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「題名の無い短編その七十九」(2011/03/25 (金) 13:00:45) の最新版変更点
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86 :名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 21:02:02.59 ID:ZEoclIF5
午後十時、俺は暗い夜道を走っていた。
何故、俺は走っているのか。
奴が言うには
『お外は危険なことがたくさんあるから私のお家に一生いてね』
だそうだ。
俺にはやりたい事が一杯ある。それに、ようやく大手企業の就職が決まったのだ。
俺は働いて、結婚して、子供を作って、老後は寿命までのんびり生きると決めている。
だからここで捕まるわけにはいかないのだ。
タッタッタ、とテンポ良く走り始めてから二時間が過ぎた。
しかし俺がマラソン選手並みの体力を持っている筈も無く、
足取りは覚束ず、立ち止まってはいけないという脅迫観念に突き動かされ、
何とか歩きよりは速いというスピードで走っている。
シャツは汗にまみれ、足は悲鳴を上げているかのように痛み出す。
正直に言って、もう限界だった。
だが、休む暇もくれずに奴は追ってくる。
数メートル後方、振り返れば確かに奴がいる。
見た所軽い息切れだけで難なく俺に追いつけそうだった。この化物め。
奴の手にはナイフが握られている。脅しだとしても、怖いものは怖い。
奴の足音が段々大きくなってくる。
あぁ、俺もここまでか、と諦めた時、事は起こった。
キャっと小さい悲鳴が聞こえたかと思うと奴の足音がピタリと止まった。
その次には低い男の声。
「祐、早く逃げろ!俺が時間を稼ぐ」
この声は聞きなれた友人の声。
俺が三十分前にメールを送った。内容は支離滅裂で雰囲気だけは危険を感じ取れるような文章だった。
それでも友人は状況を察してくれたらしい。
俺は返事をすることもなく走る。
ありがとう、そして無事でありますように。
87 :名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 21:02:39.34 ID:ZEoclIF5
友人の助けが入った後、俺は逃げる事よりも隠れることにした。
このまま逃げ続けてもいつかは殺されてしまう、幸い近くには出来たばかりの大きな公園がある。
辺りを見回し隠れるのに適した遊具を探すとドーム状の形をした遊具を発見。
思ったより広いドーム、背の低い出入り口が一つだけ。
もしも奴がここに気付いたら俺は逃げ道がない、だがここしか隠れられそうな場所は無かった。
俺はドームの中に入り腰を下ろす。冷たいアスファルトすこし心地よかった。
乱れた呼吸を整え、しばらくするとかなり落ち着きを取り戻した。
しかし休息も束の間、奴の声が聞こえてきた。
「祐く~んどこにいるの~」
間延びした声、俺は胸に手を当て息を殺す。
「祐く~ん」
―ドクン
「祐く」
―ドクン、ドクン
足音と声が近づくに連れて動悸が激しくなる。
「ゆう」
―ドクン、ドクン、ドクン
治まれ、治まれ、そうは祈っても心臓はバクバクと動いている。
そして、俺のいるドームの目の前で足音が止まった。
出入り口からはスラっとした綺麗な脚が見える。つま先はこちらを向き今にも入ってきそうだった。
南無三と目をぎゅっと瞑る。
遅れて、がっかりしたような声。
「もう、帰っちゃったのかな、祐君。じゃ、また明日ね」
奴はそれだけ言うと踵を返し去っていった。
足音が聞こえなくなった辺りで俺は安堵と不安に包まれた。
友人は生きているのだろうか、また明日という事はまた俺は追われるのか、
拭えない不安がいくつも出て来る。それと同時に睡魔も襲ってきた。
疲弊しきった体を起こすのは無理そうだ。今日はここで寝てしまおう。
アスファルトに寝転がり目を瞑る。
次第に意識が保てなくなり、俺はすぐに眠りについた。
少し気になった点を挙げるとするならば、誰かの足音が聞こえた事だ。
88 :名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 21:03:20.04 ID:ZEoclIF5
俺は夢を見ていた。
忘れられない、ごく最近の俺と奴が別れることとなったあの光景。
誰もいない廃ビルの屋上。いがみ合う女が二人。
一人は奴、もう一人は高校の頃付き合っていた元カノ。
二人は昔、とても仲が良かった。
しかし、今となっては二人は恋敵となり、罵り合いお互いを傷つけた。
とうとう元カノは奴の首に手をかけた。そのまま絞めあげる。
奴はコートのポケットからカッターナイフを取り出し、元カノの手首を切りつけた。
奴は圧力から解放され咳き込み。元カノは切られた手首を押さえている。
そして奴はとどめをさそうと元カノの胸部へカッターナイフを突き刺した。
手首と胸部から血がとめどなく溢れ、元カノはそのまま死んでしまった。
恐らく人の死を目の前で見たのはコレが初めてだと思う。
そして人が人を殺す瞬間も。
俺は止めることが出来なかった。情けなくも俺は腰を抜かして動けなかったのだ。
奴は振り返り俺を見る。今まで見たことの無い位明るい笑顔だった。
そこで俺の夢は終わった。
ゆっくりと目を開くとドームの白い天井が見えた
伸びをしようと腕を真上に上げようとしたが右腕が上がらない。
何かが巻きついているような感覚と鎖のジャラという音。
何気なく右を見てみると奴が俺の腕を抱くようにして寝ていた。
俺の右手首と奴の左手首は仲良く手錠が掛けられている。
背筋は凍りつき、唖然としていると、奴は目を覚ました。
眠たそうに目を擦り、俺を見ると笑顔を浮かべだした。
俺は何も言えなかった。あの日の奴と今の奴が重なる。
「おはよう、祐君」
その声はとても明るく、どこか狂喜染みていた
149 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/14(月) 02:44:48.92 ID:iFBeYCIY [2/8]
「妹、いる?」
夜もどっぷりふけたバイト帰り
真っ暗なゴミ捨て場で、ボロボロの服の女の子にいきなりそんなこと聞かれたお前らならどうする?
普通なら警戒して全力で逃げるか適当なこと言って逃げる
誰だってそーする、俺もそーする
まあ、いつもだったらな
その日はバイト先でランクアップして時給が30円上がってハイテンションになってたのだ
そのせいかなあ。あんま警戒することもなく、臆面もなくこんなふうに言っちまった
「そりゃもう、くれるもんなら全財産(1万2千とんで8円)でも払うよ
え、何? お嬢ちゃんが妹になってくれんの? バンザーイ、やったな妹よ! 今夜はホームランだー!」
……痛い人とか言わんでくれ。それだけ昇給で最高にハイになってたんだ
そんでその娘、どうしたと思う?
怪しい男と思って逃げた? 失敬な、人聞きの悪い
少し笑顔を浮かべて、その場から歩いていなくなっちまった
何が異常だったって、口の中で小さく[お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……]って呟いてたことか
いやマジだって、マジマジ。幻とかそんなんじゃねーから
そんでうちに帰ってからダチに電話してそのこと話したんだ
顔はよく見えなかったけど、たぶん年下の娘に妹宣言された。うらやましいだろギャハハハって
そしたらそいつ、こんなこと言いやがった
「……ご愁傷様、って言うべきか? さすがに冗談だよな? その話」
「マジだから、酔っ払っても嘘ついてもねーから」
「………ネット繋がってるか?」
「あ? まあ一応」
「それなら、[妹、虐待、都市伝説]でググってみろ。俺に言えんのはそれくらいだ」
「待て待て待て待て。ちゃんと説明しろってば」
「じゃあな、大学一年からだから2年程度の付き合いだったが、お前は良いダチだったぜ」
「死亡フラグ立てんな! おいコラ! ……切りやがった」
あいつがフケた講義のテスト範囲、きちんと嘘予報を教えてやろうと誓いながら
グーグル先生に[妹、虐待、都市伝説]と打ち込んでみると……なるほど
あのバカの言ったことがようやく腑に落ちた
150 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/14(月) 02:45:14.55 ID:iFBeYCIY [3/8]
[都市伝説:兄探し
平成○○年 ×月▽□日 一家三人(父(48)、母(44)、長男(19))が惨殺死体となって発見された
その中でも長女(13)の姿が見えず、警察の捜査も虚しく今日まで見つかってはいない
その後の捜査で、長女は家族から肉体的虐待。長男からは性的虐待を受けていたということが判明
怨恨を動悸とした最有力容疑者として行方を追っている
都市伝説としては、兄に引きちぎられた服のまま、体には両親からの虐待の痕が残る少女として現われる
まず、彼女はあなたが男であったならこう聞いてくる
「妹、いる?」
ここで、絶対にいると答えてはならない。彼女は自分を虐待した兄ではない、優しい兄を求めている
そのため、自分が兄だと思った男には四六時中どこまでも付きまとい、少しでも邪険にすれば自傷行為
次にあなたの周りの人間。そして最終的には、兄であるあなたに害が及ぶでしょう
命が惜しければ、絶対に彼女の質問に答えてはいけない]
「あ、あははは……」
なにこれ? ジョークきついぜ
俺、この娘にあんなハイテンションで妹ほしいって言っちまったのか?
両親からの虐待の痕ってのは見えなかったが、まあ暗かったし、そんなにじっくりと見たわけでもないし
いやでももしかしたら、あの娘はこの都市伝説を騙ったイタズラかもしれん
そうだ、そうに違いない。そうと決まればさっさと寝よう! 明日は大学一限からあるしな! んじゃ、おやす―――
[アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー]
で、こんなタイミングで着信。しかも非通知。超やな予感しかしねぇ
「……もしもし」
『おやすみ、お兄ちゃん』プツッ
それだけ言って、電話は切れた
声はついさっき俺の横を通り過ぎた少女の声に瓜二つ
その日、俺は眠るために、もらいもんのブランデーを一気に飲む羽目になった
151 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/14(月) 02:45:43.16 ID:iFBeYCIY [4/8]
朝、まだ空気は冷たい時間、十分に一限には間に合いそうだ
……ブランデーを使っても、恐怖のために酔いつぶれるとまではいかなかった
携帯に電話かけてくるなんて間違いない。俺には、妹が憑いちまった
しかし大学にいけばダチも何人かいるし、少しは恐怖がまぎれるだろう
さっさと行って、ダチに話して癒されよう。そして昨日のバカには嘘のテスト範囲を知らせよう
そう思って、外への扉を開けた
「―――おはよう、お兄ちゃん」
そしてすぐに閉めた
一瞬しか視認しなかったが、肌にはいくつもの痣や切り傷、リスカの痕みたいなのが見えた
顔は伏せてた上に前に垂れた長い髪で見えなかったけど、頬は腫れたり痣になってるのがわかった
幽霊とかそういう類の物ってのは夜に来るもんだろ。今は朝だぞ、夜は墓場で運動会して朝は寝床でグーグーグーだろ
「なんでドアを閉めるの? 開けてよ、お兄ちゃん! 開けなさいよ!」
ドンドンって音が、今じゃガンガンってな音になってる。金属を爪で引っかくような音も重なってるのが酷く耳障りだ
「ねえお兄ちゃん、意地悪しないでよ。昨日言ってくれたでしょ? 妹がほしいって
わたし、初めて妹が[ほしい]って言ってくれる人に会ったんだよ。それなのに、どうしてこんなことするの
……ああ、開いちゃった……これじゃあお兄ちゃんに会えない……また来るからね。もう酷いことしないでよ」
ガンガンってどころの話じゃねぇ、鉄パイプで戸をぶん殴ってるような音がようやく止んで、恐る恐るドアを開く
……人って、恐怖すると言葉すら出ないんだな。ドアは血まみれ、どんな力でやったのか分からないが、指の爪がドアに食い込んでる
折れたっつってたけど、道具も何も無い以上、あの音は手でドアを殴って出した音、つまり開いたってのは、あの娘の、手の傷
恐慌状態になった俺は、残ってた酒を飲もうと戸棚を開ける
その酒瓶の底に沈んでいたのは、長い黒髪がびっしり
悲鳴を上げて床に突っ伏すと、目を凝らしてようやく分かる薄い小さな足跡の形
それがベッドの周りにいっっっぱいついていた
見られていた、しかも、昨晩からずっと
気絶寸前になりながら、布団を頭からかぶって震えた
何をすればいいかなんて分からない
いや、何も考えたくなかった
152 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/14(月) 02:46:14.55 ID:iFBeYCIY [5/8]
気絶していたのか眠っていたのか分からない
とにかく夕日が窓に差し込む頃、俺はようやくベッドから身を起こした
逃げていても始まらん、とにかく何かしよう。そうしなきゃ昨日のバカに言うように死亡フラグが確立しちまう
そんなふうに考えられる程度には、脳味噌はすっきりしていた
まずは、昨日のサイトでももっかい見てみるか……
何か分かるんじゃないかと思って読み込んでみても、昨日と変わったことが書いてあるわけでもない
しかし、俺の心に、そんなこととは別のところから、まったく関係ない感情がふつふつと沸き上がってきた
「こいつら、マジでゴミだな……女の子、しかも自分の娘や妹を苛めてなにが楽しいんだクズが……」
なんか、自分の危機も忘れて(自称)妹の家族におもいっきり憤りを感じていた
そして次にやってきたのが、憐憫
「こんなクズ共のとこからいなくなって、今じゃ優しい兄を探してんのか……泣かせるじゃねぇか畜生め……」
そうして暫くもらい泣きしてから、自分がその兄候補にされていることを思い出す
けど、もう恐怖は感じなかった
その代わりにやってきたのが、強い義務感
「よっしゃー! 俺が今日からお兄ちゃんだ! この娘が生前なれなかった分、思いっきり幸せにしてやんぜコンニャロー!!」
生前って、生きてんのか死んでんのかわかんねえけど、もうどっちだっていい
座右の銘は[猪突猛進]
好きな言葉は[成せばなる、洗えば食える、なにものも]
そんな単純男が俺だ、俺の身自体どうなるか危ういが、悩むなんてガラじゃねえ
ドアスコープを覗くと、当然のように妹がいた。ひたすらに俺が出てくんのを待ってんだろう
さっきまでは怖い行動でしかなかったそれが、今じゃひどく健気な姿にしか見えん
しかし今ご近所さんに見られるのはまずい。ドアの血痕だってまだ拭き取ってねぇし
そう思って、ドアを少し開けて、そこから抱き込むようにして妹を部屋に招きいれた
153 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/14(月) 02:46:42.90 ID:iFBeYCIY [6/8]
ここで、俺は初めて腕の中の妹の顔を間近で見た
整った顔立ちながら、さっき見えた頬の痣や目元の酷い腫れのせいで無残なものにされている
よく見ると、さっきのドア叩きで開いたリスカ痕の他にも、腕には煙草の火の痕も多々見受けられた
クズが。こんな娘を散々苛めやがって。そう思いながらも、なんでもない口調で言葉をかけた
「おかえり。今日の晩飯何食いたい? 俺はカレーでも作ろうと思ってんだが」
「…………」
「あ、さっきドア開けなかったこと怒ってんのか? ごめんな。俺もちょっとテンパっちゃってな」
「…………」
「あと、着替え用意しといたぞ。んなボロボロの服じゃ嫌だろ?
俺の昔の服だから大きいだろうけど簡便な。その代わりと言っちゃ何だが、パンツだけは新品のトランクスを開けたぞ」
「……………お兄ちゃん」
妹が、ぎゅっと俺にしがみついてくる。やっぱこの娘幽霊じゃないな、暖かいし
[アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー]
おいおい、この兄妹の会話に電話で割り込むなんて無粋なバカがいたもんだ。……しかも昨日のバカだよ、まあ通話っと
「よう相棒、まだ生きてるか?」
「ああ、まだ死んでねーよ。そのかわりたった今可愛い妹が一人できたとこだ」
「は?」
「以上、通信終わり」
色々と叫んでるのが聞こえるが気にせず電話を切って、ついでに電源も切っちゃう
俺の胸に顔を埋めてる妹がどんな顔してんのか分からんが、不満オーラ出してるのだけは分かる
初日からこれはマズい。ちゃんとご機嫌を取ってやらねば
「よーし、んじゃカレー作るか! 今日は俺に妹ができた記念に牛肉いっぱいいれちゃうぞー!」
「…………おー」
「元気ないぞー!」
「お、おー! こんなふうにわたしを受け入れてくれたお兄ちゃん、はじめてで………」
「バーカ、なに涙声になってんだ。今日からずっと、お前は俺の妹だ」
ちょっと気障っぽく決めて、妹を強く抱きしめた
そういや、名前もまだ聞いてなかったな
それに気が付いたのは、カレーができた後の事だった
154 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/14(月) 02:47:11.57 ID:iFBeYCIY [7/8]
それからは、大変の連続だった
都市伝説にあるように、妹は四六時中俺についてくる
別に、慕われてると思えばなんてことないが、周りからは色々と言われたよ
バイト先のコンビニに俺が上がるまでずっと居座る。大学の講義にも、飲み会にもついてくる
店長やダチは上手く誤魔化した(例のバカは正しいテスト問題を餌にして黙らせた)が、飲み会帰りにポリに見つかったのにはまいった
妹おぶって走って逃げ切れなかったら、二人で留置所に入るとこだった
しかし置いていけば寂しがるし、部屋が妹の血で汚れてるってことにもなりかねない
だから俺は合コンだろうが旅行だろうが、まずは妹を一番に構っている
みんな溺愛しすぎだと呆れ顔だが、俺は別にいいと思ってる
で、一番の問題は、明日なんだよコレが………
「どうすっかなぁ……」
「……わたしは、お兄ちゃんの妹……否定する人は嫌い。大っ嫌いだよ」
「しかしなぁ……親父とオカンにはどう言ったもんか……」
世界で一番誤魔化しがきかない二人。新しくできた妹って、この二人にどう言えばいいのよ
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん………」
ああ始まった、こいつが不安になったときの一秒間16回お兄ちゃんコール
そしてそのままほっとくと自傷しかねないほど顔色が悪くなってくる
せっかく痣や腫れも引いて可愛い顔が見られるようになったのに
「ああもう、ウジウジ悩んでもしかたねえ! 単純に行こう単純に!」
「……単純?」
「そー、単純」
両親にすら妹と言い張る。最悪彼女だとでも言っとけば黙るだろう
仕送りが途絶えても、まあキツイがどうにかなる
三年で単位を取れるだけ取って、四年次の学費はバイト増やしてなんとかしよう
妹を養う立場にもいるわけだしな
「……ごめんね、お兄ちゃん。……でも」
「でも?」
「………一生、放さない」
「んなこた、お前をこの家に入れた時から承知してらぁ」