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753 名前:日常に潜む闇 第13話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 00:26:18.50 ID:Ymmev2Gb [2/8] ~Side of Misae~  正直なところを言えば、誠二の後を追いかけたかった。  なぜ私を突き飛ばしたのか。どうして私を拒絶したのか。私たちは一心同体なのだ。どこにも拒絶する要素もされる要素もない。あるはずがない。いや、あっていいはずがないのだ。  もしあるとすれば原因は私自身、あるいは――あの女か。  誠二は私を置いていった後、ファーストフード店へ入って行った。  ジャンクフードと揶揄されるような毒物にも等しい物を口に入れるくらい空腹ならば、私に注文すればいいのに、と思う。  しかしそうではなかったらしい。外から眺め続けていたが、誠二は二階の窓ぎわの席に座った。その時の表情から察するに誰かと待ち合わせしていたようだ。  恐らく、電話の主―― 「っ…………!」  苛立ちを紛らわすように、天城美佐枝は親指の爪を噛む。  ここで動いてはいけない。まだ何も確証がないではないか。待ち合わせていた相手が女、ましてやあの後輩であるなどという証拠はどこにもない。さらに言えば、あのときの誠二の表情はどちらかと言えば同性の友人と会った時のものだった。問題はない。問題は……ないはずだ。  だが部屋の片隅の汚れを取り除くことが難しいように、心の隅っこに残る不安まで拭うことはできない。この目で確認しなければ、確実な安寧を得ることには至らない。  ただひたすらに誠二の姿を見つめながら、行くべきか行かざるべきかを考え続ける美佐枝。  通行人が時折、彼女に奇異の目を向けることが何度もあったが、それに気づくはずもなく刻一刻と時は過ぎて行く。  しかし30分くらい経過したあたりだろうか。  誠二がこちらの存在に気づたらしく、美佐枝と視線が交差した。  何を思ったのか、彼は表情を一変させ窓際から姿を消してしまう。  こちらに来るのか?  そう思った時、美佐枝の身体は己の意思とは無関係に動いていた。  少なくとも店の出入り口側からは見えない位置にまで移動して、誠二が店外へ現れるのかを見定める。  ややしばらくして誠二が店から出て来た。一瞬周囲を探るように視線を動かしていたが、またすぐに歩き始めた。  恐らく私の姿を探していたのだろうと美佐枝は推測する。  自分のことをしっかりと思っていてくれたことに少し嬉しく思う美佐枝。  しかし彼女は、今は誠二の後を追いかけるべきではないと律する。誰と会い、何を話していたのか。確認する必要があるからだ。  一度深呼吸をすると、天城美佐枝は店内に足を踏み入れる。躊躇うことなく二階へ上がり、誠二が居たであろう座席に向かう。 754 名前:日常に潜む闇 第13話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 00:27:04.65 ID:Ymmev2Gb [3/8]  そこには果たして、雪下弘志が座っていた。  なぜ、この男と……。 「ちょっといいか? 後輩」  誠二の行動に、果たして友人として会っていたのかという疑念を抱きながら美佐枝は声をかけた。 「誰かと思えば副会長さんじゃないですか」  対する弘志の反応はいつも通りだ。しかし一瞬だけ表情が硬くなったのを美佐枝は見逃さなかった。  誠二はこの男と私に関する話をしていたのだ。  いや、情報屋に利用されていたのか? だとすれば、この男、許すわけにはいかない。  そう考えれば考えるほど美佐枝の内側からふつふつと怒りが沸いてきた。 「お前に聞きたい事がある」 「それは仕事の依頼ですか?」 「好きに解釈すればいい」  ほとんど社交辞令に近いようなやり取りであるにもかかわらず、その所作ですら今の美佐枝には苛立たされる原因でしかならなかった。 「それで、自分に聞きたい事とはなんでしょうか?」  こちらの雰囲気を察したのだろう。緩慢な、しかし簡潔な物言いをする情報屋。 「ああ。久坂誠二のことだ」  弘志とは真向かいの位置に座りながら美佐枝は告げる。  それは交渉の合図。どこまでの情報を、いかような報酬でやり取りするのかを決めるためのものだ。 「親友を売ることはできない。それは最初の取引の時に行ったはずですが?」  すかさず拒否の姿勢を取る弘志に、美佐枝は心中で冷やかな態度をとる。  友人面で情報を引き出していた下賤な輩が、こうもぬけぬけと親友という言葉を、友情という気持ちをまるで秘宝かのように扱う。恐ろしく滑稽なものに思えた。  しかし嘲笑を面に出してはいけない。美佐枝は暗示のように強く自分に言い聞かせる。あくまでもいつもの自分。冷静沈着な態度を崩してはならない。 「なに。そういきり立つな。私は誠二を守るために動いている。そのためにはもっと情報が必要なんでな」 「…………その言葉の保証は?」 「私の信頼といったところか」 「と、いうと?」  慎重な態度を見せる弘志に、まるで蛇のように狡猾な人間だ、と美佐枝は思う。  言葉の端々からの推測される事柄を信じない。相手から確実な言葉を、あいまいさを一切なくした確実な取引条件を手に入れるその慎重さ。  実に腹立たしい。 755 名前:日常に潜む闇 第13話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 00:27:18.51 ID:Ymmev2Gb [4/8] 「皆は私を信頼している。しかし全校生徒の苛めの対象である久坂誠二と交際していることが発覚すれば、私への信頼は薄れるだろう。節操無しでろくでなしの男と付き合っている、エリートにあるまじき副生徒会長様、とな」  まるで獰猛な捕食動物のように、獣が牙を見せつけるような不敵な笑みを浮かべる。  無論、美佐枝自身としては心情的な感覚であった。ところが弘志の反応を見るに、どうやらそれが顔に出ていたらしい。  下種な情報屋は顔の半分を手で覆い、困り果てた様子を呈した。 「今回の一件、当方では生徒会が関与しているように思われるのですが、そのような疑いのある貴女に情報提供できると思いますか?」 「いつから君は探偵ごっこも兼業するようになったんだ?」  己の失態に一瞬焦りを覚えた美佐枝だったが、状況がこちら側に傾いたことで一気にたたみかける。 「対象が被害に遭う原因となった情報。その拡散速度があまりにも異常だと思いませんか? 4月が始まって間もないというのに、一瞬で広まりました」 「ほう?」 「情報の発信源を調べたところ、面白いことが分かりましてね。ほぼ同じ時間に、複数の人間から発信されていました」 「つまり、真の流出源が隠ぺいされているということか?」  この男、意外と深いところまで情報を掴んでいる……?  ただの使い勝手のいい情報屋だと思っていたが、やはり侮れなかったか。  ここは何も知らぬ振りをしてやり過ごしてみようか。 「ええ」 「しかしだからと言って生徒会が関与している証拠にはならないだろう?」 「もちろんです。そこでこの学園のシステムが浮上してくるんですよ」 「なるほど。そういうことか」  相槌を打って流す。もちろん理解しているという風に見せつつだが。  まさかこれほどまでに頭の回る奴だとは思っていなかった。  現在も進行中の念入りな下準備まで暴かれる可能性がある。場合によっては早急な対処を考えておかなければならないかもしれない。 「ところが、だ。これには致命的な欠点がある。情報公開制度を忘れていやしないかな?」 「……もちろん知っていますよ」  敢えて欠点を指摘してやるが、もちろんこの男の言葉を生徒会への批判と受け取って反論したまでのこと。  少なくとも雪下弘志にはそうとしか解釈されないはずだ。  …………どうする? いっそのこと丸め込む作戦に移るか? 「まあ、これは仮定の話に過ぎないが、生徒会長なら或いは関与しているかもしれない」  自ら身内の疑いをさらけ出す美佐枝。  もちろん下手に刺激することの危険性を理解していない彼女ではない。敢えて身内の疑惑を指摘することで相手の注意を逸らし、自分に火の粉がかからないようにするのが狙いだ。 756 名前:日常に潜む闇 第13話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 00:27:51.26 ID:Ymmev2Gb [5/8] 「…………どういうことでしょうか?」  魚は釣り餌に食らいついた。 「生徒会長がどういう人間か、君なら知っているだろう? アレは快楽主義者だ。無論ただの快楽主義者ではない。様々な能力に長けた、性質の悪い存在だ。己が目的のためならば、血縁者であろうと贄として捧げる。そして私はそれを間近で見て来た」 これは事実だ。問題は相手が知っているか知らないか。知らないとしたら、これを真実と取るか否かだ。 真実と嘘は一度混ざり合ってしまえばそうそう分かるものではない。 人を頼らねばならない情報屋ならば、たとえ真贋を見破る能力を磨いていたとしても、それは困難を極める。 「確たる証拠がない以上、この話はただの世間話のひとつにすぎません。それよりも、貴女が欲しているという情報はなんでしょうか?」  勝った。  美佐枝がそう思った瞬間だった。  ここで相手の懐に切り込むように、私が欲している情報を引き出せればよいのだが――はて、何を求めていたのだったか。 「そう、そうだな。誠二の家、誠二の趣味、そのあたりでも聞いてみようか」 「では報酬は?」 「そうだな。契約違反の担保に皆の私に対する信頼を。報酬はいつものブツで」 「交渉完了ですね」 「それと、紬原友里についての情報も頼みたい。こちらは困難だろうから、前払いでこれくらいでどうだ? 満足いく内容であれば追加報酬も考えておく」  そう言って美佐枝のブレザーの内ポケットから取り出されたのは一枚の紙切れ。  それはおよそ高校生が持っているとは考えられないような額面が記された小切手だった。  弘志はしばらくの間思案するような表情を浮かべていたが、それを慎重な手つきで制服のジャケットにあるポケットに仕舞い込んだ。 「期限は、最大で一週間。よろしいですね?」 「構わない。良い仕事を期待しているぞ、後輩」  相手の返答を聞くこともなく美佐枝は席を立った。 757 名前:日常に潜む闇 第13話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 00:28:22.22 ID:Ymmev2Gb [6/8] ~Side of Yuri Tsumugihara~  午前5時00分  紬原友里は自然と目を覚ました。  