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95 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09:27:56 ID:oGzxMSGI [2/8] 入院生活といえば、誰もが一度は甘いイベントに遭遇する事を考えるのではないだろうか。 隣のベッドに美少女が入院していたとか、看護婦さんとドキドキ体験とか、そういったものに、少なくとも俺は淡い期待をしていた。 だが、何をどう間違えたら、こんな風になるのだろうか。 今俺は、自分の病室と同階の、娯楽待合スペースのソファに座っている。 向かいには、ぱっと見で30代前半に思える、ざっくばらんな印象の男が、片膝にあぐらをかき、頬杖をついて座っている。 俺達の間には小さな机があり、その上には正方形の板が一枚、さらにその上には、白と黒の両面のチップがいくつも乗っている。 正方形の板には、さらに細かく64個の正方形を作るように線が描かれており、4つのスミのうち、3つは白面のチップが乗っている。 向かいにいる男(俺は"おっさん"と呼んでいる)は、指先にチップを挟むように持ち、黒い面を上向きにして、板面に置いた。 そう、俺達は俗に言う、オセロというゲームをしているのだ。 「これで積みだな、坊主。」 「…くあぁ~! なんで角3つ押さえたのに負けるんだ!? おっさん強すぎだぞ!?」 オセロは一般的に、角さえ押さえれば大きく有利をとれるゲームだ。 序盤から中盤にかけては、俺の方が有利に動いていた。それなのに、いつの間にか黒面の数が白のそれを上回っていた。 「まぁまぁそうしょげるなって。おっさん戦ってて楽しかったぜ?」 おっさんはどこまでも軽妙な口ぶりで、そう言った。 ちなみに今までの戦績は、24戦24敗。一度たりとも勝った事がないのだ。 「さて、今日はこの辺で切り上げとくかい。んじゃな、坊主。」 おっさんは勝負がつくと、オセロを手早く片付け、娯楽スペースにもとあった場所に戻し、去って行った。 「ちくしょう…今日も勝ち逃げされた。」 おっさんと俺が勝負するようになったのは、ほんの数日前だ。 傷もだいぶ治ってきた辺りで、暇潰しに病院内をぶらぶらするようになった頃、たまたま俺は娯楽スペース付近を通りかかった。 その時、一人でオセロをしている変なおっさんがいたのだ。 詰め将棋ならぬ詰めオセロかよ、と思い俺はその場を離れようとした。すると、 「おい待て、坊主。」 といきなり呼び止められたのだ。 何だ、喧嘩売ってんのか。と思った俺はおっさんの側へ行き、「何だよ」と返した。 だがおっさんは次に、こう言った。 「お前、強そうだな。どうだ、おっさんと勝負しないか?」 「は? 勝負?」 「そ。こいつでよ。」 96 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09:29:02 ID:oGzxMSGI [3/8] それ以来、俺達は一日2~3回は勝負する仲になったのだ。 しかしおっさんは、本当に強かった。おっさん曰く、俺は今までの対戦相手の中で1番強いらしいが、それもどこまで本当なんだか。 だが俺は、負けっぱなしではいられない性分だ。 俺は今日の対戦を思い返しながら、自分の病室に戻った。 「あら、やっと帰って来たわね。」 病室には姉ちゃんが来ていた。俺の頼んだ品を持ってきてくれたようだ。 「入院生活が暇だからってオセロって…」 「ちょっと腕を鍛えたかったんだ。助かったぜ、姉ちゃん。んじゃ早速…」 姉ちゃんは俺の意思を先取りしたかのように、オセロの板面を開いた。 それを受けて俺も、ベッドに腰掛けた。 「鍛えるって言ったって…飛鳥に勝てる人なんかいないでしょう。 私だって、小学生の時のあんたに勝てなかったんだから。」 「それは昔の話だろ? とりあえずクリアマインドを会得するまで協力してくれよ。」 「何よ、そのクリアなんとかって…」 姉ちゃんはぶつくさ言いながらもチップを手にとり、対戦する意欲を見せた。 「先攻は私ね……」 「ほい。……」 「………」 「………」 「………やっぱりあんた強いじゃない…。」 「そうか?」 板面は、あっという間に白で埋め尽くされてしまった。 「姉ちゃん…ぶっちゃけ弱い?」 「あんたが強いのよ! 全く、変なとこばっかり器用なんだから… やるなら結意さんとか隼とかとしなさいよ。数年経ってもボロ負けなんて、正直へこむわ。」 姉ちゃんは板面があるのも無視して、ベッドへ突っ伏す。 はたから見たら幼女のふて寝にしか見えないが、それを言ったら余計機嫌を損ねるので、心の内に留めておく。 