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223 :天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:08:00 ID:HA9NLNwA 「うーん………ここだな。」 「じゃあ、私はここ。」 「はっ!? お前、なんつー汚ねぇ手を!」 「うふふ…私の勝ちだね。」 白一色で統一された病室には、今日も客人が訪れていた。 正確に言えばそいつは毎日来ているのだが、いつも他の連中が来る時間帯を避け、少し遅めに来るのだ。 だから今現在、白い病室にはオレンジ色の夕日が差し込み始めている。 「ったく、お前にこんな才能があるなんて思ってもみなかったぜ…。」 その見舞い客…まあ結意なんだが、結意はなぜかベッドの上に正座で、俺と向き合っている。 俺はもう3回は結意とオセロで対戦しているのだが、一回も勝てないでいる。 その強さは、あのおっさんを彷彿とさせる。 「お前こういうの苦手だと思ってたんだけどなぁ…意外と頭いいのな。」 「うーん…そうかな?」 「こないだの、9月の試験はどんな感じだったんだよ?」 「あれなら、確か先生に『学年で10番代に入った』って言われたけど?」 「は、はぁ!? 10番代だと!?」 この野郎、十分頭いいじゃねえかよ! 俺なんて試験の一週間前にスパートかけて、やっと及第点だったのに! 普段はバカっぽいのに…いや、バカと天才は紙一重、って事なのか…? しかしこいつの凄いところは、それを自慢っぽくではなく、当たり前のように、さらりと言った事だと思う。 「ふぅ…なんかもう…今日はもうオセロはいいわ。」 「もういいの? 飛鳥くんって、割と飽きっぽいよね。」 「そんなことはないぞ。ただ俺は…集中力があんまりないんだ。」 そういう性分でもなければ、もっと勉強もできただろうし、何かしらの部活動に入ってバリバリやっていたかもしれない。 だが俺は、そういうのとは真逆に位置する人間なのだ。 「んー…じゃあさ、何か賭けをしてやろうよ。その方が面白いでしょ?」と、結意がひとつの提案をしてきた。 「賭け? つったって、俺何も持ってないぞ?」 「なら…負けた方から一枚ずつ脱いでくってのはどう?」 「お前は俺の身ぐるみを剥ぐ気か!?」 「やってみなきゃわからないよ?」 結意はさらっ、とそう言ってチップを半分を分け、次のラウンドの準備を始めた。 「わーったよ…ったく。」 俺は軽くため息をつきながら、チップを一枚手に取り、空中に投げる。 落ちてくるそれを手の甲と手の平で挟むようにしてとり、ゆっくりと手の平を退ける。 いわゆるコイントスだ。 「黒…俺の先攻な。」 224 :天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:09:19 ID:HA9NLNwA かくしてラウンド4開始。適当にチップを置き、後攻に移る。 もはや勝てる気などしないので、チップを置く手は逆にさくさく動いた。 結意はそれをニヤニヤしながら見て、的確に手を返してくる。 どうとでもなれ、と思いながら手を進めていると、あっという間に板面上には40枚近くのチップが並んでいた。 現在は、白の方が有利だ。 「やっぱりこうなるんじゃねえかよ…。」 黒の置ける場所はだいぶ限られてきた。だが俺は適当に、手前のマスに黒を置いた。 「…お? 意外ととれたな。」 「あ…!」 結意の顔からニヤニヤが消えた。 今の俺の攻撃で、4マスほど黒が増えたが、俺は板面をよく見てみた。 「ほぉ…まだイケるな。」 対して結意は白をひとつ置くが、白いチップは大して増えない。 そこから俺は慎重に手を打ち続ける。白が圧倒していた板面は徐々に黒が増えていき、 角をひとつ押さえる事にも成功し、遂に最終局面。 残ったマスは二つ。黒と白の数はざっと見て半々くらい。俺は角にある黒に合わせて黒をひとつ置いた。 「ふぅ………俺の勝ち、だな。」 白を置くスペースはなかった。返せる黒いチップがなかったのだ。 もうひとつ黒を置き、ギリギリ白を上回る事ができた。 「…飛鳥くん、やっぱりこういう時は強いよね。」 負けを認めた結意はベッドの上で膝立ちになり、スカートの中に手をかけ、 当初の規定通りに布を一枚… 「っておい! 脱衣ゲーでパンツから脱ぐ奴があるか!?」 「え、だって飛鳥くんこういうの好きでしょ?」 結意は軽く首を傾けてウィンクをし、笑みを浮かべた。 「お前は相変わらずだな…そういや、あの時もノーパンのお前に追い回されたな。」 「あははっ、懐かしいねぇ。…あの日こそは、飛鳥くんを振り向かせてみせる、って思ってたからね。」 結意とこういう関係になった、記念すべき(?)日を振り返る。 それ以前から結意は筋金入りの変態だと思っていたが、今思えばその変態ぶりも、俺ありきだったんだろう。 「でも飛鳥くんもひどいよねぇ。こんな美少女の告白を87回も断るんだもん。」 「確かにお前は美少女だが、自分で言うな自分で。」 「おまけにやっと既成事実を作れたと思ったら、乱暴にされるんだもん…もう。」 「あ、あれはお前も悪いだろ!? いいから早くパンツ履けよ!」 早いもんだ。結意と付き合い出してから、もうふた月が経とうとしている。 その間に、本当にいろんな事があった。俺達は、特に結意は何度も命の危険に晒されもした。 なのに結意は、いつも明るい笑顔を俺に見せてくれる。 「ったく…そういや前から訊きたかったんだけど、、結意はどうして俺を。」 好きになったんだ? と尋ねてみた。 225 :天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:10:26 ID:HA9NLNwA 「うーん…やっぱり、初めて会った時の印象が強いからかな? それで、同じ学校だって知って、止まんなくなっちゃった。」 「え、やっぱそんなもんなの?」 「そうだよ?」 なるほど。だけど、それでは俺の求めていた答えにはなっていない。 結意と出会い、追い回されるようになってから今の今まで、特に一時は結意を傷つけていた事もあった。 中でも、毎日の弁当の件とか、だ。 「よく俺の事嫌いにならなかったな…。」 俺はさりげなく独り言のように、しかし何かしらのリアクションを期待して零した。 「そうよねぇ。普通あれだけの事されたら、嫌いになるよねぇ…。 お弁当は毎日棄てられるわ、幼女が好きとか実はゲイだとか嘘つくわ。 私、真剣に一時期悩んでたんだからね?」 「あれは…その…今は、悪かったって思ってるよ。」 「うん、知ってる。」 結意はオセロが散らばるのにも構わずに、膝で歩き俺に抱き着いてきた。 鼻孔をつく石鹸の香りと、心地良い体温を感じ、俺の腕は自然と結意の体を抱き返す。 「全部、赦してあげるよ。」 結意のその言葉を聞き、俺の心はひとつ、重しが外れたような気がした。 だが、まだ全てが終わった訳ではない。問題は次から次へと、降りかかっている。 「…ありがとよ。」 結意を悲しませない為には、その全てを終わらせなければいけない。 * * * * * 俺が望むのは、平和な日常。結意がいて、姉ちゃんがいて、みんながいる日常だ。 ついこの前まで、そんな風には思いもしなかった。 ただ、失ったものたちがあまりに大きすぎた。 それが、俺を取り巻く環境も変えていった。 例えばこうして病院のお世話になることさえも、俺にとっては初めてなのだ。 今日で、俺の病院生活は終わりを迎える。 傷はほぼ全て問題なくなり、まだ激しい運動を控えなければならないものの、日常生活を送る分には支障はない。 片付けも午前中に終わり、退院前には姉ちゃんが迎えに来てくれる予定だ。 だが、俺は退院の前に決着を、文字通り白黒をつけなければならない。 「よう、坊主。」 おっさんはいつも通りに、娯楽ロビーの一角に座っており、テーブルにはオセロが並べられている。 「さあ、勝負しようぜおっさん。」 「今日はやけに自信ありげじゃないの。」 「ああ、今ならあんたに勝てる気がするぜ。」 コイントスで先攻を決め、おっさんからチップを打ってきた。 次に俺が、白いチップで反撃をする。 そうして互いの手は交錯し、板面にはいくつものチップが積まれる。 226 :天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:11:50 ID:HA9NLNwA 「おぉ? 少しはやるねぇ、坊主。」 「へっ、気が抜けねーけどな。」 俺はまず、俺から見て右上の隅のマスに黒を置くことに成功した。 そこを軸に、黒をなるべく塗り変えられないように粘る。 おっさんは少しずつ攻めてくるが、縦列がうまく連鎖し、右下の隅も押さえることに成功する。 その頃にはマスは残り、10個ほどとなっていた。 現在、黒がわずかにリードしている。角は黒と白がそれぞれ2マスずつ押さえている。 「なぁ、おっさん。」 「ん、なんだ?」 「俺、今日で退院なんだ。」 「…そうかぁ。」 おっさんの眉がぴくり、と動いた。 しかし互いに手は止まらない。ひとつ、またひとつ、マスは埋まってゆく。 「ま、病院なんざ長居すべき場所じゃねえ。 