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724 名前:湯雲村立悶煩高等学校 ◆PJPg7YdM9U [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 19:26:41.27 ID:e8Lgrb5u [1/3] 「おいっ、繁太ッ。繁太はいねぇ~のかぁッ」  四時間目の終了を告げるチャイムが鳴り終わるのを待たず、僕の名を呼ぶ叫び声が廊下に轟いた。  聞くのも嫌になるがさつな声である。  身をすくめて黙り込んでいると、ガラガラと音を立てて扉が開かれた。  と思うと、恐ろしく長身の女子生徒が教室に入ってきた。  うちのクラスの女番長、イビル嬢である。  授業が終わってから教室に入ってくるのを見ても分かるだろうが、彼女はとんでもない無法者なのだ。  ここ、湯雲村立の悶煩高等学校じゃ、教師を始めイビル嬢に逆らえる者などいない。  厳に今も教師たるレイア先生が注意をするどころか、彼女に見つからないようコソコソと教室を出ていくところだ。  レイア先生も家庭生活じゃ夫婦仲が冷え切り、やる気をなくしているそうだからなあ。  それをいいことに、イビル嬢の無法ぶりはますます酷くなっている。  以前、村で唯一頼りになりそうな村長さんにイビル嬢のことを訴えかけたことがあった。  僕としても決死の覚悟だったのだ。  それなのに村長ときたら── 「オォ~ナニシトルネン。ソ~ナルホドォ」  なんて勝手に納得して自己完結してしまったのだった。  その報復措置は凄まじいものだった。  村の渓流地に呼び出された僕は、イビル嬢からボッコボコにされたのだ。  女を相手に情けないとお思いだろう。  しかし圧倒的な体格差は性別を超越していた。  攻撃の重さが全く違うのだ。  僕はグゥの音も出ないほどぶちのめされただけでなく、無理やりヨダレを飲まされるといった精神的リンチまで喰らった。  その上で子分になるという屈辱的な契約まで結ばされたのであった。 725 名前:湯雲村立悶煩高等学校 ◆PJPg7YdM9U [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 19:27:15.73 ID:e8Lgrb5u [2/3] 「繁太ぁ~ッ、呼ばれたのなら返事をしねぇかっ」  間近に轟いた怒鳴り声が僕を現実に引き戻した。  物理的に質量を伴っているかのような強烈な咆哮である。  見上げるとイビル嬢の不機嫌そうな顔があった。  憎々しげに歪んでいるが、顔の造り自体は端正だ。  いや、美人顔と言っても差し支えない。  上背があるだけではなく、足はスラッとしていて異様に長い。  つまり、彼女は女優並みの美貌とスーパーモデル級のプロポーションを誇っているのだ。  この恵まれた肢体をいい方向に使えば、素晴らしいことになるのに。  それなのに彼女は、それを校内支配の道具として悪用しているのである。  実に勿体ないことだと思う。 「なにあたしに見とれてんだい? さっさと購買部に行かねぇと、焼きそばパンが売り切れちまうだろうがぁっ」  イビル嬢に怒鳴られて、僕は飛び上がるようにして立ち上がった。  食いしん坊の彼女は2時間目までに弁当を平らげてしまうので、昼休みには僕がパシリをすることになっている。  早くしないと人気の焼きそばパンは売り切れてしまう。  只でさえ気の短い嬢は、空腹になれば更に凶暴になる。  いったん怒り状態になれば、鎮まるまで誰にも手が付けられない。  これは拙いと、僕は走り出した。 「はぁぁぁ……」  なんとか買うことのできた焼きそばパン(×2)を手に、僕は教室へと戻っていた。  こんな生活があと2年も続くのかと思えば、深い溜息もつきたくなるというものだ。  いっそこのパンに眠り薬でも仕込んで、決死の反撃を試みてやろうかとも考える。  眠り込んだところに、ダイナマイトでも仕掛けてやれば──  ダメだ。  それでもあのイビル嬢を倒せるような気がしない。  それに、やるからには絶対に失敗するわけにはいかないのだ。 726 名前:湯雲村立悶煩高等学校 ◆PJPg7YdM9U [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 19:28:01.38 ID:e8Lgrb5u [3/3] 「先輩っ、またパシリですか?」  よからぬことを考えていたこともあり、いきなり背後から話し掛けられた僕は文字通り飛び上がっていた。  振り返ると後輩の小さな体が目に入った。 「アイるんもご同情申し上げますにゃん」  可愛い後輩はネコ目をウルウルさせて擦り寄ってくる。  僕を慕ってくれる頼もしい仲間なのだが、ことイビル嬢を相手にするのには何の助けにもならない。  せいぜい一緒になって溜息をついてくれるくらいが関の山だ。  それでもネコ耳カチューシャの似合う美少女と話し、少しは気持ちの癒された僕だった。  遅くなってはイビル嬢の機嫌が悪くなるので、僕は早々に教室へ戻ることにした。  昼飯を食べたらいつものように下校してくれるだろうし。  それまでの辛抱だと自分に言い聞かせ、重い足取りで教室へと向かう。  辛抱といえば、この焼きそばパンの代金だって僕持ちである。  嬢が払ってくれたことなど一度もない。  最初に金を要求したら、1000zと手書きした紙片を寄越しやがった。  ここは我慢だと言い聞かせ、自腹を切ってパンを買ってきた。  すると嬢の奴は「釣りはどうした?」なんて抜かしやがった。  頭に来た僕は紙をくり抜き、800z分の硬貨を作って手渡してやった。  むろん「ふざけんじゃねぇ」とぶん殴られたが。  パンを買わされた上に、釣り銭まで払わされてはたまったもんじゃない。  だから、少しでも被害を抑えるためにも200zのパンを奢る方がまだマシなのだ。  ここまで来れば犯罪なのだが、警察機能の及ばない辺鄙な村では訴えようもない。  それに、イビル嬢の子分になったことで、嫌な目ばかりしてるわけでもないのだ。  まず、皆から同情の念をもって接してもらえる。  何より、他の不良グループが黙って敬遠してくれることは最大の恩恵だ。  つまり僕はイビル嬢の保護下にあると見なされているわけだ。  お陰で僕は、これ以上はないという安全な高校生活を送れるのである。  と言って、これでいいわけはない。  男として情けなさ過ぎるし、まともな恋愛もできそうにない。 「なんとかしなくちゃ……」  僕は再び溜息をつくと、教室へ向かって駆け出した。 (つづく)

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