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26 名前:栄光を君に[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 01:57:28.64 ID:0cql2pYr [2/11] ―気がつくと、私は闇の中でうずくまっていた。 気配を探るが、誰もいない。 弱々しくなってしまった手足を引きずり、ボロボロになってしまった城の扉を開ける。 高い山の上に建つ城は強風に煽られ、私の緑色の髪を持ち上げる。 そして風に意識を乗せ、私の想い人の気配を探る。 ―感じ取れない。あの人の、気配を… またも私は早く起きてしまったようだ。 ふっとため息をつくと、独りごちた。 「また100年で封印が解けちゃったのかな…あなたに会えるのは千年後なのに…」 私は、龍王と呼ばれる存在。そして、勇者を愛していた。 27 名前:栄光を君に[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 01:59:38.17 ID:0cql2pYr [3/11] 平和とも呼べる世界の中、私はあの人のために下準備を始めることにした。 残りの900年を寝て過ごしてもいいが、私の悪名轟けば彼の名声は比例して高まるのだ。 せっかくの時間なのだし、私は魔界とこの世界をリンクさせ、じわじわと侵略することにする。 100年が過ぎた頃だろうか、だんだん人々は不安を掻き立てられ、我々がいるはずもない地を探り、 我々が戦うはずもない相手に我々の所在を確かめ始めた。 私は下僕たちに厳命を下していた。 「けして500年後まで気配を悟られるな。」と。 私の下僕は忠実に意見を守り、力を蓄え、かつ深い深い闇のなかで息を潜めた。 私は次の命を側近の下僕に伝えた後、寝ることにした。 愛おしい、彼の夢を見ながら… 28 名前:栄光を君に[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 02:01:48.11 ID:0cql2pYr [4/11] ―彼と初めて逢ったのは、もう何万年、何億年前のことだろうか… 新天地を求めてこの地を侵略した私と、人々を守るために立ち上がった、彼。 彼は志は高かったが、腕は未熟極まりないものだったな…ふふっ… 私に無様に負けても…何度も、何度も何度も立ち上がって… 「皆を守る!この命にかえたって!絶対に…!」 って、私の前に立ちはだかるのだから… そんな彼だからこそ、私は彼を鍛えてしまった。 そんな彼だからこそ、私は彼に恋をしてしまった。 そんな彼だからこそ、彼は私に応えてしまった。 そんな彼だからこそ…彼は勇者で… そんな彼…だからこそ…彼は私を置いて行ってしまったのだ… 彼は人間で、私は龍王とも呼ばれる魔族。 彼の寿命なぞ、私の毛先にも及ばないほど短いものだった。 彼が老い、私を愛せなくなり、やがて死ぬとき… 彼は私と約束をした。 「何回生まれ変わっても、君と一緒に生きていきたい。数千のボクが、君といつまでも一緒にいる」 彼はそうつぶやくと、枕元で握っていた私の手を少しだけ強く握り… ―二度と目覚めなかった。 29 名前:栄光を君に[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 02:03:52.36 ID:0cql2pYr [5/11] 私は発狂しかけた。 彼がいないこの先の人生など考えられなかった。 この世界も人も全て、全て巻き添えにして死んでしまいたかった。 しかし彼は約束してくれた。 必ずまた会いに来てくれると。一緒に生きてくれると。 その言葉だけを頼りに、空になった私は生きることにした。 やがて、彼が死んで千年が過ぎる頃。 私は遠くの地にて、彼の気配を感じることが出来た。 私は喜んだ。全身が満たされていくような気がした。 足りないものが埋まっていくような気がした。 彼の気配を感じたのち、すぐに私は迎えの部隊を寄越した。 すぐに来てくれる…私と彼はまた一緒に生きて行けるのだ… しかし、期待は最悪の形で届いた。 私が出した部隊は、全滅した。 彼と、彼のパーティによって。 何故?何故私を拒絶するの? あの時一緒に居てくれると約束したのに。 あの時一緒に生きてくれると言ってくれたのに。 何故?何故? わからない…わからない… 30 名前:栄光を君に[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 02:05:58.84 ID:0cql2pYr [6/11] やがて、地方にいる私の部下達は彼によって殺されてしまった。 たとえ仲間を殺されても、彼を恨むことができなかった。 愛してしまったから。 愛しすぎてしまったから。 それでも胸を締め付けるのは、彼が私の知らない人になってしまったから。 彼をどうすればいいんだろう。 殺しちゃえばいいんだろうか?自分のものにならないなら、最初からなかった事にすればいいのだろうか。 死んじゃえばいいんだろうか?約束してくれた彼ではないのなら、この世界に未練なんてないのだから。 