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188 名前: 天使のような悪魔たち 第12話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/18(木) 01:14:02 ID:3K65OnHYO 一週間後。 あの事件は、俺を今までとは違う世界に導いてくれやがったような気がする。 「飛鳥ちゃん、この後は…病院か?」 「ああ。…お前も来るか?」 「いや、俺は遠慮しとくよ。じゃあまた明日。」 学校に行けば、隼とは相変わらず親友をやっている。ただ、互いに事件の事を話題にすることは一度もない。 …あれだけの事があって、よくもまだ親友でいられたものだ。 もっとも、そう思っているのは良くも悪くも俺だけなのかもしれないが。 家に帰れば、俺は一人だ。明日香も姉ちゃんもいない。 飯くらいは作る事はできるし、一人を不便に感じることもなかった。 ただやっぱり、一人がどうしようもなく寂しくなる時はある。 失ったものもあれば、得たものもある。 あれ以来、佐橋とは何度となく会い、隼と会話するようなノリで話せる仲になった。 その佐橋も、以前よりは笑顔を見せるようになった、と佐橋の彼女が言っていた。 瀬野とも、何だかんだよく会う。 なんでも、俺は「結意ちゃんファンクラブ・名誉顧問」という役職に就任しているらしい。 そんなファンクラブ聞いたことないし、第一勝手に就任させんな馬鹿、と言ってやったが。 瀬野とも打ち解けた…って事でいいのかねぇ。 学校が終われば病院に見舞いに行く、というパターンがもはや定着しつつあった。 結意は手術後から一日で目を醒まし、今では病院食だけでは足りない、と言うくらい食欲旺盛だ。 医師の話によれば、あと二、三日様子を見て、術後の状態が良好であれば退院できるらしい。 隼は一度も見舞いには来なかった。隼曰く、 「もう俺は結意ちゃんのボディガードはしなくていいから」だそうだ。 恐らく、姉ちゃんが結意を殺す理由はもうなくなったからだろう。 姉ちゃんの力に唯一対抗し得る隼の力。その使い道は、それ以外ないらしいんだ。 「あーすーかーくーんー、もう病院食飽きたよー。」 「我慢しろ。他の患者さんだって、同じ事思ってるさ。」 「むぅー、早く退院したいなぁ。そしたら飛鳥くんとあんな事やこんな事…きゃ♪」 結意は両手で頬を押さえ、顔を赤らめながらそう言った。 ………うん、すっかり元通りだとだけ言っておこう。 と、不意にコンコン、と病室の扉をノックする音がした。 扉が開き、病室に入ってきたのは…一週間前から行方が知れなかった姉ちゃんだった。 「久しぶりね、飛鳥。」 「おかえり、姉ちゃん。今日はいったい?」俺は、以前と変わらない所作で姉ちゃんの帰りを迎えた。 189 名前: 天使のような悪魔たち 第12話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/18(木) 01:15:12 ID:NvqGxPHEO 「結意さんと少しお話がしたくてね。…ああ、大丈夫よ飛鳥。あんたもここにいて。 でないと結意さん、不安がるでしょう。」 姉ちゃんは結意のいるベッドまで接近すると、カーテンを閉めて外から見えないようにし、 近くにあったもう一つの椅子に腰掛けた。 「まずは、結意さん。妹の為とはいえ、勝手な理由で貴方を傷付けてしまった事をお詫びするわ。…ごめんなさい。 」 「………ううん。私こそ、妹ちゃんを殺す気でいたから…あなたが謝る必要はないわ。」 「…そう、ありがとう。 その上で本題に入るわね。もう知ってると思うけど、私は記憶を消す能力を持ってるの。 もし貴女が望むなら、今回の事件の事、記憶のない時の飛鳥に拒絶された事を忘れさせてあげる。 勿論、貴女が飛鳥を好きだという感情は消えないわ。」 「……………。」 何故姉ちゃんは今更そんな事を提案してきたのか。その理由は解せなかったが、 結意はいつになく真剣な表情で、思考した。 仮に俺なら、好きな人にああも拒絶された事など、忘れてしまいたいと思うだろう。 そして何より、自分が人を殺そうとまで思い詰めた事、刃物で腹を刺された痛み、 目の前で想い人が他の女と唇を重ねた場面、みんな忘れてしまいたい。 あの時の結意の笑い声は、心の痛みそのもの。あの声は一生忘れられないだろう。 だが結意は。 「記憶は消さない。」 「---なぜ。」 「飛鳥くんに関する事は、何一つとして忘れたくないよ。 だって私、飛鳥くんのことが大好きだから。 私は、嫌な記憶ごと全部まとめて愛せる自信があるわ。」 一片の迷いもない。凛とした笑顔で結意はそう答えた。 「---そう。悔しいけど、いい顔してるわね。 飛鳥。あんた、こんないい娘二度と見つからないわよ。