルイ達も気に入ったらしく、穏やかな表情をしていた。 上機嫌なシグナムの耳に、雑音が入ってきた。ブリュンヒルドである。 穏やかだったシグナムの表情が、一瞬の内に無表情になった。 「なにか用か?」 振り向き様に、ブリュンヒルドにそう声を掛けた。表情と同様に無感動な声である。 ブリュンヒルドは、シグナムの無表情を気に掛けた様子でもなく、 「この城をくまなく調べた所、隠し部屋を発見しました。 中には百数門の大砲と火薬が確認できたので、その事の報告に参りました。 つきましては、シグナム様にご検分いただきたく存じます」 と、言って頭を下げた。 大砲、という言葉を聞いて、シグナムは一瞬目を見開いたが、すぐに元の表情に戻った。 「お前は大砲を見たのであろう。だったら私が確認するまでもない。 大砲に関しては、その手のものの整備知識を持っている者がいるはずだ。 その者を探し、大砲の整備を命じ、火薬はしけっているのなら新しいのを買っておけ。 ……それくらい、お前であれば聞かずとも分かると思っていたのだがな……」 それだけ言うと、シグナムはさっさと城壁から下りていった。 146 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十四話 ◆AW8HpW0FVA :2010/09/15(水) 19:38:41 ID:IGAMPonY 相変らず、シグナムはピドナに軍を留め、政務に励んでいた。 この間、シグナムは軍隊を動かさなかったが、西の残存勢力に領土を侵される事はなかった。 軍内ではこの進軍の停止に、特に新参であるハイドゥが疑問の声を上げた。 しかしシグナムは、それらの事に耳を傾ける事なく、 専ら政務と放った間諜が持ってくる情報に耳を立てていた。 ある時、政庁にブリュンヒルドが参内してきた。 ブリュンヒルドは跪くと、 「シグナム様、あなた様の威名はこの大陸を覆い、多くの民達がその神徳に服しております。 どうか、シグナム様におかれましては、王の位に即かれ、民達を導いてくださいませ」 と、言った。 周りの百官達がざわめき始めた。次にきたのは、百官達の即位の懇願だった。 周りの騒ぎを余所に、シグナムはクスリとも笑わなかった。 シグナムは、騒ぎ立つ百官達に目を向け、 「この件は、もう少し待ってもらいたい。もうじき答えが現れる」 と、少し不明瞭な事を言って、この騒ぎを沈黙させた。 その日からシグナムの下には、入れ替わり立ち代り即位を求める臣下がやって来る様になった。 シグナムはそれ等に対して明確な答えはせず、ただ、 「もうじき答えが現れる」 とだけ言って、その者達を引き下がらせた。 「ブリュンヒルドめ、余計な事を……」 誰もいなくなった政庁で、シグナムは苦々しく呟いた。 それからもシグナムは、即位を懇願する臣下を煙に巻いていたが、 一人の間諜の持ってきた情報が、大きく流れを変える事になった。 シグナムは情報を聞くと、バトゥとトゥルイに千の兵を率いさせ、自らも兵を率いて出陣した。 向かう先は、残存勢力が残っている西ではなく、既に占領したエセンという田舎町だった。 ここは主に家畜を飼う事を生業としている町というだけで、別に戦略上重要な所ではない。 バトゥもトゥルイも首を傾げていた。 馬から降りたシグナムは、とある民家の前に止まり、戸を叩いた。 中から出てきたのは、十歳後半の少年だった。 「あなたが、テムジン様にございますね」 シグナムは、その少年に懇切丁寧に声を掛けた。少年は驚いたが、首を縦に振った。 それを見たシグナムは、満面の笑みを浮かべ、 「やはりそうでしたか。なるほど、高貴なお顔をしていらっしゃる。 私はあなた様を迎えに参りました。どうぞ、こちらへ」 と言って、テムジンを兵達の前に導いた。 「シグナム様、この少年は?」 