グルグルと頭の中で回る。結論が回り続ける。 結局何も結論を出せないまま、私のもとまで彼はやってきてしまった。 私は、彼が城に来て初めて決意をした。 彼に殺されるという決意を。 たとえ彼が覚えていなくても、私が覚えていればいい。 私が彼に栄光を捧げよう。 彼の人生が、より良きものになるように。 やがて私と彼が対峙したとき、彼は武器を落とした。 そして目からポロポロと涙をこぼすと、私の名前を呼んでくれた。 思い出したのだと、剣を向けてすまなかったと謝ってくれた。 私の方こそ謝らなければいけないのに。 生きることを諦めたことを… そして私は彼と約束をする。 今後何があっても、死なないことを。 絶対に彼と生きて行くことを… その後、彼が老衰で死に、また生まれ変わり、私に会いに来てくれるということを繰り返した。 10代までは私のことをはっきりと思い出してくれた 20代までは、うろ覚えながらも私を思い出してくれた。 30代までは、私のことを知らないけれど、大切な存在としてくれた。 40からは、少しずつ、私という存在が彼から薄れていっていることに気づいた。 そして今、もう彼は私のことを覚えていない。 でも私は彼と約束をしてしまった。 死なないことを 彼と生きて行くことを… 31 名前:栄光を君に[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 02:08:01.96 ID:0cql2pYr [7/11] ふと、目覚める。 今は何年だろうか? 私に対し、剣を構えた下僕に聞いてみる。 「今は・・・貴方が解かれてから800年後にございます。」 あらら、もうちょっと寝てても良かったかな? 私があくびをしながら礼と、下がるように命令を下すと、下僕は私に剣を構えたまま言い放った。 「もはやあなたの時代ではないのです。ここに召喚してくれたことに感謝いたしますが、 あとは我々が全てをより良い方向へ導きます。我らのために…」 私に対し斬りかかってくる。 この下僕は分かってない。 私を傷つけることができるのは彼だけで、彼以外に殺されることなどできないのだと。 私は億劫そうに手を挙げると、刃は私の手の前で止まった。 この下僕はどうやら勘違いしているようなので、一言だけ伝えておいてあげよう。 ―あなた達のことなんて、正直どうでもいい。大事なのは彼がいて、私がいること。 下僕にそれだけ伝えると、もう面倒になってしまったのでその下僕を塵にした。 再建された城を抜け、扉を開ける。 目の前に広がるのは、屈強なデーモン、頭の悪そうなドラゴン、意地の悪そうなコボルトたちの群れ。 …どうやら、私の厳命はちゃんと行き届いていて、その次の命令も行っていたようだ。 私は手を上げ、最後の命令を行った。 ―人間から全てを奪いとれ。金、土地、そして命― そして命令を出した後、また眠りに付くことにした。 狂おしいほどの、彼への想いを抱いて。 32 名前:栄光を君に[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 02:10:08.14 ID:0cql2pYr [8/11] ―ふと、周りが騒がしい。 今、何年なんだろうか? もう、彼は来てしまったのだろうか? とりあえず下僕を呼び寄せ、聞いてみることにした。 「龍王様!人間によって我らが駆逐されています!もう我々しか残っておりません…!」 どういう事だ? …まさか! 「龍王様…!早く逃げてください!あの男が…あの…あ…」 目の前で下僕が霧散する。 見覚えのある顔が来る。 私の好きなあの人が、今そこに佇んでいる。 しかし今はまだ姿を見せられない。 この奥のダンジョンを抜けた先で…相手してあげるね… 33 名前:栄光を君に[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 02:12:13.84 ID:0cql2pYr [9/11] 私はひらりと洞窟の奥へと進んだ。 そして最奥までワープした後、鏡の前に立つ。 目の前には、緑の髪と赤い目を持つ少女が佇んでいた。 いけない。このままでは彼が私を倒したことに罪悪感を抱いてしまう。 私は急いで姿と声を変えた。 醜い、化け物のような姿に。 やがて彼が、私のいる部屋の扉を開ける。 私はさも悪魔のごとく、彼に接する。 「ところでどうじゃ? わしと手を組むのなら、世界の半分をお前にやろう。」 乗ってくれるというなら、私は全てを彼に捧げてしまうだろう。 しかし、絶対に彼は私のところには来ない。 それは私が一番良く知っている。 現に彼は、嫌悪感をむき出しにして、私の誘いを断った。 ―これでいい、これでいいんだ。 心のなかでそう呟く。 彼は私を倒し、英雄になる。 私は彼の誇るべき1シーンに刻まれるのだ。 その反動で私はまた眠りについてしまうが、仕方ないこと。 これが私の約束であり、彼の約束でもあるのだ。 ―そうして、私は今も、彼と一緒に…生き続けている。

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