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687 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:03:37 ID:0WVB27gc 前編 見晴らしの良い丘の上にそびえ立つ、とある学園。 俺はこの学園に通う3年、闇雄だ。いろいろ悩ましい時期を過ごしている。 進路に勉強、友や青春との別れが俺の心をさいなむ。 だが、悩ましい時期を無理にでも過ごさなくてはいけない、一番の原因がある。 それが今回のお話だ。             ・             ・             ・             ・ 「あの~さっきから何?」俺は堪らず言った。 「なっ、てめぇ忘れたとは言わせねぇ。」 この口の悪い女は病子、ロングヘアのチビだ。うん、俺の説明は以上。 「お前、私にノート貸してくれるっていったじゃないか!よこせ!」病子は強くせがむ。 「悪い、もう貸しちまったよ、すまんね。」と手をひらひらさせながら軽めに言い放った。 病子はとても残念そうに早口で捲し立てた。 「お前、私が国語不得意なの知ってるだろ?昨日、お前に「数学秘伝ノート」貸してやったろ。  そんときに「交換な!」って約束したろ・・・」 そうそう、こいつは文系がからっきしダメなやつだ、毎回「国語奥義手帳」貸してやってるんだ。 英語も俺よりできないんだよなぁ・・・、難儀なやつだな。 病子はあきれた表情で「おい、聞いてんのか、おまえって奴ぁ・・・忘れっぽいな。で、誰に貸したんだよ。」 俺は素早く「来張子(ライバルこ)だよ。」と返した。 「え・・・あ、まじ、そっか・・。」病子の表情が曇る。 病子が急に残念そうな顔をしたので、びっくりして「ごめん、俺忘れっぽいから。次な!」 「へぇ~・・・お前があいつとそんなことする仲なんだ、そうなんだ・・・。」 俺は明るい表情を装って「あいつ国語苦手でもない癖になんでだろうね~、  俺が国語に関してはクラストップだから借りたんかな。なんつって。」 「そうか・・?違ぇだろ、闇雄・・。あ、HR始まるからよ・・。」 俺はこの気まずい雰囲気から解放された安堵感から「おっ、そうか、そういやぁいってなかったな」と言い放った。 病み子が振り向きざまに「なに?」と訊ねると、 俺は「おはよう・・・。眠い朝だな。」と囁いた。 病子が一瞬だけ微笑みながら「お前って、ほんと律儀なやつだな、馬鹿みたい・・。」と、ニッコリ微笑んだ。 688 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:04:32 ID:0WVB27gc ~放課後~ ライ子(来張子の愛称)が机に突っ伏す俺に、急に声を掛けてきた。 「あんたのノートのまとめ方すごくない!?感動しちゃった。コツ教えてよ。」 ライ子が急に絶賛から始めたので、言葉に詰まった。 矢次に「あたし、結構ムズイ大学うけるんだよね、前に言ったけ?  それで、どういう風にノートをまとめたら頭に入るかな~って考えていたら、  あんたの神ノート出会ったわけ。暇なときでいいから、ね?」 ライ子は学年一の可愛い子ちゃんなので、俺は最高に嬉しかった。なんというサプライズ。 ショートカットの長身美人タイプに弱い俺は、日本男子らしく嬉しさを表情に出さずに、 「まぁ、今日からでもいいよ、放課後やる?」 ライ子は待ってましたと言わんばかりに「ほんと!?優しいね~。4時半位から始めよっか。」 「任せとけや。」と、根拠なき自信で言い放った。 ライ子は、俺に微笑みを投げかけたのち、教室を出ていった。 全く、なんて可愛いんだ、罪だぜ・・・、と心で呟いた。 「裏切りもん、この女好き。」と、内想を背後から踏み倒す声が聴こえた。 病子だ。俺の顔を覗きながら、続けて「お前が声掛けられるとか、あり得ねぇ、  何かの間違い。騙されてんだよ。」、と漏らした。 俺はムカっとするどころか、妙に納得した表情で 「まぁ、一瞬俺の脳にもそれがよぎったけど、考えないことにした、  この幸せな瞬間を噛み締めるわ。」としみじみ語った。 俺は、得意げな調子で続けて「お前もイケメン引っかければ?」と言った。 病子は即答で「ふざけんな、興味ない、私は一途な性格だから。」と、含みのある言い方をした。 すると病子は廊下側を覗いて、帰り支度を性急に始めた。どうやら、帰るらしい。 病子は俺のそばの通り際に、「闇雄はホントバカだよ!」と小さく吐き捨てつつ、教室を出て行った。 いくらなんでも、怒りすぎだろ。女ったらしが嫌いなのかな・・・。 直後に、ライ子が華麗に登場。教室には、まばらにしか生徒が残っていないが、 これが人気者のオーラか、一応みんな軽く一瞥してしまう。もちろん、凝視する奴もいるが。 その後の幸せタイムの描写は省かせていただきます。あしからず。 ただ一つ、気になることライ子に言われた。「ヤミって、あんたのこと好きじゃないの?だったら、ごめん」と。 俺は、そんなことあり得ないと、言い切った。 急にそんなことを切り出されたので、少なからず動揺してしまった。 「小動物的で顔もカワイイくない!?反対に、性格は威勢がいいよね。このギャップいいと思うけどなぁ~。」 俺は照れ臭そうに「俺なんか願い下げだろ、それに今更そんな気持ちになれないよ」と返した。 そうそう、そうなんだ、ただの友達なんだ・・。10年近く、勘違いされたり、はやし立てられたりしたが、 俺たちは気の許せる幼馴染で、親友、それ以下でもそれ以上でもないんだ・・・。きっと、そうだろ・・・。 689 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:06:55 ID:0WVB27gc ~病子、自室にて~ 「あいつ、なんなんだよ、嬉しそうにするんじゃねぇよ。俺の前で、ひでぇよ・・・。」 病子は帰宅後、すぐさま自室で目を泣き腫らしながら、呟き続けた。 「私が奥手なの知ってるくせに、ホントは好きなの気付いているくせに卑怯だろ・・。  でも、あいつの事が好きなんだよな、責められない、好きな人を責められない。  てか、なんで私はあいつのせいにしてるんだ。卑怯な女。だから、振り向いてもらえないんだ。  あいつに意識させなきゃいけないのに、自分勝手に口悪く虚勢を張ってばかり。」 ベットに無造作に寝転がり、白いクマさんのぬいぐるみを抱きしめながら、その黒い瞳を見つめて言った。 「変わらなくちゃ、今がチャンスなんだ・・・。」 怖い、拒絶されたら今のラフな関係は築けなくなる、そういった悲観的な事も考えたが、 もういたずらに時を過ごすのはやめよう、という冷めた情熱が勝った。 690 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:07:58 ID:0WVB27gc ~翌日~ 病子は普段は早めに登校する、意外に真面目な性格なのだが、今日に限っては、 社長出勤になりそうな予感がする。HRまであと3分。 そうな事を、机に突っ伏しながら考えていたら、ライ子に話しかけられた。 まさか、こんなに仲が良くなるなんて夢にも思ってなかった、 むしろ、昨日の教授で俺の悪い部分が見抜かれて、逆に、 嫌われるのではと思ったが、非常に好感を持たれたようだ。 「闇雄!昨日は勉強になった上に、面白い話いっぱいできてグッジョブだったよ。」 ライ子の声は、あまりにも響く高音なので、周りの男子がちらちら見始めた。恥ずかしくなって、頷くだけだった。 「あと一週間頼むよ大将!時給も出すよ、ね!?」と肩を3回ほど叩き、 軽やかな歩みで窓際の席に戻って行った。え、一、一週間?ながっ! 会話が終わったのち、前に座っていた野郎史(ヤロフミ)が「浮気か、浮気なのか?!」と悔しそうな笑みで捲し立てた。 俺はその意地悪な問いに対して「俺は彼女いねぇ~し、それにライ子が困るだろ、そんなこと言っちゃ。」返した。 すると野郎史は「おまえ、ホント勿体ないよな、病子ってカワイイじゃん、  それに意外と優しい奴だと思うぜ。」と、なぜか誇らしげに語った。 「そうかも知れんけど、俺が病子と、どうこうって事は絶対にないから。ないない。」ときっぱりと答えた。 そう言い切った瞬間、野郎史はバツが悪そうな顔をした。 俺は、まさか?しまった!と感づいて、あたりを見回した!・・・・病子だ。 「・・・闇雄おはよ。邪魔して悪りぃな。・・・じゃ。」と、すぐさま振り向き席へと歩んでいった。 俺は後ろを振り向いたまま、固まってしまった。ああ、やってしまった。 変な冷や汗をかきつつ、深く後悔した。あいつは、ああ見えてナイーブな奴だから、多少の事で傷つく。 動揺したために、病子がどんな顔をしていたか覚えておらず、 廊下側の一番後ろの俺には、角度的に顔を窺い知ることができない。 しかも、話題を振った本人は澄ました顔をして空を眺めてやがる。なんてこった、謝らなきゃ。 HRが終わってすぐさま、彼女の元へと歩み寄った。 ごめんな、と謝った。すると彼女は、「気にすんなよバーカ、お前らしくねぇーぞ。まあ良い心がけだけどさ。」と 病子は微笑みながら、いつもの調子で返してくれたので、俺は杞憂だったと安堵した。 すると彼女は急に声のトーンを落として、「闇雄、放課後空いてるか?」と質問してきた。 俺は彼女に対し、多少の躊躇いはあったものの、先客があるために2度目のごめんなさいをした。 すると彼女は悲しそうな顔で「そっか、しゃーないか・・、じゃ明日はあけてくれよぉ?」 と今までに見たことないくらい、いじらしい態度で懇願した。 が、一週間頼む、と言われた事を告げると「強引じゃないか、断りなよ・・。」と、病子が不満げに提案した。 俺は「でもよ、あの天下のライ子だぜ?ちょっと無下には断れないし、なんか勿体ないだろ。  あんな子と1対1でみっちり、面白おかしく、かつ知性的な語りあいができるなんてなぁ、  俺みたいな万年非モテ男には天恵なんだよ。わかるだろ・・?なあ?」と、自虐しつつ正当性を主張した。 病子は「私だって女だよ・・・、わかってるだろぉ。頼む。断ってくれ。」と俺の瞳を、 彼女の大きく、幼子のような純真な瞳が、何時になく強く捉えてきた。 俺は見つめられた恥ずかしさからか、なぜか周りを見渡して、「休み時間に」話そうか。」と訊ねた。 彼女も俺の心境を察して、頷いてくれた。後ろから、熱いね~っとはやし立てる声がかすかに聴こえたが無視。 そして、席に戻った俺は、汗をかなり掻いていたことに気付いた。俺は汗を掻くタイプではないが・・。 昨日までの腐れ縁的な幼馴染から、女の子だと意識せざるを得ない、 俺への接し方に新鮮さを覚えつつも、一校時目の準備を始めた。 691 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:09:19 ID:0WVB27gc ~休み時間~ 「へい、お待ち。」と平手を挙げて、4階・階段の踊り場の段差に腰かけていた、病子に挨拶した。 緊張した面持ちで、やっと来たか遅い、とでも言うように、若干怒りっぽい調子で俺に挨拶を返した。 だけども、表情のほうはどこか落ち着かない、緊張した面持ちのままだ。 俺は間髪いれずに「うーん、じゃ、本題にはいろっか。」と訊ね、 病子も少し間を開けて「おっ、おう。本題に入るぞ・・、いいのか?しっかり聴けよ。」と、 重大発表でもするのかと思うくらい、真剣な眼差しで言った。 「ウチらって、いつから遊びに行かなくなったり、一緒に行動しなくなったけ?」 本題に入るぞ、とか言ってたので、てっきり予約交渉からスタートするのかと思いきや、 意外な回顧話から始まった。 「小6あたりじゃね?難しい時期だろ、あの頃は。ま、今もそうだけどさ・・。」 俺の応答に、病子は少々驚いた様子で、「覚えてんのかよ、ホント意外・・。あんたの事、見直した。」 おいおい、これくらいの事は覚えてるっつうの!、と心で呟きながら、 病子が何を言いたいか察した俺は、いじわるっぽい口調で、 「だから、久しぶりに一緒に遊ぼうってか?」 病子は「分かってんじゃん、つまりそういう事。ナイスアイディアだろぉ。」と誇らしげに言った。 だが、俺は(一方的だが)先に交わした約束を反故になんてできない性格のため、 「一週間我慢してくれ、その後はどこなりと行けるからね。」と断った。 そして、少しの沈黙が流れた後、「わかった、待つ。絶対忘れんなよ!一週間後だからな。わかったな!?」 と、健気な笑顔で俺を指さしながら言った。 俺はその指された指を右手で掴み、軽く頷いた。 692 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:10:39 ID:0WVB27gc ~放課後~ 放課後になると、机でひじをついてた俺は、ライ子に声を掛けられた。 「闇雄!4時半から図書館でやらない?あっの方が落ち着くからさ。ね?」 俺は少し間を空けて「確かに。昨日は教室に他の連中共がいたから落ち着かなかったな~。うん、賛成。」 「連中なんて言っちゃダメだよ、クラスメイトなんだから。説教会に変更するよ!?」 「え~、ごめんごめん。拙者、気をつけますゆえ。」 「ははっ、なんなのその変な言い回し。でも、面白いから許す!」 「どうも。じゃぁさ、俺、先に図書館で待ってるわ。早く来なよ。」 「お行儀良く待っているのよ?行ってらっしゃい!」 「はいはい、お行儀よく待ってます。」 俺は重い腰を上げ、教室を出て窓際を歩きながら、一つの感情が湧きあがった。楽しい、である。 ライ子は一言交わすだけで、楽しい気分になる、俺も自然と笑みがこぼれてしまう。 やはり、これが誰からも好かれる超人気者、来張子が持つ強力な特殊能力に他ならない。 それにしても、色々と最高の女子と、たった昨日の数時間で仲良しになれるなんて、人生捨てたもんじゃないね。 4時半きっちりに颯爽とライ子登場。なにやら、巨大な袋を抱えている。 「なんなの、そのでっかい袋?」俺は訝しげに訊ねる。 俺の真正面の席に腰を下ろした彼女は、袋に手をつっこみながら「お菓子とジュース。これがなきゃ始まらないよ~。」 俺は多少躊躇いながら、「図書館でそんなもん食ったらまずいって!怒られる。」 ライ子は即座に「じゃぁ、司書さんから見えない席に移ろうよ。ほらいくよ!」 ライ子も俺が思ってた以上になかなかのワルらしい。そんな事を思いながら、 満面の笑みを見せる彼女に指定された席に着いた。 その一時間後、残念ながらこの図書館にとって許しがたき悪行は、バレて怒られたのだが、彼女との楽しいひと時になった。 ちなみ、ノートの上手いまとめ方なんて、初日で伝授済みだったので、半ば俺のための勉強会兼懇親会になって、 俺の方がなんだか申し訳ない気持ちになり、なお且つ、バイト代まで強引に渡してきたので、 俺自身が尽くして貰ってるような、なんともいえない気持ちになった。 693 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:11:22 ID:0WVB27gc ~闇雄の想い~ そんなこんなで、一周間が過ぎようとしている。 ライ子のとき折見せる破天荒な行動と、無邪気さは俺の心を射止めてしまった。 容姿だとか、ステータスだとかはもう関係ない。内面に強く惹かれたのだ。 俺がこんな気持ちになるのは初めてだった、こんなに胸の躍る一周間もお初。 彼女は俺のことなど微塵も意識していないかもしれない、だが、それでも彼女に感謝したい。 ただ、この一周間で心に引っかかったことがある、病子のことである。 病子は最近元気のないように思えたし、俺とライ子が話している時、常に病子の視線を感じた。 そして、いつしか俺は気付いたんだ、病子は俺に嫉妬しているんじゃないかって。 「今更?鈍感・ニブチン!」なんて言われるかもしれないが、彼女も俺に異性的好意を今まで微塵も見せたことはなく、 俺に対して「魅力が微塵もない男、第一位闇雄!」なんて事を、再三言っていたこともあり、 俺たちの関係はその程度なんだと考えていた。 なので、俺が女の子と仲良くなろうが、我は関せず、を貫いてくれると思ったが、違ったようだ。 杞憂に越したことはないが、俺を遊びに誘ったり、一連の態度、異性アピールは明らかに、 今までとうってかわり、攻勢をかけてきた感がある。 でもまあ・・・、嫉妬=俺の事が好き、ということにはならないからね・・。俺の妄想過剰だと信じたい。 ~病子の想い~ 病子は登校途中、闇雄への想いを沈んだ心で思案した。 なんであいつ、ライ子とあんなに仲良くなってんだ。まさか、ライ子に恋してるとかないだろぉ。 やめとけよ、釣り合わないし、ライ子はお前の事を一ミリも理解してねぇよ。 比べて私はお前が思ってるより、お前のこといっぱい知ってるし、それに世界中の誰よりも大好きなんだ。 確かに、私はお前を突き放すようなことばっかりして、悪い男友達のようなポジションに居座り続けていた。 でも、これは素直になれない私の好きの裏返しで、その度に私は後悔ばかりしてきたし、泥沼に嵌っていった。 闇雄なら、私の愚行、ゆるしてくれるよな・・・。闇雄は優しくて、思いやりがあるもんな。あ・・、都合良すぎか・・? だから、私はもうお前に告白して、当たって砕けようと思う。それを、今回遊びに行く時実行したかった。 もちろん怖い。でも、このまま闇雄とあやふやな関係のまま、お前が私から離れていくのはもっと怖い。 もし、私とお前が一緒になったあかつきには、いままで、素直になれなかった分、 いっぱいいっぱい・・愛してやるからなぁ・・・、私はお前のためなら何でもできる気がするぞぉ? すぐに私を彼の世界の中心に据えてやる・・。待ってるんだぞ・・、闇雄・・。 694 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:12:23 ID:0WVB27gc ~ライ子との勉強会最終日~ ライ子との至福の時間もいよいよ終わりか・・・。 俺はセンチメンタルな気分になりながら、彼女が楽しく喋る姿を、温かく見つめていた。 そして、なぜか俺はつい、頭で思ってる事を小さく呟いてしまった。 「かわいいなぁ・・・。」 ライ子の会話がピタリと止まった。 下心丸出しな事を言ってしまったので、焦って弁解に努めた。 「いやぁ、ちょっとなんていうか、つい、口に出してしまって。気に障ったかな?ゴメン!」 彼女の表情がパァーと明るくなって「ありがとう嬉しいよ・・・。急に言われちゃったから、  ビックリしちゃった・・・。照れるな~。この色男!」 俺は笑って間を繕ったが、彼女がいつの間にか上目使いになって俺の耳元まで迫り、こう囁いた。 「私も闇雄のこと、いいなってずっと思ってたんだ。この意味、分かるよね・・・?」 物凄い爆弾発言を耳にしてしまった。俺は当然の事ながら、固まってしまった、耐性がないので仕方がない。 彼女は俺からの言葉を待っているようだったので、「ビックリでした~、って事ないよね?」と確認を求めた。 即座に彼女は「ビックリでした!残念!」と意地悪な笑顔で言い放った。 俺はがっくしと肩をおとしながら「やっぱりね~。夢見れたんで良かったよ。」と笑い飛ばした。 だが、次の瞬間、ライ子は至極真面目な表情になり、 「うそ。ビックリじゃないよ・・。あたし達なら上手くいくよ。ほら、決めて・・乙女の心は移ろいやすいよ・・。」 彼女のこの表情を見て、本気で言っているんだと思い、少し考えながら、 「俺でよければ、お願いします・・・・。」 俺の返事を聞いた彼女は、机から身を乗り出し、とても柔和な笑みで、 「ほんと?嘘じゃないんだよね、嬉しいな・・。ありがとう、闇雄・・・。」 「でも、俺なんかでいいのかな、ちょっと信じられない、夢みたいだ。あ、そういやぁ、  俺のどこが良くて、こんな酔狂な決断してくれたの?」 「全部。酔狂な事じゃないよ、最初からこうなる運命だったの。闇雄も望んでいたでしょ・・。」 「そうか、じゃぁ、俺もライ子の全部だよ・・。えーと、俺、絶対ライ子のこと、  楽しくさせるからさ・・・。全力で頑張るよ。」 愛の誓いとでも言えば良いのだろうか、その後も二人で、相も変わらず、会話が盛り上がった。 俺は幸福期に突入したらしい。幸せすぎて、もう、ライ子のことしか考えられねぇ・・・。 695 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:16:25 ID:0WVB27gc ~闇雄、自宅にて~ 家に戻った俺は、メールが5件・着信が3件、留保されているのをスタート画面で確認した。 ライ子のメール1件以外は全て病子のものであった。 もちろん、真っ先にライ子のメールを開き、返信したのだが、お付き合いホヤホヤなためか、 メールの返信の応酬を一時間に渡って続けた。普段、ケイタイをいじるのは(機械音痴なため)苦なのだが、 今回ばかりは、この文明の利器に感謝しつつ、ニヤニヤしながらいじり続けた。 ライ子とのメールのやり取りを終えた後に、病子のメールを確認したのだが、案の定、 明日のお出かけの概要が羅列されてあったが、意外に驚いたことに、超過密スケジュールなのだ。。 病子はかなり計画的にスケジュールを組んであるようで、今回のお出かけに、なみなみならぬ真剣具合が見て取れた。 だがここで、一つのためらいが脳裏をよぎった。 約束とはいえ、恋人のいる人間が、他の女子と仲良くお出かけなんてしてよいのであろうか? ライ子への愛を誓った矢先に、他の女の子と一緒に出かけるなんて、到底申し分が立たない。 許可を取って出かけるなんて馬鹿な真似はできないし、 それに、俺はライ子以外の女性と触れ合いたいと現時点では思わない。病子を異性だと意識していないにしてもだ。 よし、そうだ、断ろう。しっかり理由を話して、ちゃんと詫びを入れさいすれば、あいつも分かってくれるだろうし、 それに、あいつはあっさり・さばさばした性格だし、意外に物わかりのいい奴だ、いける。 俺は確信を秘めた心で、電話にて直接伝えることにした。