バトゥは首を傾げ、その少年を見た。シグナムは笑いながら、 「このお方こそ、先の大戦で唯一生き残られたオゴダイ王国の王子、 そして、今日より我らの主となるテムジン様だ」 と、後ろにいる兵にまで聞こえる様に、大きな声を出した。 一瞬の沈黙の後、どよめきが兵全体に広がった。シグナムはそのどよめきを手で制し、 「この中には、私が王になるのではないか、と思っていた者もいる様だが、 私は他国者、言わば部外者だ。その部外者が、この国の王になる訳にはいかない。 私は今日まで、この国の王に相応しい人物を探し、やっと見付け出す事が出来た。 私は、今持っている全ての権限を王に奉還し、新たな指示を待つ事にする」 と、言って、テムジンの前に跪いた。 それを見たバトゥとトゥルイは、同じく跪いた。後は、これに続けとばかりに兵達も跪いた。 一方のテムジンは、この展開に付いて行けず、おろおろとするばかりだった。 147 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十四話 ◆AW8HpW0FVA :2010/09/15(水) 19:39:32 ID:IGAMPonY シグナムは、無闇やたらに間諜を放っていた訳ではない。周囲の地形や敵の情報だけでなく、 先の大戦で滅んだ亡国の君子を探し出す様に極秘の命令を下していたのだ。 これは降伏の使者も同様で、発見したら報告と共に知らせ、 出来なかったら報告だけして、その場から立ち去る様に、と告げていたのだ。 ピドナに凱旋したシグナムは、早速テムジンを王位に即けて、オゴタイ王国を復興させた。 この事に、百官達や残っていた兵士達は、なんの批判も上がらなかった。 唯一、不満そうな表情をしていたのはブリュンヒルドだったが、シグナムはそれを無視した。 シグナムは、即位したテムジン直々に宰相兼大将軍の位に任ぜられ、さらに斧鉞も与えられた。 これにより、シグナムは軍事における専断権を握る事が出来た。 大将軍任命の叙任式が終わり、トゥルイがシグナムに近付いてきた。 シグナムは笑いながら、 「私の事がなんでも分かるお前でも、流石にこれまでは分からなかった様だな」 と、茶化すように言った。トゥルイも笑いながら、 「王位を迫られた際に、答えを遅らせたので、なにかあるとは思っていましたが、 この様な結末は予想しておりませんでした」 と、答えた。トゥルイの裏をかけて、シグナムは優越感に浸る事が出来た。 そんなシグナムの機微を察してか、トゥルイは、 「ですがシグナム様、私はあなたの選択は正しかったと思います。 例えあのままシグナム様が王位に即いても、誰も非難はしなかったでしょうが その瞬間、あなた様は我欲に溺れた凡人に成り果てていたでしょう。 自らの天分を弁えたその行為は、一月もしない内に大陸全土に広がり、 いずれ多くの者があなた様に平伏すでしょう」 と、予言めいた事を言った。シグナムは、その言葉を胸に刻んだ。 トゥルイの言う通り、シグナムの行ないは、一月もしない内に大陸全土に広がり、 今まで野に伏せていた賢人だけでなく、 日和見な態度を取ってきた豪族崩れや没落貴族の勢力なども、王国に帰順した。 オゴタイ王国の意気は、まさに天を衝かんばかりの勢いとなった。 この勢いそのままに、シグナムは軍を動かしてもよかったが、 最後通告として、残存勢力に降伏勧告の使者を送った。 その間にも、シグナムは、バトゥ、トゥルイ、フレグを大将に、 ブリュンヒルドを別働隊大将に、ハイドゥを大将控に任命し、いつでも出陣出来る様にした。 殆どの勢力が帰順を誓う中、それでもオゴタイ王国と戦うという勢力があった。 それらの勢力が連合を結び、オゴタイ王国に徹底抗戦を呼び掛けたのだ。 その連合軍の中心となったのが、大陸最西端にある堅城、 通称、偉大な都市、堅城ミクラガルズに立て籠もるマイケルの率いる軍だった。 