…大事にしてあげなさい。」 「わかってるよ。…今度は、何がなんでも守ってみせる。」 「いい返事ね。…それじゃあ、私はこれで失礼するわ。飛鳥、悪いけどまたしばらくは留守にすることになるわ。」 「今度はなんなんだ?」 「………強いて言えば、後始末かしらね。ああ、心配は無用よ。 私は死ねない体だからね。 …それじゃあ、末永くお幸せに。」 「…どうでもいいけど、ちゃんと帰って来いよ?父さんも母さんも、ろくに帰って来ないんだし。」 ええ、と言い残し姉ちゃんは病室を出ていった。 190 名前: 天使のような悪魔たち 第12話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/18(木) 01:16:11 ID:NvqGxPHEO …姉ちゃんの残した言葉が気になる。 死ねない体だから心配はいらない。それはつまり、常人なら耐えられず死んでしまうかもしれない事をする、という事なのだろうか。 事件直後に隼から聞かされてはいた。 姉ちゃんと隼は二人とも成長ないし老化が停止していて、 かつ細胞が形状記憶よろしく固定されていて、体へのダメージもすぐに修復される体質だと。 …それでも、痛みは感じるんだという。 「…飛鳥くん。」不意に、結意は俺の体に抱き着いてきた。 「どうした、結意…あ」体が震えている。 「怖かったのか、結意。」 「あ…ごめんなさい、飛鳥くん…。でも私…震えが、止まらなくて… 飛鳥くんのお姉さんなのに…」 「…いいよ。よく頑張ったな。」俺は結意をそっと抱き返し、頭を撫でてやった。 「う…うぁぁぁぁん…」 結意はついに俺の腕の仲で泣き崩れた。 失ったものもあれば得たものもある。 それは果たして、みんなにも言える事なんだろうか…? 191 名前: 天使のような悪魔たち 第12話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/18(木) 01:16:56 ID:NvqGxPHEO * * * * * 「で? 神坂くんからは何か提案はないんですか?」 「提案つったって…てか、何で俺に聞くんだよ?」 「文化祭の出し物決めるっていうのに、上の空だったからです! さぞかし名案があるんでしょうね!?」 次の日の授業、三限目はいわゆる学活というやつだ。 言い方を変えれば、ロングホームルーム。だが長ったらしいので敢えて学活と言わせてもらおう。 そういやそろそろ文化祭の時期だった事を、俺はすっかり忘れていた。だって別に興味ないし。 去年の文化祭は隼と一緒に屋上でサボっていた。 文化祭といっても、うちの高校は白陽祭などとご立派な名前だけは名打っているが、 実際のところは、謝肉祭よろしく、大・食い物市場と化すのだ。 そして極めつけは、軽音部のへったくそなオナn…もといライブで締めくくられる、 なんとも無意義な文化祭。それこそが白陽祭の正体なのだ。 「そうだなー…」俺はやたらとまくし立てる穂坂をどうにかやり過ごすべく、 適当な出店を考えてみた。 「メイド喫茶とか?」 「……………は?」 瞬間、教室内の空気が凍り付いた。 「はーい、俺もそれ賛成っ!むしろマンセー!」 などと、俺のジョークに馬鹿丸出しな同意をしたのは隼だった。 それに続くかのように、他の男子たちもノってきた。 「たまにはいい事言うな神坂!」 「俺も!俺もそれ賛成!」 「ウチもー!なんか面白そうじゃん!」 なんと、女子までもが! 「あ…あんたたちねェ………!」 穂坂は怒り心頭に、握り拳を作りながら眉を歪めた。…今にもデコに血管が浮きそうだ。 と、紙屑が後方から飛んできて、俺の机に着弾した。 どうやらメモをくしゃくしゃに丸めたもののようだ。投げたのは…隼か。 俺はメモを広げて、内容を確認してみた。中には、こう書かれている。 「えー………いいんちょのメイド服姿見てみたいなー…? …はっ!」 気づいた時には既に声に出してしまっていた。まずい、穂坂に殺されるかもしれん! あんの野郎…ただじゃおかねえ。 だが穂坂の反応は俺の予想とは違っていた。 「あ………ぅ………わ、わかったわよ!メイド服でもなんでも着てやるわよ! ハイ、メイド喫茶で決定!面倒だから異議は認めません!以上!」 だいぶ投げやりになりながらも、ついに俺の意見を認めてしまった穂坂。 こうして、うちのクラスの出し物はメイド喫茶に決定したのだった。 192 名前: 天使のような悪魔たち 第12話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/18(木) 01:18:58 ID:NvqGxPHEO * * * * * 本日最後の(俺にとってはだが)チャイムの音と同時に、俺は鞄を持って脱兎の如く 教室から脱出した。 