数秒間の呼び出し音の後、 「おーい!遅かったじゃねぇか。待ち過ぎて化石になるところだったぞ!」 病子の嬉しそうな幼くも強気な声が、大音量で耳をいきなり刺激した。 「おいおい、普通、電話ってのは、もしもし○○です、から始まるもんだぞ。それに、声でかいよ。鼓膜破る気か・・。」 「わかってるって。早速本題に入りたいんだけどよぉ、明日は朝8時待ち合わせで・・・、・・っておい、  人が喋ってんのに遮るなよ。このおバカぁ!」 「すまん!ちょっといいか?あのな、明日は行けないんだ・・・。」 「えっ・・・なんでぇ?気分でも悪いのか?親戚の用事が急に入ったとかかぁ?」 病子のテンションが急激に下がったので、理由を言うのは控えた方がいいんじゃないか、という考えが一瞬脳裏をよぎったが、 これをまた一瞬で振り払い、ひと呼吸、間をおいて、ゆっくり小さく伝えた。 696 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:18:34 ID:0WVB27gc 「ライ子と付き合うことになったんだ。ほら、なんていうか・・、  他の女の子と遊びに行くのは、浮気になっちゃうしさ・・・。」 想定外の発言のためか、病子は沈黙した。 5秒間の電話のノイズ音が流れた後、彼女のいつものひそひそ笑いが聴こえてきた。 「な、意味わかんねぇよ。こういう冗談は、寝言でほざけ!なんなら、私が起こしにきてやろうかぁ!?」 彼女は冗談だと思ったようだ。 俺は一瞬、気付かれなくて良かった、という安堵感に満たされたが、 それでは意味がないと自らに言い聞かせ、先程の言葉を繰り返した。 「俺はライ子と付き合ってるから、他の子と遊びになんか行けないよ、  男友達のような関係だったとしてもね・・・。」 俺の真剣な口ぶりに、彼女はまたもや押し黙った。 そして今度はかなり長い沈黙だ。長い、数十秒そこらであったであろうが、 その何倍の尺に思えた。俺の心の鼓動が速くなり、胸を締め付けられつつも、固唾を飲んで彼女の言葉を待つ。 「嘘だって、騙されてんだよ。あんたは詐欺に引っ掛かりやすいもんね。」 彼女は蚊の鳴くような小さな声で言った。 俺はすかさず、「彼女がそんな事したって何になるんだよ、ともかく、行けない。ゴメン、ホントにごめん・・・。」 「なんかの罰ゲームでもやらされてんだよ。そんなの無視して、行こうぜ。私、一生懸命プラン練ったんだから。」 「とにかく行けないからね、ごめん、切るよ、いつか埋め合わせはするからさ。おやすみ。」 「まだおわってな・・・ブツン!ツーツーツーツー・・・・・」 会話の途中で切ってしまった。 きりがなさそうだったので、心苦しいがこのような決断をして、事態を収拾することにした。 すると、手元の携帯が震えた。思ったと通り、病子からのようで、電話に出るか迷ったが、 無情にも携帯をマナーモードにし、枕の下に押し込めた。 十年来の幼馴染に、このような仕打ちをするのは心苦しいが、こういうちょっとしたドタキャンなんて、 誰しもがいつかはしてしまう、と自らに言い聞かせ、ベットに寝ころび、瞼を閉じた。 もちろん、眠るためにベットに寝ころんだわけだが、今日一日いろんな事があり過ぎて、 その事が頭を巡り、全く寝付けない。 ライ子とのこれからを考えたときの幸福と不安・・、病子に対しての罪悪感とこれからの償い・・・。 それにしても、病子は全然信じてくれなかったな、態度もなんか不気味な感じだった、今頃凄い怒ってんだろうな・・。 そうこう考えているうちに、玄関のチャイムが響いた。まさか!?マジかよおい・・・。 俺の家は2階建ての一軒家で、一階が各々の家族の部屋となっているため、 一番玄関に近い部屋を持つ俺が、大抵は対応する事になっている。 俺はベットからすぐさま体を起こし、部屋をでて、廊下を通り抜け、玄関のドアノブに手を掛けた。 やはり、病子がいた。俺は彼女の目を見た瞬間、胸が締め付けられた。 さっきまで泣いていたのが容易に予想できるくらい、目が赤く腫れており、表情はなんとも弱弱しい。 俺は戸惑いながら、彼女を部屋に招き入れ、ふかふかの白いソファーに座らせた。 697 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:19:21 ID:0WVB27gc ときどき点滅する天井の蛍光灯が、なんともいえぬこの気まずい雰囲気を相乗して演出した。 第一声は俺から発せられ、「蛍光灯が最近、死にかけてさ・・・、でも取り換えを躊躇っちゃうんだよね~。  電灯のカバーに溜まった死んだ虫とかを見るのがなんか嫌でさ・・・。病子はどうね?」 と場を和まそうと、下らないことをほざいてしまった。 すると病子は、体育座りをしながらザラザラした床に視線を落としつつ、 「私もさ、死んだ虫とか苦手だぁ。大抵の虫なら触れるけど、死んだやつぁ絶対触れねぇな。」と返した。 病子は下らない質問でも、嫌がらずにちゃんと返してくれる、ノリのいい奴だ、 という事を再確認しつつも、俺の心の中は気が気でなかった。 すると、無理に愛想笑いをしていた俺に、 「ライ子とホントに付き合ってんの?悪い冗談だろぉ、なぁ?」と涙を溜めた目で俺を見上げた。 「・・・付き合うことになったんだ、本当だよ。図々かもしれんけど、  彼女いない歴が塗り替えられた俺を祝ってくれんか、いや、  どっかのラブコメみたいに、はやし立てるのも大いに結構だよ・・。俺、マゾっ気あるし・・なんてな。」 病子は無地の壁を見つめ、 「・・・・・本当なんだ、そうなんだ。そんなに嬉しいのかよ・・、ライ子と付き合えて。なんなんだよ・・。」 そう言い終えたあと、病子の目から一筋の涙が零れた。 俺はやっと確信を持ってこう思った。この涙は、突然キャンセルを言い渡された悔しさ・失望からではない、 俺の事が好きだったからだ、なんて気付くのか遅いのか。最低な男だ。 勇気を振り絞って、彼女をしっかりと見つめ言った。 「もしかして俺の事、異性として好きだったのかな・・?あ、違ってたら今の質問、未来永劫わすれてくれ・・。」 彼女は質問を聞き終えると、急に立ち上がり、俺の腰かけるベットに彼女も腰かけ、すぐ隣でこう囁いた。 698 :ステレオタイプの量産ナンバー:2010/12/02(木) 01:20:04 ID:0WVB27gc 「そうだよぉ、ずっと大好きだったよ、闇雄の事をさ・・・。」 俺は閉口し、頭が真っ白になった。だが、心臓は相変わらず鼓動をさらに加速させる。 病子は俺の横顔を、涙で霞んでいるはずの視界で、柔和な痛々しい表情をもって見つめ、 「やっと言えた・・・、でも、こんなバットタイミングで言うつもりじゃ無かったんだけどよぉ・・。  あ、案外私ってロマンチストでよ、明日あの綺麗な噴水前でいうつもりだったんだ。」 俺はただ、謝ることしかできなかった。ごめん、を続けて4回も言った。 それを聞くと病子は一瞬だけ微笑んで、 「お前って、謝ってばかりだよなぁ。私なんか、自分が全面的に悪くない限り、絶対謝らねぇし。」 続けて、「私がお前の彼女だったら、簡単には謝らせないのになぁ・・、  男なら堂々としろっ!、とか言って檄入れてやるのに・・・。」 さらに続けて、「逆に私がごめんって謝らなくちゃいけねぇのになぁ、私が闇雄を好きでさえいなければ、  こんな事にはならなかったよなぁ。