さらに、このミクラガルズには、テルムの戦いで討ち漏らしたジョニーも入っており、 それを聞いたバトゥは、私を先陣に、と息を荒くして懇願した。シグナムはそれを了承した。 これが、シグナムの西方における最後の戦いとなった。 シグナムは、ブリュンヒルドに三十万の兵を与え、周辺の抵抗勢力の駆逐を命じ、 自身は、バトゥ等と共に総勢四十五万の兵を率いてミクラガルズに向かう事になった。 148 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十四話 ◆AW8HpW0FVA :2010/09/15(水) 19:43:53 ID:IGAMPonY シグナム達が最初の目標としたのは、ガガ湾の北部にあるルメル・ヒサルの城塞だった。 ミクラガルズは、東をガガ湾、南、北をカルカラ海に守られ、唯一の陸路である西も、 古代の領主が、防御力強化のために築いた城壁により蓋をされている難攻不落の堅城だった。 その堅城攻略のために、シグナムはルメル・ヒサルの城塞を攻略する必要があった。 城塞の兵力は、先の調査で一万程度と知れている。 シグナムは最初、通常の行軍速度で、ルメル・ヒサルに向かっていたが、 あと一日で到着するという所まで来て、急に速度を落とした。 シグナムは、城兵に最後の時間を与えてやれ、とだけ言って、そのままの速度を維持した。 結果、シグナム軍がルメル・ヒサルの城塞に着いた時、城兵達は雪崩を打って降伏してきた。 「これで、連合軍は一枚岩ではない、という事が証明されたな」 と、シグナムは微笑みながら言った。 ルメル・ヒサル攻略後、五万の兵を城塞防衛のために残し、シグナムは軍を二つに分けた。 バトゥ、トゥルイの二将に三十万の兵を率いさせ、ミクラガルズの西側の城壁に向かわせ、 自身は、十万の兵を率いて沿岸にある城塞アナドル・ヒサルの攻略に向かった。 軍を分けたといっても十万の大軍である。アナドル・ヒサルの城兵達は、恐れ戦いて降伏した。 制海権を握ったシグナムは、城塞にあった軍艦十隻と、 降兵一万をハイドゥに率いさせる事にした。ここにきて、やっとハイドゥの出番という訳である。 ハイドゥは元海賊であり、海指能力には優れているはずである。 シグナムはそれを期待し、ハイドゥを大将控から海軍大将に任命した。 海軍大将になったハイドゥは、勇み立ち、すぐさま降兵達の再調練を開始した。 この調練が終了するのは、夏が本格的に始まる頃だった。 一方で、ミクラガルズの城壁に到着したバトゥ達は、苛烈な攻撃を掛けていた。 ピドナで見付けた百数門の大砲を一斉に城壁に打ち込んだのだ。 大砲の命中精度はそれほどよくはなかったが、城壁に直撃し、大きく抉ったり、 壁上の兵に当るなどして、大いに城内の士気を低下させるのに役立った。 しかし、マイケル軍も大砲を持っており、負けじと打ち返してきた。 これにより、バトゥ達も被害を受けた。戦況は、一進一退だった。 この戦況は、アナドル・ヒサルに駐屯していたシグナムの元に届いた。 ちょうど海軍の再調練が終了し、いつでも出陣可能だったので、 シグナムはハイドゥに、海上からミクラガルズを攻める様に命じた。 シグナムは相変らずアナドル・ヒサルに留まり、戦況を静観していた。 シグナムの元には、多くの報告が引っ切りなしに入ってきた。 「ブリュンヒルド隊、帰順した勢力と共に各地を転戦」 「バトゥ、トゥルイの部隊、城壁を越えられず立ち往生、未だに戦況好転せず」 「海軍、海上の城壁も高く、ガガ湾の入口は鎖が張り巡らされ、小型船以外は通れない」 と、ミクラガルズ方面の軍事行動は、硬直していると言ってもよかった。 この硬直状態を見たフレグは、 「我々が賊を攻めるより、あちら側から攻めさせる様にするべきではないですか?」 