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960 名前:neXt2nExt ◆STwbwk2UaU[sage] 投稿日:2011/07/04(月) 03:52:30 ID:lsTRKJVY [2/6] …ジリジリとした熱い日焼けが僕を刺す。 遠くに海が見える無人駅で、僕は乗り換えの列車を待っていた。 季節は夏。同級生の子は海で泳いでいるのかもしれない。 自販機で買った缶入りのスポーツドリンクを開けながら、 日差しから逃げるようにホームから待合室に向かうと、そこに一組の男女がいた。 ……男女というのは正しいんだろうか? 小学生くらいの、幼い子どもを対象に言うには。 子供たちは確かに幼かった。 しかし、その幼さを上回って有り余るほどの絆を感じた。 お互いを離さないかのように寄り添い、目をつむってお互いを感じる二人。 決して解かないかのようにつないだ手と手。 ―ああ、そうか、こんなにも愛を感じているから、僕は男女……と感じたのかな。 二人のじゃまをしないように、待合室の隅に向かいながらふとそう思った。 ―僕もこれから向かう街に、待っていてくれる人がいる。 3年ぶりの帰郷だけど、僕のことを覚えていてくれているかな? いやでも、あの人もいい年だし、恋人の一人くらい…… はぁ……恋人……かぁ……… 「……もなく……きの電車が……発車いたします。」 考え事をしている自分の耳に、列車のアナウンスが聞こえた。 ―しまった!乗り遅れてしまったか!? 僕は一目散にホームへ向かう! すると、先程の二人がちょうど、列車の中に乗り込んで、向こうの窓を見ていた。 男の子が窓の向こうの何かを指す。 女の子はそれをみて、クスクスと笑う。 二人だけの、二人のための列車…… プルルルル、と大きな音を立てて、列車は閉まってしまった。 あの二人を乗せた列車は、ゆっくりと、そして少しずつ速く、遠くへ行ってしまった。 ふと、時計をみる。 するとおかしい。時間が合わないのだ。 次の列車まで、まだ30分もあるのに、あの列車は行ってしまった。 ―なんだったんだろう?僕は夢でも見ていたのかな? 僕は頭をかきながら、もう一度待合室へ戻る。 すると、あの二人の座っていた場所に、小さなキーホルダーが置いてあった。 男の子が好きそうな、銀色の剣の形をしたキーホルダー。 あの二人の忘れ物かな?と思ったが、何故かやけに手放しがたい。 僕もワルに目覚めたのかもしれないが、そのキーホルダーは持っていくことにした。 自分の、故郷まで……… 961 名前:neXt2nExt ◆STwbwk2UaU[sage] 投稿日:2011/07/04(月) 03:53:01 ID:lsTRKJVY [3/6] ―僕の故郷は、山と海に挟まれた場所にあった。 僕はそこで、中学生までずっと過ごしていた。 毎日が楽しくて、毎日夢を見ているような気持ちだった。 僕は暑いホームを抜け、改札を通り、待合室まで向かう。 待合室に、人はいない。 どうやら僕は早く来てしまったようだ。 ―僕の近くには、いつもあの人がいた。 いつも微笑んでくれて、春の暖かな光のような人だった。 透き通るような美しさがあって、夏の強い日差しのような人だった。 いつも優しくしてくれて、秋の豊穣のような人だった。 いつも儚げで、冬の雪のような人だった。 僕は待合室を出る。 強い日差しに包まれながら、街を見下ろす。 蛇行した坂道の向こうに、少しゆらゆらと揺らいだ街が見える。 ―僕はあの人が好きだった。 あの人と一緒に居たかった。 でも、もう……… 僕はゆっくりと坂道を降りる。 すると、目の前に麦わら帽子と、若草色のワンピースが見えた。 僕はこの色を、この人を知っている。 だって、この人は僕の…… 「ただいま、鈴香姉さん。」 僕の最愛の人は、微笑みながら 「おかえり、コーちゃん。」 出迎えて…くれた…… 962 名前:neXt2nExt ◆STwbwk2UaU[sage] 投稿日:2011/07/04(月) 03:54:07 ID:lsTRKJVY [4/6] 「コーちゃん、3年ぶりだね。  どう、元気にしてた?」 坂道を降りて、家に向かっていると、鈴香姉さんが僕に話しかけてきた。 「うん……元気だったよ。  鈴香姉さんはどうだった?」 「私も元気元気!  …でもね、やっぱりコーちゃんがいないと……寂しかったなぁ。」 鈴香姉さんが寂しそうな顔で微笑む。 僕の心臓がドキリと弾む。 「で、でも鈴香姉さん!もういい年なんだし……  ここ……恋人の一人や二人いるでしょ?」 「もうっ、女の人に年齢の話題は禁止!  それに私は恋人なんていませんよーだ!」 鈴香姉さんは、手を腰に添え、怒ったように頬をふくらませる。 しかし次には僕の頭を撫でながら、こう言った。 「それに、鈴香姉さんとか畏まらなくてもいいのよ?  前みたいに、スズねぇ…って………呼んで欲しい…かな……」 「うん……ありがとうスズねぇ。  出来れば僕も、スズねぇって呼びたかったんだ。」 「そう?……嬉しい………」 鈴香姉さん…いや、スズねぇは少し顔が赤かった。 熱中症だろうか?少し急いで帰らないと…… 963 名前:neXt2nExt ◆STwbwk2UaU[sage] 投稿日:2011/07/04(月) 03:54:35 ID:lsTRKJVY [5/6] 「コーちゃん、荷物は部屋に置いたから。  家は出たときと変わってないから好きなように使ってね。」 スズねぇが、お客様用の部屋……ではなくて、僕の部屋を締めながら言った。 僕とスズねぇの関係は、簡単に言うと従兄妹同士。 ただ、数年前まで親がずっと海外の危険なところで勤務していたので、 僕はずっと従兄妹の家にお世話になっていたのだ。 はぁ…とため息が出る。 そう、僕の初恋はあのスズねぇである。 そして、ため息が出る理由は…… スズねぇにお見合いの話がたくさん来ていると、叔母さんが教えてくれたのだ。 スズねぇはああ言ってくれたが、結婚するのも…時間の問題。 かくいう僕は未だに高校生。 スズねぇは、待てないだろう。 僕が大人になるのを。 僕以外の人が、スズねぇの隣にいるのだ。 見たくない…知りたくない……考えたく……ない……… 「……コーちゃん?お風呂湧いたよ?」 「う……うわわわわっ!?」 目の前に、スズねぇの顔。 僕はびっくりして、思わず後ずざりし、スズねぇごとコケた。 スズねぇは後ろから覗き見るように僕を見ていたようだ。 「あいたたたた……コーちゃん、リアクション大きすぎるよ………」 「ご…ごめんなさい……」 しかし、僕の視界は真っ暗だ。いい匂いもする。 持ち上げて見直すと、スズねぇの胸だった。 「あわわわわ!ごごごごめんなさいっ!!!」 「んっ……ふふっ………  コーちゃんも大胆になったかー」 僕は急いで離れる。 しかしスズねぇは少し顔を赤くするが、全く嫌がった素振りを見せない。 それどころか、すこし目が潤んでいるような………? いや、いやいやそんなことはない。 風呂でも入って頭を冷そう。 「す……スズねぇ!風呂入ってくるね!」 「あ…ちょっと……っ!  もぅ……!」 僕は急いで階段を降り、風呂場に向かった。 風呂場で足を伸ばし、ついでに背中も伸びをしながら、 僕は明日の予定を考えていた。 一応、僕も夏休みとは言え、遠くに来たのだから、計画くらい立てている。 今回此処に来たのはスズねぇに会いに来た……のは誰にも言えない第一目的だが、 建前としては、写真を取りに来たのだ。 そこでいま、古い記憶を家探ししながら撮影ポイントを確認している。 ―今は夏だから、山のほうへ行ってホタルを撮るのもいいな。 ついでにそのまま夜だし、星を撮ろうかな? 朝焼けと夕暮れの海もキレイだし、そっちも捨てがたいな…… あえて母校?いやいやいや……… 「コーちゃーん?入るねー」 そう、だから僕はこの声に気づかなかった。 気づいた時には、バスタオル一枚のスズねぇが風呂場にいた。 「なっ……なっ………!?」 「コーちゃん、背中流すの手伝ってあげるねー」 なんでこうなったのか、今の僕には理解できない。 でも、これだけは言える。 「よよよ嫁入り前の娘が、ひひひ人に肌晒しちゃいけませんっ!!」 僕は精一杯の常識と、否定を込めたつもりだったんだが、 スズねぇが今度は理解出来なかったらしい。 「え…?コーちゃんになんで隠さなきゃいけないの?  何も問題ないじゃない。」 「ぼ、ぼくだって男なんだよ。そういうかっこしてると襲われちゃうんだよ!」 顔を真っ赤にして僕は言ったが、スズねぇは違う方向に勘違いをしていた。 何故かスズねぇがバスタオルを取りはじめたのだ。 「私……コーちゃんにだったら……襲われても……」 その言葉を聞いて、僕の意識は見事にぶっ飛んだ。 生命の危機的な意味で。 「ちょ……っ!コーちゃん!?大丈夫!?  コーちゃん沈んじゃダメーっ!」

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