「The Hanged Man」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

The Hanged Man」(2011/03/25 (金) 14:01:01) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

691 名前:The Hanged Man  ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 03:31:40.39 ID:1bccnhWo [5/13] 私が彼に出会ったのは、雪の積もる小さな島でのこと。 それも一晩の…夢のなかの出来事だ。 私はドラゴンを退治するためにその島を訪れ、その島で彼と出会った。 一目惚れだった。 私は彼に一緒に来ないかと誘った。 彼はやることがあるから行くことは出来ないと断った。 そして…別れた。 たったそれだけの夢なのに 一晩だけの夢なのに ―私はそれを忘れることが…出来なかった。 私はこの大陸を支配する、巨大な帝国を斃すために、とある反乱軍を率いている。 星に導かれ…と言えばかっこいいかもしれないけれど、 最初はただの1個中隊程度の戦力しかなかった。 ただ… 偶然にも帝国を憎んでいる人が近くにいて、 偶然にも考えに同調してくれる人がいて、 偶然にも自分を慕ってくれる人がいて、 いつの間にか、大きな軍という姿に変わっていた。 692 名前:The Hanged Man  ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 03:32:47.26 ID:1bccnhWo [6/13] 私は彼らの期待に応えるため、徐々に地方から解放をしていった。 やがて旧王都を解放し、敵本拠地へ進軍をしていると 元皇子と出会った。 私たちの戦いぶりを見て、反乱軍に参戦したいのだという。 私はもちろん断った。 何故なら、元とはいえ皇子に危険を負わせるわけにもいかないし、 なによりこの男の視線が嫌に気になってしまったからだ。 自分が丁重に断りの言葉を告げると、彼は吐き捨てるかのようにこう言った。 「 しょせん、貴様らも帝国と同じ。  頼んだ私がバカだった……。  さらばだ。」 元皇子と別れ、進軍すると、北からの援軍がきた。 なんでも北の大陸が独立を果たしたという。 私たちの大陸の状況を鑑み、少しでも手助けしたいという義勇軍が私たちと合流してくれた。 そして、私は見てしまう。 その中に 私が忘れられなかった 初恋の人を ―結論から言おう、彼は私を覚えていてくれなかった。 それもそうだろう。 たった一晩の夢で、たった少しの間一緒にいただけの仲間… それも相手が見ているとは限らない夢。 それでも…それでも私は…期待していた… その日、私は自分の部屋で、恥も外聞もなく大声で泣いた。 693 名前:The Hanged Man  ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 03:34:08.43 ID:1bccnhWo [7/13] ―私が率いる反乱軍はさらに進軍をし、伝説とも神聖なる物とも呼ばれる武具や装飾品を手に入れた。 中には真の英雄のみが持てると言われる聖剣もあった。 私はそれを手にしたとき、脳裏に強烈なイメージが焼き付いた。 この武器は、私があの島で携えていた武器と同じ…! やはりあれはただの夢じゃなかった! きっと、きっといつかあの人も私を思い出してくれる… この剣を見せ、大陸を平定出来れば…! そこから数ヶ月は私が獅子奮迅のごとく進軍したこともあり、一気に各地の都市を解放していった。 この戦いが終われば彼が私を見てくれる。きっと…いや、絶対に…! …しかし、その幻想も夢に終わってしまった。 彼に、浮いた噂が流れたのだ。 ―北の義勇軍指導者は、同軍所属の聖母とも呼ばれるプリーストと恋仲にある。 この噂を聞いたとき、私は目の前が真っ暗になった。 彼は私のことなど本当に覚えてないのだ。 あの夢は私が勝手に見た夢で、ドラゴンを倒したのは幻で、彼を独りよがりで覚えていたことになる。 嘘だ 嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!! 彼が私を覚えてないはずがない! 私が彼を忘れないはずがない! あの夢は真実で!ドラゴンを倒したのは本当で!