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679 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/10/25(月) 21:44:56 ID:glMUx4YO 〈あたかも無様たる過去の狂人〉 赤――紅―――アカ――― 染まりきっていた……俺の顔が、髪が、体が、世界が、一色に。  「弱いぜ、弱い、弱すぎるぜ! てめえら!」 向かってくる数人の男たちを、俺は何一つ危なげなく倒していく。 ……殴る、蹴る、壊す―――そして、さらに世界の〝アカ″は増す。  「クハハハハハァ!」 ―――夜中、路地裏の広場に咆哮が轟く。 辺りに十数人の男たちが呻いている中で、あたかも壊れたスピーカーのごとく、俺は笑い続ける。血を浴び続ける。……いつも通りだ。 己の世界を、何人にも手の届かない気高き聖地へと近づけるために。  「あっれーこれで終わりかよ………………くっだんねえなあ」 そこら辺に横たわっている奴ら……県一の強さを誇ると言われていたやつらを相手にしても、俺は一撃も食らうことすらなかった。相手にもならなかった。  「…………………チッ」 所詮はこんなものか……と、俺は少し苛立ち、そこら辺の男を一発蹴っておく。  「ガ………ァアアア」 なんか叫んだようだったけど……俺の知ったことじゃない。くだらない。  「………行くかな」 もうここには用はない……。 そう思った俺は、この路地裏を立ち去ろうとした。  「あ、兄貴ーー!」 しかし、俺の足は止まる……後ろから声が聞こえたからだ。  「……葵か」 俺は振り返りながら、その人物の名前を呼ぶ。 華奢な体―――白い肌、ちょっと癖がかかったショートカットの茶髪、この可愛らしい声、そしてただいま絶賛成長中(だったらいいなぁ)のAカップの胸……間違いない。 〈夕凪葵〉(ゆうなぎ あおい)だ。  「あ、兄貴ぃ~、あたし、毎回言ってるじゃないですか。血塗れの格好のまま街を出歩くようなまねはやめてくださいって」  「…………そういや、そうだったな」  「まったく……仕方ないなぁ、兄貴は」 葵の初めの方は呆れていた語調も、いつしか優しげに変わっていた。  「ちょっと動かないでくださいね、兄貴……………」 手に持っていたかばんから、葵はタオルを取り出す。  「ん」 俺は黙ってそれに従う。 彼女はタオルで俺の顔を拭き始めた……目、鼻、口、頬。 少しくすぐったくて俺は目を閉じた。  「さぁ、顔は終わりましたよ……今度は腕ですね」 顔面からタオルが離れていく。やっと顔が拭き終わったと、俺は目を開けた。  「……………」 そこには、俺の手をとって、新しいタオルで血を拭きとる葵が見えた。 角度的にはナイスだな。可愛い。…………って、こんなこと考えるのは不謹慎か。 せっかく彼女が俺のためにしてくれている事なのに。  「……………ぅぅっ」  「?」 今ちょっと何か言ったか? 俺に何か言いたいことでもあるのか?  「……………」 でもまあ、それはいいとしてもだ。 なぜだろう、彼女の顔が少し赤らめて見えるような気がした。 もしかして……  「おい、大丈夫か、顔赤いぞ? 熱でもあるのか?」 俺はとっさに心配になって葵の額に、自分の額をくっつけた。  「熱はな―――」 額同士をくっつけたが、そこまで熱いとは言えなかったので熱ではない……。 そう言おうと思ったのだが……。  「きゃうんっ!」  「―――熱ッ!」 彼女が奇妙な声をあげた瞬間、一気に額の温度が上がった。 そのため俺は熱すぎて彼女から額を離してしまった。 いきなりどうしたんだ! と、俺は葵に聞くはずだったんだが、どうも葵の様子がおかしい。 顔を真っ赤にした葵は、両手で自分の頬を触りながら、ぶつぶつ何かを呟いている。 680 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/10/25(月) 21:45:39 ID:glMUx4YO  「はわわあああああああ、どど、どうしようどうしよう。 兄貴のおでこがあたしのおでこにくっついちゃったよ! あぁ、こんなことならおでこいっぱい洗っておけばよかったのに…… 兄貴嫌がってないかな? 大丈夫かな? 私とくっついて嫌がってないかな? ん、くっつく? くっつくって合体? わわ、あたしと兄貴が合体? 合体合体合体? 本当に? 本当にあたしと兄貴が合体しちゃったの? え、で、でも……あぁ、こんなことならもっと可愛くしてくれば良かった! 今のあたし絶対魅力欠けてるよね! あ、兄貴に可愛いなんて思われてないんだろうね…… え、でも兄貴違うんですよ、あたしだってちょっとお化粧とか服とか変えれば、可愛くなるんですよ。 信じてください、兄貴にお似合いの人になって見せますから…… あ、でも、兄貴の似合いになったら……その………… つつつつつっつつ、付き合ったりとかもできるんだよね、そしていつか兄貴と――――――」  「おい、葵!」  「はっ!」 俺は、謎の言葉をぶつくさ言っている葵の肩を激しく揺らす。 「どうしたんだ? マジで熱がひどいのか? だったら早く病院に」  「い、いやち、違うんです兄貴! あたしは別にやましいことを考えていたわけではなくてですね、 ただ兄貴ともう少し親密な関係になれたらなぁ、とか、兄貴の体ってたくましいよなぁ、 とか全然思ってないですから、 ハイ、ベべべべべ別に、気にしないでくださいましですよ!」  「?」 もはや日本語として成り立ってないし、何言ってんのか分かんないしで……。 とにかくこのまま彼女がおかしいのをほっとくにも行けず、俺は彼女の手を引いて家に帰った。 ……しっかり、血は拭きとってな。  「先、風呂入れよ」  「あ。は、はい」 アパートの一室に着いた俺達。 結局はどちらも血の匂いがしていたので俺は先に葵に風呂に入ってもらうことにした。 ……女の子だしな。レディーファーストというやつだ。  「……………はあ」 風呂に入りに行った葵を見送り、俺はソファーに一人寝転んだ。 俺は重い大きなため息をつく。 ため息をつくという行為、ただそれだけで、体中の体力がそぎ取られるかのように錯覚した。まずい、瞼が……。  「ね……寝たら……………」 いけない。 と思いつつも、俺の意識はブラックアウトする。 強がっては見たものの、やはりけっこう疲れていたらしい。 県最強となった、そんな、俺の十四歳の七月二日だった。 681 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/10/25(月) 21:46:32 ID:glMUx4YO 〈あたかも無様たる過去の狂人〉 裏Ⅰ 格好良い! それが兄貴に対するあたしの第一印象。  「おい、あんた……大丈夫か?」 さしのばされる血に染まった手、あたしは迷わず、その手を掴む。 彼の物語を……見るために。 非日常的日常、そんなありえない日常を、あたしは欲していた。 毎日のように繰り返される両親の喧騒の中で、あたしは自分の無力感を感じていた。 何かが変わってほしい、何か、何かで良い……。 非日常的な物語を、見てみたかった。 だからあたしは……  「さよなら」 ……家出した。 その日は、なんだか自分が特別な存在にでもなったかのようだった。 楽しい、嬉しい、そんな感情だけが、あたしの中を取り巻いた。 自分はどこまででも行けるのではないか? そんな気持ちにもなった。 でもそんな幻想も、たかが数時間で打ち砕かれる。  「ねぇ、君……今暇?」  「……………」 だってそうでしょ。 どれだけあたしが幸せな気分になろうとも、それを邪魔するゴミがこの世にはたくさん溢れているんだから……。大した物語も持っていないくせに。  「ねぇ、こっちきて俺たちと一緒に遊ぼうぜ!」 そういった男はあたしを無理やり路地裏に連れ込む。  「や、やめて!」 あたしは必死に叫ぶが、声が相手に届くわけもなく、ただ引きずられて行く。 引きずり込まれた路地裏には、品の悪そうな男が数人いた。  「おいおい、こいつ顔は良いけど、胸がねえ! 男なんじゃね?」  「確かにな!」 ははははっははははは! 下卑た笑いが路地裏に響く。 お前らなんかにあたしの体を見定めてほしくないっての! あたしは心の底からそう思うが、この状況で逃げられるはずもなく、気付けばあたしの体は声が出せないくらいに震えていた。  「まぁ、良いじゃねえか! さっそく―――」 一人の男があたしに近寄ってきて、その汚い右手を近づけた。  「ッ!」 もう駄目だ! と、あたしは涙目になりながら目を閉じた。 お願い、お願い! 誰か助けてよ! ただただあたしは誰にでもなく祈る。 この絶望的な状況を打破してくれる非日常的な物語を誰か―――!  「その辺にしとけよ、おっさんら」 誰か違う声がした。  「…………あぁ?」 男の声があたしから離れる。あたしは恐る恐る、目を開いた。  「テメエら全員、ぶっ殺すぞ」 ―――――――――――――! そこには、ここにいる男たちとは全く違った雰囲気の少年の姿。 そう、これだ!  「ふざけんな! このガキがッ!」 男たちが一斉に少年に襲い掛かる。  「……………ッ!」 その姿を見つめていたあたしは感じる。これなんだよあたしが求めていたのは! 非日常的日常、非日常的な物語、それをすべて兼ね合わせているのは……。 この少年だけ!  「おい、あんた……大丈夫か?」 いつの間にか戦闘を終えた少年は私のもとへ駆け寄ってきた。 その血塗れの格好のままで、その血塗れの手を私に差し出した。  「兄貴って呼ばせてください!」  「………は?」 これがあたしこと〈夕凪葵〉と兄貴の初めての会話だった。 682 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/10/25(月) 21:46:59 ID:glMUx4YO それから半年以上の間を、このアパートで共に過ごしてきた。 もちろん性的関係はいまだに気づいてはいないが……。 あたしが兄貴のことをそういう対象と見始めるには時間がかからなかった。  「兄貴~、お風呂上りま……って、あれ? 寝ちゃったのか」 あたしはお風呂上りでまだ体が火照る中、ソファーで眠る兄貴を見つけた。 傍まで寄って、彼の顔を見た。  「ふふ、幸せそうな寝顔……いつもはあんなに格好よく戦っているのに、こんな時だけは無邪気だね」 彼の顔は子供のように無邪気であった。 そんな彼にあたしは、惹かれて、魅かれて……。  「…………ぁ」 気付けばあたしは自分の胸を触りだしていた。 服の上からもみほぐす……自分でも意識している小さな胸ではあったが、それでも興奮するには十分であった。  「んぁ、ぁ………ぁ、兄貴ぃ……好きぃ」 そして今日もまた、いけないと分かっておいて彼にキスをする。 まだまだ、火照った夜は終わりそうにはなかった。 〈あたかも無様たる過去の狂人〉 裏Ⅱ どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。 私こと〈神坂美咲〉は考える。 といったものの、この半年程度で、考えがもう底をついてしまったようだ。  「どうしておにいちゃんは帰ってこないの?」 実父は殺した。お兄ちゃんに色目を使ったクラスメイトもさすがに殺すとあと後面倒だから脅した。……他にも色々なことをしたのにお兄ちゃんは一向に帰ってくる気配はない。  「どうして」 だってお兄ちゃんは……私を試したかったんだよね? どれだけ私がお兄ちゃんのことを好きかってことを試したかったんだよね? だから遠回し的に、家出なんかしたんだよね。 私だけのお兄ちゃんのはずなのに……………………………………………………………。  「そっか、まだ足りないのか……そうだよね、結局私の覚悟を試すためなのに、私はまだ一切傷を負ってないからね……そっかそっか!」 そうだったんだ! そうだったんだよね、お兄ちゃん! つまり、私のお兄ちゃんに対する愛を確かめたかったんだから、私がそれを見せないと仕方ないよね。だったら………。 ―――――――――キッーーーーーーーーガシャン! ……これでいいよね、お兄ちゃん。 そこには、トラックに自ら轢かれた幼き少女が一人いた。

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