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487 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:47:51 ID:W3t7prb6 「吸血鬼……ってお前なぁ」 昼休み。 多くの学生が友人や恋人と一緒に昼飯を共にすることで、絆を深める時間帯。 そんな時間に市内の高校二年生である俺、朱神光(アカガミヒカル)は胡散臭い話を聞いていた。 「いやいや、これが本当なんだって!騙されたと思って!な、頼むよ主人公!」 俺の目の前で手を合わせ懇願してくるのはクラスメイトで悪友の向井太一郎(ムカイタイチロウ)だ。 コイツは様々な所に情報網があり、いつも面白い話を持って来ては一緒にやろうと持ち掛けてくる。 ……まあその情報の7割くらいがガセネタもしくは噂と全然違ったりするのだが。 「お前の話に乗って得した試しがないからな。つーか"主人公"は止めろ」 先程1階の購買で買ってきたカツサンドの封を開けながら太一郎と話す。 ちなみに"主人公"というのは最近クラスで流行っている俺のあだ名だ。 俺の本名、朱神光は確かに読もうと思えば"シュジンコウ"と読める。 全てはこの前教育実習で来た大学生が俺の名前を「じゃあ次……シュジンコウ君!」とか言ったのが発端だった。 「まあまあ。で、乗るか?吸血鬼退治」 「……まあ良いけど」 目を輝かせながら俺に迫ってくる太一郎。こうなるとコイツは相手が頼みを聞いてくれるまで、ずっと詰め寄って来る。 ここは潔く早めに降参するのが得策だったりするのだ。 「流石!話が分かるね光君は」 「結局強制イベントになるだけだからな。……近付くんじゃねぇ」 俺の肩を叩きながらさりげなくカツサンドを取ろうとする太一郎を牽制する。 「つれないなぁ。じゃあ今日の10時に例の屋敷前で!」 「はいはい……」 溜め息をつきながらも何だかんだ太一郎との冒険に心を躍らせている自分がいた。 だからいつまでもコイツとつるんでいるのかもしれない。 「……我ながら物好きだな」 そんなことを思いながら窓に広がる青空を見上げた。 この市内には囁かれている噂が一つある。 それは最近この辺りに真っ赤な目を持ち、夜中に市内を徘徊する"吸血鬼"がいるというものだ。 数多の目撃証言もあり、この近辺で闇夜に怪しく光る赤い目を見ているそうだ。 しかし"吸血鬼"と囁かれる由縁は赤い目だけではなく、近辺で最近怒っている殺人事件の影響もある。 被害者は皆首筋に小さな穴を二つ開けられ、いずれも血が抜かれていた。 以上二つのことから巷では「赤い目の吸血鬼が血を吸いに来た」と騒がれているらしい。 488 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:48:49 ID:W3t7prb6 「……寒っ」 時刻は午後10時5分。待ち合わせの時間を5分過ぎても太一郎はまだ来ていなかった。 「しかしでかい屋敷だな……」 見上げるとそこには学校ほどもありそうな巨大な西洋風の屋敷があった。 太一郎が言うには赤い目をした吸血鬼がこの屋敷に入っていく所を見た人がいるらしい。 「……でも退治って…どうするんだ?」 有り得ないが仮に吸血鬼がいたとして、果たしてどうやって倒せば良いのだろうか。 太一郎は「ニンニクでなんとかなる!」とか力説していたが。 「……遅いな」 「こんばんは」 「うわぁぁあ!?」 いきなり後ろから声をかけられ思わず叫んでしまった。 振り返るとそこには黒髪に日本人形のように端正な顔立ち、そして真っ赤な目をした少女が立っていた。 「……き、吸血鬼…」 「ふふっ」 俺の言葉に彼女は微笑んだ。そしてゆっくりと俺に近付いてくる。 俺はまるで蛇に睨まれた蛙のようにその場から一歩も動けない。 俺は思った。どうせ死ぬならやりかけだったRPGをやってから死にたかった、と。 「どうぞ、紅茶には自信があるんです」 「あ、どうも……」 広い屋敷の一室。恐らくは客間に俺の姿はあった。 目の前には金で縁取られた豪華な机の上に仄かに甘い香りの真っ赤な紅茶が置かれている。ソファーもとても坐り心地が良い。 そしてすぐ左には先ほどの"吸血鬼"っぽい少女が微笑みながら座っていた。 「それで朱神君はどうしてこの屋敷に?」 「え、えっと……」 結局血は吸われず何故かこの少女、紅野香織(ベニノカオリ)さんにお茶に誘われた。 断ろうしたのだが紅野さんは家族を事故で無くしこの屋敷に数人の使用人と住んでいるようで、寂しいから是非と言われてしまい断りきれなかったのだ。 たわいのない世間話やお互いの自己紹介をしながら紅茶を飲む。今まで体験したことがない雰囲気に思わず緊張していた。 「……気に障ったらごめんなさい。誰かと話すの久しぶりでどう接して良いか分からなくて……」 「あ、その……別にそんなんじゃないんで!」 悲しそうな紅野さんの顔を見ていると何故か慰めなければいけない気がしてしまう。 結局、その場の雰囲気に流され1時間ほど話し込んでしまっていた。 489 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:49:56 ID:W3t7prb6 「って感じでこないだも失敗しちゃってさ」 「ふふっ、外の世界は面白いことが一杯なのね」 紅野さんの笑顔を見てほっとする。生まれつき彼女は日中外に出られない病気で、夜に近辺を散歩していたらしい。 どうやら紅野は巷で噂の"赤い目の吸血鬼"のようだ。まあその噂自体がやはりガセ……というか"吸血鬼"ではなかった。 太一郎が聞いたらさぞかしガッカリするだろうが。 「面白いっていうかむしろ……んっ?」 携帯が振動している。電話だった。画面には『向井太一郎』と表示されている。 「電話?どうぞ出て。紅茶のおかわり、煎れてくるから」 「あ、うん。じゃあちょっと電話してきます」 席を立ち廊下に出る。部屋と違って薄暗く肌寒いのであまり長居はしたくなかった。 「……はい、もしもし」 『!光か!?やっと繋がった!今何処にいるんだ!?』 出ると間髪入れず太一郎が話し始めた。声は若干上擦っており普段おちゃらけている太一郎が珍しく焦っているのが分かった。 「何処ってあの屋敷だけど。お前こそ今何処に―」 『今すぐにその屋敷を出ろ!!』 「お、おい……一体どうしたんだよ?」 普段聞いたことのない太一郎の怒鳴り声。一体何があったのだろうか。 『話は後だ!とにかく早く逃げろ!じゃないと―』 「電話、終わりましたか」 「あ、もうちょっと……えっ?」 『っ!?まさか目の前にいるのか!?』 振り返るとそこには確かに紅野さんがいた。 でも彼女の目は先ほどの穏やかさとは打って変わって、まるで獲物を捕らえようとする狩人のようだ。 張り付いたような笑みを浮かべこちらに近付いてくる。そう、俺達が出会った時のように。 「紅野……さん?」 「香織、で良いよ?光君」 『光逃げ―』 一瞬だった。 右手から携帯が吹っ飛びそのまま壁にたたき付けられ、破片をばらまきながら床に落ちる。 目の前にいる紅野さんを見て始めて彼女が携帯を吹き飛ばしたのが分かった。 「随分友達想いなのね、彼。でも私たちには必要ないわ」 「……あ」 紅野さんが右手を前に出す。その手には凄まじい電気を放つ黒い塊があった。 「長かった……。でもこれでやっと幸せになれる」 動けない。恐怖からだろうか。それとも諦めからだろうか。ただ心臓だけが早鐘のように脈打っている。 「光君。私はね、"吸血鬼"なんだよ?」 「……っ!?」 身体に衝撃が走る。意識が遠くなっていく。最後に見たのは"吸血鬼"の冷たい笑みだった。 490 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:50:58 ID:W3t7prb6 今に始まった事件ではなかった。調べていく内に分かったこと。 それはこの地域で約20年周期で"吸血鬼"の噂が流れるということ、そして同じ時期に首筋に二つ穴を開けられた死体が見つかることだった。 つまりこの"吸血鬼"事件は20年周期でこの地域に起こっていたのだ。 「はぁはぁ……!」 闇夜の中をがむしゃらに走る。1時間程電話してやっと出た友人は絶体絶命だった。 「待ってろ光!」 更に今までに犠牲になった人は全て女性。 そして最後にその女性たちと近しい男性が行方不明になり、事件はピタリと止む。 今回の犠牲者は全て光の知り合い、もしくは友達だった。 つまり"吸血鬼"のターゲットは朱神光に違いない。 「後少し……!」 角を曲がるとそこには大きな門と屋敷があった。そして入口には赤い目をした少女が不適な笑みを浮かべてこちらを見ていた。 「こんばんは。光君のお友達?」 「はぁはぁ……!光は……何処だっ!?」 少年、向井太一郎は必死の形相で叫ぶ。それでも少女、紅野香織は顔色を変えず言葉を紡ぐ。 「光君は私の物になりました。母様も祖母様もやった、紅野家の儀式。これで私もようやく幸せになれます」 「ぎ、儀式……?」 香織は嬉しそうに話を続ける。太一郎は困惑しながらもその話を聞くしかない。 「一目惚れでした。ある日窓の外から見た彼が、光君が忘れられなくて。使用人に調べさせてからも私の気持ちは高ぶるばかり」 「……狂ってる」 香織は頬を染めて恍惚な笑みを浮かべていた。 太一郎は思う。彼女は根本的に何かが崩れているのではないのか、と。 「光君は日に当たれない私に文字通り光をくれたんです。絶対に離しません」 「……最近起きている猟奇殺人はアンタの仕業か」 「……ああ、彼に言い寄るあのクズ達なら、吸血鬼の仕業にして使用人達が掃除してくれました。母様や祖母様の時と同じだから、慣れたものですよ」 何が可笑しいのかクスクスと笑い出す香織。太一郎の中で疑惑は確信に変わっていた。 間違いなく今回、いやこの地域に20年周期で起こっている"吸血鬼"事件は紅野家の仕業だということを。 「光は何処だ」 「……何故貴方にこんな話をしたと思いますか」 「一体何を」 人の気配を感じる。気付いた時には黒服を着た男達に囲まれていた。 「確かに私は"吸血鬼"。だって日に当たれなくて、赤い目をしている。だから」 「くそっ……!?」 香織が手を挙げると同時に黒服が一斉に懐から何かを取り出す。太一郎にはそれがサイレンサー付きの銃だとすぐに分かった。 「最期に貴方の血を頂戴?」 そして何かの音が数回した後、街には静寂が戻っていた。 491 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:52:06 ID:W3t7prb6 光の姿を最後見てから随分時間が経った。 結局俺は殺されず、散々痛め付けられた後解放された。 どうやら光のおかげで殺されずにすんだようだった。 退院してすぐにあの屋敷に行ったがもぬけの殻、むしろ近所では元々誰もあの屋敷に住んでいないことになっていた。 「お疲れ様でした」 定時に仕事を終えて帰宅する。あれからどれくらいの時間が流れたのだろうか。 俺はずっとあの場所、朱神光がいなくなったあの時間に縛られている。 「……また来ちまったか」 気が付けば無意識に屋敷に足を運んでいた。 仕事場を屋敷の近くにした時点で、自分自身があの時に縛られていることは明らかだった。 「……光」 屋敷を眺めながらいなくなった友を想う。 何の生産性もない行為。だけれどもこれが日常になってしまっていた。 「こんにちは」 「っ!?」 そんな時、後ろから声をかけられた。 慌てて振り返るとそこには白いワンピースを着た女の子が立っていた。黒い長髪に端正な顔立ち。 そして何よりも特徴的なのは彼女の赤い目だった。 「お兄さん、いつもここに来てるよね?私、お兄さんのこと気になっちゃって」 「……ま、まさか」 何処かで見たことのある顔立ち。 そう、あの秋の日に行方不明になった、"吸血鬼"に捕まってしまった親友を思い出させるのだ。 「私の名前は紅野希(ベニノノゾミ)。よろしくね、向井太一郎さん」 「う、うわぁぁぁぁあ!!」 少女から全速力で逃げ出す。思わず叫び声を上げた。 でも仕方ない、仕方ないのだ。分かってしまったから。次は俺の番なのだ、と。 そう、吸血鬼からは決して逃げられない。きっと次の日には同僚の女性が死んでいるに違いない。 それでも逃げなくてはいけない。出来るだけ吸血鬼のいない所へ。 向井太一郎は闇夜を走り抜けた。かつて友を助けに行くために走った道を逆走する。 今度は自分が助かるために。 「ふふっ、やっぱり面白い人」 そんな太一郎の後ろ姿を紅野希は慈しむように見つめる。 きっと太一郎は希の物になる。何件かの殺人事件と一件の行方不明を残して。 そう、彼女の母親と父親が20年前そうしたように。 「待っててね、太一郎」 吸血鬼は微笑む。誰も知らない彼女達だけの秘密の儀式が始まるのだった。
487 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:47:51 ID:W3t7prb6 「吸血鬼……ってお前なぁ」 昼休み。 多くの学生が友人や恋人と一緒に昼飯を共にすることで、絆を深める時間帯。 そんな時間に市内の高校二年生である俺、朱神光(アカガミヒカル)は胡散臭い話を聞いていた。 「いやいや、これが本当なんだって!騙されたと思って!な、頼むよ主人公!」 俺の目の前で手を合わせ懇願してくるのはクラスメイトで悪友の向井太一郎(ムカイタイチロウ)だ。 コイツは様々な所に情報網があり、いつも面白い話を持って来ては一緒にやろうと持ち掛けてくる。 ……まあその情報の7割くらいがガセネタ、もしくは噂と全然違ったりするのだが。 「お前の話に乗って得した試しがないからな。つーか"主人公"は止めろ」 先程1階の購買で買ってきたカツサンドの封を開けながら太一郎と話す。 ちなみに"主人公"というのは最近クラスで流行っている俺のあだ名だ。 俺の本名、朱神光は確かに読もうと思えば"シュジンコウ"と読める。 全てはこの前教育実習で来た大学生が俺の名前を「じゃあ次……シュジンコウ君!」とか言ったのが発端だった。 「まあまあ。で、乗るか?吸血鬼退治」 「……まあ良いけど」 目を輝かせながら俺に迫ってくる太一郎。こうなるとコイツは相手が頼みを聞いてくれるまで、ずっと詰め寄って来る。 ここは潔く早めに降参するのが得策だったりするのだ。 「流石!話が分かるね光君は」 「結局強制イベントになるだけだからな。……近付くんじゃねぇ」 俺の肩を叩きながらさりげなくカツサンドを取ろうとする太一郎を牽制する。 「つれないなぁ。じゃあ今日の10時に例の屋敷前で!」 「はいはい……」 溜め息をつきながらも何だかんだ太一郎との冒険に心を躍らせている自分がいた。 だからいつまでもコイツとつるんでいるのかもしれない。 「……我ながら物好きだな」 そんなことを思いながら窓に広がる青空を見上げた。 この市内には囁かれている噂が一つある。 それは最近この辺りに真っ赤な目を持ち、夜中に市内を徘徊する"吸血鬼"がいるというものだ。 数多の目撃証言もあり、この近辺で闇夜に怪しく光る赤い目を見ているそうだ。 しかし"吸血鬼"と囁かれる由縁は赤い目だけではなく、近辺で最近怒っている殺人事件の影響もある。 被害者は皆首筋に小さな穴を二つ開けられ、いずれも血が抜かれていた。 以上二つのことから巷では「赤い目の吸血鬼が血を吸いに来た」と騒がれているらしい。 488 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:48:49 ID:W3t7prb6 「……寒っ」 時刻は午後10時5分。待ち合わせの時間を5分過ぎても太一郎はまだ来ていなかった。 「しかしでかい屋敷だな……」 見上げるとそこには学校ほどもありそうな巨大な西洋風の屋敷があった。 太一郎が言うには赤い目をした吸血鬼がこの屋敷に入っていく所を見た人がいるらしい。 「……でも退治って…どうするんだ?」 有り得ないが仮に吸血鬼がいたとして、果たしてどうやって倒せば良いのだろうか。 太一郎は「ニンニクでなんとかなる!」とか力説していたが。 「……遅いな」 「こんばんは」 「うわぁぁあ!?」 いきなり後ろから声をかけられ思わず叫んでしまった。 振り返るとそこには黒髪に日本人形のように端正な顔立ち、そして真っ赤な目をした少女が立っていた。 「……き、吸血鬼…」 「ふふっ」 俺の言葉に彼女は微笑んだ。そしてゆっくりと俺に近付いてくる。 俺はまるで蛇に睨まれた蛙のようにその場から一歩も動けない。 俺は思った。どうせ死ぬならやりかけだったRPGをやってから死にたかった、と。 「どうぞ、紅茶には自信があるんです」 「あ、どうも……」 広い屋敷の一室。恐らくは客間に俺の姿はあった。 目の前には金で縁取られた豪華な机の上に仄かに甘い香りの真っ赤な紅茶が置かれている。ソファーもとても坐り心地が良い。 そしてすぐ左には先ほどの"吸血鬼"っぽい少女が微笑みながら座っていた。 「それで朱神君はどうしてこの屋敷に?」 「え、えっと……」 結局血は吸われず何故かこの少女、紅野香織(ベニノカオリ)さんにお茶に誘われた。 