彼も私のことを覚えているんだ…! ―いや、もう覚えてなくても、知らなくても…いい… 彼を手に入れるためなら…どんなことでも…そう、どんなことでも… 694 名前:The Hanged Man  ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 03:35:22.16 ID:1bccnhWo [8/13] 私は、プリーストを一人解雇した。 戦力にならないし、お金ばかりかかるし、なにより目障りだったからだ。 彼が今、私の前にいる。 私は今、彼と話しているのだ。 なんという幸せなんだろう。彼とふたりきりで話せるなんて夢のようだ。 死んでもいい。もうこの時間が続くなら死んでもいいかもしれない。 話している内容が、あの泥棒猫のことじゃなかったら…だが。 彼は、私があの女を解雇したことを問い詰めに来たようだ。 たしかに腹立たしいこともあるだろう。私だって自分の信頼する部下を勝手に解雇されたら、離反だってするかもしれない。 だがケダモノは別だ。 信頼どころか戦力にすらならない、よりによってあのような噂を流す奴と彼を一緒になんてできるわけがない。 でも、本当のことを言うと彼は怒るだろう。 だから私は努めて、「彼女を大事に」思って、「ここで死なせるわけにはいかない」ことを強調し、「国で待っていて欲しい」と伝えた。 彼は言葉に詰まったような表情になると、私に感謝の言葉を述べてくれた。 私は当然のことをしただけなのに、お礼を言われるとは逆に恥ずかしくなってしまう… もう、私は迷わない。彼に…あの人に近づく女どもは全て排除しよう。 何があろうとも、私は彼を失うわけにはいかないんだ… 695 名前:The Hanged Man  ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 03:36:50.79 ID:1bccnhWo [9/13] やがて私は、敵の本拠地たる帝都へ攻め込んだ。 途中、いろいろな不届き者が彼に擦り寄ったが、全て解雇するなり、危険な都市に解放へ向かわせたりした。 そのせいでなにやら民衆の支持が下がってしまったようだが、仕方ない。 彼を失うくらいなら、民衆を全て無くしても構わない。 大体私はこの大陸の覇者になる気はない。 散々断ったのについてきたこのバカ皇子にさっさと全てを渡して消えたかった。 なにより、この皇子は私に対し、嫌な目を向けてくる。 欲情しているような、視姦されるような…とても気持ちの悪い目。 私の体は全てあの人のためにあるというのに、この男は本当に気持ちが悪い。 この目を向けてくれるのがあの人だったら… ―いけない、下着をかえてこよう。 帝都内での最終決戦前夜、私は皇子に呼ばれた。 皇子は私に告白をしてきた。 「君のような人を探していた。この私と結婚して、二人で国を治めよう。」 こいつ…出会ったときに言った言葉を忘れたのか? 私のことを帝国と同族扱いしていなかったか? 吐き気がする。虫唾が走る。 今すぐこいつを叩き切りたかったが、今殺してしまうと私が王位につくはめになってしまう。 だから私は、またも丁重に断った。 その時、またあのバカは私に何か言おうとしたが、口を噤んで下がれと言った。 その命にしたがって下がるとき、あのバカの視線が、前とは少し違うことに気づいた。 ―もうすぐだ、もうすぐ終わる。 終わったら、あの人に会いに行こう。 好きだと、ずっと好きだったと伝えよう。 あの人と一緒に喜びたい。 あの人と一緒に悲しみたい。 あの人と一生を共有したい。 ずっと…ずっと… 運命が…二人を分かつまで… 696 名前:The Hanged Man  ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 03:38:07.49 ID:1bccnhWo [10/13] ついに、邪悪の根源たる女王と、その黒幕である賢者…そして邪神を討伐することに成功した。 王都に戻ると街はお祭り騒ぎで、 人々は喜びに溢れていて、 世界は私たちを祝福してくれているようだった。 王都にもどると、私をリーダーに立てた占星術師の老人が「王位について欲しい」と相談された。 今まで見守り、面倒を見てもらった老人には悪いが、この国には既に王位継承者がいる。 そして私には、この大陸よりも大事なことがあるのだ。 私はそのことを老人に伝えると、老人は悲しそうな、でも嬉しそうな顔をして 「あなたの進みたい道を進みなさい。」 と応援してくれた。 はやくあの人に会いたくて、道を急いでいると あのバカ皇子が私の前に現れた。 急いでいるというのに…! 挨拶もほどほどに通りすぎようとすると、こいつがポツリと言った。 「本当に、私と結婚していただけないのだな?」 当たり前だ。何を馬鹿な… ………なん…だ……? 私の、脇腹に、短剣が、埋まっている。 