なぜ素早く去る必要があるかって? なぜなら、さっきから穂坂がもの凄い目つきで俺を見てくるからさ。 というか、今まですっかり忘れていたが今日こそは、結意に破壊された携帯の代わりを用立てようと決めていたんだ。 故に俺の足が向かう先は、携帯ショップ。すでに授業中に新しいメルアドは考えた。 さっき保坂に「上の空」といびられたのは、アドレスを考えていたからなのだ。 昇降口で外履きに履き変え、いざ出発。 なに、校内からの脱出に成功すればあとは何も怖くはない。 「あらー、文化祭実行委員さん、もうお帰りですかぁ?」 ---その声に、背筋が凍り付いた。 俺はがちがちな笑みを浮かべながら、首だけで振り返る。 首から、ギギギ、と音がしそうだ。 振り返るとそこには、片手を腰に当て、つま先をトントンとさせ、 苛立ちオーラを醸し出しながらも引きつった笑顔の穂坂がいた。 「あ、あれ。俺文化祭実行委員だったっけ?」 「…忘れたとは言わせませんよ!あなた、文化祭実行委員は文化祭の時期しか仕事がないから楽だ、 などと抜かしてたわよね!?」 「あー、記憶にございませんなぁ…」と、俺はどこぞの議員のような台詞を真似た。 「…ちょっと来なさい。粛清してあげる。」 「しゅ、粛清!?」 「そうよ。私、穂坂吉良が粛清しようというのよ神坂飛鳥!」 「ひいっ---!?」 なぜだ。なぜ今日の穂坂は結意ばりに怖いんだ。 まるで某ネオジオンの総裁のような威圧感だ。こ、これがニュータイプ…! 「というわけで神坂飛鳥ッ!あなたには今から買い物に付き合ってもらいます。」 「か、買い物…?なにを買うんだ?」 「メ イ ド 服 に決まってるでしょうがッ!あなたのあのアホみたいな提案が、審査通っちゃったのよ!? 責任とりなさい!責任とって、今からクラスの女子全員分のメイド服を調達しに行くのよ!」 「はあ!?なんで俺gわかったわかったからアイアンクローだけはやめtいてててて!」 ちくしょう…こんな事なら文化祭実行委員など選ぶんじゃなかった。 隼と同じ図書委員にしとけばよかったぜ…。 「へっくしょい! うぅ、誰か噂してんのかねぇ…?」 193 名前: 天使のような悪魔たち 第12話 ◆ UDPETPayJA 2010/11/18(木) 01:19:52 ID:c5UVfGPsO * * * * * と言いつつも、穂坂は先に携帯ショップに行くことを許可してくれた。 ただし…条件付きで。 「あら、なかなかかっこいい携帯ですね。」 「そうか? まあ、最新機種だからな。」 新しい携帯は、以前と同じメーカーの機種にした。その方が使い勝手がいいからな。 そして、穂坂の突き付けた条件ってのは…実はなんてことはない。 「別にアドレスくらい、普通に教えてやるのに。」 「いいから!終わったら次はドンキ行きますよ!」 随分とせっかちだな。とはあえて口には出さなかった。 下手に刺激してまた鉄の爪を喰らいたくはないからな。 しかし、メイド服といえばドンキ、なんて実に単純な発想だ。ドンキの品なんて、粗悪で長持ちしないに決まってる。 まあ文化祭でしか着ないのなら別に構わないのだろうが。 携帯ショップを出て、ドンキを目指してしばらく歩いていると、さらに面倒な奴に遭遇した。 「あ、神坂。こんなとこで会うとは奇遇だな。」 「できれば会いたくなかったぜ、瀬野。」 瀬野 遥。ついこの前とは異なり、特攻服ではなく、意外とシックな装いをしていた。 「特攻服なんかよりそっちのがよっぽど似合うぜ、瀬野。」 「あれは俺にとって願掛けみたいなもんなんだよ。てめーこそ、俺の妹連れて、ナニしようってんだ!?」 「は?妹?どこにいんの?」 「てめーの隣にいんだろ。…知らなかったのか?俺の妹だ、って。」 「は、はぁぁぁぁぁぁ!?」 ととと隣って…穂坂の事か? だって、苗字違うし全然似てないし! こんな野獣のような男の妹が、王道いいんちょ娘だなんて、まったく理解できん! 「うちの親、四年前に離婚してるんだよ。吉良は母方で、俺は父方に引き取られたんだ。」 「私は、あなたみたいな男を兄とは認めてないですけどね。」 「んなっ!なぜだ!?」 「当たり前でしょうがッ!何が"結意ちゃんファンクラブ"よ!あなたわかってんの!? 言い方変えれば、あんたらストーカーなのよ!?馬鹿!恥さらし!三回死ね!」 俺のことなどお構いなしに口喧嘩を始めた二人。 これは…今のうちに逃げられるのでは? 俺は忍び足で一歩、また一歩と距離を離してみたが、 「あら、どこに行くんですか?」 ガシッ、と後頭部を掴まれてしまった。 地味に、女子特有のやや尖った爪を立ててきて万力のようn痛い痛い痛いって! 誰か…俺をこの地獄から解放してくれ…。

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