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560 :弱気な魔王と愛され姫様・中:2011/01/02(日) 23:30:02 ID:ZyPeoDRc 「城防衛隊のスケルトン部隊配備は完了したッス。しかし、たぶん全滅するッスね。騎士団の戦力を削ぐのが精一杯ッス」 「私の狙撃隊も、居場所を察知されれば終わりです。生存確率は著しく低いでしょう」 「自分の毒牙部隊は一番槍だから、全滅は確定されたようなものだがな。それでもカニマヨは自分が倒してやるよ」 「俺の電流蟲は最終防衛ラインに配置。できればここまで来て欲しくはないな」 四天王の報告を聞いて僕は暗澹とした気持ちになる 王国全騎士団の戦力を前に、姫の言うような犠牲の無い勝利など望むべくも無い あの大王国を敵に回すなんて、人間と魔族の大戦争と言っても過言じゃないかもしれないんだ 「みんな。無理矢理にでも姫を帰すって手も、無いわけじゃないんだよ」 「まあ姫ちゃんが帰りたいって言うんなら、それでもいいんだがね」 「あの王家はお家騒動や財産のことで腐敗しているようですから。あんな可愛い娘が生きるにはふさわしくありません」 「お姫はワシら、っつかお父さんが大好きッスからね。お姫を最期まで護ろうっていうのは軍全体の考えッスよ」 「それにいまさら姫さん戻したところで、あいつらが大人しく帰るとは思えないな。メンツを潰されたと思ってるんだろうよ」 僕が魔王に就任した時は到底あの若造にはみなをまとめ上げることはできないだろうと陰口を叩かれたし、僕もそう思ってた それでも今、僕たちは姫のため、本当に一致団結していた 姫が帰りたくないと言うのなら体を張って、人間から姫と魔族の意地と護る これが総意 「でも、僕はみんなに死んでほしくない」 少し泣き出しそうな声になっていなかっただろうか 魔王就任早々にこんな大事を体験するなんて、僕に耐えることができるだろうか そんな不安と、子供の頃から慣れ親しんだ仲間達が命を散らす悲しさを吐き出すように言った 「魔王、あんたが優しい事と平和を願ってるって事は、魔族なら皆知っていることだ」 「そんなあなただから、私たちは実力不足と知ってなおあなたを魔王に推したのです」 「しかし、優しいだけじゃ魔王を名乗ることはできないッス。苛烈に部下を切り捨てる覚悟、組織の頭にはそれも時には必要なんスよ」 「それに死ぬと決まったわけではない。なあに、自分の部隊がやつらを皆殺しにしてやる。後続に出番は無いさ」 「それにこいつらが敗れても、魔王と姫ちゃんは俺の分身の電流蟲が絶対に護ってみせる。なに、あんたさえ生きていれば魔族は再起できるさ」 「………ごめん。僕が弱いから」 「いやぁ、魔王が弱いのは生まれつきッス。しかたねーッスよ」 「ああ。あのカニマヨを倒すような逸材なら俺たちも安心できんだがね。ははは」 「カニマヨさえ倒すことができれば彼らの指令系統は瓦解します。しかし、真っ向からカニマヨを倒すことができる可能性のあるものなど……  私か、ポイズンタイガーくらいでしょう。エレキインセクトやスカルエンペラーのような絡め手や魔術を使う者に奴を倒すことは難しいです」 「自分たちは一番槍。それで奴までたどり着くのは難しいか……」 誰からとも無く、ため息が漏れる 会議室はまた悲壮感に包まれた 561 :弱気な魔王と愛され姫様・中:2011/01/02(日) 23:31:08 ID:ZyPeoDRc 「まって!」 その時、大声が会議室に響き渡る 門番にこの会議室は出入り禁止だと言っておいたのに、どうして どうしてこんな一番聞かれたくない相手に、一番聞かれたくない話を聞かれなくちゃならないんだ 戸惑うような顔でついてきた門番に、ポイズンタイガーが声を荒げる 「毒爪熊! どうしてここに姫さんを通した!」 