「ああでも、やっぱあんたの声聞くと、安心するわ。」 「何で?」 「さあ…何でかしらね?」 「!」 姉ちゃんは一瞬だけ、不思議な表情を見せた。 それは、今まで姉ちゃんからは見たことのないものだった。 だけど俺は、その感情をよく知っている。 「ねぇ、飛鳥。私の中には、明日香の記憶が受け継がれてるの。…もし、明日香の感情も…」 「やめてくれ、姉ちゃん。」 俺は姉ちゃんが言い切る前に、言葉を遮った。 97 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09:30:05 ID:oGzxMSGI [4/8] 「俺は、姉ちゃんとずっと一緒にいたいんだ。…それを言ったら、そうもいかないだろ?」 「飛鳥…うん、そうね。ありがとう。」 姉ちゃんはベッドから顔を上げ、散らばったオセロをまとめだした。 俺もそれを見て、一緒に手伝う。 チップを集めているうちに、何度か手が触れ合う。姉ちゃんの手は、少し冷たかった。 オセロを綺麗に箱にしまうと、姉ちゃんはベッドの横にある椅子の上に置いた。 「じゃあ…私、そろそろ行くわね。また明日ね。」 「ああ。知らないおじちゃんに声かけられてもついてくなよ?」 「何よそれ? 私だってもう21なんだからね? もう…」 ぱたん、と病室のドアは静かに閉められた。 客人がいなくなり、病室には静寂が漂う。 ベッドはいくつかあるが、この病室には俺しか患者がいないのだ。 見舞いにきてくれる連中以外と、会話することなんざ殆どない。 そういう意味では、あのおっさんとのオセロも、寂しさを紛らわせる事にはなっているのかもしれない。 あるいは、あのおっさん自身も…? * * * * * 病室から逃げるように出た私は、少し距離をおいてから、そこで胸を抱えて座り込んでしまった。 押し潰されるような、締め付けられるような苦しさが、ずっと消えないのだ。 それはもう何日も続いている。 「ん…? あんた、神坂の姉さんじゃないか。」 頭上から、声がした。やや低めで、少し気だるそうに話す口調には覚えがあった。 「佐橋君…? お見舞いかしら?」 「ああ、暇潰しにな。」 感情のぶれがばれないように、笑顔を作って顔を上げた。 「あの子、オセロの対戦相手を探してるのよ。」 「オセロ? それはまた唐突だな。」 「よかったら、対戦してあげてちょうだい?」 「ああ、そうさせてもらうよ。ところであんた…何で今にも泣きそうな顔してるんだ?」 「えっ…!?」 作り笑いが、できてなかったのだろうか。それに、今にも泣きそうって… 私が、そういう風に見えたというの? 「あんた自身、わかってないはずがないよな? どうしてあんな真似をした? 神坂の妹の記憶を引き継ぐなんて、危険だとわかってただろう? 現にあんたの心は、明らかに不安定じゃないか。」 「…私が、あれと同じ事を繰り返すと、思っているの?」 「可能性はある。人の心ってのは、時にはそれだけ強くもなるし、弱くもなる。」 「知った風な口を訊くわね。でも、貴方には理解できないでしょう!?」 図星を指されたためか、語気が少し荒くなった。 それに気づき、私はため息をひとつつき、呼吸を整えようとする。 「理解はできない。だが、かつてそうやって苦しんだ奴が、身近にいたもんでな。」 「身近に…?」 「光がそうだった。あいつは、二つの心を持っていたんだ。 今でこそ落ち着いているがな。」 佐橋君はそう言うと、視線を反らして飛鳥の病室の方へと歩いていった。 もう言うことはない、という事だろう。 98 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09:30:58 ID:oGzxMSGI [5/8] …私だって、こんな状態になるとは思っていなかった。 あの日、明日香の遺体を弔いに行った時。明日香の痕跡をこの世から消したくない。私はそう願った。 その瞬間、明日香の見て、聞いてきた全ての事が頭の中に流れ込んできたのだ。 知らなかった、では済まされない。 でもあの娘の背負いつづけていた心の闇が、こんなにも重く、胸を締め付けてくるなんて。 そういう意味では、私は何もわかっていなかったに等しい。 ---飛鳥を自分だけのものにしたい。 その感情を、私は必死に抑えつづけている。 それは、絶対に知られてはならない秘め事。 色んな事があって、ようやく訪れようとしている、みんなが望んでいた平和な日常。 私自身がそれを壊す存在になど、なりたくない。 力の抜けた足腰に鞭打ち、私は病院の外へと向かった。 自宅から病院へは、私は明日香の使っていた自転車で来ている。 今の季節は大分肌寒いが、少しは気が紛らわせられる。