と、献言した。それを聞いたシグナムは、少し考える素振りを見せ、 「フレグ、もし一昼夜にして城の中に兵が現れたら、お前は驚くか?」 と、奇妙な事を言い出した。フレグはきょとんとした表情で、 「兵が……ですか……。それはもちろん驚きますよ」 と、答えた。その答えに満足したのか、シグナムは、 「フレグ、城の中は無理でも、湾内にはそれが出来そうだぞ」 と、言ってのけた。その表情は自信に満ちたものだった。 149 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十四話 ◆AW8HpW0FVA :2010/09/15(水) 19:44:34 ID:IGAMPonY ハイドゥの艦隊が、いったんアナドル・ヒサルに戻ってきた。 軍艦から下りたハイドゥの表情は険悪だった。 幾度となく、目の前を敵方の救援物資が積まれた小型船が通り、 その度に拿捕しようとしたが、船の速度は速く、追い付く事が出来ないでいたのだ。 その表情のまま、ハイドゥはシグナムと対面した。 ハイドゥがなにか言おうとしたが、それよりも先に、シグナムが口を開いた。 「将軍、我々はこれよりガラト(ガガ湾の北岸にある都市)北部の山を切り開き、道を作る。 将軍にも手伝ってもらいたい」 と、言うと、シグナムはハイドゥの返答も待たず、軍を率いて出立した。 ハイドゥは小さく溜め息を吐くと、すぐに補給を終わらせ、シグナム達の後を追った。 一方、先に出立したシグナムは、相手方に気付かれない様に、静々と行軍していた。 ガラタ北部の山に着くと、早速木を伐採し始めた。 十万の兵力なのである。十日ほどでガガ湾までの道を切り開いた。 次に、伐採した木に油を塗り、それを地面に置き、木の道を造った。 シグナムはこの道を使い、二十日ほど掛けて、湾内に十隻の軍艦を入れた。 この奇策は成功した。突如として湾内に現れた軍艦に、 ミクラガルズの城兵は大いに驚いた。 それだけではなく、ガガ湾を塞いだ事により、敵方の補給線も塞ぐ事ができた。 これにより、ミクラガルズ城内の士気は一気に地に墜ちた。 これを好機と見たシグナムは、遂に総攻撃に移った。 陸上側のバトゥ達も、休む事なく城壁を攻撃し、ありったけの砲弾も打ち込んだ。 そして、その時がきた。兵達が城壁を乗り越え、城門を開けたのである。 バトゥが突撃の号令を下した。一斉に兵達が城内に突っ込んだ。 こうなると、ミクラガルズは抵抗できなかった。 バトゥは城内で逃げ惑う怨敵ジョニーを見付け、討ち取り、 トゥルイは総大将のマイケルを討ち取った。 総大将の戦死により、ミクラガルズの戦いは、幕を閉じた。シグナム軍の大勝利だった。 ミクラガルズの統治を部下に任せ、シグナム達はピドナに戻る事にした。 途上、フレグがなにかを思い出した様な声を出し、 「シグナム様、連合軍の頭は討ち取れましたが、まだブリュンヒルド将軍が各地で戦っています。 こちらの戦いは終わったのですから、援軍に向かった方がいいのではないですか?」 と、言った。しかし、シグナムはフレグの方に振り向く事なく、無表情で、 「彼女は、なによりも名誉を大切にする性分だ。 仮に我々が援軍に駆け付けたら、その性分ゆえ、事を急いで失敗するだろう。 このまま帰った方が彼女には都合がよいのだ」 と、言って、援軍を出す事を拒否した。さらにシグナムは、 「それに、……この程度で死ぬならば、苦労はないんだがな……」 と、呟いた。この呟きは誰にも聞こえず、皆歩みを止める事はなかった。 こうして、シグナム軍は、ピドナに帰還した。 ブリュンヒルドが残存勢力を駆逐して、ピドナに帰還した時、季節は夏真っ盛りであった。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: