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541 名前:題名の無い長編その十八第二話[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 00:55:46.64 ID:QaLYyO/U [2/9]    四限の終わりを告げる鐘が鳴った。 先日のやりとりを思い出し、溜息を吐く。 水を飲んだ後、逃げるように帰る俺に紗耶は、 「明後日、屋上で待ってますから」と寂しげな顔をして言っていた。 約束をした訳ではないが、行かなければ人として最低である。  気重ながらも立ちあがり、屋上へ行こうとすると、 振られ仲間のうちの一人、飯島啓太が近づいてきた。 啓太は、小柄で生意気そうな顔をしているが、 愛嬌があり、どこか憎めない奴だ。 542 名前:題名の無い長編その十八第二話[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 00:59:07.59 ID:QaLYyO/U [3/9] 「あれ、今日は一緒に飯を食わないのか?」 「すまんな、他の奴と屋上で食う予定だからパスだ」  軽くいなして教室を出ようとすると、肩を掴まれる。 振り返ると、啓太はにやにやと笑っていた。 「そういえば、今日のお前なんか変だったな。誰と食べるんだ?」    答えによっては逃がさないぞ、言外にそう仄めかしている気がした。 恐らく俺が女と食べることを疑っているんだろう。 「柊紗耶とだ」  嘘を吐いてもいずれ分かることだと思い、素直に言った。 それを聞いて、啓太は不思議そうな顔になる。 543 名前:題名の無い長編その十八第二話[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 01:01:13.22 ID:QaLYyO/U [4/9] 「夕香ちゃんとじゃないのか?」 「いや、俺たち振られてるだろ」 「……まあ、確かにそうなんだがなあ」 どこか煮え切らない感じで、啓太は呟いた。 「じゃあ、もう行くぞ」 「うん? ああ、待たせちゃ悪いもんな」  そう言って教室を去ったが、 出ていく間際まで啓太は納得のいかない表情をしていた。 まるで、そんな筈はないというような感じで。 544 名前:題名の無い長編その十八第二話[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 01:04:33.44 ID:QaLYyO/U [5/9]  屋上に着くと、既に紗耶はいた。 天候は曇りで空はどんよりとしている。 そんななか、紗耶はぼんやりと虚空を見つめていた。 虚ろな目と感情のない顔は、どこか儚げである。 俺が近づくと、紗耶は一瞬驚いた表情をしたが、すぐさま笑顔に変わった。 「お弁当、作ってきましたよ」  床には藍色とピンク、二つの弁当箱がある。 おそらく、俺のために作ってくれたものだろう。 紗耶の真向かいに座り、顔を見つめて礼を言う。 「ありがとう」 「いえ、彼女として当然のことですから」  恥ずかしげに顔を俯け、小さな声で言う彼女は可愛らしかった。 それと同時に、微かな罪悪感にさいなまれる。 こんな女の子の告白を、酔った勢いで安易に受けてしまった。 自分は彼女に相応しくないと思い、自虐気味に笑う。 545 名前:題名の無い長編その十八第二話[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 01:06:41.70 ID:QaLYyO/U [6/9] 「祐一さん、どうかしましたか?」  紗耶は心配そうに俺を見つめる。 そんな仕草も可愛らしく、自分には似合わないと感じた。 「紗耶は綺麗だし、優しいな」  それを聞くと、紗耶の顔は仄かに赤くなった。 また心が痛んだが、そのまま話を続ける。 「だからさ、俺は君に相応しくないと思う。 君の姉に振られた後、酔った勢いでその妹と付き合うような奴だぞ。 それに、とくに秀でたところもないしな」  俺の話が終わると、先ほどとは打って変わって、 紗耶は無表情に変わっていた。 一昨日のような濁った瞳で、また俺を見つめる。 546 名前:題名の無い長編その十八第二話[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 01:09:21.43 ID:QaLYyO/U [7/9] 「忘れてても良いって言ったじゃないですか」 「いや、だからそれは……」 「だから、なんですか。まだあの女のことを引きずってるの? 私は構いませんよ。あなたが私さえ見ててくれれば。 それに、酔った勢いを狙ったのは私です。 そんなことどうでも良いじゃないですか。 ずっと好きだったんですよ、中学生のときから。 あなたは覚えてないかもしれないけど」  淡々と、けれど感情的に、紗耶は俺に言葉を浴びせた。 それから俺の一挙手一投足に気を配り、不安げに訊いてくる。 「捨てませんよね」 「え?」 「私を捨てませんよね」  そう言って、怯えた目で俺を見る。 小さく震える肩は、どこか頼りなげで、今にも崩れそうだった。 迷いが無いわけではないが、これ以上はもっと酷いことになりそうである。 俺は覚悟を決め、彼女を抱きしめて、背中をそっとさすった。 547 名前:題名の無い長編その十八第二話[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 01:11:37.18 ID:QaLYyO/U [8/9] 「わかった、もうこの話はしない」 「本当に?」 「ああ。こう見えて、誠実な男だぞ」  場を和ませるように、軽く笑う。 紗耶もそれにつられるように、半泣きで表情をゆるめた。 「それじゃあ、飯でも食べるか」 「はい」  嬉しそうに笑う紗耶を見て、俺は今日二度目の溜息を吐いた。 (ここで引いたら男じゃないな) そう思い、彼女と付き合っていくことを改めて決意した。

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