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277 :風の声 第10話「風の罪」:2011/01/15(土) 04:05:29 ID:OtrQzRib 日曜日、今日の部活に翼の姿はなかった 朝『遅れそうだから、先に行ってくれ』というメールがあったけれども翼は来ない。 もしかして、遅刻じゃなくて来ないんじゃ。 「あの、大空さん」 人が真剣に考えているのにこの自殺者は空気も読めずに話しかけてくる。 私が手伝ってあげるから消えなさいよ。 「なんですか・・・」 「今日、翼さんは来ないんですか?」 「何で教えないといけないんですか?」 「人が人の事を心配する事は当たり前だと思いますが・・・」 「理由がどうであろう、知らない事は教える事ができません。最も知っていても教えませんが。  あと、一つ言っておきたいことがあります」 「何ですか?」 「“翼”って気安く呼ばないで下さい」 「・・・・」 最後、何か言った気がするけど自殺者の言葉に傾ける耳は持ってない。 この間、翼とアドレス交換した時、翼の住所を知る事ができたから部活が終わり次第行ってみようかな? Q.ここはどこだ?俺は誰だ? A.ここは俺の部屋、俺は風魔 翼 記憶があるようで何よりだ。 昨日は家に帰ってきてそれから・・・・なぜか記憶が無い。 だから記憶を確かめるような事をさっきしたのか・・・ でもなんで何も覚えてないんだ? 「気がついた?お兄ちゃん」 その声と同時に俺は思い出した。 昨日、こいつが玄関の前にいて気が乗らないまま部屋に入れようとした時、視界が暗転したんだ。 あのとき、『バチッ』っていう鈍い音が聞こえた気がする。 「夕美・・・」 「おはようお兄ちゃん。と言っても、もう昼だけどね」 時計を見ると既に午後1時を過ぎていて、今日の部活があと1時間で終わる時間だった。 部活?しまった・・・舞に何も連絡をしていない。 駅で待ち続けていると言う事は無いだろうけれど前に一度、寝坊した俺をずっと待ち続けていて俺と一緒に遅刻し 担任に叱られた記憶があるから、少しばかり不安と心配と罪悪感を感じる。 そんな俺の表情を読み取ったのか夕美が口を開いた。 278 :風の声 第10話「風の罪」:2011/01/15(土) 04:06:47 ID:OtrQzRib 「あの女のことなら心配しなくていいよ。メール送っといたから」 「あの女?メール?」 「大空・・・舞だっけ?あの女には今日お兄ちゃんが休むってメールを送っといたから」 「なんで舞の事を知ってるんだ?」 「お兄ちゃんの携帯の電話帳に私たち家族以外の名前があったから、もしかしたら?と思って。  お兄ちゃんの表情を見ると正解だったみたいだね」 「正解?」 確信は無いが嫌な予感しかしない。夕美は昔から女の勘と言うか、そういう物が強い奴だ。 小・中学校の時に当てられた図星の数は数え切れない。 そして、今の夕美はあきらかに普通じゃない。人付き合いが苦手で他人を見る能力が無い俺でも分かるぐらいの異常さだ。 夕美が一歩ずつ近づいてくるにつれ心臓の鼓動が早くなってくる。それだけ俺は今の夕美に対して恐怖を抱いている。 唯一信頼できる家族に対して恐怖を感じるなど、考えた事も無かった。 けれども今実際に感じている。美しい物に見とれるような表情で俺を見つめ、近づいてくる夕美に。 夕美は俺のすぐ側まで来るとその表情を崩さぬまま俺の隣に腰をおろした 「お兄ちゃんにできた友達ってそいつでしょ?」 「何で分かった?」 「女の勘?フフッ」 その言葉、何年も聞き続けている為かさすがに聞き飽きた 「お兄ちゃん。どうして私がここに来たか覚えてる?」 「このあいだの電話での話の続きをするため。だったけ?」 「内容が分かっているなら話は早いな。お兄ちゃん、考え直してくれた?いい答えが聞けると嬉しいんだけれど・・・」 いい答え?人との絆を作らないことが?俺にとっては絆を作ることのほうがいい答えだと思っている。 けれども夕美は俺とは逆の考えを持っている。俺の事を一番知ってくれている理解者だと思っていたのだが、なぜそうなるのだろうか? 「答えを出す前に、一つ質問してもいいか?」 「なぁに?」 「どうして夕美は、そこまでして俺が人とのつながりを持つ事を嫌がるんだ?」 「なぁ~んだ。そんな事?」 表情を崩さずに話す夕美。俺は真剣な話をしているのに夕美の表情を見ていると 冗談じみた下らない話をしているような感覚に陥って気持ち悪くなってくる 「答えは簡単」 その言葉を言った瞬間、夕美の表情が険しくなり、口調もその表情に相応しい、暗く重たい口調になった 「私のお兄ちゃんがけがされない様に守るために決まってるでしょ。気付いてなかったの?」 『私のお兄ちゃんが』という言葉だけ強調してしゃべる夕美は俺の知っている無邪気で明るい夕美ではなかった。 そして普段の夕美が使うとは思えない言葉『けがされない様に』 この『けがされ』とはどっちの意味なのだろうか?俺の知っている夕美なら『怪我され』の方だと思う。 けれども今の夕美なら『汚され』という意味で使っているかもしれない。 もしも、そうだとしたら何かものすごい事を仕出かされるのかもしれない。そう考えただけで恐怖がいっそう増した。 「そんな事、気付くはずも無いだろ」 「うそ・・・・」 夕美の反応を見て俺は思う。もしかして地雷を踏んでしまったのではないだろうかと。 279 :風の声 第10話「風の罪」:2011/01/15(土) 04:08:29 ID:OtrQzRib 俺の左手に手を重ねてくる夕美。その手には優しい感情がこもった温もりが無く、ただ冷たかった。 「あの頃はいつも幸せだった。お兄ちゃんが中学の時、相談に乗ってあげて助けてあげたりした私だけを見ていた。  私がお兄ちゃんだけを見ているように、お兄ちゃんも私だけを見てくれる。これが相思相愛ってやつなんだと思った。  この状態がいつまでも、それこそ一生続くと思っていた。なのに卒業式のあの日からお兄ちゃんは変わった。  卒業式の次の日、お兄ちゃんは私になんて言ったか覚えている?」 覚えている。けれども俺の頭はそれどころではない。 『私がお兄ちゃんだけを見ているように、お兄ちゃんも私だけを見てくれる。』 『これが相思相愛ってやつなんだと思った』 『この状態がいつまでも、それこそ一生続くと思っていた。』 一つわかる事は、これらの台詞は妹が兄に言うような台詞ではないという事。 俺は脳をフル稼働させてこれらの文が意味する事を考えていた。 比喩、倒置法、擬人法、俺が生きてきた中で学んだ文法全てをこれらの文に当てはめてみる。 それでも文の内容はこれぽっちも変わらない。 これらの文はそのまんまの意味なのだろうか?いや、きっと何か伝えたい事があるはずだ。 「お兄ちゃん?まさか覚えてないの?」 夕美の言葉で我に返る。 そうだ、俺は今、質問をされている立場なんだ。 考えても答えが出ないものと、すぐに答えが出るものという選択肢で、なぜ俺は前者を選んだのだろうか? 「『言い忘れてたけど、俺1人暮らしをするんだ。父さんと母さんはもう承諾済み。明後日には家を出るから』って  言ったんだよ。覚えてる?  お兄ちゃんが私から離れていく、お兄ちゃんが私の居ない世界で汚される。そう思うととても悲しくなった。  けれども、一番悲しかったのは、そのことを私にずっと黙っていた事」 確かに俺はそんな事を言った。けれどもそれはただ驚かしたかっただけで、夕美を傷つけようとしてやった事ではない。 「そして、気付いたの。相思相愛なんて私の思い上がりであって、お兄ちゃんは私の事を見ていなかったんだって。  それから私なりに考えたんだ、どうすればお兄ちゃんは私だけを見てくれるかを。  答えは意外にもあっさりと見つかったよ。今までどおり私が、私だけがお兄ちゃんを助けてあげればいいんだ、って。  だから、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、お兄ちゃんに電話をかけて、その日の出来事を  聞いてあげて、お兄ちゃんにとって最高の、人生のパートナーは私だけなんだって、そう思わせるはずだった・・・」 さて、夕美は毎日を何回言ったでしょう?と、下らない事を考えている自分がいた。 夕美がこんなにも真剣に今までの思いを告白しているのに・・・・最低だ。 けれども、夕美の話を聞いてなかったわけではない。 夕美の話を聞いて一つだけ確信した事がある。 夕美が、兄である俺に対して好意を、それこそ愛と言っていいほどのものを抱いているという事 そうすれば、さっき俺が脳をフル回転させて考えていた文も当てはまる 「人と付き合う事をやめたお兄ちゃんが、まさか高校で人と付き合うようになるなんて思ってもいなかった。  しかも相手は女。こいつの・・・こいつのせいで、こいつの身勝手な行動のせいで私の今までの思いと計画は全て崩れた!!  だから私はここに来たの。お兄ちゃんをこんな危険な環境においておきたくなかったから!!  そんな身勝手な女に取られたくなかったから!!」 「そのために来たって・・・お前、当初の目的とかけ離れてないか?」 「なにが!?」 ものすごい形相で怒鳴られた。兄である俺が妹に怒鳴られるなど今まで無かったからか少しばかり戸惑う。 それだけ今の夕美は、好意、悲しみ、怒り、それらの感情全てを抱えてここに来ている。 夕美は妹ではなく、1人の女性としてこの場に存在しているんだ。 280 :風の声 第10話「風の罪」:2011/01/15(土) 04:10:43 ID:OtrQzRib そんな考えに浸りすぎて、また夕美の問に答え忘れる所だった。 あのような事を2度もしたら絶対に何かが終わる。そう本能が告げているような気がした。 「お前がここに来るキッカケは小物入れだろ?あれが無かったから俺のところに電話してきて、それであんな会話になった。  もしも、小物入れが俺の荷物の中に紛れてなかったらお前はどうするつもりだったんだ?」 「大丈夫・・・・絶対そうなるから」 「?」 「あの小物入れ、私が忍び込ませたの。お兄ちゃんの家に行く口実を作るために」 あきれた。まさか、ここまでやるとは思っていなかった。 それだけ俺の事を愛している。そう解釈して良いのだろうか?妹に愛されるのは嫌いじゃない、けれどもそれはlikeであって Loveではない。たまに忘れそうになるが俺たちは兄弟だ。決して結ばれない存在。 だからといって一気に突き放すのも可哀そすぎて俺の良心がそれを許さない。 「お兄ちゃん、お願い・・・私と一緒に家に帰ろう。昔みたいに家族で、ううん私だけと暮らして」 「・・・悪い、それは無理だ」 「え・・・」 「俺はこっちで頑張るって決めたんだ。それに・・・」 「もういいよ」 夕美はそういうと俺から2歩、3歩と離れて行きポケットから銀色に光る物を取り出した。 「本当はお兄ちゃんを脅迫する為に持ってきたんだけど、もう、どうでも良くなっちゃった」 夕美はその取り出した物を自分の手首へと持っていく。そして、次の瞬間。 「お兄ちゃん・・・・・・大好き」 その言葉と同時に俺の視界は紅い鮮血で染められた。 何が起きたのか分からずしばらく動けずにいた。 いや、本当は分かっていた、膝の震えがそれを証明していた。 けれども、認めたくなかった。夕美が目の前であんな事をするなんて。 けれども目の前で倒れているのはいつも俺を支え、励まし、一緒に笑ってくれた・・・・・・・・・夕美だ。 「ーーーー!!!」 驚き、悲しみ、怒り、恐怖、その他の感情全てが俺を襲った。 なぜこんな事になったのだろうか? 誰のせいでこんな事になったのだろか? 何度も何度も何度も何度も自分に問う。そして導き出される答え。 自分が夕美の愛に気付かなかったのが原因 それ以外の答えが出てこない。 違う、この答えが正解だから他の答えが出てこないんだ。 「死なせねぇ・・・」 人間として価値のない兄のせいで死ぬんじゃねぇ! そう思いながら俺は救急車を呼び夕美を抱き寄せ手首を握り締めて止血を続けた。 外から聞こえてくる音が小鳥のさえずりから救急車のサイレンに変わるまで・・・・・・

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