「す、すみません隊長! 姫様がどうしてもとおっしゃるので……」 「いい。聞かれちゃったのならしょうがないよ」 「魔王、しょうがないですむ問題じゃない。これは重大な職務怠慢だ。我ら毒牙部隊にこのような惰弱な者がだな………」 顔に青筋を立てて怒るポイズンタイガー 怒り心頭、と言った様子で部下に説教を始める その剣幕に僕だけじゃなく、他の四天王たちまで身をすくませた かわいそうに。門番の毒爪熊だって、姫にどうしてもと頼まれて断ることができなかっただけだろうに そして腕を振るいながら熱弁する中、その右腕にぶらさがるように姫が飛びついた 「姫さん?」 「だめだめだめ! ポイさんもスーさんもエレさんもガンさんもお父さんも他のみんなも死んじゃだめ!!」 「……自分だって部下だって死にたくはない。しかし、これはもう人間と魔族の意地の張り合いだ。今更イモを引くわけにはいかないんだよ」 「でも、そのカニカマって人をたおせばいいんでしょ? ボクにいいほうほうがあるもん!」 「お姫のいい方法? そいつはぜひとも聞いてみたいッスね。あとカニカマじゃなくてカニマヨ、ッス」 「しかし、もう君が帰ったところでこの戦争は止まらないぞ。彼らは魔族を皆殺しにする気で来ている。だから、私たちに任せろ」 「無理はしなくていいぜ。魔王と姫ちゃんだけは、俺が絶対に護ってやっから」 みんなにくしゃくしゃと頭を撫でられながら、姫は妙に落ち着いた声で、僕を見てこう言った 「みんな。お父さんを縛って」 562 :弱気な魔王と愛され姫様・中:2011/01/02(日) 23:31:40 ID:ZyPeoDRc 「えっ?」 そんな間抜けな声を漏らした瞬間に、僕の体は指一本動かせなくなっていた 食らったことは無いけれど、この技は知っている たしか、エレキインセクトの――― 「局電蟲。魔王の体のツボに微細な蟲を張り付かせて電流を流させた。縛るよりも確実な方法だ」 「? どうして?」 わけがわからない 姫、どうして僕を? エレキインセクトも、何で一瞬の躊躇も無く僕に蟲を張り付かせたんだ? そんなに僕は嫌われていたの? 「すまねえ。俺だってこんなことしたくは無かったんだ」 「気にすんなッス。あんたがやってなかったらワシがやってたッス」 「私たちも同意だ」 「うむ」 「お父さん、ごめんね」 さっきの会議中なんかよりもずっと悲痛な顔を僕に向ける四天王 何かを決意したようだと感じさせながらも、微笑を浮かべる姫 「ボクが、カニマヨを殺すよ」 だからこそいつも見ている微笑が、凄絶に見えた気がした 「……姫、いくら僕でも、そんなこと言ったら怒るよ」 「ボクは、生まれてはじめてやさしいかぞくをもらったんだもん。みんなをまもるためだったら何だってやるよ」 「相手は最強の戦士。それ以前に人間だ。姫とおんなじ人間なんだよ」 「にんげんなんてどうだっていい。あんないきもの、しんじゃったっていい」 「姫! ……みんなも何か言ってくれ!」 「「「「…………」」」」 みんな、目をそらして何も言ってくれない 「ねえ、姫を止めて! みんなだって姫を人殺しにはしたくないでしょ!?」 「………あたりまえです」 「だったら!」 「お姫を止めて、それでどうするッスか? 人間との全面戦争に突入して、お互い死屍累々の惨状を晒すッスか?」 「で、でも!」 「自分たちは姫さんを護りたい。けれど、仲間達だって死なせたくは無いんだ。魔王、分かってくれ………ッ!」 「姫ちゃんが何をしようと、俺が絶対に怪我をさせない。……信じてくれ」 四天王は僕同様、一様に辛そうな顔をしてる けれど、姫だけは笑ってた 「ボクは、みんなのためにがんばるよ。そしたら、ボクのことを自慢の娘だって、褒めてね。お父さん」

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