ホントにごめんよぉ、でも、まだ闇雄の彼女を諦めきれないよ・・。」 病子の健気さに俺の心は苛まれ、気がつけば、俺の目の縁にも涙が溜まっていた。 ライ子に告白されていなければ、あるいは、病子の気持ちをもっと早く察し、告白していれば・・・、 そういった今更どうにもならない数種の仮説が、頭の中で浮かび上がり、闇の奥へと消え去った・・。 いつの間にか、部屋は静寂に包まれ、鬱屈な空気だけが目に見えるかにごとく漂っている。 1分くらい経過したころだろうか、病子が自ら持参したレースのハンカチで俺の涙を拭ってくれた・・。 すると病子は何か決意したらしく、無理やり作ったであろう、沈鬱な笑顔で俺の手を優しく握ってこう言った。 「なぁ闇雄?今からでも闇雄の一番に・・・なるよ・・・。」 俺は即座に、どういう意味か?と訊ねたが、 病子は急に立ち上がり、部屋のドアノブに手を掛けてゆっくりと開き、振り向きざまに、 「待っててね・・。」と非常に微々たる声量で、謎の泣きっ面の微笑みとともに、部屋を後にしていった。 全く訳がわからず、茫然と座りすくした。意味深なセリフ、なにやら決意を秘めた表情、急に部屋を出て言った事。 固まった俺は、そのままの位置からベットに雪崩のように倒れこみ、疲れのためか、そのまま眠ってしまった
「あの~さっきから何?」俺は堪らず言った。 「なっ、てめぇ忘れたとは言わせねぇ。」 この口の悪い女は病子、ロングヘアのチビだ。うん、俺の説明は以上。 「お前、私にノート貸してくれるっていったじゃないか!よこせ!」病子は強くせがむ。 「悪い、もう貸しちまったよ、すまんね。」と手をひらひらさせながら軽めに言い放った。 病子はとても残念そうに早口で捲し立てた。 「お前、私が国語不得意なの知ってるだろ?昨日、お前に「数学秘伝ノート」貸してやったろ。  そんときに「交換な!」って約束したろ・・・」 そうそう、こいつは文系がからっきしダメなやつだ、毎回「国語奥義手帳」貸してやってるんだ。 英語も俺よりできないんだよなぁ・・・、難儀なやつだな。 病子はあきれた表情で「おい、聞いてんのか、おまえって奴ぁ・・・忘れっぽいな。で、誰に貸したんだよ。」 俺は素早く「来張子(ライバルこ)だよ。」と返した。 「え・・・あ、まじ、そっか・・。」病子の表情が曇る。 病子が急に残念そうな顔をしたので、びっくりして「ごめん、俺忘れっぽいから。次な!」 「へぇ~・・・お前があいつとそんなことする仲なんだ、そうなんだ・・・。」 俺は明るい表情を装って「あいつ国語苦手でもない癖になんでだろうね~、  俺が国語に関してはクラストップだから借りたんかな。なんつって。」 「そうか・・?違ぇだろ、闇雄・・。あ、HR始まるからよ・・。」 俺はこの気まずい雰囲気から解放された安堵感から「おっ、そうか、そういやぁいってなかったな」と言い放った。 病み子が振り向きざまに「なに?」と訊ねると、 俺は「おはよう・・・。眠い朝だな。」と囁いた。 病子が一瞬だけ微笑みながら「お前って、ほんと律儀なやつだな、馬鹿みたい・・。」と、ニッコリ微笑んだ。 ~放課後~ ライ子(来張子の愛称)が机に突っ伏す俺に、急に声を掛けてきた。 「あんたのノートのまとめ方すごくない!?感動しちゃった。コツ教えてよ。」 ライ子が急に絶賛から始めたので、言葉に詰まった。 矢次に「あたし、結構ムズイ大学うけるんだよね、前に言ったけ?  それで、どういう風にノートをまとめたら頭に入るかな~って考えていたら、  あんたの神ノート出会ったわけ。暇なときでいいから、ね?」 ライ子は学年一の可愛い子ちゃんなので、俺は最高に嬉しかった。なんというサプライズ。 ショートカットの長身美人タイプに弱い俺は、日本男子らしく嬉しさを表情に出さずに、 「まぁ、今日からでもいいよ、放課後やる?」 ライ子は待ってましたと言わんばかりに「ほんと!?優しいね~。4時半位から始めよっか。」 「任せとけや。」と、根拠なき自信で言い放った。 ライ子は、俺に微笑みを投げかけたのち、教室を出ていった。 全く、なんて可愛いんだ、罪だぜ・・・、と心で呟いた。 「裏切りもん、この女好き。」と、内想を背後から踏み倒す声が聴こえた。 病子だ。俺の顔を覗きながら、続けて「お前が声掛けられるとか、あり得ねぇ、  何かの間違い。騙されてんだよ。」、と漏らした。 俺はムカっとするどころか、妙に納得した表情で 「まぁ、一瞬俺の脳にもそれがよぎったけど、考えないことにした、  この幸せな瞬間を噛み締めるわ。」としみじみ語った。 俺は、得意げな調子で続けて「お前もイケメン引っかければ?」と言った。 病子は即答で「ふざけんな、興味ない、私は一途な性格だから。」と、含みのある言い方をした。 すると病子は廊下側を覗いて、帰り支度を性急に始めた。どうやら、帰るらしい。 病子は俺のそばの通り際に、「闇雄はホントバカだよ!」と小さく吐き捨てつつ、教室を出て行った。 いくらなんでも、怒りすぎだろ。女ったらしが嫌いなのかな・・・。 直後に、ライ子が華麗に登場。教室には、まばらにしか生徒が残っていないが、 これが人気者のオーラか、一応みんな軽く一瞥してしまう。もちろん、凝視する奴もいるが。 その後の幸せタイムの描写は省かせていただきます。あしからず。 ただ一つ、気になることライ子に言われた。「ヤミって、あんたのこと好きじゃないの?だったら、ごめん」と。 俺は、そんなことあり得ないと、言い切った。 急にそんなことを切り出されたので、少なからず動揺してしまった。 「小動物的で顔もカワイイくない!?反対に、性格は威勢がいいよね。このギャップいいと思うけどなぁ~。」 俺は照れ臭そうに「俺なんか願い下げだろ、それに今更そんな気持ちになれないよ」と返した。 そうそう、そうなんだ、ただの友達なんだ・・。10年近く、勘違いされたり、はやし立てられたりしたが、 俺たちは気の許せる幼馴染で、親友、それ以下でもそれ以上でもないんだ・・・。きっと、そうだろ・・・。 ~病子、自室にて~ 「あいつ、なんなんだよ、嬉しそうにするんじゃねぇよ。俺の前で、ひでぇよ・・・。」 病子は帰宅後、すぐさま自室で目を泣き腫らしながら、呟き続けた。 「私が奥手なの知ってるくせに、ホントは好きなの気付いているくせに卑怯だろ・・。  でも、あいつの事が好きなんだよな、責められない、好きな人を責められない。  てか、なんで私はあいつのせいにしてるんだ。卑怯な女。だから、振り向いてもらえないんだ。  あいつに意識させなきゃいけないのに、自分勝手に口悪く虚勢を張ってばかり。」 ベットに無造作に寝転がり、白いクマさんのぬいぐるみを抱きしめながら、その黒い瞳を見つめて言った。 「変わらなくちゃ、今がチャンスなんだ・・・。」 怖い、拒絶されたら今のラフな関係は築けなくなる、そういった悲観的な事も考えたが、 もういたずらに時を過ごすのはやめよう、という冷めた情熱が勝った。 ~翌日~ 病子は普段は早めに登校する、意外に真面目な性格なのだが、今日に限っては、 社長出勤になりそうな予感がする。HRまであと3分。 そんな事を、机に突っ伏しながら考えていたら、ライ子に話しかけられた。 まさか、こんなに仲が良くなるなんて夢にも思ってなかった、 むしろ、昨日の教授で俺の悪い部分が見抜かれて、逆に、 嫌われるのではと思ったが、非常に好感を持たれたようだ。 「闇雄!