坊主、平凡ってのは実は一番難しいって事、覚えとけ?」 「へっ、言われなくても。」 イヤってほどわかってるさ。 俺は最後の1マスに、白を置いた。その周辺にあった黒は、6つほど白に覆る。 「人生っての、こいつらに似てると思わないか?」 おっさんはオセロを指差して言う。俺は、 「ちょっとした事で簡単にひっくり返るからか?」と答えた。 「当たり。坊主、お前の勝ちだ。」 黒いチップは30枚。対して、白いチップは34枚ある。 つまり、俺はおっさんに勝ったのだ。 「ありがとよ、坊主。いい暇潰しになった。んじゃ俺は、ぼちぼち行くわ。」 おっさんはいつものようにオセロを片付け、もとあった場所にしまう。 まさに勝手知ったる、か。 「おっさんも、さっさと退院しろよ?」 「はっ、おっさんはまだ先が長いのさ。何しろ年長者なもんでね。」 おっさんは後ろ手に手を振り、ぺたぺたとサンダルを鳴らしながら去っていく。こちらを振り返る事は、なかった。 俺は時計を見て、姉ちゃんが来る頃だと思い、1階の中央へ足を向けた。 その後俺は何度となくこの病院を訪れる事になるのだが…おっさんの姿はこれを機に見ることは一切なかった。 * * * * * 1階、中央ロビー。 俺はやや人が多い中を、姉ちゃんの姿を探して回る。 あれだけ色んな意味で目立つ存在は、そうはいない。見つけるのはごく簡単だと思っていたが… 会計、内科、食堂、売店…あちこち探し回っても、姉ちゃんはいなかった。 少し時間が早かったのだろうか。仕方なく俺は会計前のロビーに戻る。 すると今度は、恐らく今現在で一番会いたくない人間がいた。 「退院おめでとう、神坂くん。」 227 :天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:12:50 ID:HA9NLNwA 穂坂 吉良は今日も文化祭の時と同じ、ツインテールに髪をセットして、ダッフルコートを着こんでいた。 コンタクトレンズを着けているであろう瞳は目尻を柔らかに、作ったような笑みを浮かべる。 「やだ、そんなに警戒しないでよ…。今日はちょっと話があって来たの。」 「なら、さっさと済ませてくれ。」 「もう…。少し、外歩かない?」 「外、ねぇ…」 「入院してたんだから、息詰まってるでしよ?」 確かに、もうずっと娑婆の空気を吸っていない。姉ちゃんが来るまでの間だ。 穂坂は返事を待たずに出入口へと歩き出す。俺もそれに追従する形で、歩を進めた。 久しぶりに吸う外の空気は、入院前よりも冷たく、吐く息に白い色をつける。 「私宛てに、匿名で手紙が届けられたのよ。」穂坂は何の前置きもなく、語り始めた。 「その中には写真が一枚と、一文だけ印されていた。」 「それが、何だってんだ?」 どうせ穂坂が持ち込むネタなんて、マトモなワケがない。 俺の中での穂坂に対する意識は、『小煩い委員長』から、そこまで下落していたのだ。 「文には、『人殺し。』とだけ書かれていたわ。これが、その写真のコピー。」 俺は、穂坂が懐から取り出した写真を受け取り、見てみた。 「………っ! 穂坂、お前がここまで汚い奴だとは思わなかったぞ!」 その写真には、木刀を振りかざしている、血に汚れた制服を纏った結意と… 横たわる黒髪の女が写されていた。 間違いない。斎木優衣が白陽高校に襲撃してきた時の写真だ。 しかもご丁寧に、ほぼ正面、やや斜めから全体を写すように撮られている。 「あら、私は匿名の手紙と言ったはずだけど? でも、今なら私の胸の中にだけしまっておけるわ。もちろん…貴方が口を滑らせても、アウト。」 「ちっ…」 俺は写真を、乱暴に穂坂に突き出して返した。 「てっきりくしゃくしゃに丸めるかと思ったけど?」 「コピーを握り潰したって、意味がない事くらいわかってる!」 だが、この写真はまずい。 こんな写真だけでは、あの日の顛末を全て語りきれない。それどころか、結意がただの殺人者にされてしまうだけだ。 事実、斎木優衣の屍体は、行方がわからないのだから。 「…言えよ。俺はお前に、何をすればいい?」 この時、俺はすでに間違いを犯してしまっていたんだ。 適当に言葉でごまかしてこの場を離れ、隼や姉ちゃんに相談すればよかったんだ。 なのに俺の頭には、自分でどうにかする、という発想しかなかった。 「そうね…じゃあ、退院の手続きが終わったら、私の家に来てちょうだい。」 その間違いが、結意をさらに傷つける事になるとは知らずに。

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