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601 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/10/21(木) 22:12:55 ID:0/Mz8zvh  「誰も……もう誰もいない」 暗闇の世界。 闇、静、独……それだけが世界を包む。 色が足りない、光が足りない、音が足りない、匂いが足りない、 風が足りない、仲間が足りない、温度が足りない…………翼が足りない。  「ねぇ、寂しいよ」 永遠にこのまま、一人ぼっちなのであろうか? 誰にも触れぬまま、永遠の時をここで過ごすことになるのだろうか……。 そんなの嫌だ! たとえ私が……〝人間に干渉する″という禁忌を犯したとしても……。  「寂しいよ……ここから出して、ジュン君」 ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君 ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君ジュン君  「私はあなたを助けたのに……あなたは私を助けてくれないの?」 そんなの不公平だよ。 私はあなたがこんなに好きで、好きで、好きでたまらないのに。 あなたの悲しむ顔が見たくないから願いをかなえたのに。  「だったら私は……この翼で」 白い〝片翼″を広げた私は、胸元に手を重ねて祈る。  「ジュン君の夢を……私にちょうだいッ」 ―――私はもう一度、禁忌を犯す。 広げた白い翼は、大きく羽ばたき、やがてその姿を消した。 すると闇の中に、一人の少年が降り立つ。  「ここは……どこだ?」 まだ寝ぼけ眼の少年に、私は語りかける。 ―――――私は昔、神様だったの 602 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/10/21(木) 22:14:04 ID:0/Mz8zvh  〈あたかも必然たる学園生活〉 授業って……何のためにあるんだろうな? 将来のためという名目で、若者たちを勉学の道へと引きづり込む巨大組織、文部科学省。そしてその末端機関である学校。 教育を受け続ける最中でもちろん俺だって思ったことはある。 勉強って……将来の役に立つのかな?……とかさ。 ま、結局そんなものは、大人になってみないことには分かるはずもないしな。 その時を楽しみに、心待ちにすればいいんだよ。 だから今は、肩の力をちょっとくらい抜いたって良いような気がするんだよ。 ま、結局俺が何を言いたいのかというとだな……とりあえずは。  「授業中って……眠いよな……………ぐぅ」 「おはよう、神坂君」  「………はよ………う………………」 ぐぅ……。 誰かが声をかけたらしいけど、俺はしっかり返事をできたのだろうか? と、意識的には思ってみるものの体は動かない。机に伏したままだ。 眠い……ひたすら眠い。  「もう、しっかり起きてください」 そよ風のように、心地よく、柔らかな声……。 だからであろう。俺の意識は眠りの世界へと加速する。  「もう……しっかり」 しかし、それは叶わない。両頬に暖かい何かが触れる。 ゆっくりと俺の顔を持ち上げていくので、それが手だということは、俺にも十分に分かった。 「はへ……ぇ」 誰だろう? 俺の安眠を邪魔するのは? 俺は眠いながらも、頑張って目を開けてみる……細目だけど。  「あ、ちょっと起きた?」 くすくす、と、可愛らしい笑い声。 体全身をすり抜けていくかのような優しいその声に…… 俺は……俺は……………って、えっ? ちょっ! この声ってまさか! 俺は、驚きすぐさま立ち上がる。  「―――きゃッ!」 俺の顔を触っていた少女は、いきなり立ち上がったのに対して驚き、危うく倒れそうになってしまった。  「えっ、あ、あの、その」 俺はしどろもどろになりながらも、瞳にその少女の姿を確認する。 艶やかな長い黒髪が、真っ白な肌が、少し湿った唇が……その少女を彼女と結び付ける。 間違いない。〈萩原空〉だ。  「び、びっくりしたぁ」 空は、胸元に手を運び、息を整えている。 それを呆然と立ち尽くし、見ている俺。  「もう、神坂君ったら」 少し頬をふくらませる空……あ、可愛い。 いやいやいやいや、そうじゃなくて……そうじゃなくてだな!  「どっどどどっどどっどどどうして?」 こんなにリズミカルな「どうして」を言ったのが、俺は生れて初めてだった。  「とりあえず落ち着こうよ、ほら、深呼吸っ」 すーーーーーーーはーーーーぁッ!  「ごほっ、ごほ、ゴホッ!」 深呼吸の間で息を詰まらせてしまう俺。 せきこみだす。  「だ、大丈夫?」 あわてた様子で、近寄ってきた彼女は俺の背中をさすってくれた。 603 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/10/21(木) 22:14:52 ID:0/Mz8zvh  「あ、ありがとう……萩原さん」 せきも落ち着いたところで呼吸を整え、感謝の言葉を空に向かって告げた。  「どういたしまして」 彼女は可愛らしく微笑んで見せた……あ、めっちゃ可愛い。  「………あ、そ、そういえばどうして俺なんかを?」  彼女の笑みに一瞬我を忘れそうだった俺が、疑問をぶつける。 そう、彼女は俺のような人間のクズに話しかけるような存在ではなかったのだ。 容姿端麗、文武両道……そんな四字熟語たちが似合う彼女だったから……。 一緒なクラスにいても、ほとんど話したこともなかったのに。  「だって、もう放課後なのに起きないんだもん、神坂君」  「………あっ!」 その時俺は気づく。 教室内なのに、俺と彼女しかいないこと。……もう放課後のようだ。 教室内が、夕日で赤く染まっていること。……どうやら一日中寝てしまったらしい。 そして彼女が、クラス委員長であることを。  「あ、ご、ごめん」 とっさに俺は、委員長の仕事内容を思い出す。 その中にはキッチリと「教室のカギの施錠」というものがあったのだ。 つまり彼女は、いつまでたっても寝ている俺がいたから、教室を施錠することができなかったと……そういうことらしい。 急いで俺は、荷物を片づけ始めた……のだが。 ―――ガチャ。  「……………?」 俺は音がしたから振り返る、幾度となく聞いた音がしたから振り返る。 ―――それは、扉の施錠音。  「へ?ちょ、ちょっと……萩原さん?どうして閉め―――」 扉を閉めたのは俺でないのだからもう一人しかいない。萩原空だ。 まだ二人とも、この教室にいるのに、萩原さんは教室のカギを閉めたのだ。 振り向きざまに俺は言葉を述べようとしたのだが、振り向いた先に見えたのは、木刀。  「ガアッ!」  「あっれー?」 ―――咆哮。 頭部に木刀が命中する、生温かい血が、どくどくと流れているのを俺は感じた。  「あの至近距離でも、回避行動に入れるんだ……相変わらずすごいね、純君は……ふふ」 確かに俺はとっさに、回避行動に入ったがよけきれなかった。 しかし問題はそこではない。何故彼女が俺に向かって攻撃をしてきているかだ。  「ど…………どうしてこんな―――」  「うーん、じゃあこれでどうだー」 俺の言葉には聞く耳持たない彼女は、自身が持っていた木刀を、投げた!  「くっ………」 何だか知らないが、当たってやるほど俺はバカじゃない。 理由も聞かずに攻撃されてたまるかよ……と、俺は飛んでくる木刀を、回し蹴りで飛ばす。  「すっごい、すっごい」  「しまっ――」 しかし同時に俺は気付いてしまう。 木刀を弾き飛ばしてすきができた俺の懐までつめてきた空。 その右手には、青白く閃光をあげる何か。 ――――――バチバチッ 604 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/10/21(木) 22:15:19 ID:0/Mz8zvh 閃光が飛び散る。 俺の体が、自然と地面へと吸い寄せられた。  「あなたがどれだけ強くてもね、あなたがどれだけ壊れていてもね、あなたがどれだけ狂っていたとしてもだよ……さすがに文明の利器には勝てないでしょっ?」 首をかしげて語尾を可愛く言った彼女の手には、マンガとかでよく見るあの〝スタンガン″と呼ばれるものがあった。  「あ………グ……」 体全身がしびれて動かない、言葉をしゃべれない、瞼が……閉じる。  「おーやーすーみぃー。純君」 俺の意識はそこで途絶えた。 それを、見ていた第三者がいると気付かぬまま。 〈あたかも必然たる学園生活〉 裏Ⅰ 今日は一日中、彼の姿を見ていられたので幸せだった。 朝のことは、吐き気がするほど妹を憎んだけれども……。 こうして幸せそうに眠っている彼の横顔を見つめているだけで幸せだった。 そして私は強く思う。  「欲しい」 願う、望む。 「欲しい……彼の笑顔が、彼の声が、彼の髪が、彼の爪が、彼の肉が、彼の皮膚が、彼の骨が、彼の血が、彼の優しさが…………もうすべて欲しい。いらないものなんて何もない」 すき、好き、スキ、好き……大好き。 彼のことを考えるだけで、彼の顔を見るだけで、彼の声を聞くだけで……。 私の体は過剰に反応する。敏感に、敏感に、触りたくなる。 でももう、一人でいじって過ごす毎日も終わりだ。 明日からは彼と一緒なんだから……。  「ねぇ、純君」 使用人が運転する車の中で、私と彼。 二人だけが車の後部座席に乗り……。  「はむぅ……んちゅ………ぁ、んぁ」 深い深い、キスを交わした。 萩原空は……欲するものを手に入れた。 〈あたかも必然たる学園生活〉 裏Ⅱ  「はは……ハハハハ……キャハアアッハハアアアアアアア」 かかった、かかった、かかった、かかった、引っかかりやがった! 雌が一匹引っかかりやがった! バーーカ、バーーーカ、バーカ!  「まったくバカな雌だわ……私が、カメラに気付いてないとでも思っていたのかしら?」 萩原空が仕掛けたと思われる大量のカメラの数々、そんなものに、私が気付いてないはずがないでしょ? そう、私はその事を知った上で、いつも通り兄さんとの朝の行為を行い、萩原空を急かせた。案の定、雌は私の罠に嵌(はま)ったみたいだ。  「だぁいじょうぶだよー、兄さぁん……ふふ」 私は甘い声でささやく。  「また私と一緒に暮らせるまでもうちょっと待ってね、私も寂しいけれど萩原空を殺すためには仕方のないことだわ……」 私はそう言うと、静まり返る校舎の壁に背をつける。 天井に……手を伸ばす。  「絶対に、兄さんは……ワタシダケノモノ」 狂いに狂った神坂美咲の姿が、そこにはあった。

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