今の私にはちょうどいいくらいだ。 疲れを知らない私の体は、いくらペダルを漕いでも暖まらない。 自転車でも20分以上はかかる距離を飛ばして家に着く頃には、体は冷えきっていた。 自転車を所定の場所にしまい、家の中に入る。 中は、私一人で過ごすには広く、静かすぎる空間だ。 …飛鳥も、私がいない間は同じ思いをしていたのだろうか。 自分一人だけが取り残され、誰にも必要とされない、という思いを。 飛鳥はまだいい。あの子には結意さんがいるから。 だけど、私を愛してくれる人は何処にもいないのだ。 そう考えたと同時に、自嘲の笑みが浮かんだ。 そんな人がいたからって、何になるのだろう。私と同じ時間を生きられる人などいやしない。 第一、私は子孫を残せない体なのだ。だから、そんなもの必要ない。 次第に、思考がネガティブに堕ちていく。その時、私はさっきの飛鳥の言葉を、不意に思い出した。 『俺は、姉ちゃんとずっと一緒にいたいんだ。』 ぞくり、と体中に電流が走った。 飛鳥は、私を必要としてくれている。ずっと一緒にいたい、と言ってくれたじゃないか! そう思い始めると、もはや理性で抑えることはできなかった。 これは明日香の記憶の影響だ。私自身が望んでいる事じゃない。そう頭でわかっていても、微熱を帯び始めた体を、抑えられない。 何でもいい。あの子の痕跡があるものが欲しい。私はふらふらとした足取りながらも、飛鳥の部屋へ真っすぐに向かった。 部屋の扉を開け、中に入ると、そこには私が望んでやまないものがあった。 「あは………飛鳥の匂いがするぅ…」 違う。こんなのは私じゃない。なのにどうして、体は止まらない? 床に膝をつき、飛鳥のベッドに顔を埋ずめる。 だらしなく体を弛緩させながらも、右手は乳房をまさぐり、左手は下着の中へ向かっていた。 すでに下着の中は粘液が滴り、指先に執拗に絡みついてくる。 「はぁ、はぁ…あすかの…においぃ…」 99 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09:31:41 ID:oGzxMSGI [6/8] ベッドシーツを噛み締め、唾液を含ませ、それを思い切りしゃぶる。 鼻孔から感じられる飛鳥の残り香、ベッドから伝わってくる(ような気がする)、飛鳥の温もりがより一層、体の感度を高め、私の理性を壊す。 指先を秘裂に埋め、ナカを静かに、徐々に大きく掻き乱す。 幾度となく背筋を貫く快感の前に、私はもう何も考えられなくなっていた。 ---欲しい。 何が? あの子のすべてが--- ただそれだけの思いで、私は自分を慰めていた。 「ひゃ、あんっ…あすかぁ…あすか、あすかぁぁぁ!」 誰もいない、静かな部屋に私の声が響く。 絶頂を迎え、体中の力が抜ける。そうすると私の関心は、他のものへと移っていった。 瀕死に追い込まれた私を飛鳥が迎えに来てくれたあの日、この家には結意さんがいた。 あの子と彼女は、愛し合っている。つまり、このベッドを… 「…っ、うわあぁぁぁぁぁぁ!」 赦さない。なんであんな奴が飛鳥を! 飛鳥の隣にいていいのは私だけだ! ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ----- そこで、はっ、と私は我に帰った。 ゆっくりと周りを見渡すと、ベッドシーツはぐしゃぐしゃになり、引きちぎられた痕跡も見受けられた。 …私は、なんて事をしてしまったのだろう。 飛鳥を思って、自身を慰めた事は度々あった。だけど、こんなにも特定の対象に憎悪を抱いたのは、初めてだ。 それも…結意さんに対して、だなんて。 100 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09:32:35 ID:oGzxMSGI [7/8] 私は、あの事件の後、この力を自身の手で消去した。 こんな悪魔の力をもう使う必要はない、あの時はそう思っていたから。 だけど今は、その判断は正しかったんだと、より深く思い知らされた。 仮に、再び今のように錯乱したとしよう。その時、あの力があった場合、私は何をする? …考えただけで恐ろしい。それこそ、私は悪魔と化すだろう。 皮肉なことに、力を失って初めて、あの力の恐ろしさを知ることができたのだ。 「もう………頭がおかしくなりそうよ………」 あの娘の想いが、記憶だけになっても今なお、消えずにいるなんて。 私は、間違っていたの? このままではいつか私は…飛鳥を傷つけてしまう。 明日香が、飛鳥を手に入れるために手段を選ばなかったように。

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