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340 :弱気な魔王と愛され姫様・第三幕 前:2011/01/17(月) 00:53:44 ID:sPKwN2M/ 「それじゃ、定例会議始めるよー。それぞれ隊長、副官は来てる?」 「スケルトン部隊スカルエンペラー、いるッスよ」 「狙撃部隊デッドガンマン。ここに」 「毒牙部隊ポイズンタイガー。いるぞ」 「………ンガー……ゴー………zzzzz…………」 「あなた、魔王様が呼んでますよ。起きてくださいな」 そう言って、ミリルさんが香水のようなものをエレキインセクト様に吹きかける 「ぐぶえあぁっ!!? 誰だ殺虫剤なんぞぶっかけた阿呆は!?」 「わたくしです。目は覚めましたか?」 「あー…………まぁ。電流蟲部隊エレキインセクト、いるぜ」 「電流蟲部隊、副官ミリルもいますわ」 普段は元気いっぱい無礼もいっぱいのエレキインセクト様だけど、最近できた奥さん兼副官にはめっぽう弱いみたいです いっつも言い負かされてるし、昔みたいにキッチンの女の子に声をかけては刺されてるし 体が微細な蟲の塊だって知ってて刺してるのかな? でも一回目から躊躇なく刺して分離した時驚いてたし……うーん、どうなんでしょう? 「エレキインセクト、眠いなら寝てきてもいいよ。内容はミリルさんに後で聞けばいいし」 「俺はバカだから聞かんでもいいみたいじゃねーか。ここにいるっつの。だいたい魔王だって魔族の指揮は姫ちゃん任せじゃねーか」 「うっ……だって、僕よりもみんな姫の話のほうが喜んで聞いてくれるし………」 「お父様、それだから駄目なんだよ。ボクにばっかり任せないで、もっと「俺は魔王だー! えらいんだぞー!」って言っていかなきゃ」 「無理だってば。僕はそういうの向いてないんだよ」 「くすくす。でも、そんなお父様、かわいい」 魔王補佐官席にちょこんと座る姫様が素早く動いて、魔王様の唇を奪う え、ええ~~? 親子なんでしょ? いいの、こんなことして~~~? 見ると、あたしと同じように赤面してるのはミリルさんを除いた副官席の二人 スケルトン部隊副官、サイコシャレコウベと狙撃部隊副官、夜目狩人だけです なるほど、魔王様のお傍近くに仕える者にとってはこれが日常茶飯事なんですねぇ…… あの大胆さはちょっとだけ、ほんのちょっとだけうらやましいなぁ そうすれば、あたしだってきっと隊長と…… そんなふうに物思いにふけっていると、たくましい腕に軽く頭を小突かれる この感触は絶対に間違えない、あたしの大好きな隊長のもの え、なに? あたし何かしちゃったのですか? 「挨拶しろ。お前の番だぞ、何をボーっとしてるんだ」 「あ、は、はいです!」 私に恥をかかせないように小声で教えてくれるなんて 無骨・苛烈・怖いって思われてる隊長だけど、こんな優しいところもあるんですね それを見せてくれるのが、あたしだけだったらいいのに…… じゃあ、これ以上隊長に心配をかけないように、ちゃんと大きな声で名乗らなきゃです! 「毒牙部隊副官、青酸狼! いますです!」   341 :弱気な魔王と愛され姫様・第三幕 前:2011/01/17(月) 00:54:07 ID:sPKwN2M/ 「いきなり立ち上がってあんな大声を出すな。恥ずかしい」 「ひ、ひゃい……わかりましたです……」 あれからあたしはすぐに隊長に殴られて座らされました 魔王軍一の怪力隊長ですから、そのゲンコツはすっごく痛かったです 一時間半の会議はほとんど気絶して、今もまだコブがジンジンします…… 「シアン、お前は何度言ったら分かる。とにかくおちつけ。落ち着くんだ」 「……むずかしいです」 シアン、っていうのはあたしのことです 隊長が考えたにしてはかわいいあだ名だと思ったけど、真相を知ってちょっとだけがっかりしました あたしの牙から染み出してる青酸カリの別名がシアン化カリウムだから、シアンってつけたそうです でも、隊長がつけてくれたあだ名だから、何だって嬉しいんですよ 「はぁ。お前はあの戦いの最中、自分がいの一番に突っ込んでから、ちゃんと指揮も執り仲間の布陣も見事だった言うのに  どうしてお前は自分が一緒にいると慌てだすんだ」 「それは……その……だって……」 「いい。言い訳は聞きたくない。説教部屋に行くぞ」 「(……隊長が一緒じゃ、ドキドキして落ち着けっこないです)」 「何か言ったか?」 「な、なんでもないです!」 お説教部屋。毒牙部隊のみんなにとっては恐怖の対象です ヘマをした者はここに入れられて、隊長がマンツーマンでお説教をします だから罰は二通りあって、お説教か丸一日ランニングなんですけど、ほぼ全員ランニングを選びます。みんな隊長が怖いんですね ここで[ほぼ]って言ったのは、例外のあたしがいるからです だって隊長と二人っきり。誰も邪魔は入らないんですよ? お説教部屋最高です! 「……えへへ」 「……妙な奴だな。説教部屋に行くって言うのに、笑うやつがあるか」 「ごめんなさいです、隊長」 342 :弱気な魔王と愛され姫様・第三幕 前:2011/01/17(月) 00:54:54 ID:sPKwN2M/ それから二時間、こってりと叱られました でも、意外でしょうけどお説教部屋での隊長はあまり大声を出さず、静かに怒ります だから、ず~~っと隊長の顔を見ていることもできるんですよね ああ……とっても幸せでした あの戦いでカッコいい牙が一本折れちゃってますけど、そこがなんだか逆にかわいいんです 「はぁ………隊長ぉ……」 でもあたしは、城から城下を見下ろしてため息を吐きます だって、あたしが隊長を好きになればなるほど、釣り合いが取れないって気付かされるんです みんなに頼りにされて、怖がられなからも尊敬を集める怪力夢想の一番槍 こんな言いかたしちゃ駄目ですけど、魔王様が頼りにならないから、よりいっそう武力に秀でる隊長が頼りにされてます それに引き換え、あたしはみんなに効果的な布陣と軍略を伝えるのが好きな、いわゆる軍師です 隊長がそう言ったことが苦手なので、あたしが副官と言う立場で隊長のお傍に居させていただいてます でも、前にこっそり聞いちゃったんです。隊長とスカルエンペラー様のお話を 『ポイズン。お前さん、どういった娘が好みなんスか?』 『……どうでもいい』 『つれないこと言うんじゃないッス。お前さん、結構女の子に人気あるんスよ』 『…………』 『ほら、そんなふうに少し寡黙なとことかッス。あと強さとか筋肉とかッスか?』 『……』 『うらやましいッスねえ。ワシみたいなスカルにゃ女の子は寄りつかねえッスよ。で、あんたの好みのタイプはどんなのッスか?』 『……自分よりも強い女だ』 『……そりゃ難儀ッスね。見たことねえッスよ、そんな女』 それから頑張って体を鍛えたんです おかげで腹筋50回、けんすい30回、重量挙げ20kgをできるようになりました ……隊長に言ったら苦笑いされちゃいましたけど 後で聞いたら、隊長は腹筋もけんすいも1000超え、重量挙げは500kgオーバーですって これじゃ、お話にもなりませんよぉ…… 343 :弱気な魔王と愛され姫様・第三幕 前:2011/01/17(月) 00:56:01 ID:sPKwN2M/ 「わっ!!!!」 「ひゃあっ!」 いきなり背中から脅かされてその場に座り込む。悪くすれば城から落ちてたかも…… 腰を抜かしながら、ぞっと背中が冷えるのを感じました 「ひ、ひ、ひ、ひめ、姫様、です?」 「ごめんね、シアンちゃん。びっくりした?」 「いえいえいえいえ! お気になさらずです! ま、魔王様はどうしたんですか?」 「お父様はお昼寝中。ボクも一緒に寝てたけど、先に起きちゃったからお散歩してたの」 「そうでしたか。それで、何かごようです?」 「うん。……シアンちゃん、悩みがあるでしょ。恋の」 「!?」 姫様は普通の人間だって聞いていたけれど、もしかして心を読む力とかがあるの!? 「バレバレ。恋する乙女を侮っちゃ駄目だよ」 「恋する、って」 「? もちろんお父様のことだよ。……もしかして、シアンちゃんが好きなのって……っ」 非力なあたしでも、いくらなんでも姫様に負けるとは思えない それでも、非力な人間でも、気魄だけで魔族でも殺すことができる そんな実例を見た気がしました 呪い殺すことができるほどの膨れ上がった悪意、敵意をぶつけるっていう高等黒魔法があるって聞いたことがあります その実例が、今あたしの目の前に――― 「違います違います違います違います! あたしが好きなのは隊長です! 毒牙部隊ポイズンタイガー隊長です!!」 「だよね。お父様はボクのだって、みんな知ってるもんね」 スッ と姫様から発せられてた殺気が収まる こ、殺されるかと思いました…… 「じゃあ、たぶんエレキ兄様もお昼寝してるだろうから、お姉様にも聞いてもらおうよ。三人寄らば文殊の知恵って言うでしょ?」 「え? これから何をするんですか? 「決まってるじゃない。シアンちゃんとポイズン兄様をくっつけるの」 「えええっ!!?」 「大丈夫だよ。ボクとお姉様の方法を真似すれば、ポイズン兄様もすぐにシアンちゃんのことが好きになっちゃうよ」 「は、はぁ………」 うわぁ……なんだかすっごい不安………

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