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967 名前:足りないモノ ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/13(金) 22:44:21.83 ID:s8hm0Dfj [2/6] ――アクリル絵の具をペタペタと重ねる自分に、もし格闘の才能があればどうなるだろう。 格闘技でも極めるんだろうか? それでもやっぱり、絵を書くのは止めないんだろうな。 楽しいし。 でも、好きなものには才能欲しいよなぁ…… …なんてことを考えながら、自分は今、次の絵画コンクール用の作品を仕上げている。 先輩の部長もいい絵になりそうだと言っていたし、きっと今回は受賞してくれるやもしれん。 今日中に下塗りだけは完成させてやる…っ!なぁ俺の作品よ……! そう、今この部屋にいるのは自分とこのふつくしいアクリル絵(予定)…… 「なぁ、なんで無視するんだ?」 ……と、お馬鹿な幼なじみだけだ。 今めっちゃ集中しているというのに、空気読め幼なじみよ。 「お前ってさー、さっきぶちょーと話してたろ?なんで俺と話さねーの?」 自分は黙ってペタペタと、黒と青の絵の具をキャンバスに走らせる。 「なんか言えよー、俺さみしーんだけどー」 キャンバスの隣でギャーギャーと、わめき立てる幼なじみを無視する。 黙ってりゃ美人って言われるような顔なのに、どうしてここまで人はしゃべってしまうのか。 永遠の議題である。 そして自分は正直面倒くさ……心が辛いが、作品のためだ。 あくまで筆をはしらせる方を優先させる。 968 名前:足りないモノ ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/13(金) 22:44:52.76 ID:s8hm0Dfj [3/6] 「お前の作品は俺にひょーかされればそれでいいじゃねーか。  ぶちょーと話すことなんてねーだろ?なー?」 ……このお馬鹿な幼なじみに教えておいてやらねばなるまい。 部長の凄さを。 「あのな、うちの部長はコンクールで常に受賞してんの。  自分みたいな凡人と違うの。アドバイス欲しいの。  分かる?」 昔のアニメで、あるパイロットは言った。 『火力が足りない分は気合でカバーする!』 名言だ。 しかし現実は結構厳しい。 才能が足りない分は気合でカバーできると思っていたが、 気合じゃなんとか出来ない部分が、自分には圧倒的に足りなかった。 「アドバイス?俺がしてんじゃねーかー。  だいたい、お前の絵すごくいいぞ!  なんていうか……すごいぞ!」 「お前そればっかりじゃねーかっ!!」 思わずツッコミをいれてしまう。おのれ…… 「だって、すげー以外に何言えばいいかわかんねーもん。  でもすげー!お前の作品落としたシンサシャは目がフシアナだな!」 節穴ですめば受賞は要らない…… 要らないんですよ幼なじみさんっ! 「……とりあえず、自分は部長と相談してこの作品を仕上げるんだ。  邪魔するなら帰れ。」 ちょっとぶっきらぼうになってしまったが、言いたいことは間違ってない。 「俺が邪魔だってのか……」 バカの雰囲気が変わった。 969 名前:足りないモノ ◆STwbwk2UaU [sage] 投稿日:2011/05/13(金) 22:45:14.60 ID:s8hm0Dfj [4/6] 「邪魔なのは…あのクソアマのほうだろ……なんだあのアマ……お前に軽々しく近づきやがって…  お前に近づいていいのは俺だけだ……俺だけがお前の絵を見るんだ……」 今はいない部長の席を、目からビーム出せそうなほどに強く睨みつける。 自分としてはたくさんの人に見てもらいたいんですけど、絵ってそういうもんじゃ… 「それなのにお前はあのアマにばっかりかまって………  あのアマのほうがいいのか?俺より絵が好きなのか?あのアマが好きなのか?」 お前より絵が好きなのは間違いないが、論点が変わってないか? 「ちくしょう…ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうっ!  あんな女に取られるくらいなら…っ!」 近くにあったモノを握り締め、俺に襲いかかる。 「やめろ!それは……っ!」 そう、あいつが手にとったものは……… 「―アクリル絵の具のチューブだ……」 絵の具、だった。 「…えっ?」 バカの頭に疑問符が浮かんでいる。 俺がえっ?だよバカヤロウ。 チューブで何する気なんだっての。 「……ぐぬぬ」 手に持ったチューブを見て、凶器足りえないことを理解したバカは、 今顔真っ赤にしている。 可愛いが、とってもシュール。 「足りない威力は……」 いや、チューブはどう頑張ってもチューブだ… 「―気合でカバーだ!」 ――訂正しよう。アクリル絵の具は凶器になる。 誰でも、壁を貫通して、廊下向こうのコンクリを抉っている 青色ぺんてるを見たら同意せざるを得ないだろう。 「ふ…ふふふ……俺は絶対に……認めないからな……」 あいつがチューブとか筆を鷲掴みにしたのを見て、 俺は全力で逃げた。 足りないモノを気合でカバーする。 実に素晴らしいことだと思う。 でもな…… 足りない知恵を気合でカバーしてはいけないんだと、 極彩色のレーザーが飛び交う廊下の中、ただ走りながら思った。

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