まるで直立不動のまま仰向けに寝かされたかのようにベッドに横になっていた彼女は、腹筋だけでむくりと起き上がる。  視線だけ動かし、時計を見て現在時刻を確認する。 「…………」  無言でベッドから降りる。寝間着を脱いで、壁際のハンガーに掛けていた制服に身を通す。  まるでロボットのように無駄のない動きの一方、頭ではただ一つのことを念入りに、周到に、容赦なく考えていた。  すなわち久坂誠二との関係をどうするのか。邪魔な雌猫をどう排除するかである。  この間からどうにも誠二に接しにくい。周りの人間は邪魔になるし、なによりも彼にまとわりつくあの先輩が目の上のたんこぶだった。  あのクリスマスの日、誠二は私を助けてくれた。しかし誠二は私を見てくれない。私だけを見てくれない。どうして他も見てしまうのか。私だけ……私だけを…………。  その時、携帯電話が振動した。普段からマナーモードに設定しているためだ。  画面を見れば、上三ケタが学園であることを示す番号だった。  何か問題でも起こしてしまったのだろうか、と内心不安に思いつつ通話ボタンを押す。 「もしもし…………?」 『こんにちは。いや、いまはおはようと言うべきかな。私は久坂誠二の兄、久坂誠一だ』 「生徒、会長……?」  友里は困惑する。  一体なぜ生徒会長がこの携帯電話の番号を知っていたのか。いや、どうして電話をしてきたのか。 『驚くのも無理はない。しかし今の私は生徒会長としてではなく、大事な弟とその伴侶となる予定の女性を気遣う一人の兄だ。これがどういう意味か分かるかな?』 「つまり、私と誠二君が結ばれるよう助力してくださる、ということでしょうか……?」 『良い答えだ。左様。その通り。That’s right.そして私は君に重要な情報をもたらすために電話をしている。時間はあるかな?』 「あります」  時計を見るまでもない。  誠二と結ばれるための重要な情報なのだ。これに幾ら時間を使っても浪費にはならない。 『まず、弟が住んでいる家の住所だ』  電話越しに聞こえる住所を急いで書き留める友里。 『次に趣味。そして好きなもの。嫌いなもの』  次々ともたらされる情報を、一字一句逃すまいと目にもとまらぬ速さでノートに書き込む。  友里はこれまで知ることのできなかった誠二の内面に触れ、どうしてか悦びを、愉悦を感じていた。 『そして最後。これは、ある意味でワイルドカード。使い方によっては敵を一掃できるが、逆に自滅する危険もある』  誠一はトーンを落とし、聞いてくる。まるで風が耳元で囁くように。いや、まさしく悪魔の囁きそのものだ。 『今回の最強にして最凶の、もろ刃の剣。それでも聞くかな?』 「……聞きます」  断るはずがない。誠二と結ばれるために、友里にあるのはただそれだけだった。 『いいだろう』  やはりというべきか、誠一は耳元でほのめかし、そそのかすように囁き続ける。 『我が弟久坂誠二が苛められている原因だ。あれはある目的の下、意図的に流された情報だ』  その目的、情報の発信者は――と誠一は続ける。  途端、表情に乏しい友里の顔が歪む。憤怒に、そして最大の切り札を手に入れたことに。  全てを話し終え、誠一は最後にアドバイスだ、と言ってこう告げた。 『誠二が自分のものであると示すには、何かしらの形で自分の色に染めるのが一番だ。洗脳なり薬なり、もしくは自分の身体の一部であってもいい。どういう意味か分かるかな?』 「私の全てが誠二君のものであるのだから、私の一部を共有していてもおかしくはない、ということですね」  自然と口元から笑みがこぼれる。 『そういう解釈も有りだ。では、君たちに幸多からんことを』 「はい。ありがとうございました」  通話を終了し、携帯電話をテーブルに置く。 「ふふ……ふふふ…………待っててね、誠二君。私が助けてあげるから。私が救ってあげるから」 758 名前:日常に潜む闇 第13話 ◆4wrA6Z9mx6 [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 00:29:16.26 ID:Ymmev2Gb [7/8] ~Side of Seiichi Kusaka~ 「くくく……久しぶりに楽しいことになってきたな」  誰もいない生徒会長室で誠一は一人呟く。 「もう少し。もう少しで布陣は完璧なものになる。やはり実験素材が良いと、研究者としても実に心地が良いものだ」  執務机の上には顔写真の張られた報告書のようなものが何枚か投げ捨てたように置かれている。  久坂誠二。紬原友里。天城美佐枝。そして雪下弘志。  フィジカルデータや趣味、家族構成、対人関係など、プライベートも個人情報もどこに消えたと言わんばかりに詳細に記述されているそれらの書類を誠一は手に取り、口が裂けたかと見間違うくらいに頬を吊り上げて笑う。 「くくく……くははははは! 素晴らしい。素晴らしいぞ! さすが我が策、我が智謀! 軍師策に溺れることなかれとは言うが、こればかりは笑わずにはいられないな。ふははははは!」

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