昨日は勉強になった上に、面白い話いっぱいできてグッジョブだったよ。」 ライ子の声は、あまりにも響く高音なので、周りの男子がちらちら見始めた。恥ずかしくなって、頷くだけだった。 「あと一週間頼むよ大将!時給も出すよ、ね!?」と肩を3回ほど叩き、 軽やかな歩みで窓際の席に戻って行った。え、一、一週間?ながっ! 会話が終わったのち、前に座っていた野郎史(ヤロフミ)が「浮気か、浮気なのか?!」と悔しそうな笑みで捲し立てた。 俺はその意地悪な問いに対して「俺は彼女いねぇ~し、それにライ子が困るだろ、そんなこと言っちゃ。」返した。 すると野郎史は「おまえ、ホント勿体ないよな、病子ってカワイイじゃん、  それに意外と優しい奴だと思うぜ。」と、なぜか誇らしげに語った。 「そうかも知れんけど、俺が病子と、どうこうって事は絶対にないから。ないない。」ときっぱりと答えた。 そう言い切った瞬間、野郎史はバツが悪そうな顔をした。 俺は、まさか?しまった!と感づいて、あたりを見回した!・・・・病子だ。 「・・・闇雄おはよ。邪魔して悪りぃな。・・・じゃ。」と、すぐさま振り向き席へと歩んでいった。 俺は後ろを振り向いたまま、固まってしまった。ああ、やってしまった。 変な冷や汗をかきつつ、深く後悔した。あいつは、ああ見えてナイーブな奴だから、多少の事で傷つく。 動揺したために、病子がどんな顔をしていたか覚えておらず、 廊下側の一番後ろの俺には、角度的に顔を窺い知ることができない。 しかも、話題を振った本人は澄ました顔をして空を眺めてやがる。なんてこった、謝らなきゃ。 HRが終わってすぐさま、彼女の元へと歩み寄った。 ごめんな、と謝った。すると彼女は、「気にすんなよバーカ、お前らしくねぇーぞ。まあ良い心がけだけどさ。」と 病子は微笑みながら、いつもの調子で返してくれたので、俺は杞憂だったと安堵した。 すると彼女は急に声のトーンを落として、「闇雄、放課後空いてるか?」と質問してきた。 俺は彼女に対し、多少の躊躇いはあったものの、先客があるために2度目のごめんなさいをした。 すると彼女は悲しそうな顔で「そっか、しゃーないか・・、じゃ明日はあけてくれよぉ?」 と今までに見たことないくらい、いじらしい態度で懇願した。 が、一週間頼む、と言われた事を告げると「強引じゃないか、断りなよ・・。」と、病子が不満げに提案した。 俺は「でもよ、あの天下のライ子だぜ?ちょっと無下には断れないし、なんか勿体ないだろ。  あんな子と1対1でみっちり、面白おかしく、かつ知性的な語りあいができるなんてなぁ、  俺みたいな万年非モテ男には天恵なんだよ。わかるだろ・・?なあ?」と、自虐しつつ正当性を主張した。 病子は「私だって女だよ・・・、わかってるだろぉ。頼む。断ってくれ。」と俺の瞳を、 彼女の大きく、幼子のような純真な瞳が、何時になく強く捉えてきた。 俺は見つめられた恥ずかしさからか、なぜか周りを見渡して、「休み時間に」話そうか。」と訊ねた。 彼女も俺の心境を察して、頷いてくれた。後ろから、熱いね~っとはやし立てる声がかすかに聴こえたが無視。 そして、席に戻った俺は、汗をかなり掻いていたことに気付いた。俺は汗を掻くタイプではないが・・。 昨日までの腐れ縁的な幼馴染から、女の子だと意識せざるを得ない、 俺への接し方に新鮮さを覚えつつも、一校時目の準備を始めた。 ~休み時間~ 「へい、お待ち。」と平手を挙げて、4階・階段の踊り場の段差に腰かけていた、病子に挨拶した。 緊張した面持ちで、やっと来たか遅い、とでも言うように、若干怒りっぽい調子で俺に挨拶を返した。 だけども、表情のほうはどこか落ち着かない、緊張した面持ちのままだ。 俺は間髪いれずに「うーん、じゃ、本題にはいろっか。」と訊ね、 病子も少し間を開けて「おっ、おう。本題に入るぞ・・、いいのか?しっかり聴けよ。」と、 重大発表でもするのかと思うくらい、真剣な眼差しで言った。 「ウチらって、いつから遊びに行かなくなったり、一緒に行動しなくなったけ?」 本題に入るぞ、とか言ってたので、てっきり予約交渉からスタートするのかと思いきや、 意外な回顧話から始まった。 「小6あたりじゃね?難しい時期だろ、あの頃は。ま、今もそうだけどさ・・。」 俺の受け答えに、病子は少々驚いた様子で、「覚えてんのかよ、ホント意外・・。あんたの事、見直した。」 おいおい、これくらいの事は覚えてるっつうの!、と心で呟きながら、 病子が何を言いたいか察した俺は、いじわるっぽい口調で、 「だから、久しぶりに一緒に遊ぼうってか?」 病子は「分かってんじゃん、つまりそういう事。ナイスアイディアだろぉ。」と誇らしげに言った。 だが、俺は(一方的だが)先に交わした約束を反故になんてできない性格のため、 「一週間我慢してくれ、その後はどこなりと行けるからね。」と断った。 そして、少しの沈黙が流れた後、「わかった、待つ。絶対忘れんなよ!一週間後だからな。わかったな!?」 と、健気な笑顔で俺を指さしながら言った。 俺はその指された指を右手で掴み、軽く頷いた。 ~放課後~ 放課後になると、机でひじをついてた俺は、ライ子に声を掛けられた。 「闇雄!4時半から図書館でやらない?あの方が落ち着くからさ。ね?」 俺は少し間を空けて「確かに。昨日は教室に他の連中共がいたから落ち着かなかったな~。うん、賛成。」 「連中なんて言っちゃダメだよ、クラスメイトなんだから。説教会に変更するよ!?」 「え~、ごめんごめん。拙者、気をつけますゆえ。」 「ははっ、なんなのその変な言い回し。でも、面白いから許す!」 「どうも。じゃぁさ、俺、先に図書館で待ってるわ。早く来なよ。」 「お行儀良く待っているのよ?行ってらっしゃい!」 「はいはい、お行儀よく待ってます。」 俺は重い腰を上げ、教室を出て窓際を歩きながら、一つの感情が湧きあがった。楽しい、である。 ライ子は一言交わすだけで、楽しい気分になる、俺も自然と笑みがこぼれてしまう。 やはり、これが誰からも好かれる超人気者、来張子が持つ強力な特殊能力に他ならない。 それにしても、色々と最高の女子と、たった昨日の数時間で仲良しになれるなんて、人生捨てたもんじゃないね。 4時半きっちりに颯爽とライ子登場。なにやら、巨大な袋を抱えている。 「なんなの、そのでっかい袋?」俺は訝しげに訊ねる。 俺の真正面の席に腰を下ろした彼女は、袋に手をつっこみながら「お菓子とジュース。これがなきゃ始まらないよ~。」 俺は多少躊躇いながら、「図書館でそんなもん食ったらまずいって!怒られる。」 ライ子は即座に「じゃぁ、司書さんから見えない席に移ろうよ。ほらいくよ!」 ライ子も俺が思ってた以上になかなかのワルらしい。そんな事を思いながら、 満面の笑みを見せる彼女に指定された席に着いた。 その一時間後、残念ながらこの図書館にとって許しがたき悪行は、バレて怒られたのだが、彼女との楽しいひと時になった。 ちなみ、ノートの上手いまとめ方なんて、初日で伝授済みだったので、半ば俺のための勉強会兼懇親会になって、 俺の方がなんだか申し訳ない気持ちになり、なお且つ、バイト代まで強引に渡してきたので、 俺自身が尽くして貰ってるような、なんともいえない気持ちになった。 ~闇雄の想い~ そんなこんなで、一周間が過ぎようとしている。 ライ子のとき折見せる破天荒な行動と、無邪気さは俺の心を射止めてしまった。 容姿だとか、ステータスだとかはもう関係ない。内面に強く惹かれたのだ。 俺がこんな気持ちになるのは初めてだった、こんなに胸の躍る一周間もお初。 彼女は俺のことなど微塵も意識していないかもしれない、だが、それでも彼女に感謝したい。 ただ、この一周間で心に引っかかったことがある、病子のことである。 病子は最近元気のないように思えたし、俺とライ子が話している時、常に病子の視線を感じた。 そして、いつしか俺は気付いたんだ、病子は俺に嫉妬しているんじゃないかって。 「今更?鈍感・ニブチン!」なんて言われるかもしれないが、彼女も俺に異性的好意を今まで微塵も見せたことはなく、 俺に対して「魅力が微塵もない男、第一位闇雄!」なんて事を、再三言っていたこともあり、 俺たちの関係はその程度なんだと考えていた。 なので、俺が女の子と仲良くなろうが、我は関せず、を貫いてくれると思ったが、違ったようだ。 杞憂に越したことはないが、俺を遊びに誘ったり、一連の態度、異性アピールは明らかに、 今までとうってかわり、攻勢をかけてきた感がある。 でもまあ・・・、嫉妬=俺の事が好き、ということにはならないからね・・。俺の妄想過剰だと信じたい。 ~病子の想い~ 病子は登校途中、闇雄への想いを沈んだ心で思案した。 なんであいつ、ライ子とあんなに仲良くなってんだ。まさか、ライ子に恋してるとかないだろぉ。 やめとけよ、釣り合わないし、ライ子はお前の事を一ミリも理解してねぇよ。 比べて私はお前が思ってるより、お前のこといっぱい知ってるし、それに世界中の誰よりも大好きなんだ。 確かに、私はお前を突き放すようなことばっかりして、悪い男友達のようなポジションに居座り続けていた。 でも、これは素直になれない私の好きの裏返しで、その度に私は後悔ばかりしてきたし、泥沼に嵌っていった。 闇雄なら、私の愚行、ゆるしてくれるよな・・・。闇雄は優しくて、思いやりがあるもんな。あ・・、都合良すぎか・・? だから、私はもうお前に告白して、当たって砕けようと思う。それを、今回遊びに行く時実行したかった。 もちろん怖い。でも、このまま闇雄とあやふやな関係のまま、お前が私から離れていくのはもっと怖い。 もし、私とお前が一緒になったあかつきには、いままで、素直になれなかった分、 いっぱいいっぱい・・愛してやるからなぁ・・・、私はお前のためなら何でもできる気がするぞぉ? すぐに私を彼の世界の中心に据えてやる・・。待ってるんだぞ・・、闇雄・・。 ~ライ子との勉強会最終日~ ライ子との至福の時間もいよいよ終わりか・・・。 俺はセンチメンタルな気分になりながら、彼女が楽しく喋る姿を、温かく見つめていた。 そして、なぜか俺はつい、頭で思っている事を小さく呟いてしまった。 「かわいいなぁ・・・。」 ライ子の会話がピタリと止まった。 下心丸出しな事を言ってしまったので、焦って弁解に努めた。 「いやぁ、ちょっとなんていうか、つい、口に出してしまって。気に障ったかな?ゴメン!」 彼女の表情がパァーと明るくなって「ありがとう嬉しいよ・・・。急に言われちゃったから、  ビックリしちゃった・・・。照れるな~。この色男!」 俺は笑って間を繕ったが、彼女がいつの間にか上目使いになって俺の耳元まで迫り、こう囁いた。 「私も闇雄のこと、いいなってずっと思ってたんだ。この意味、分かるよね・・・?」 物凄い爆弾発言を耳にしてしまった。俺は当然の事ながら、固まってしまった、耐性がないので仕方がない。 彼女は俺からの言葉を待っているようだったので、「ビックリでした~、って事ないよね?」と確認を求めた。 即座に彼女は「ビックリでした!残念!」と意地悪な笑顔で言い放った。 俺はがっくしと肩をおとしながら「やっぱりね~。夢見れたんで良かったよ。」と笑い飛ばした。 だが、次の瞬間、ライ子は至極真面目な表情になり、 「うそ。ビックリじゃないよ・・。あたし達なら上手くいくよ。ほら、決めて・・乙女の心は移ろいやすいよ・・。」 彼女のこの表情を見て、本気で言っているんだと思い、少し考えながら、 「俺でよければ、お願いします・・・・。」 俺の返事を聞いた彼女は、机から身を乗り出し、とても柔和な笑みで、 「ほんと?嘘じゃないんだよね、嬉しいな・・。ありがとう、闇雄・・・。」 「でも、俺なんかでいいのかな、ちょっと信じられない、夢みたいだ。あ、そういやぁ、  俺のどこが良くて、こんな酔狂な決断してくれたの?」 「全部。酔狂な事じゃないよ、最初からこうなる運命だったの。闇雄も望んでいたでしょ・・。」 「そうか、じゃぁ、俺もライ子の全部だよ・・。えーと、俺、絶対ライ子のこと、  楽しくさせるからさ・・・。全力で頑張るよ。」 愛の誓いとでも言えば良いのだろうか、その後も二人で、相も変わらず、会話が盛り上がった。 俺は幸福期に突入したらしい。幸せすぎて、もう、ライ子のことしか考えられねぇ・・・。 ~闇雄、自宅にて~ 家に戻った俺は、メールが5件・着信が3件、留保されているのをスタート画面で確認した。 ライ子のメール1件以外は全て病子のものであった。 もちろん、真っ先にライ子のメールを開き、返信したのだが、お付き合いホヤホヤなためか、 メールの返信の応酬を一時間に渡って続けた。普段、ケイタイをいじるのは(機械音痴なため)苦なのだが、 今回ばかりは、この文明の利器に感謝しつつ、ニヤニヤしながらいじり続けた。 ライ子とのメールのやり取りを終えた後に、病子のメールを確認したのだが、案の定、 明日のお出かけの概要が羅列されてあったが、意外に驚いたことに、超過密スケジュールなのだ。 病子はかなり計画的にスケジュールを組んであるようで、今回のお出かけに、なみなみならぬ真剣具合が見て取れた。 だがここで、一つのためらいが脳裏をよぎった。 約束とはいえ、恋人のいる人間が、他の女子と仲良くお出かけなんてしてよいのであろうか? ライ子への愛を誓った矢先に、他の女の子と一緒に出かけるなんて、到底申し分が立たない。 許可を取って出かけるなんて馬鹿な真似はできないし、 それに、俺はライ子以外の女性と触れ合いたいと現時点では思わない。病子を異性だと意識していないにしてもだ。 よし、そうだ、断ろう。しっかり理由を話して、ちゃんと詫びを入れさいすれば、あいつも分かってくれるだろうし、 それに、あいつはあっさり・さばさばした性格だし、意外に物わかりのいい奴だ、いける。 俺は確信を秘めた心で、電話にて直接伝えることにした。数秒間の呼び出し音の後、 「おーい!遅かったじゃねぇか。待ち過ぎて化石になるところだったぞ!」 病子の嬉しそうな幼くも強気な声が、大音量で耳をいきなり刺激した。 「おいおい、普通、電話ってのは、もしもし○○です、から始まるもんだぞ。それに、声でかいよ。鼓膜破る気か・・。」 「わかってるって。早速本題に入りたいんだけどよぉ、明日は朝8時待ち合わせで・・・、・・っておい、  人が喋ってんのに遮るなよ。このおバカぁ!」 「すまん!ちょっといいか?あのな、明日は行けないんだ・・・。」 「えっ・・・なんでぇ?気分でも悪いのか?親戚の用事が急に入ったとかかぁ?」 病子のテンションが急激に下がったので、理由を言うのは控えた方がいいんじゃないか、という考えが一瞬脳裏をよぎったが、 これをまた一瞬で振り払い、ひと呼吸、間をおいて、ゆっくり小さく伝えた。 「ライ子と付き合うことになったんだ。ほら、なんていうか・・、  他の女の子と遊びに行くのは、浮気になっちゃうしさ・・・。」 想定外の発言のためか、病子は沈黙した。 5秒間の電話のノイズ音が流れた後、彼女のいつものひそひそ笑いが聴こえてきた。 「な、意味わかんねぇよ。こういう冗談は、寝言でほざけ!なんなら、私が起こしにきてやろうかぁ!?」 彼女は冗談だと思ったようだ。 俺は一瞬、気付かれなくて良かった、という安堵感に満たされたが、 それでは意味がないと自らに言い聞かせ、先程の言葉を繰り返した。 「俺はライ子と付き合ってるから、他の子と遊びになんか行けないよ、  男友達のような関係だったとしてもね・・・。」 俺の真剣な口ぶりに、彼女はまたもや押し黙った。 そして今度はかなり長い沈黙だ。長い、数十秒そこらであったであろうが、 その何倍の尺に思えた。俺の心の鼓動が速くなり、胸を締め付けられつつも、固唾を飲んで彼女の言葉を待つ。 「嘘だって、騙されてんだよ。あんたは詐欺に引っ掛かりやすいもんね。」 彼女は蚊の鳴くような小さな声で言った。 俺はすかさず「彼女がそんな事したって何になるんだよ、ともかく、行けない。ゴメン、ホントにごめん・・・。」 「なんかの罰ゲームでもやらされてんだよ。そんなの無視して、行こうぜ。私、一生懸命プラン練ったんだから。」 「とにかく行けないからね、ごめん、切るよ、いつか埋め合わせはするからさ。おやすみ。」 「まだおわってな・・・ブツン!ツーツーツーツー・・・・・」 会話の途中で切ってしまった。 きりがなさそうだったので、心苦しいがこのような決断をして、事態を収拾することにした。 すると、手元の携帯が震えた。思ったと通り、病子からのようで、電話に出るか迷ったが、 無情にも携帯をマナーモードにし、枕の下に押し込めた。 十年来の幼馴染に、このような仕打ちをするのは心苦しいが、こういうちょっとしたドタキャンなんて、 誰しもがいつかはしてしまう、と自らに言い聞かせ、ベットに寝ころび、瞼を閉じた。 もちろん、眠るためにベットに寝ころんだわけだが、今日一日いろんな事があり過ぎて、 その事が頭を巡り、全く寝付けない。 ライ子とのこれからを考えたときの幸福と不安・・、病子に対しての罪悪感とこれからの償い・・・。 それにしても、病子は全然信じてくれなかったな、態度もなんか不気味な感じだった、今頃凄い怒ってんだろうな・・。 そうこう考えているうちに、玄関のチャイムが響いた。まさか!?マジかよおい・・・。 俺の家は2階建ての一軒家で、一階が各々の家族の部屋となっているため、 一番玄関に近い部屋を持つ俺が、大抵は対応する事になっている。 俺はベットからすぐさま体を起こし、部屋をでて、廊下を通り抜け、玄関のドアノブに手を掛けた。 やはり、病子がいた。俺は彼女の目を見た瞬間、胸が締め付けられた。 さっきまで泣いていたのが容易に予想できるくらい、目が赤く腫れており、表情はなんとも弱弱しい。 俺は戸惑いながら、彼女を部屋に招き入れ、ふかふかの白いソファーに座らせた。 ときどき点滅する天井の蛍光灯が、なんともいえぬこの気まずい雰囲気を相乗して演出した。 第一声は俺から発せられ、「蛍光灯が最近、死にかけてさ・・・、でも取り換えを躊躇っちゃうんだよね~。  電灯のカバーに溜まった死んだ虫とかを見るのがなんか嫌でさ・・・。病子はどうね?」 と場を和まそうと、下らないことをほざいてしまった。 すると病子は、体育座りをしながらザラザラした床に視線を落としつつ、 「私もさ、死んだ虫とか苦手だぁ。大抵の虫なら触れるけど、死んだやつぁ絶対触れねぇな。」と返した。 病子は下らない質問でも、嫌がらずにちゃんと返してくれる、ノリのいい奴だ、 という事を再確認しつつも、俺の心の中は気が気でなかった。 すると、無理に愛想笑いをしていた俺に、 「ライ子とホントに付き合ってんの?悪い冗談だろぉ、なぁ?」と涙を溜めた目で俺を見上げた。 「・・・付き合うことになったんだ、本当だよ。図々かもしれんけど、  彼女いない歴が塗り替えられた俺を祝ってくれんか、いや、  どっかのラブコメみたいに、はやし立てるのも大いに結構だよ・・。俺、マゾっ気あるし・・なんてな。」 病子は無地の壁を見つめ、 「・・・・・本当なんだ、そうなんだ。そんなに嬉しいのかよ・・、ライ子と付き合えて。なんなんだよ・・。」 そう言い終えたあと、病子の目から一筋の涙が零れた。 俺はやっと確信を持ってこう思った。この涙は、突然キャンセルを言い渡された悔しさ・失望からではない、 俺の事が好きだったからだ、なんて気付くのか遅いのか。最低な男だ。 勇気を振り絞って、彼女をしっかりと見つめ言った。 「もしかして俺の事、異性として好きだったのかな・・?あ、違ってたら今の質問、未来永劫わすれてくれ・・。」 彼女は質問を聞き終えると、急に立ち上がり、俺の腰かけるベットに彼女も腰かけ、すぐ隣でこう囁いた。 「そうだよぉ、ずっと大好きだったよ、闇雄の事をさ・・・。」 俺は閉口し、頭が真っ白になった。だが、心臓は相変わらず鼓動をさらに加速させる。 病子は俺の横顔を、涙で霞んでいるはずの視界で、柔和な痛々しい表情をもって見つめ、 「やっと言えた・・・、でも、こんなバットタイミングで言うつもりじゃ無かったんだけどよぉ・・。  あ、案外私ってロマンチストでよ、明日あの綺麗な噴水前でいうつもりだったんだ。」 俺はただ、謝ることしかできなかった。ごめん、を続けて4回も言った。 それを聞くと病子は一瞬だけ微笑んで、 「お前って、謝ってばかりだよなぁ。私なんか、自分が全面的に悪くない限り、絶対謝らねぇし。」 続けて、「私がお前の彼女だったら、簡単には謝らせないのになぁ・・、  男なら堂々としろっ!、とか言って檄入れてやるのに・・・。」 さらに続けて、「逆に私がごめんって謝らなくちゃいけねぇのになぁ、私が闇雄を好きでさえいなければ、  こんな事にはならなかったよなぁ。ホントにごめんよぉ、でも、まだ闇雄の彼女を諦めきれないよ・・。」 病子の健気さに俺の心は苛まれ、気がつけば、俺の目の縁にも涙が溜まっていた。 ライ子に告白されていなければ、あるいは、病子の気持ちをもっと早く察し、告白していれば・・・、 そういった今更どうにもならない数種の仮説が、頭の中で浮かび上がり、闇の奥へと消え去った・・。 いつの間にか、部屋は静寂に包まれ、鬱屈な空気だけが目に見えるかにごとく漂っている。 1分くらい経過したころだろうか、病子が自ら持参したレースのハンカチで俺の涙を拭ってくれた・・。 すると病子は何か決意したらしく、無理やり作ったであろう、沈鬱な笑顔で俺の手を優しく握ってこう言った。 「なぁ闇雄?今からでも闇雄の一番に・・・なるよ・・・。」 俺は即座に、どういう意味か?と訊ねたが、 病子は急に立ち上がり、部屋のドアノブに手を掛けてゆっくりと開き、振り向きざまに、 「待っててね・・。」と非常に微々たる声量で、謎の泣きっ面の微笑みとともに、部屋を後にしていった。 全く訳がわからず、茫然と座りすくした。意味深なセリフ、なにやら決意を秘めた表情、急に部屋を出て言った事。 固まった俺は、そのままの位置からベットに雪崩のように倒れこみ、疲れのためか、そのまま眠ってしまった。

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