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題名の無い長編その十八第一話」(2011/04/20 (水) 12:48:30) の最新版変更点

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810 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:03:18.84 ID:1Ea0/GzN [2/5]  投稿します  どうにも、夢を見ているらしい。    目が覚めると、周囲にある全てのものが別のものに見えた。 床やベッド、窓から他の家具に至るまで、すべてが記憶と同じ形を保っていない。 ……木の床は畳、四本脚のベッドは布団、四角い窓は丸い窓、 そんな感じにまったく別のものへと変わっている。 「いったいどうなっているんだ」    記憶との相違に戸惑い、俺は呟いた。 こんな状況に戸惑わないことの方がどうかしている。    不意に、頭痛と吐き気が襲ってきた。 腹の中のもの全てを吐き出したい気分だ。 だが気持ち悪さのおかげで思考はクリアになっていき、 断片的にだが記憶が戻ってくるのを感じた。    確か、居酒屋で見知らぬ女と話をしていたはずだ。 女の歳は十六、七といったところで、黒く長い髪は清楚な印象を与えていた。 そう考えると此処は女の家なのだろうが、どういう経緯で話し合い、 泊めてもらったのかが分からないので、 二度寝でもして現実逃避したい気持ちに駆られる。    階段を上がってくる音が聞こえた。続いて襖を開ける音。 視線を向けると、そこに昨夜の女がいた。 812 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:04:37.45 ID:1Ea0/GzN [3/5] 「おはようございます。酔いは覚めましたか?」    女は優しく微笑む。 しばらく呆然としていると、白く、ひんやりとした手で俺の額に触れた。 「熱はないようですね、安心しました」    随分と親しげに感じる。好意を向けられているのはありがたいが、 何しろ記憶がない。少し罪悪感を感じた。 「心配してくれてありがとう」 「当然のことですよ」 「ところで、昨夜、君と居酒屋にいたことは覚えているけど、 どうして此処で寝ているのか、何を話したかが分から……」    そう言いかけて、口をつぐんだ。 彼女は暗い瞳で、無言のまま俺を見つめている。 そこに妙な不気味さと重たい空気を感じた。 「祐一さん、冗談ですよね」    背筋に寒気が走った。彼女は薄ら笑いを浮かべている。 「昨夜、彼女にしてくれるって言いましたよね。 それとも、あの女の顔を見なきゃ思い出せませんか?」  無表情のまま彼女は続ける。  「酒に酔い、泣いて悲しんでいるところを狙ったのは悪いと思います。 でも私の告白に頷いてくれたし、抱きしめてくれましたよね。 あれも覚えていないんですか?」  抑揚のない声が、逆に怒っていることを表している。 俺は思わず首を横に振り、否定を表した。 「すまない、紗耶。酔いのせいで少し混乱していた」   「私も取り乱して申し訳ありません。 お水、持ってきますから、 ……そこにいてくださいね」  紗耶は踵を返し、階段を降りていく。昨夜の出来事は覚えていないが、 彼女のことを土壇場で思い出せたのは不幸中の幸いだろう。 814 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:05:44.20 ID:1Ea0/GzN [4/5]  柊紗耶、俺が告白して振られた女、夕香の妹だ。 夕香は俺と同じ高三で、茶髪のボブカット、澄んだ目が特徴的である。 同好会内では男女問わず誰からも好かれており、 昨日、男三人でいっぺんに告白して全員玉砕した。 「みんなとは友達でいたいから」その言葉は俺達の心に傷をつけ、 飲み会という名の自棄酒大会の後、お互いの友情はより固くなった。 未成年のくせに飲み足りず、更に潰れるために一人で行った居酒屋で、 紗耶とは何らかの会話をしたはずだ。 「お水、持ってきましたよ」  物思いにふけている間に、いくらか時間は経っていたようだ。 ピンク色の可愛らしい湯呑に並々と水が注がれている。 俺が湯呑に口をつけ飲んでいると、紗耶は口を開いた。 「もし昨夜のことを忘れているのなら、 哀しいことですがそれで構いません。 けれど、祐一さんは私の告白を受け入れた。 その事実だけは覚えておいてください」  紗耶は俺の頬に触れ、そっと撫でた。 その顔は妖しげに笑っており、影を含んでいる。 俺は黙って頷いた。      
