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469 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 2:2011/01/23(日) 21:02:49 ID:k/dtfZgr 魔王様の部屋から義妹の泣き声が聞こえる 何を思っているのか、どうして泣いているのか、わたくしには手に取るように分かります けれど、手を差し伸べることができません 「わたしは、おおきくなったらパパとけっこんするの」 小さいころわたくしもそんな風に言った記憶が無いわけでもありません でも、それは大きくなるにつれて消えていく感情 今のわたくしのように、愛する夫がいるならばなおさらです もっとも、子供の頃はまさか蟲に惚れぬくことになるとは思っていなかったけれども 種族を超えた結婚 わたくしとエレ様はそれを成しました 私のことを知る貴族の方々からすれば、バカなことをしたものだとため息をつくでしょう けれど、わたくしはエレ様を愛しています どんなに非難を浴びようと、そこにどんな障害があろうと、不退転の覚悟でエレ様を愛する覚悟があります 正直に言ってしまえば、あの暴君を殺したのはエレ様ではないような気さえします 出会い、寄り添って過ごしているうちに分かりました 口は悪くても、あんなに優しい方に、そんなまねはできっこないと それでも、私の愛は揺るぐことも無く今もここにいます そこに愛さえあれば、種族の違いなんて些細なことでしかないと、わたくしはわたくしの身に懸けて言い切ることができます けれど、あの子はそうじゃない 養子だというお話は魔王様ご本人からお聞きしましたが、あの二人はまぎれもない親子です 魔王様も、あの子を娘として愛しているのが手に取るように分かります でも、あの子が求めているのはそうじゃない それでも、魔王様には言えない 種族の違いなんていう些細な問題じゃない あの子が愛を囁けば、それは口にしてはならない忌み言葉になる だって、二人は親子なんですから その禁忌の関係に踏み出そうとすれば、今の関係はおろか、親子の絆にすら罅が入りかねないのだから 薄情な女と謗りを受けても仕方の無いことでしょう わたくしだってそう想います それでもわたくしは何も言いません わたくしが、今の義妹に言えることなんて、何一つ無いないのですから 470 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 2:2011/01/23(日) 21:03:11 ID:k/dtfZgr 「隊長。さっきの泣き声って、姫様ですよね?」 「だろうな。最近は魔王がいなくなれば部屋に篭って泣いている。お前は何か知っているか?」 「………知らないです」 ごめんなさいです、隊長 あたしは知っていますです、義妹になった姫様の涙の理由 どうして誰にも相談できないのかもみんなみんな知っていますです 「自分は無粋な男なのでな。女性の悩みには疎い  気分転換にとスカルエンペラーが先ほどどこかに連れ出したようだが、あいつがどこまでできるか正直わからん  シアン、言いたくないなら言わなくてもいいが、いざという時は力になってやってくれ。頼むぞ」 「……はいです」 あたしは、やっぱり隊長にはかないませんです 顔に出やすい正確なのでしょうか? 自覚はないですけど きっと姫様は、魔王様を愛してしまったです それも、一人の男性として。あたしが隊長を愛してしまったようにです そんなことは隊長には言えないです 知ったら隊長は動き出してしまうです 姫様を諌めるにしても、応援するにしても、これは姫様が決めなきゃいけないことです 外野が何か言っていいことじゃないです あたしは隊長自信よりも隊長のことをよく知っている自信があるです だからきっと隊長はどちらを勧めるにしても、黙っていられるはずがないのです 「……隊長、一つ聞きたいことがあるです」 「言ってみろ」 「世界でたった一人、自分が愛しちゃいけない人を愛してしまった時。隊長はどうするですか?」 「……質問が漠然としすぎていてよくは分からないが……おそらく自分なら絶対に引かん。駄目と言われようと押し通るまで」 「それが愛してはいけない人でもですか?」 「ああ。関係ない」 「………隊長には、あたしがいるのにですか」 「たとえ話だろう、これは。安心しろ。シアンが生きているうちは他の女に目をやったりはしない。極力な」 「あたしが死んだってダメですっ!」 「やれやれ」 471 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 2:2011/01/23(日) 21:03:36 ID:k/dtfZgr ここ最近、お姫はずっと塞ぎこみがちッス だから久しぶりにお茶を一緒したり庭を一緒に散歩したりしたんスが、芳しくないッス 合わせるみたいに話したり笑顔を浮かべたりするッスが、違うんス これはワシらの知ってるお姫じゃないッス お姫はいつも近くで元気に笑ってて、ワシらを癒してくれる存在ッス 恐れ多いと口には出さないッスけど、今城で働いている魔族ならばみんなお姫に元気づけられ、心配してるッス こんな暗い、悲しい顔をしていていいわけが無いッス。今度はワシらがお姫を元気にする番ッス 「今度は図書館行くッスか? 本好きのお姫のために、色々と人間の小説を買いあさって来たッスよ~」 「……ありがと。ごめんね、スカル兄様。ボクのために」 「気にしないでほしいッス。それに買ってきたのは別の連中ッスから、ワシに礼言われても困るッス  だいたいスケルトンのワシが人里に買いに行ったら目立ちすぎるッスよ。魔王みたいに人に近い奴らに行ってもらったんス」 「魔王……お父様………っ」 しまったッス お姫と何があったのか分からないし本人も分からない言ってるッスが、お姫の前で魔王の話はタブーだったッス 何があったのか聞きたいスけど、目に涙を溜めるお姫を見てるととてもじゃないけどそんなこと聞けたもんじゃないッス 「ああああ! お姫お姫、図書館ついたッスよー! それじゃ頼んでた本持ってくるッスから、待ってて欲しいッス!」 「うん……うん………おとう、さまぁ………」 涙はこぼれていないものの、しゃくりあげているお姫を残して、ワシは本を取りに行くッス ……無残なものッス 理由は分からないにしても、父親のために涙を流す妹に、何と言えばいいかわからなかったんス 兄だなんだと慕われていても、いざという時に妹のために何もできない、情けない兄貴なんスよ 「……持って来たッス」 「うん。さっそくお部屋で読ませてもらうね」 「……お姫」 「そんな顔しないでよ。ボクはもう大丈夫だよ。ありがとう、スカル兄様」 そう言って、数冊の本を手に戻るお姫の背中を、ワシはただ見ていることしかできなかったっす ……大丈夫じゃないスよ、お姫 大丈夫なやつは、そんな風に涙声の礼も、無理矢理に作った笑顔もしないッスよ 「すまねぇ ッス」 そう呟いてみても、お姫に言ったのか、期待してくれたみんなに言ったのか、自分でも分からなかったッス 472 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 2:2011/01/23(日) 21:03:59 ID:k/dtfZgr スカル兄様から受け取った本を置いて、ベッドに身を投げ出す みんなも、お兄様もボクを心配してくれているのは痛いほど分かる だからこそ、申し訳ない 枕に突っ伏して、声を殺して泣く もしも聞かれれば、またみんなに心配かけちゃうから ボクがこんなふうにお父様を想わなければ、誰にも心配をかけることなんてないのに それでも、気持ちは抑えられない 一度動き始めた歯車、それは機械自身にはもう止められない 今この瞬間も、お父様が欲しいとボクの胸が泣いている 『好きな人を手にする方法は、奪い取ることだよ!』 そんなふうに、以前ボクはシアン姉様に言った それがどんなに白々しい言葉だったか、今になってようやく分かる 距離を置かれたくない でも欲しい 知られたくない でも分かってほしい 嫌われたくない でも愛してほしい その二つの相反する感情が心の中で暴れてる 奪ってお父様を本当にボクのものにできるのならば、迷うことなくボクはやる 偽者の父を地獄に送ったのボクなのだから、今更躊躇も何もない でも、それじゃ決してお父様はボクのものにはならない [お父様]はボクのものになるかもしれない でも、男としての[魔王様]がボクのものになることは決してない お父様のことは、父親として敬愛もしているし、心から愛している お父様は何も悪くない ただ、ボクが分不相応に、贅沢になっただけだ ごめんなさい、親不孝者の娘を許してください また嗚咽が漏れてしまいそうになる それを押さえ、ベッドに腰掛けてさっきの本を開く 物語の世界に逃げ込めば、お父様のことを少しでも忘れられるから 忘れたいから――― 473 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 2:2011/01/23(日) 21:04:22 ID:k/dtfZgr 本の中には美しい、綺麗な物語がある 愛を囁く男 頬を赤らめる女 二つの影が近づき、そして…… ああ、ダメだ 頭の中にその情景が浮かんでしまう その女性の顔がボクに 男性の顔がお父様に――― 「………」 涙は出ない それよりも気恥ずかしさが勝った あんなにのんびりしていて、魔王なのに素朴なお父様が、こんな歯の浮くような言葉を語りかけるはずないのだから 「はぁ」 ため息をついちゃダメ 幸せがそれを嫌って逃げちゃうからね、とお父様は言っていた でもきっと今のボクには逃げるだけの幸運なんてありはしない そう思うと、分かりきったことなのに悲しくなってくる ダメだ、今日はもう寝よう 明日お父様が帰ってくれば、少なくともお父様のぬくもりを感じることはできる たとえそれが娘に向けられたもので、そこに一切の他意は無いとしても 「……っ!」 激情に駆られて、本をクローゼットに投げつける スカル兄様がせっかく貸してくれたのに ごめんなさい その罰なのだろうか。本はクローゼットの隣の鏡台にに置いてあった置物にぶつかり、床に落ちた あっ、と声を上げてベッドから飛び出す あれはボクのたいせつなもの。お父様がボクにくれた宝物なんだ 純金でできたへたくそな、だけどかわいいヘビの置物 これをもらったのは6年前、ボクが10歳の冬だった 474 名前:弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 2:2011/01/23(日) 21:04:44 ID:k/dtfZgr その頃、魔族の間では一触即発の空気が流れていた 優しい魔王、お父様をこれからも立てて宥和政策を取ろうとするハト派 もっと武力に優れた者(たぶんお兄様のうちから)の中から新魔王を選抜し直すべきだというタカ派 その二派が真っ二つに分かれてしまっていた あの王国との戦争時、お父様が戦線にいなかったことが、タカ派に勢いを与えていることは疑いようの無いことだった お兄様は大っぴらに声明を出せない 四天王、四将軍という立場のお兄様がハト派に加担するような事を言えば、混乱したタカ派が武力行使に出る可能性も大いにあったから それでも、ボクはタカ派の言うことを認めるわけにはいかなかった 魔族の間では、魔王の退任とはつまり死を意味する 戦いの中で死ぬは本望 天寿を全うするのも良い けれど退任勧告を受け生き恥を晒すくらいならば死ね、そういうこと 今からすれば考えられないような掟だけれど、お父様が魔王に就くまでは珍しいことじゃなかったみたい もちろんボクも、お兄様たちも言った 戦力ならば7:3でボクらの方が有利。いつ奇襲をかけてくるかわからないタカ派を叩くべきだ、って それでもお父様は首を縦に振ることは無く、二年もかけて暗殺の恐怖と戦いながら話し合いを続け、ついにタカ派と和解に至った その時に和解の証としてお父様は純金の龍の置物をもらったんだ その日、上機嫌なお父様はボクを膝の上に載せて、言った 『無理だ。無駄だ。駄目だって言って諦めるのは簡単だよ。でも僕は流血の惨事は絶対に起こしたくなかったんだ  腰抜け魔王だって思う者も増えたと思う。でも、どれだけ非難を浴びたって、僕は正しいことをしたって信じてる。だから後悔はしてないよ  姫、なんでもいい。諦めたくないことがあったら、それがどれだけ困難な道でも、諦めちゃ駄目だよ。諦めなければきっといつか叶う  もしも本当に無理だったとしても、そこに向かって走ったことは、絶対に無駄なことなんかじゃないから』 『うん!』 『いい返事。けど、僕よりも姫のほうが人望が厚いし、次期王はもしかしたら姫が就任かもなぁ』 『そうかな? もしもそうなったら、掟も変えてお父さんをボクの副官にしてあげるね!』 『あはは、それはたのしみにしてるよ』 それから、ボクが怖いと言った龍の置物(本物の龍は寝てばっかりのお寝坊さんでちっとも怖くない)は へたくそなヘビになって、翌朝ボクの部屋に置かれていた 勇ましい龍なんてふさわしくない。のんびりおとなしいヘビのほうが僕らしいよ。それに、姫を怖がらせる龍は僕も好かないしね そう言って、お父様は微笑んでくれた その微笑みを、ボクが女として愛し始めたのは、きっとその頃からだった 「なぁんだ」 簡単なことだったんだ。お父様も言っていたじゃない、どれだけ困難でも、諦めちゃ駄目だって きっとこのへたくそなヘビは、すっかり諦めそうになっていたボクに激を飛ばしてくれたんだ ありがとう 一度だけぎゅっと胸に抱いて、ボクは部屋を出た 服を買いに行こう。それからミリル姉様にお願いしてお化粧の仕方を習おう。シアン姉様にはアプローチの仕方を教えてもらわなくちゃ お父様好みの女性になる。そして、いつかきっと振り向いてもらうんだ。娘としてじゃなくて、一人の女の子として見てもらうために 明日、お父様が帰ってきたらさっそく始めよう。もう泣いている時間なんて無い お父様のためにも、今まで心配をかけちゃっていたみんなのためにも、ボクは元気いっぱいでいなっくっちゃ ねっ ―――何も知らないボクは、ただ無邪気に、そう 思っていた

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