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180 : 天使のような悪魔たち 第11話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/12(金) 22:42:40 ID:H0fw2t4IO 結意は土足で上がり込んだようで、靴がない。まず一階からざっと目を通してみたが、姿はなかった。 すると二階か。だが、物音がまったくしない。結意が木刀を以て暴れれば、少しは物音がしてもおかしくはないのに。 …嫌な予感がする。俺は駆け足で階段を登り、二階の、明日香の部屋の扉をやや乱暴に開いた。 「なっ……結意!?」 結意はいた。ただし、木刀は手に持ってはおらず、気を失っているのか、目を見開いたまま床に倒れていた。 「おかえり、兄貴。」 「遅かったわね、飛鳥。」明日香と姉ちゃんも、部屋にいた。 「斎木くんが絡んできたせいで私の力は使えなくなっちゃったけど、 まさか明日香も力を使えるようになった、とは思ってなかったみたいね。」 「姉ちゃんまで訳わかんないことを……それより、"コレ"はどういう状況だ!?」 「ああ…心配しなくてもいいわよ。知覚神経が混乱して、意識を失っているだけだから。 まあ目が覚めても、何も聞こえず、何も見えないただのお人形さんになってるけどね。」 それはつまり、結意から光と音を奪ったのか。 そんな事が、本当に可能なのか? 「ところで飛鳥…やたらその女の事を気にかけるわね。記憶は消したはずなのに…心は消せない、って事かしらね」 「…やっぱり、俺の記憶を…!?」 「大丈夫だよ兄貴。全部終わったら、きれいに忘れさせてあげる。だから、"少しじっとしてて"ね?」 …なんだ、一瞬視界が黒く歪んだ気がする。 そう思った時には俺の体に力が入らなくなり、床に崩れ落ちた。 立ち上がろうにも手足に力が入らない。それどころか、"手足がある"という感覚すら感じない。 「な、んだよこれ…俺に何をしたッ!!」 181 : 天使のような悪魔たち 第11話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/12(金) 22:43:57 ID:zV03YPhMO これが姉ちゃんの…いや、"明日香の"力なのか。 明日香はしかし俺の質問には答えなかった。 代わりにと言わんばかりに、どこからか刃物を取り出した。…始めから、手に持っていたのか? 「じゃあね。私のお兄ちゃんを汚した罪は、償ってもらうよ?」 明日香は動かない結意の体に跨がり、刃物を高く掲げ…… 「やめろ!明日香ぁぁぁぁぁ!」 一気に…振り下ろした。 「っ…うあぁぁぁぁぁぁ!」 激痛に襲われた結意は目を醒ましたようだった。だが様子がおかしい。 虚空を見つめ、もがく手は必死に空を掻く。すぐ隣に俺がいるというのに。 「飛鳥くん!嫌ぁ!嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 結意の叫び声は耳を裂かんばかりだ。 「ふふっ…発狂したかな? 目が醒めると同時に、お兄ちゃんに拒絶された瞬間の記憶が蘇るようにしたからね。」 明日香はまるで楽しそうに、嬉々としてそう言った。 「大丈夫だよ。ちょっと狙い外れたけど…ゆっくり、苦しみながら死んでね?」 結意は虚ろな瞳から涙をこぼし、次第に呂律が回らなくなり、息苦しそうにしながらも、俺の名前を呼んでいる。 「あ…すか…くん…ぃゃ…ぃかなぃでぇ……」 体を刺された痛みよりも、俺に拒絶された痛みの方が大きいというのか。 「神坂ッ!」佐橋の声がした。俺は唯一動く顔だけで、振り向いた。 どうやら隼を連れて、二階まで上がってきたようだ。 「あら、随分と無様な姿ね、斎木くん?」 「…お蔭さまでね、お姉サマ。」 「滑稽ね。貴方は私の力を上手く抑えこんだと思ったみたいだけど、その逆。 私が貴方の力を抑えていたんだからね? 今だって過負荷で、他人の肩を借りなきゃろくに動けないんでしょう?」 「…今回ばかりは、否定できませんね。