ふと、周りを見ると、2~3人の騎士がいた。 見知った顔もいた。最初の頃から戦っていた仲間もいた。 「 …勇者殿! ごかくごをッ!」 ああ、つまり私は今、裏切られているのか。 「 英雄殿にいられては、いつの日か  ゼノビア王国の覇権をめぐる  争いが起きてしまうことだろう。 」 頬にうっすらと笑いを浮かべ、冷ややかな目で私を見ている。 こんなところで…死ぬのか…私は… あの人に…彼に気持ちを伝えられぬまま… 手が、無意識に虚空へ伸びる。 しかし、あの人の手すらも掴めぬまま、私の意識は闇に落ちた。 「―っかり!しっかりしろ!」 …重い瞼を、少しずつ上げる。 目の前には、愛おしい君の姿。 ああ、なんて精悍な顔つきだろう。 でも、泣かないでくれ、せっかくの色男が台無しだ… 「もっと早く気づいていれば…っ!もっと早く…くぅっ…!」 彼は私を抱えて走ってくれているらしい。 夢のようだ。いや、もしかしたら夢なのかもしれない。 私はもう…死んでいるのかもしれない。 ふと、彼の脇に指している聖剣が見えた。 私は… 1.その聖剣は昔、夢で見たことがあると話した。 2.その聖剣を、彼の心臓に突き刺した。 697 名前:The Hanged Man Side A  ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 03:39:18.38 ID:1bccnhWo [11/13] 「その聖剣…私は…夢で見たことがあるんだ…」 意識が少し朦朧とする。血が…足りないのかな… 「忘れもしない…私が…占星術師に呼ばれる前に見た…夢…」 私は…何を言ってるんだろう…彼は覚えてない…って…言ってた…のに… 「雪の降る…小さな島で…君と…ドラゴンを…討伐したんだ…」 止まらない…私の口が…声が… 「君はその剣を握り…ドラゴンを…倒したんだ…」 やめて…もう…やめて…私… 「君に…一目惚れだった…今も…好き…大好き…だよ…」 もう…しんでしまうというのに…私は彼を…苦しめて… 「言えた…やっと…言えた…」 伝えたい想いが…止まらない… 目から…涙が溢れてくる… もう、思い残すことも…ない。 「僕も…夢をみたんだ…」 …え? 「北のアルカナに会う前夜…雪の降る小さな島で…ドラゴンを討伐したんだ。」 「君がこの剣を握り、君と一緒に…討伐したんだ…」 そんな…まさか… 「僕も君に一目惚れだった…君が好きだ…大好きだ…!」 嬉しい…あの夢は…嘘じゃ…嘘じゃなかったんだ… 「怖くて言い出せなかった…夢の君が一緒だったと確信が持てなかった…  君に…君に拒絶されるのが怖かったんだ…」 彼が私を抱きしめる。 すっかり血が抜けて、冷たくなってしまった私を。 「…ありがとう。あなたの言葉で…私は救われた…」 もう、意識を保てないや… 「あなたの道に栄光があらんことを…愛してる…」 願わくば…愛おしい…君に…祝福…を… 大陸は、皇子の手によって奇跡の統一がなされた。 だが、その影で一人の英雄が死んだことを知る者は少ない。 698 名前:The Hanged Man Side B  ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 03:40:28.95 ID:1bccnhWo [12/13] 「え…?」 愛しい彼が驚く。無理もない。 心臓に、剣が突き刺さっているのだから。 「私は、あの雪の降る島で君と出逢ってから…君を忘れられないんだ。」 彼の膝が地面につく。それでも私を離そうとしない。 「君が好きだ…大好きだ…君を誰にも…渡したくない…」 心臓に刺さった剣をさらに押し込む。彼の血が私にかかる。 「渡すくらいなら…渡すくらいなら…っ!!」 目から涙が溢れる。 言いたかった、伝えたかった想いが… 彼を…渡したくない…誰にも渡したくない…!! さらに剣を押し込もうとすると、ふと強い力で私は抱きしめられた。 彼が、私を抱きしめていた。 「僕…も…夢を…みたんだ…」 ゆ…め…? 「北のアルカナに…会う前夜…雪の降る小さな島で…ドラゴンを…グッ…討伐したんだ…」 そんな…そんなまさか…ああ… 「僕も…君が…好きだ…大好き…だ…」 彼の、腕の力がなくなった。 私より、私より早くこの世界から旅だったのだ。 私は彼の抜け殻を抱きしめる。 「…ありがとう。」 私も、意識がもう保てない。 「栄光が…あなたとともにあらんことを…」 願わくば…あなたと…一緒に…生きて… 大陸は、皇子の手によって奇跡の統一がなされた。 だが、その影で二人の英雄が死んだことを知る者は少ない。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: