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442 :わたしをはなさないで 最終話:2010/12/30(木) 01:52:37 ID:g1YFg6Ak 「よう相棒。まだ生きてるか?」 「ああ。まだ死んじゃいないさ」 俺がナイフの握られたナツの右手を両手で押さえ、部屋に飛び込んできたギンが素早く羽交い絞めにする わずかに切っ先が届いた肩口の皮膚が破れて血が滲んでるが、貫かれることを考えると我慢しておいたほうが得策だろう すげえ痛いけどな 「放せぇぇぇっ!! フミと一緒に逝くんだっ! 邪魔しないでよぉぉぉっ!!」 「そういうわけにもいかないんだ。俺は市民を守るおまわりさんだからね」 「ならもっと早く来てくれよ。あと一分遅れてたら市民が二人逝ってたぞ」 「文句言うな。お前らの絶叫が聞こえたから強行突入したんだぞ。間に合っただけでも行幸だ」 「放して……放してよぉ……わたしは、フミから離れたくないだけなんだよぉ………」 チラ とギンが俺の顔を見る 放していいか? と目で聞いてきてるのがわかる 聞くまでも無いだろう。絶対に放すんじゃねえぞ、と俺も目配せをした 「しかし、俺たちはどうすればいいんだ? この体勢から夏樹ちゃん組み伏せるのは難しいぞ」 「お前それでも警察官か。そういった訓練はしなかったのか?」 「フケた」 「この不良警官」 軽口を叩きながらも、俺たちは手の力はまったく緩めていない ナツがあまり喋らないのは、今もなおナイフを握る右手に全力を込めているからだ 「死のうよ。そうすればわたしたちは離れずにいられるんだよ? 誰にも邪魔されないよ? 家族になれるんだよ」 「いや、そのりくつはおかしい、ぞっ!!」 そう言いながら、俺はナイフを掴んだ もちろん刃を握らないように頑張るが、手のひらに深い切り傷ができるのがわかる それでも、ナイフを床に落とすことができた それにタイミングを合わせるように、ギンがナツの両手を掴み、後ろ手に手錠をかける 「逮捕!」 「完了! ………痛ってぇ」 「…………」 ナツをその場に転がしハイタッチ、をすると手のひらに激痛が走る こうなってはもっと暴れるかと思ったが、思いもかけずナツは殊勝な態度だった 殊勝というよりは、ショックで放心していた、と言ったほうが正しいかもしれないが 443 :わたしをはなさないで 最終話:2010/12/30(木) 01:53:03 ID:g1YFg6Ak 「俺はこれから、夏樹ちゃんを両親のところに連れて行く」 俺とナツの手錠を外してから(なんと部屋にあった針金一本で)、ギンはそんなことを言った 「えっ? 急だな」 「留置所や交番に泊めるなら事情を説明しなきゃならん。それはお前も本意じゃないだろ?」 「………まぁ、な。でもいきなり両親のところになんて……せめて明日とか」 「じゃあ、ここにもう一晩泊めてあげるか?」 「ごめんこうむる」 「………ひどいよ、フミ」 泣きそうな声も、今だけは何の罪悪感も無く聞き流せる なんせこっちは命がけ。この若い身空で心中なんてまっぴらごめんだ 「夏樹ちゃん。それでいいな?」 「…やだ」 「でもな、それ以外じゃ俺はフミと君とのことをこれ以上隠してはおけない。そうすれば、君の大好きなフミは牢屋に入れられちゃうぞ」 「…………どうして? どうしてわたしはいちゃ駄目なの? 今までと同じように、一緒にいたいのに」 「……なんでだ、フミ?」 「お前は分かれよ。ナツは俺に依存しちまってるんだ。それを恋と勘違いしてる。だから、離れたほうがいいんだ」 「分かるような、分からんような」 「ぜんっぜんわかんないよ! 私は勘違いなんかしてないもん!」 勘違いしてるなんて、自分じゃ分かるわけないだろうに しかしものすごく急な話になっちまったが、両親の元に返してもらえるなら頼んでもお願いしたい そう思い、俺は二人に背を向けて、下を向いた 「ナツ、もう会うことも無いかもしれないけど、じゃあな」 「嘘……だよね? フミはわたしのこと離さないよね? お願いだから、わたしを捨てないで……」 「ごめん。こんなことになっちゃ、俺はもう無理だ。………ギン、頼む。ナツの私物は明日お前の交番に郵送する」 「あ、ああ」 「いやだ! わたしはフミといるんだ! パパとママのとこになんて行かない!」 「でも、ここにはもうナツの居場所は無い」 イエサダやイエシゲたちも顔を伏せて、極力ナツを見ないようにしてる あの我関せずがモットーのイエツナも、そっぽを向いたまま動かない 俺も、ナツの顔は見ない 泣きそうな顔を見たら、もしかしたら、引き止めてしまうかもしれないから 「……なんで? 会いにきてもいいって、言ってたのに………」 「ああ。ナツがこんなことをしなくなったら、な。……ギン、行ってくれ」 そう言うと、俺は顔を畳にこすり付けるほどに伏せ、耳を両手で思い切りふさいだ 左耳に血のぬるりとした感触が来るが、無視してただひたすらに外部の音を遮断する ほんのわずか、悲鳴のような泣き声が耳に届くが、必死で聞こえないふりをした 444 :わたしをはなさないで 最終話:2010/12/30(木) 01:53:30 ID:g1YFg6Ak それからろくに話したこともないアパートの住人達からの質問攻めにあい、解放されたのは0時過ぎだった 姪との関係が悪化し、家出していたナツを警察に見つけてもらい、今両親の元に送った どうも無理がある話だが、うまくごまかせていればいいんだがなぁ 「遅くなったな。みんな、ご飯だぞ」 「「「ニャー」」」 「「ワン」」 「………」 キャットフード、ドッグフード、亀の餌を出しただけの簡単な飯だが、みんながっつくように食べる ああ、そういや今日、みんななんにも食べてなかったっけ 「ごめんな。俺もいっぱいいっぱいでな」 いいわけにもなってないが一応詫びておく さて、俺はこれからナツの荷物をまとめなきゃならん 今日の朝一に出さなきゃ、ナツもかわいそうだしな 女の子の荷物を漁るってことに若干の抵抗は感じるが、緊急事態だということで勘弁してもらおう え~と、服。下着。財布。本。子供っぽいアクセサリー。宝の箱。 ………宝の箱? 冗談じゃなく本当に、綺麗な小物入れみたいな缶にそう書かれてる 「…………緊急事態ゆえ、致し方なし」 自分を無理矢理に納得させて缶を開ける そして、即座に開けなきゃよかったと後悔した 中に入ってた物はみんな俺がなくしてたと思ってた物 俺のボールペン。俺のアクセサリー。俺の刃ブラシ。果てや俺の下着や(たぶん)俺の使用済みティッシュまで入っていた。 ……そんな鮮明に覚えてるわけじゃないが、このボールペンは少なくとも一昨年なくした物 そんな頃から、ナツはあんな鬱屈した想いを隠して抱えてたのか? そう思うと背筋に薄ら寒いものが走る 早いところ荷物を片付けて送ってしまおう そんですぐに新しい入居先を探そう。引っ越しだ この場所にいれば、隙を見つけてまたナツが来ちまう 俺は怖い。いままで中のいい家族だった女の子が、急に怪物にしか思えなくなってしまった 逃げなきゃ 逃げなきゃ俺は飼われるか、悪くすれば殺される 一刻も早くこの家から離れなきゃならない ペットOKのアパートが、すぐに見つかるといいんだが 445 :わたしをはなさないで 最終話:2010/12/30(木) 01:56:18 ID:g1YFg6Ak それから一週間 ギンのメールによると、ナツは両親の家に帰ったらしい それでも暫くは警察の保護観察下に置かれるみたいだ それでも俺に何のお咎めも無かったってことは、あいつが上手くごまかしてくれたんだろう 感謝感激雨あられだ 初日は両親の話も聞かずただひたすらここに帰ろうとしてたみたいだが、翌日になると落ち着きを取り戻し 今では両親とも少しずつ打ち解けてきているようだ それを聞いてもう一度ナツに会いに行こうかと考えたが、やっぱり俺が顔を出してもナツにとって悪影響にしかならない 俺はこのままここから消えようと思う。仕事にも復帰したし、新しい入居先も決まったしな 「おーい、明日は引っ越しだ。今度の家はもっと広くて壁が厚いぞー」 「「ワンワン!」」 「「「ニャニャニャー!」」」 俺の家族も大喜びだ 新天地に思いを馳せ、引っ越しの準備も整い、頭痛のタネも治りかけている これぞ順風満帆と言うものだ ―――そう思っていたのだ。その着信が来るまでは 「ああ、はいはいもしもし」 「…フミか?」 「どうしたギン。そんな死んだような声をして」 「………悪い知らせと酷い知らせと最悪な知らせ、どれから聞きたい」 どれからと言われても 「………悪い知らせから」 「夏樹ちゃんが消えた」 「はぁ!? どういうことだ、ナツは今警察の保護観察、つまり監視下にいるんだろ!?」 「俺が見逃した」 「お前が見張ってたのか。しかし逃がしたって、いったいどういうことだ?」 「すまん。俺がパトカーの中で大連続狩猟クエストを始めちまったばっかりに」 「てめぇ、これで俺になんかあったら一生恨むかんな」 さっき感謝した俺がバカみたいだ よりにもよって、命がけのこんなところで気を抜きやがって 「今まで、夏樹ちゃんは治る方向に傾いてる思ってたんだ。マジでスマン」 「……そうだ。ナツが家を出たからって、ここに来るとは限らんぞ。それに来たとしても、普通に会いに来るだけかも」 「ならいいんだが、そこで今度は酷い話だ」 「聞きたくもねぇ」 「だいたい一時間前に、夏樹ちゃんのお袋さんから相談を受けたんだ」 「聞きたくねぇつってんのに」 「一人で部屋に居ると壁に向かってフミという名を呟き続ける。ぬいぐるみにフミと名づけて持ち歩く  心配した親御さんがフミという名を出すと烈火のごとく怒る………まだ続けるか?」 「……心から聞きたくなかった」 順風満帆だと言ってた俺、今はどこに行っちまったんだか こうなってみるとやっぱりここから逃げ出そうとしたのは正解だった。そうなってほしくなかったけれど 「今パトカーをぶっ飛ばしてお前の家に向かってる。こっからならあと30分くらいだ」 「車内で携帯はいけないんだぞ」 「言ってる場合か。で、最悪の知らせなんだが……」 「聞きたくない」 「夏樹ちゃんの家が、全焼した」 「…………………」 446 :わたしをはなさないで 最終話:2010/12/30(木) 01:57:12 ID:g1YFg6Ak 脳が理解を拒む これまでの酷い話なんて目じゃない、文字どおり最悪の知らせだ 「……はぁ!? そ、それでどうなったんだ!? 詳しく話せ!」 「ついさっき鎮火したんだが、消防士の話によると、家の中からガソリンの匂いが充満していたらしい  そして焼け跡から出てきたのは中年女性と中年男性二人分の焼死体。家はすっかり焼け落ちて捜索は容易  それでも、少女の焼死体は発見されなかった」 「そんな………」 「俺だって信じたくない。それでも状況証拠は一点を示してる。だからお前の家に急いでんだ」 「ああ。頼む。体が震えてきた。どんなに頼りないバカでもいいから早く来て欲しい」 「戸締りを厳重にしろ。俺が声をかけるまで絶対に鍵を開けるな」 「分かった。分かったから早く来てくれ」 「あと20分だ!」 とん とん そんな大声とともに着信は切られる ノックの音が、重なるように聞こえてきた 447 :わたしをはなさないで 最終話:2010/12/30(木) 01:58:17 ID:g1YFg6Ak とん とん 「……………」 イエシゲたちが震えている その反応を見るだけで誰が外に居るのか分かる たしか、鍵はかかっていたはずだ とん とん 施錠を確認したいが、玄関まで行くのが怖い 怪物が俺をさらいに来た 俺はまだ死にたくない ギン、早く来てくれ ドン ドン ドアを叩く音が大きくなる いやだ。来ないでくれ、助けてくれ 逃げなきゃ そうだ、窓から出れば ドン! ドン! さらに音が大きくなる 窓が開かない そうだ、うちの窓は立て付けが悪くていっぱいには開かないんだ ちくしょう、こんな時に …………… ノックの音が消えた 諦めてくれたか? 鍵をかけておいたから入れはしない そう思ったとき、俺は最大の誤算に気が付いた ガチャ ガチャ ナツに送った荷物 女の子のものだからと宝の箱以外はほとんど見ずに送った ピンク色の、かわいらしい財布 その中には、うちの、合鍵が――― ギィ…… ドアが開く 誰がいるのかなんて、見るまでもない 押入れに飛び込もうとするが、腰が抜けて立ち上がれない 聞きなれた、無邪気な、恐ろしい、声が、声が!! 「ただいま、フミ」

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