断ろうしたのだが紅野さんは家族を事故で無くしこの屋敷に数人の使用人と住んでいるようで、寂しいから是非と言われてしまい断りきれなかったのだ。 たわいのない世間話やお互いの自己紹介をしながら紅茶を飲む。今まで体験したことがない雰囲気に思わず緊張していた。 「……気に障ったらごめんなさい。誰かと話すの久しぶりでどう接して良いか分からなくて……」 「あ、その……別にそんなんじゃないんで!」 悲しそうな紅野さんの顔を見ていると何故か慰めなければいけない気がしてしまう。 結局、その場の雰囲気に流され1時間ほど話し込んでしまっていた。 489 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:49:56 ID:W3t7prb6 「って感じでこないだも失敗しちゃってさ」 「ふふっ、外の世界は面白いことが一杯なのね」 紅野さんの笑顔を見てほっとする。生まれつき彼女は日中外に出られない病気で、夜に近辺を散歩していたらしい。 どうやら紅野は巷で噂の"赤い目の吸血鬼"のようだ。まあその噂自体がやはりガセ……というか"吸血鬼"ではなかった。 太一郎が聞いたらさぞかしガッカリするだろうが。 「面白いっていうかむしろ……んっ?」 携帯が振動している。電話だった。画面には『向井太一郎』と表示されている。 「電話?どうぞ出て。紅茶のおかわり、煎れてくるから」 「あ、うん。じゃあちょっと電話してきます」 席を立ち廊下に出る。部屋と違って薄暗く肌寒いのであまり長居はしたくなかった。 「……はい、もしもし」 『!光か!?やっと繋がった!今何処にいるんだ!?』 出ると間髪入れず太一郎が話し始めた。声は若干上擦っており普段おちゃらけている太一郎が珍しく焦っているのが分かった。 「何処ってあの屋敷だけど。お前こそ今何処に―」 『今すぐにその屋敷を出ろ!!』 「お、おい……一体どうしたんだよ?」 普段聞いたことのない太一郎の怒鳴り声。一体何があったのだろうか。 『話は後だ!とにかく早く逃げろ!じゃないと―』 「電話、終わりましたか」 「あ、もうちょっと……えっ?」 『っ!?まさか目の前にいるのか!?』 振り返るとそこには確かに紅野さんがいた。 でも彼女の目は先ほどの穏やかさとは打って変わって、まるで獲物を捕らえようとする狩人のようだ。 張り付いたような笑みを浮かべこちらに近付いてくる。そう、俺達が出会った時のように。 「紅野……さん?」 「香織、で良いよ?光君」 『光逃げ―』 一瞬だった。 右手から携帯が吹っ飛びそのまま壁にたたき付けられ、破片をばらまきながら床に落ちる。 目の前にいる紅野さんを見て始めて彼女が携帯を吹き飛ばしたのが分かった。 「随分友達想いなのね、彼。でも私たちには必要ないわ」 「……あ」 紅野さんが右手を前に出す。その手には凄まじい電気を放つ黒い塊があった。 「長かった……。でもこれでやっと幸せになれる」 動けない。恐怖からだろうか。それとも諦めからだろうか。ただ心臓だけが早鐘のように脈打っている。 「光君。私はね、"吸血鬼"なんだよ?」 「……っ!?」 身体に衝撃が走る。意識が遠くなっていく。最後に見たのは"吸血鬼"の冷たい笑みだった。 490 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:50:58 ID:W3t7prb6 今に始まった事件ではなかった。調べていく内に分かったこと。 それはこの地域で約20年周期で"吸血鬼"の噂が流れるということ、そして同じ時期に首筋に二つ穴を開けられた死体が見つかることだった。 つまりこの"吸血鬼"事件は20年周期でこの地域に起こっていたのだ。 「はぁはぁ……!」 闇夜の中をがむしゃらに走る。1時間程電話してやっと出た友人は絶体絶命だった。 「待ってろ光!」 更に今までに犠牲になった人は全て女性。 そして最後にその女性たちと近しい男性が行方不明になり、事件はピタリと止む。 今回の犠牲者は全て光の知り合い、もしくは友達だった。 つまり"吸血鬼"のターゲットは朱神光に違いない。 「後少し……!」 角を曲がるとそこには大きな門と屋敷があった。そして入口には赤い目をした少女が不適な笑みを浮かべてこちらを見ていた。 「こんばんは。光君のお友達?」 「はぁはぁ……!光は……何処だっ!?」 少年、向井太一郎は必死の形相で叫ぶ。それでも少女、紅野香織は顔色を変えず言葉を紡ぐ。 「光君は私の物になりました。母様も祖母様もやった、紅野家の儀式。これで私もようやく幸せになれます」 「ぎ、儀式……?」 香織は嬉しそうに話を続ける。太一郎は困惑しながらもその話を聞くしかない。 「一目惚れでした。ある日窓の外から見た彼が、光君が忘れられなくて。使用人に調べさせてからも私の気持ちは高ぶるばかり」 「……狂ってる」 香織は頬を染めて恍惚な笑みを浮かべていた。 太一郎は思う。彼女は根本的に何かが崩れているのではないのか、と。 「光君は日に当たれない私に文字通り光をくれたんです。絶対に離しません」 「……最近起きている猟奇殺人はアンタの仕業か」 「……ああ、彼に言い寄るあのクズ達なら、吸血鬼の仕業にして使用人達が掃除してくれました。母様や祖母様の時と同じだから、慣れたものですよ」 何が可笑しいのかクスクスと笑い出す香織。太一郎の中で疑惑は確信に変わっていた。 間違いなく今回、いやこの地域に20年周期で起こっている"吸血鬼"事件は紅野家の仕業だということを。 「光は何処だ」 「……何故貴方にこんな話をしたと思いますか」 「一体何を」 人の気配を感じる。気付いた時には黒服を着た男達に囲まれていた。 「確かに私は"吸血鬼"。だって日に当たれなくて、赤い目をしている。だから」 「くそっ……!?」 香織が手を挙げると同時に黒服が一斉に懐から何かを取り出す。太一郎にはそれがサイレンサー付きの銃だとすぐに分かった。 「最期に貴方の血を頂戴?」 そして何かの音が数回した後、街には静寂が戻っていた。 491 :Vampire☆Generation ◆Uw02HM2doE :2010/10/17(日) 22:52:06 ID:W3t7prb6 光の姿を最後見てから随分時間が経った。 結局俺は殺されず、散々痛め付けられた後解放された。 どうやら光のおかげで殺されずにすんだようだった。 退院してすぐにあの屋敷に行ったがもぬけの殻、むしろ近所では元々誰もあの屋敷に住んでいないことになっていた。 「お疲れ様でした」 定時に仕事を終えて帰宅する。あれからどれくらいの時間が流れたのだろうか。 俺はずっとあの場所、朱神光がいなくなったあの時間に縛られている。 「……また来ちまったか」 気が付けば無意識に屋敷に足を運んでいた。 仕事場を屋敷の近くにした時点で、自分自身があの時に縛られていることは明らかだった。 「……光」 屋敷を眺めながらいなくなった友を想う。 何の生産性もない行為。だけれどもこれが日常になってしまっていた。 「こんにちは」 「っ!?」 そんな時、後ろから声をかけられた。 慌てて振り返るとそこには白いワンピースを着た女の子が立っていた。黒い長髪に端正な顔立ち。 そして何よりも特徴的なのは彼女の赤い目だった。 「お兄さん、いつもここに来てるよね?私、お兄さんのこと気になっちゃって」 「……ま、まさか」 何処かで見たことのある顔立ち。 そう、あの秋の日に行方不明になった、"吸血鬼"に捕まってしまった親友を思い出させるのだ。 「私の名前は紅野希(ベニノノゾミ)。よろしくね、向井太一郎さん」 「う、うわぁぁぁぁあ!!」 少女から全速力で逃げ出す。思わず叫び声を上げた。 でも仕方ない、仕方ないのだ。分かってしまったから。次は俺の番なのだ、と。 そう、吸血鬼からは決して逃げられない。きっと次の日には同僚の女性が死んでいるに違いない。 それでも逃げなくてはいけない。出来るだけ吸血鬼のいない所へ。 向井太一郎は闇夜を走り抜けた。かつて友を助けに行くために走った道を逆走する。 今度は自分が助かるために。 「ふふっ、やっぱり面白い人」 そんな太一郎の後ろ姿を紅野希は慈しむように見つめる。 きっと太一郎は希の物になる。何件かの殺人事件と一件の行方不明を残して。 そう、彼女の母親と父親が20年前そうしたように。 「待っててね、太一郎」 吸血鬼は微笑む。誰も知らない彼女達だけの秘密の儀式が始まるのだった。

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