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794 名前:17:00時の女の子 2[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 10:15:08.71 ID:miKa7dF2 [2/6] 「おにいちゃん、あそぼ」 「いいよ、んじゃ入ってくれ」 いつもの時間、いつものチャイム、いつもの女の子 でも、それを迎える側が今日はちょっと違うんだ 「おいおい、お前が言ってた女の子ってその娘か」 「こりゃ、援護のしがいもあるってもんだな」 「…………?」 先に部屋に居座ってる二人の男にミユも動揺を隠せない様子 こいつらは俺の友人の松尾と鈴木。ミユが持ってくるゲームを、大学の頃は授業中でもいっしょにやりまくってたダチ 昨日電話で今回の経緯を話したところ、絶対にパーティ数限界(4人)までそろえたほうが楽しいから、と言って遊びに来た こいつらは俺と同じく卒業単位ギリギリオールCのバカだが、こいつらなりにミユを楽しませてあげようとしている。良い奴らだ ちなみに、ミユには先に言っておいてもよかったんだけれども、ちょっとびっくりさせたいといういたずら心が勝ってしまった 「ほら、兄ちゃんの後ろに隠れないの。こいつらは兄ちゃんよりもそのゲームやってる中毒者だから、今日は四人で遊ぼうって企画だよ」 「誰が中毒者だ。だいたい俺らもお前もプレイ時間カンストしてるからわからんだろうが」 「………いじめない?」 「いじめない。むしろ愛でる」 それからこたつを囲んで四人でプレイ 人数増えてもミユの指定席はいつもと変わらず、俺の膝の上 初めは緊張してたミユも、やっぱり初めての四人プレイは刺激的だったらしく目を輝かせていた アタッカーはミユで、松尾が遠距離から、鈴木が近距離から敵の足を狙って転ばせ、俺は広域回復薬や回復粉塵でサポート でしゃばりすぎもせず、しっかり初心者に花を持たせて練習にもなる三人援護だった……と自負してる それから四人騒いで遊んで飯食って、アホな冗談にミユも笑って、気が付くとそろそろ恵美子さんが帰る時刻になってしまっていた 「おにいちゃん、すずきさん、まつおさん、ありがとう。とってもたのしかったよ」 「おう。また時間できたら来るようにするわ」 「同意。こいつん家で飯食えば食費も浮くし、なにより美幸ちゃんと遊ぶのはたのしかったしね」 「前半いらないだろ。普通に後半だけ言えよ。あとうちは食堂じゃねぇ」 「わたし、こんなにたくさんのひととあそぶなんて、うまれてはじめてなの。またきてね」 その言葉に、少し寂しそうな笑顔を浮かべる二人。たぶん俺もおんなじような顔をしてると思う さっきの言葉はつまり、13年間、4人以上で遊んだことがないと言われたってことだろ そのせいかなんだか無性にミユを愛でたくなった俺たちは、それから恵美子さんがチャイムを鳴らすまでずっとミユを撫で回していた 恵美子さんは驚いていたけど。事情をかいつまんで話すと少し呆れたような、でも嬉しそうな顔で笑っていた 795 名前:17:00時の女の子 2[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 10:15:31.89 ID:miKa7dF2 [3/6] 翌日は、五時から夜中まで以前ミユが見てみたいと言っていた映画のレイトショーに連れて行った その翌日は普通に五時からいつものように二人でゲームをした。夕食は外食だが またある時は、松尾がバイトしている水族館から入場券をパクってきたので、4人で堪能してきたりもした ミユが一度行ってみたかったと言ってた千葉ネズミーランドも二人だけど行って来た こっそりカンパしてくれた二人にはしばらく飯をうちで食わすことになりそうだな 学校? どうせもうすぐ転校だ、嫌なところなら休んでしまえと俺が言い切ってやったぜ 万一学校から苦情が来たら恵美子さんに深々と頭を下げる心構えも万全だしな ミユもミユで、遊びに行くどころか母親以外の人と出かけるのすら数年ぶりだと言っていた そのたびに俺や鈴木たちに愛でられる羽目になったが、ミユはそんなことでも嬉しそうに笑っていた それから、引っ越しまであと三日という日。俺の部屋、二人だけでゲームをしていた けれどもこの日は少し違っていた。ミユはゲームの内容にはあまり集中せず、もっぱらおしゃべり 珍しいことである。寡黙と言うほどではないが、そんなに口数の多い娘じゃなかったから 「あと、水族館もよかったよな。特にあのイルカのショーがさ」 「うん。おにいちゃん、ずぶぬれになっちゃったよね。でんしゃで、すっごくめだってたよ」 「それを言うなって。駅員さんの目がかなり痛かったんだから」 「でも、とってもたのしかった………とっても、とってもたのしかったんだよぉ………」 膝の上で、小さな体が震えてる。声も同様に震えてる。考えるまでもなく、ミユは泣いている 「いやだよ、はなれたくないよぉ……。おにいちゃんも、いっしょにきょうとにいこうよぉ……」 俺に向き直って、胸元にしがみついて泣きじゃくる そんなミユに僕は一言、「ごめんね」と返すことしかできなかった そのかわり、両手でその小さな体を強く抱きしめる 「いっしょにいて。ずっといっしょにいて。わたし、おにいちゃんのためだったら、なんでもするから……」 「………」 別に見返りを求めたつもりじゃない。きっと松尾も鈴木もそう言うだろう ただ俺は、この地を離れるミユに、最後に楽しい思い出を作ってあげたかっただけなんだ 796 名前:17:00時の女の子 2[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 10:16:39.47 ID:miKa7dF2 [4/6] 「京都に行けば、ちゃんと新しい学校で新しい友達を作ることができるんだよ  だから、兄ちゃんとはもうすぐさよならしなきゃいけないんだ」 「いやだいやだ! あたらしいともだちなんていらない! わたしはおにいちゃんがいてほしいの!」 「大丈夫だよ。電話ならいつかけてもいいから、いつだってお話はできるさ。メールアドレスは恵美子さんに教えてるし」 「そうじゃないの! わたしはおにいちゃんがそばにいてくれなくちゃだめなの!」 俺の胸元から少しだけ顔を離して上目遣いで見上げてくる 涙のせいで赤くなった瞳で、必死になって訴えてきている このいじらしく、臆病な女の子に自分はなんと声をかければいいんだろう わからない。俺は頭が悪いから、正しい回答なんて分からないんだ 「ミユ、明日は何をするか知ってる?」 「……わたしとおにいちゃんとママ、まつおさんとすずきさんと、おわかれかい」 「そう。だから、明日最後の日を思いっきり楽しんで、笑ってお別れしよう」 「……わらえないよぉ…………おにいちゃぁん………」 「泣いちゃ駄目だよ。兄ちゃんも二人の友達も、ミユの笑い顔が大好きなんだよ」 「……まつおさんもすずきさんも、たいせつなおともだちだよ。でも、おにいちゃんがいちばんたいせつなひとなんだよ……」 思わず、心臓が跳ねるような感覚が来る バカ。この娘はまだ中一だぞ。告白なんて大人びたものじゃないっての。勘違いするな、俺 そんなことを少しでも考えた自分に僅かな嫌悪感を覚えつつ、また笑顔を作る 「なあミユ、兄ちゃんはな―――」 俺の言葉は、ミユの唇に遮られる 時間にすればほんの数秒。けれども、俺には数分の出来事のようにも感じられた その数秒で、俺は何を話そうとしていたのか、すっかり頭から抜け落ちてしまった これは俺にとって、そしてたぶんミユにとってもはじめてのキス そして頭の中が大混乱している俺とは裏腹に、ミユは涙目ながらも笑顔になっていた 「おにいちゃん、だいすき。わたし、こどもだけど、なにしてもいいよ。おにいちゃんが、わたしをはなさないでいてくれるなら」 その時、俺今まで妹としてしか思っていなかった娘に、初めて女の影を見た 違う、違うんだよミユ。俺はそんなことをしてほしくてミユと仲良くしていたんじゃないんだよ 胸にほんのわずか芽生えた劣情を押し殺して、俺はまたミユに笑顔を向けた 「明日、みんなで騒ごう。そうしてさ、それを思い出にしてお別れしよう。大丈夫、俺はいつか京都にも遊びに行くよ。な?」 本当に俺から京都に行く日が来るのかは分からない それでも、今この場ではこう言っておくべきだと、俺の本能が言っていた 797 名前:17:00時の女の子 2[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 10:16:59.70 ID:miKa7dF2 [5/6] 「今日は、美幸のためにこんなことまでしていただきまして、本当に―――」 「ストップストップ! 俺ら別にたいしたことしてませんから! 友達の送別会ですから!」 「そうですよ恵理子さん。そんなに恐縮しないでくださいっていつも言っているでしょう」 俺と松尾で恐縮癖のある恵理子さんの言葉を遮る 今日はせっかくのお別れ会だ、堅苦しいことは抜きにしたい ……そんでミユは、今日も今日とていつもの指定席――俺の膝の上に座り込んでいる しかし俺含めみんな何も言わない。もはやこれがデフォルトと化してしまっているのだ。慣れって怖い 「かんぱーい」 「「「「乾杯!」」」」 5つのグラスがカチンと音を立てる。4つはビール、1つはジュース それから、夜遅く帰ることが多く、あまり近状報告できなかった恵理子さんに最近のことをジョークを交えて4人で話す いや、ここは本当に大変だった 話す内容が多くて、というのもあるが、なによりいちいち恐縮してしまう恵理子さんを抑えるのがさ それから三人で共同購入したプレゼント。ミユがいつも持ってきていた携帯ゲーム機と、そのソフトの最新版を渡す 本来なら30,000は飛ぶところを18,000に値切って購入。俺のバイトしてる電気屋でラベルを張り替えたのを鈴木に買わせたのさ よい子は絶対マネすんなよ! バレたら店長の説教じゃすまねえぞ! そんな綱渡りで値切りに値切ったゲームだが、ミユは目を輝かせて大喜びしてくれたし、まあよかったよかったってことで まあそんなこんなで、気が付くとすっかり辺りは夜。酒に弱い鈴木が酔いつぶれて寝ちまったのを松尾がタクシー呼んで返す 料金は鈴木につけておく、と悪魔のような笑みを浮かべていたのがなんともいえなかった そうして、家の中には俺とミユ、そして恵理子さんが残される ミユは昨日あんなことがあったというのに、今日は平然として楽しんでいた 不満があるわけじゃない、むしろ良い傾向だろう。でも、何か違和感が抜けなかった 「おへや、もどるね」 「そうね。私も戻ります。今日は本当にありがとうございました」 「いえ。こちらこそ、今までありがとうございました」 俺と恵美子さんが深々と頭を下げる。本当はもっと言いたいことがあったのに、なんだか言葉が出てこない そんな時、ミユが俺の顔を引き起こして、昨日よりも浅い口付けを交わす 「おにいちゃん、だいすき」 その言葉を、きっと恵美子さんは[大好きなお兄さんに対する妹の別れの言葉]のように見ていたことだろう けれど俺には、それ以上の意味が含まれているのだということがわかっていた

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