でも、妹ちゃんも、もう限界みたいですよ?」 182 : 天使のような悪魔たち 第11話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/12(金) 22:45:44 ID:H0fw2t4IO 限界? 隼の放った一言に、俺は明日香をもう一度見やった。 …鼻血を流している。結意の返り血ではない。明日香自身の血液だと見てわかった。 それに、顔色がすこぶる悪い。 「あはははは!無様だねぇ!泥棒猫には相応しい姿よね!きゃはははは…ごほっ」 明日香は微かに咳込んだ。 その時、わずかに血液が吹きこぼれたのを、俺は見逃さなかった。 「………わかってるわ。だから今夜だけでも、明日香を幸せにしてあげたかった。 今の明日香が力を使う事は命取りになるとわかってても、私は… あんたたちの邪魔さえなければ、明日香はもっと長く生きられたのに…!」 姉ちゃんの声は今までにないくらい重く、哀しそうだった。 「さあお兄ちゃん、泥棒猫に見せ付けてあげようね。私達が愛し合う姿を。」 明日香は結意の頭に手をかざすと、手の平から白い光を放った。 「私達が愛し合う姿を見て、絶望しながら死んでね。」 「あ…飛鳥、くん? ここに、いたんだぁ…」 結意の瞳に光が戻ったようだ。 それを狙ったかのように明日香は俺の顔をぐい、と自身の方へ正対させた。 「お兄ちゃん…大好きだよ。」 明日香は結意に見せ付けるように、血の味のする口づけを俺にした。 「あ………はは、あはははははは…あははははははは…あはははははははははは!がふっ…あはははは、あはははははは!」 結意は笑った。壊れたスピーカーのように、無機質な笑い声を上げ、黒く淀んだ瞳からは一層大粒の涙を流し、 口からは時折間欠泉のように血を吹き出しながら。 「ありがとう………飛鳥。」 突然、明日香の体がびくん、と跳ねたと思うと、どさり、と力無く俺の上に倒れ込んだ。 「あ…明日香?」名前を呼ぶが、返事はない。 それ以降はまるで動かない。呼吸音も聞こえない。まるで糸の切れた人形のように。 静かだった。その瞬間、結意以外の全員が言葉を失い、沈黙が訪れた。 183 : 天使のような悪魔たち 第11話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/12(金) 22:48:03 ID:zV03YPhMO 「瀬野、救急車を呼べ。」 「あ、ああ!」 瀬野は佐橋に促され、携帯を取り出した。 佐橋は口元を押さえ、壁にもたれる。顔色がひどく悪いのが見てわかった。 「…まさか、こんな結末になるなんて、ね」 隼は既に佐橋の肩から降り、自分の足だけで立っていた。 「過負荷は妹ちゃんにもかかっていたんだよ。 もともと体の造りが脆弱なクローン体。寿命だって近づいていたのにこんなにも負荷がかかったら、 それこそ一日と保たないさ。」 隼は気障ったらしく両手を掲げ、何かを念じた。 瞬間、視界が白に染まる。俺の体に力が戻った感覚を覚えた。 同時に、記憶が洪水のように押し寄せる。 (まっててね飛鳥くん!今日は飛鳥くんの大好きな焼き魚にするから!) (だからぁ、飛鳥くん以外のとこにお嫁になんか行かないからね! ) (飛鳥くん………大好きだよ!) それは、今まで失っていた記憶のかけら。俺は確かに、結意と愛し合っていたんだ。 「俺の持つ力…それは歪められた因果律を修正する能力さ。 亜朱架さんの力とは、まるで正反対のね。 ただし…失われた命までは元に戻せない。それをわかってて、何故妹ちゃんを?」 「…もう限界だったからよ。」 姉ちゃんは淡々と、語り出した。 「明日香の体は既にぼろぼろだった。まさか四年の間に劣化がこんなにも進んでいたなんて。 だから私は急いだ。明日香の願いを叶える為にね。 だけどこれ以上は苦しむだけしかなかった。だから、明日香が一番幸せを感じた瞬間に……… 苦しまないように…脳を破壊したの…」 何だと。それじゃあ明日香は……… 明日香は、死んだのか…? 「明日香、返事しろよ。」 俺は明日香の肩を掴み、前後に揺さぶる。だけど力なく体は弛緩していて、首ががくがくと動くだけだった。 …明日香は、本当に死んでしまったんだ。 俺は明日香の体を揺さぶるのをやめ、静かに寝かせた。 「ごめんな、明日香。本当に…ごめん」 それは、最期まで明日香の気持ちに応えられなかったからか。 明日香を、死なせてしまったからだろうか。 それとも、明日香が死んだ今も、結意を死なせたくない、と心の片隅で思っているからだろうか。 たぶん…全部だろう。 184 : 天使のような悪魔たち 第11話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/12(金) 22:49:16 ID:H0fw2t4IO 「結意。」 俺はいよいよ衰弱してきて、声も出せなくなった結意の体を抱き起こした。 「今までごめん。俺、やっと思い出したよ。」 「…………………」 何かを言いたそうに結意は口を動かしたが、声は発せられてない。 だけど口の動きを見れば、なんとなく何を言ったのかわかった。 「ああ、俺もだよ。だから…」 だから、死ぬな。 185 : 天使のような悪魔たち 第11話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/12(金) 22:50:12 ID:CkzHf342O * * * * * 瀬野の通報により、救急車はわりとすぐやってきた。 だが、救急隊員が来た時点で結意は意識を失っていた。 顔色もどんどん青ざめ、一目見ただけで危険な状態だとわかる。 しかしそんな状態でも、結意は決して俺の手を掴んで離さなかった。 やむなく俺は、救急隊員と一緒に結意を救急車へと運び込み、そのまま最寄りの病院まで同行した。 付き添いとして、佐橋が同行してきた。多分、この未来の結末を見届けたいが為だろう。 まあ、佐橋がいてくれたお陰で、俺は無傷。結意もまだ、かろうじて命を繋いでいるのだから、知る権利はある。 …明日香だけは、救えなかったが。それは互いにあえて口には出さなかった。 残った三人はどうなったかというと… 姉ちゃんは、明日香の遺体を抱えて一足先にどこかへ去っていった。 「終わったら会いに来る」と言い残して。 恐らくは明日香を弔いに行ったのだろう。 姉ちゃんはさらにこう言い残した。 「最期の瞬間、確かに明日香は幸せだったわ。"私自身"の事は、私が一番わかる。 だから、どうか気に病まないで。」 隼の話によると、明日香は姉ちゃんに万一の事があった時の為に造られたクローンだったらしい。 だからこそ二人は6つも離れてるのにあんなにも似ていたのだろう。 当然、現代の技術では不完全で、細胞の劣化が引き起こされ…あと三か月保つかどうかだったと聞かされた。 その隼も、瀬野と一緒に後から病院に来るだろう。 搬送されてすぐ行われた結意の手術は、二時間半にも及んだが、無事成功した。 ただ意識が戻るにはまだ半日以上かかるという。 俺は結意が目を覚ますのを、隣で待つことにした。 「飛鳥ちゃん…これ、食うだろ?」 隼は鞄から弁当箱を出してみせた。それは俺が拒否した、結意の作ったものだった。 「ああ、食うよ。…結意は料理が上手なんだぜ、隼。」 「へぇ…意外だね。」と言い残し、隼は病室を出ていった。 恐らくは気を遣ってくれたのだろう。 「さて、腹が減ったし…食うか。」 包みを解いて膝の上に弁当を置き、蓋を開けた。中身はアスパラベーコンに、綺麗に巻かれた卵焼き等、どれもうまそうな出来映えだ。 …米の上に海苔でハートマークが貼られているのは、もはや気にしない。 箸で一口、また一口と食べ進んでいった。 「うまいよ、結意。こんなことなら、もっと早く食っとけばよかったなぁ………」 全部食べ終わる頃には、視界は涙でぼやけていた。 隼のやつ…こうなる事をわかってたんだろうな。 「元気になったら………また作ってくれよな。 お前の料理だったら、朝飯とかぶっても大丈夫だから。」 俺は未だ眠り続ける結意に、そう言った。

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