810 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:03:18.84 ID:1Ea0/GzN [2/5]  どうにも、夢を見ているらしい。    目が覚めると、周囲にある全てのものが別のものに見えた。 床やベッド、窓から他の家具に至るまで、すべてが記憶と同じ形を保っていない。 ……木の床は畳、四本脚のベッドは布団、四角い窓は丸い窓、 そんな感じにまったく別のものへと変わっている。 「いったいどうなっているんだ」    記憶との相違に戸惑い、俺は呟いた。 こんな状況に戸惑わないことの方がどうかしている。    不意に、頭痛と吐き気が襲ってきた。 腹の中のもの全てを吐き出したい気分だ。 だが気持ち悪さのおかげで思考はクリアになっていき、 断片的にだが記憶が戻ってくるのを感じた。    確か、居酒屋で見知らぬ女と話をしていたはずだ。 女の歳は十六、七といったところで、黒く長い髪は清楚な印象を与えていた。 そう考えると此処は女の家なのだろうが、どういう経緯で話し合い、 泊めてもらったのかが分からないので、 二度寝でもして現実逃避したい気持ちに駆られる。    階段を上がってくる音が聞こえた。続いて襖を開ける音。 視線を向けると、そこに昨夜の女がいた。 812 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:04:37.45 ID:1Ea0/GzN [3/5] 「おはようございます。酔いは覚めましたか?」    女は優しく微笑む。 しばらく呆然としていると、白く、ひんやりとした手で俺の額に触れた。 「熱はないようですね、安心しました」    随分と親しげに感じる。好意を向けられているのはありがたいが、 何しろ記憶がない。少し罪悪感を感じた。 「心配してくれてありがとう」 「当然のことですよ」 「ところで、昨夜、君と居酒屋にいたことは覚えているけど、 どうして此処で寝ているのか、何を話したかが分から……」    そう言いかけて、口をつぐんだ。 彼女は暗い瞳で、無言のまま俺を見つめている。 そこに妙な不気味さと重たい空気を感じた。 「祐一さん、冗談ですよね」    背筋に寒気が走った。彼女は薄ら笑いを浮かべている。 「昨夜、彼女にしてくれるって言いましたよね。 それとも、あの女の顔を見なきゃ思い出せませんか?」  無表情のまま彼女は続ける。  「酒に酔い、泣いて悲しんでいるところを狙ったのは悪いと思います。 でも私の告白に頷いてくれたし、抱きしめてくれましたよね。 あれも覚えていないんですか?」  抑揚のない声が、逆に怒っていることを表している。 俺は思わず首を横に振り、否定を表した。 「すまない、紗耶。酔いのせいで少し混乱していた」   「私も取り乱して申し訳ありません。 お水、持ってきますから、 ……そこにいてくださいね」  紗耶は踵を返し、階段を降りていく。昨夜の出来事は覚えていないが、 彼女のことを土壇場で思い出せたのは不幸中の幸いだろう。 814 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 18:05:44.20 ID:1Ea0/GzN [4/5]  柊紗耶、俺が告白して振られた女、夕香の妹だ。 夕香は俺と同じ高三で、茶髪のボブカット、澄んだ目が特徴的である。 同好会内では男女問わず誰からも好かれており、 昨日、男三人でいっぺんに告白して全員玉砕した。 「みんなとは友達でいたいから」その言葉は俺達の心に傷をつけ、 飲み会という名の自棄酒大会の後、お互いの友情はより固くなった。 未成年のくせに飲み足りず、更に潰れるために一人で行った居酒屋で、 紗耶とは何らかの会話をしたはずだ。 「お水、持ってきましたよ」  物思いにふけている間に、いくらか時間は経っていたようだ。 ピンク色の可愛らしい湯呑に並々と水が注がれている。 俺が湯呑に口をつけ飲んでいると、紗耶は口を開いた。 「もし昨夜のことを忘れているのなら、 哀しいことですがそれで構いません。 けれど、祐一さんは私の告白を受け入れた。 その事実だけは覚えておいてください」  紗耶は俺の頬に触れ、そっと撫でた。 その顔は妖しげに笑っており、影を含んでいる。 俺は黙って頷いた。      

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