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深優は泣いた 第七話」(2011/08/09 (火) 12:14:28) の最新版変更点

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441 :深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:08:18 ID:xYocYX82 第七話 ・・・ここは何処でしょうか・・・。 たった今目が覚めました、どうやら無事に転送されたようです。 落ち葉の布団で眠っているような体勢になっていましたので、急いで体を起こします。 辺りを見渡すと、鬱蒼とした草木で太陽が遮られ、 おそらく夕刻に近いのでしょうか、両条件が重なってとても薄暗いです。 肝心なのは、お兄ちゃんと先生もちゃんと近くにいるかどうかです。 もちろん居るはずだと信じて二人の名を呼び、周囲に目を配ります。 ・・・ですが呼べど探せど二人の気配、姿を確認する事が出来ません。 二人が身が心配でならないし、薄暗い中ひとりぼっちでいるのが不安なのもあって、 早くこの状態から抜け出そうと必死になって探します。 「お兄ちゃん~!せんせ~!私ここだよ~!」 ダメです反応はありません。 歩いていて分りましたが、どうやら最初に目が覚めた場所に戻ってきているようで、 これでは出口が見えるはずもなく、思ったより複雑で広い森の様です。 さらに先生から貰った羅針盤もなぜかしっかり機能しません。 ・・・陽も落ちかけています、本当に暗いです、どしたらいいのでしょう。 先程から、心細さから泣いてしまっています。 とうとう私の足は止まって、大木の根元にしゃがみ込んでしまいます。 「グスン・・・お兄ちゃん会いたいよぉ・・・どこにいるのぉ・・・」 つらい気持ちになったとき、思い出されるのはお兄ちゃんの顔。 一週間に一度も忙しくて帰ってこれない事も珍しくなかった先生に代わって、 近所の女性達が私の面倒を代りばんこで見てくれましたが、あまり長居はしてくれません。 でもお兄ちゃんだけは、私が十二歳になる頃まで、 お家にいっぱい来てくれて、お泊まりもたくさんしてくれました。 いつも玄関先でお兄ちゃんが来るのを座って待って、来たら腕に飛びついたものです。 私の人生は今までお兄ちゃんを中心に回っていた、と言っても過言ではありません。 したがって、お兄ちゃんの強烈過ぎる存在感が、 私の頭に他の人が入り込む余地を無くしているのです。 442 :深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:08:59 ID:xYocYX82 私はお兄ちゃんのことが恋しくなると、ついつい独り言を始めます。 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん、 私とりぼっちはいやだよぉ、どうしておかしいよ変だよ、なんでお兄ちゃんがそばにいないのどうして、ねぇ誰か教えて、こんなことあっていいの、ねぇお兄ちゃんそうおもうでしょ。いるんなら返事をして、私こんなにたくさんお兄ちゃんの名前を呼んでいるのにどうして。聞えなかったの?そうなの?じゃぁもう一回だけ言うね。お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん・・・聞えた?じゃあ、さすがにお兄ちゃん隣にいるよね・・・・・・いない!やっぱりいない・・・なんで・・・!お兄ちゃん私のことがきらいになったの!?私はこんなにお兄ちゃんの事を愛しているのに・・・ひどいよ・・・ううん、ごめんなさい、私の愛が足りないからなんだね、じゃぁどうすればいい?・・・うん分った、お兄ちゃんとの楽しい思い出を語れば嫌いにならないでくれるの?うふふ、お兄ちゃんたら私の愛を確認したいのね、そうだよね不安だよね、私もその気持ち凄く分るよ。私なんか最近いつもお兄ちゃんのぬいぐるみに話しかけてるもん。でもぬいぐるみは本物じゃないから全然返事をしてくれないの、やっぱり私の愛しい愛しい愛しい本物のお兄ちゃんが良いよ、朝起きたらお兄ちゃんが隣で気持ちよさそうに寝ていた、なんてことおきないかなぁって眠る前想像しちゃう。でも私の想像が現実になったことなんて一度もないんだよ。そうそう、夢も同じでね、一週間に一、二回は見るんだけど正夢だったことなんて一回もない。えっ・・・夢の内容?ほとんど、お兄ちゃん絡みなんだよ、でもごめんなさい、内容は恥ずかしくて言えないの。お兄ちゃんが私を変な目で見るようになっちゃうかも知れない内容なの、でも夢って生理的現象だからしかたないよね、でも私眠る前にちょっとだけ夜空にお願いするの、お兄ちゃんと私の誰にも邪魔されない、全てのしがらみから自由な世界で寄り添って愛し合う夢をみますようにって。あっ・・・お兄ちゃんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいお兄ちゃん、私調子に乗って逸らしちゃったね、ごめんなさい。次から気をつけるから嫌いにならないでねっ・・・。えーっとね、お兄ちゃんとの楽しい思い出を語らせてくれるんだよね、うん余裕だよこんなの、日付、時間、場所、状況、服装、言動全て憶えているよ、えっ?当り前だよ、私が憶えていないわけないよ、おにーちゃんの妹だもん・・・さぁ、準備はいい?じゃぁ行くよ・・・」 寂しさから逃避するため、お兄ちゃんとの楽しい思い出を回想していたら、 「おっぱいおっきいおねーちゃんどうしたの?」 不意に背後から声をかけられます、赤い装いの小さな女の子のようです。 陽ノ国的な装いに、やや小麦色の肌、銀色の髪であることから、 菱島にいることは間違いないようです。 「・・・・・・えっ、私の事・・・?」 「うん。やさいうってるおみせで、めろんってあったの。それくらいおおきい」 「そんなに大きくないよ・・・」 「おおきいよー。ミアもミアのおねーちゃんもひんにゅーだから、うらやましいなぁ」 「ふふ・・・そっか、ねぇ君、ミアちゃんって名前なの?お家はこの近く?」 「うん。おっぱいおねーちゃん、このきにすんでるの?」 「ううん、ちょっと遠い所に私のお家はあって、今は迷子になっているからここにいるの」 「うーん、そーかぁ。おにーちゃんってだぁれ、すきなひとぉー? ひゃっかいくらい「おにいちゃん」っていってたから、きになったー」 思いもよらなかった質問にどう答えようか迷いましたが、正直な気持ちで答えました。 「うん・・・すっごく仲良しで大好きだよ、でも残念、片思いなの。 本当の気持ちを伝える勇気がなくて、今のもどかしい状態に至る、って感じかな・・・」 「じゃぁもし、こくはくしたくなったら、あいしてるっていったらいいよぉ。 おかあさんがこれのほうがすごいって」 「ふふふ、助言ありがとう。 でも、言われたら本人が困ると思うから、大事なとき以外使わないでおくね」 「えーっ、おっぱいおねーちゃん、それじゃぁおそいよー。 だれかにとられちゃうよぉ、いいのぉ? みあのおねーちゃんがいってたよ、すきなこをじぶんのものにしたければ、 せっきょくてきにしつこく、からだでゆうわくすることがだいじだって。 これってどういういみー?おしえておしえて」 443 :深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:09:53 ID:xYocYX82 えっ・・・どうしよう・・・こんな小さい子相手に答えればいいのかなぁ。 嘘をついたり無視するのは良くないし・・・なんて言おうかなぁ・・・。 そうだ、ちょっと包んだ表現にしてみよう。 「積極的は、好きな人にたくさん自分の気持ちを伝えること。 しつこくカラダで誘惑は・・・え~とその・・・ もっと深く仲良くなってくれれば・・・私からご褒美がありますよっ、 ていうのを何度もちらつかせる、恋の駆け引きみたいなもの・・・こんな感じ、かなぁ・・・」 「どんなごほうびくれるのぉ?おいしい?」 「・・・それはねっ・・・好きな人が喜ぶようなことしてあげるの・・・」 「う~ん、それってからだでするの?」 「うん・・・」 「どんなふぅーに?」 「えっと、それはその・・・私・・・経験がないから詳しくは・・・」 「う~ん、おっぱいおねーちゃんもしらないんだぁ・・・・・・あっ!みあわかった! みあのおとうさんとおかあさんが、よるにふとんでしてるのだよ、ぜったいそうだぁ。 あれね、すっごいんだよ、あかあさんのかわいいこえとか、 おうちのゆかがゆれるおともきこえるよ。 きのうね、かくれてみていたら、 おとうさんにみつかってげんこつされたんだよ、いたかったなー」 「そ、それはそうだよっ・・・ミアちゃんにはまだ早すぎるよっ・・・そ、そんなこと・・・」 「う~んわかったぁ・・・。 ねーねー、おっぱいおねーちゃんは、おにーちゃんにごほうびあげないの? 仲良しなんでしょー、おっぱいおおきいからいろんなことできそー」」 「うん・・・そうだね・・・お兄ちゃんが私を受け入れてくれるのならいつでも・・・」 「やさしいしきれいだしおっぱいもおっきいから、 すぐにおにーちゃんのおよめさんになれるとおもうよー」 「うん、ありがとね・・・」 ・・・お嫁さんかぁ・・・そう言えば八歳の頃、 お兄ちゃんにお嫁さんに貰ってほしいってお願いしたことありました。 そしたら「ミューが十七歳になったら貰ってやる」と約束してくれました。 私は約束状なるものを作って署名させ、 よく引き出しから取り出しては、心をときめかせて眺めていました。 現在もそれが財布に入っています。 十七歳の件ですが、実はあと四日で十七の誕生日を迎えます、ですが期待はしていません。 お兄ちゃんからすれば、幼い私のお願いが本気だとは思えるわけありませんですし、 遠い過去の遊びの一場面を律儀に憶えているわけもありません。 でも、お兄ちゃんが私に嬉しい期待を持たせてくれたことに感謝です。 すでに涙は乾き、心にも余裕が出てきました。 焦らずとも、すぐに二人に会えるような気がしてきました。 陽は完全に森から姿を消し、夜の闇へと変化しつつあります。 「ねぇミアちゃん、もう暗いから帰った方がいいよ。 お家近いんでしょ、私送ろっか?」 「うん!こっちだよ!」 ミアちゃんが元気よく私の手を引っ張りながら、草をかき分けて進みます。 一応、均された細い道があるのですが、 そこを歩いてゆかないとなると、おそらく近道なのでしょう。 暗くてほとんど前が見えず、不慣れに歩く私と違って、 手馴れた足取りで分け入って行きます。 444 :深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:11:20 ID:xYocYX82 少し傾斜のある崖を下っていくと、集落の明かりを発見しました。 土壁は白く塗られ、紐や石でしっかり固定された大きな藁葺屋根のついた家が、 不規則に並ぶ、陽ノ国の典型的な村落風景でした。 異国感を感じる部分はありますが、 私たち陽ノ国人と源流で繋がっているような気がして、感慨深くなります。 村を眺めているうちに、 「みあちゃんこの村に住んでるんだ、きれいな村だねっ!」 「うん! あっ、そーだぁ、あのね、おっぱいおねえちゃんもいっしょにごはんたべよっ!」 「・・・気持ちは嬉しんだけど・・・ごめんなさい、私探している人達がいるの」 「おにーちゃん?」 「湛山先生っていう人も探してるの」 そう教えると、ミアちゃんが嬉しそうに反応しました。 「わぁ!さっきミアのおうちにきてたよー。 つよそうなおじいちゃんでしょー?かっこいいかたなもってたよ」 「えっ!その人ミアちゃんのお家に来てたの?あとほかに誰か一緒にいなかった!?」 「いたよっ!なまえわかんないけど、おれのみゅーがーってさけびながら、ないてたよ」 間違いありません、あの二人です・・・嬉しすぎて興奮を隠せません。 しかし、すぐに焦る気持ちへと入れ替わりました。 今もいるとは限らないからです。 「お願い・・・今すぐミアちゃんのお家に連れてって!」 「こっちだよ、ついてきて」 ミアちゃんは私が焦っていることを悟ったのか、走って誘導します。 かすかな明かりに目を凝らし、見失わないよう注意を払って追いかけます 二百歩ほどの場所で、みあちゃんの歩みが止まります。 止まった先には大きな家があり、 ミアちゃんは門をくぐり中庭を抜けて、玄関に入っていきました。 私は合図があるまで門外に待機です、人様の家ですから。 「ただいまー、おっぱいおねーちゃんつれてきたよ。 あー、なんでついてこないのー!こっちきてー」 「ごめんなさい・・・勝手に入ったらまずいかなって思って・・・」 許可を貰ったので、私も玄関におじゃまさせてもらいます。 廊下にはミアちゃんによく似た女の子が立っていました。お姉さんかな? 即座に明瞭と挨拶をしようと試みましたが、初めての場所、初対面の人、 とだけあって緊張してへんてこな挨拶になってしまいました。 「は、はじ、はじめまして、い、いしはし深優ですっ、こんばんっわっ・・・」 その人は私を見るなり振り返って、廊下奥に向かって大声で 「旅の人ーー!みゆうっていう人来たけどーー!この人じゃないのーー!」 期待と緊張で、どきどきしながら縮こまっていたら、みあちゃんが 「ねっ?ミアのおねーちゃんっぜんぜんおっぱいないでしょ。 ちょっとだけわけてあげてよー、ついでにミアにもちょーだい」 「み、みあちゃんっ・・・人前ではみゆうって呼んで・・・恥ずかしいからっ・・・」 「みーあー!ずっと深優さんのこと、おっぱいおねーちゃん、って呼んでたの? 失礼でしょ!それに勝手に抜け出して・・・あれほど駄目だって言ったのに!げんこつ!」 ミアのお姉様のお叱りとともに、鉄拳制裁がミアちゃんにごつん、と打ち下ろされました。 「いたーい、おねーちゃんはすぐ殴る・・・ もうっ!きょうからミアのおねーちゃんは、おっぱいおねーちゃんだもんっ!」 「だーかーらっ、その呼び方失礼でしょって!制裁!」 ミアのお姉さまの容赦ないげんこつを目の当たりにし、あたふたしていたその時です。 後ろから誰かが小走りでやってきます・・・・・・お兄ちゃん!! 445 :深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:11:57 ID:xYocYX82 「ミュー!怪我ないか!」 「お兄ちゃん!怪我はなかった?だいじょ・・・」 言葉を全て紡ぎだす前に、お兄ちゃんに力強く抱きしめられます。 その瞬間、冷たい夜風で冷えていたはずの体が一気に温かくなり、涙が溢れてきました。 お兄ちゃんの腰の辺りに手を回し、ゆっくりと抱きしめ返します。 「・・・お兄ちゃんと離れて・・・半日も経っていないのにね、 果てしなく長く感じたの・・・でもきっと、すぐにお兄ちゃんに会えるって信じてた・・・」 「そうか、ごめんなぁミュー、すぐに見つけくれなくって・・・寒かったろ・・・」 「お兄ちゃんこそ・・・寒い中探してくれたんでしょう? ・・・私全然寒くないよ、だってお兄ちゃんが温かくしてくれてるから」 そう答えると、お兄ちゃんは、はっとして少し抱きしめる力を緩めました 「あっそーいやぁ、俺ずっと走りまわってたから汗かいてるかも・・・臭い?」 「そんなことないよ、お兄ちゃんの匂い大好き・・・お陽さまの匂いがする・・・」 大胆にも、お兄ちゃんの胸に顔を深く埋め、匂いを一気に私の体へ取り込みます。 はぁ・・・はぁ・・・お兄ちゃんの匂い・・・なんでこんなに良い匂いなの・・・? 「ミュー!ちょっと人が見てるから・・・」 「私まだ、お兄ちゃんまだ繋がっていたいよ・・・ごめんなさい、 もうちょっとだけ、このままでいさせて・・・大好きだよお兄ちゃん、苦しいくらいに・・・」 お兄ちゃんに会えたという興奮で理性が保てません、猛烈に甘えてしまいます。 あとで、ちゃんと謝ります、だから今は・・・こうしていたい・・・。 「おっぱいおねーちゃんあとひとおしだよー、がんばれーひゅーひゅー、 あっ、おねーちゃん、ぽかーんってなってるーまだまだこどもだー」 次第に、安堵感からか瞼が重くなってきます・・・・・・。 私はそのまま・・・眠りの淵に落ちてゆきました・・・・・・。
146 名前:深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.[sage] 投稿日:2011/07/09(土) 08:14:19 ID:b5apGo9c [2/7] 「どうして、どうしてなの・・・・・・ねぇ、お兄ちゃん、 どうしてそんなに楽しそうなの?苦しいよ、息が詰まりそうだよぉ」 そう何度も、小さく呟きながら、仲良くする二人をこそこそと眺めます。 「あんなに激しい口づけを交わしたのに・・・・・・やっぱり、 目を離したのがいけなかったんだ・・・・・・ぐすん・・・・・」 良くないと分かっているのに、お兄ちゃんに人を憎むなと教えられてきたのに、 コルネリアさんに対して激しい嫉妬の炎が轟々と舞いあがります。 お兄ちゃんと女の人が仲を良さそうにしているのを見ると、 大体、今回と似た心境に至るのですが、それとは別に、 もう一つの感情も湧きあがってきます。 その正体は私にも良く分かりません、でも危険な感じです。 いつなん時か、 この感情が湧きあがったことのあるような・・・・・・気のせいならいいのですが。 「深優さん、隠れていないで、こっちに来たらどうです?」 えっ!ばれました・・・・・・隠れ方が甘かったかなぁ。 なぜか、お兄ちゃんも焦っています。 「ごにょごにょ・・・おい、約束と違う、気付かないふりじゃ・・・」 「ふふ、修羅場が怖いのですか?わたしが守るから安心して下さい。 おかしな行動を取る人間には、注意をしてあげるべきです」 「なんだよそれ・・・・・・頼むから、きつく当たらんでくれ。 繊細な子なんだ。柔和にな」 こそこそ話をしている二人に、思い切って近づきます。 ううぅ・・・コルネリアさんは苦手です、それに私を嫌っているみたいです。 「どうして隠れていたんですか?挙動不審ですよ」 「ごっごめんなさい・・・」 「理由を簡潔に答えなさい」 「そのっ・・・たまたま、通りかかったら、コルネリアさんと、お兄ちゃんがいて、 楽しそうだなぁって思ったけど、で、でも、邪魔したら駄目かなって思って、それで・・・・・・」 「嘘ですよね」 「えっ、あっあの、その・・・・・・私っ・・・」 「最初から後ろを付けていたじゃないですか。 気味の悪い行動を取る上に、平気で嘘を付くんですね」 そう言われた瞬間頭が真っ白になります、どう返せばよいのか見当もつきません。 ただ謝ることで精いっぱいです。 「ごめんなさいごめんなさい嘘付いてごめんなさいごめんなさい、許して下さい、 罰を受けますから、許して下さい、ごめんなさい・・・」 「謝れば泣けば、なんでも許してもらえると思っているんですか? いい機会だからはっきり言いますが、あなたのお兄ちゃん、 あなたの歪で異常な愛情にうんざりしているんですよ」 「おいっ、ネリア言い過ぎだ。そんな大したことじゃ無いだろ。 ほらっ、ミューおいで」 「だめ。そうやってすぐ慰めようとするから、依存されるのですよ」 お兄ちゃんは少し悩む表情を見せましたが、決心したように私を引き寄せます。 「ごめんなさい、私、悪い事したのに、ありがとう・・・」 「やる気あるんですか?わたしはもう・・・帰ります・・・」 語気から不満を感じ取れます。 コルネリアさんはそう言い残すと、この場を立ち去って行きます。 147 名前:深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.[sage] 投稿日:2011/07/09(土) 08:14:45 ID:b5apGo9c [3/7] 「おい、ちょ、ちょっと、戻ってこーい・・・・・・あーあ行っちゃった」 「お兄ちゃん、ごめんね。折角仲良くしてたのに・・・・・・」 お兄ちゃんは返事することなく、私の頭を撫でています。 私もしばらく、黙ってお兄ちゃんの胸に顔を埋めます。 しばらくして、大きなため息が聞こえてきます。 「はぁ・・・・・・なぁ、そんなにお兄ちゃんのことが好きか」 「うん、大好き。今ある言葉じゃ足りない、表わしきれないくらい好き」 「どうしたら俺のこと嫌いになってくれる?」 「嫌いにならないよ。お兄ちゃんの嫌いな私は私じゃない。 いっぱい痛いことされても、罵られても、全然へーき」 「ミュー、俺は、俺の情で北嶺の運命が決まってしまうことに畏れを感じている」 「もう忘れよ・・・・・・私は一介の陽ノ国娘、ただそれだけ」 「だめだ、戻るんだ。俺は深優を想っているからこそ頼んでるんだ。 北嶺は半ば暴走気味の侵略国家だ、だからこそ、ミューの優しさで変えるんだ。 ルカさんのような被侵略国の人々は、ミューを希望の星として待っている。 もう、そんな我ままを言っていい時じゃないんだ・・・」 「・・・・・・お兄ちゃんも一緒に来てくれたら頑張る・・・・・・」 「俺のやるべき事じゃないし、それに、女王と懇意にするよそ者なんて鬱陶しいだけだ」 「じゃあ、お兄ちゃん・・・・・・国王になって・・・・・・。 それで私が王妃。あっ、逆でもいいよ」 「・・・・・・結婚しなきゃいけなくなるぞ」 「愛してるから問題ないよ・・・・・・」 お兄ちゃんは驚きの声を上げます。 だって今伝えるべきだと思ったんです、愛してるって。 「愛してるってのは異性として意識している奴に使うもんだぞ。 初めて愛してるなんて言われたよ・・・・・・」 「私は好きだよ、兄として、男の人として。 狂おしいくらい愛してる・・・・・・ お兄ちゃんの匂い、髪、瞳、肌、声、仕草、癖、価値観、信念、嗜好・・・・・・全てが・・・。 どうしてこんなにお兄ちゃんが愛おしいんだろうって、自分でも不思議」 私を押しのけて、後ずさりするお兄ちゃん、初めて見る表情。 「いやっ、でも、ミュー、俺の、妹であって・・・・・・ああっ駄目だ、 何言ってんだ俺、考えが頭で纏まらない」 「言いたいこと分かるよ、お兄ちゃんは私のこと妹としか考えられないんでしょう? えへへっ・・・・・・それでもぜーんぜん構わないよ、 お兄ちゃんの傍に置いてもらえるだけで大満足だから・・・・・・」 「・・・・・・し、質問だけどよっ、 いつから俺のことを、い、異性としてっ、意識したんだ・・・?」 「六歳くらいかなぁ。 その時期くらいから、お兄ちゃんが何倍もカッコよく思えてきちゃって。 もう、それから心臓がドキドキしっぱなし・・・・・・、 特にお風呂なんて気持ちを抑えるのが大変だったよ・・・ふふっ・・・」 (あんな小さな時から、俺の事を男として見てたってのか? そんなこと知らなかった、騙された気分だ) 「とにかく、ミューは俺の妹だからなっ!それ以上ではないぞ・・・・・・」 いざ、妹でしかないと面と向かって言われると、とても悲しくなります。 でも、私は遂に本当の気持ちを伝えられたんです、 抑えつけられていた愛が一気に解放されたような気がします。 もっと好きになってくれるよう、遠慮なく攻めていいんだよね、お兄ちゃん? 148 名前:深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.[sage] 投稿日:2011/07/09(土) 08:17:04 ID:b5apGo9c [4/7] 雌猫め、どうやら告白したようだな。 私が怒って帰ってしまった日以降、 雌猫の甘えっぷりが私に吐き気を促すほどに酷くなっている。 ふざけるな・・・・・・少々痛い目にあって貰うからな・・・ふふっ、明日から決行だ。 専ら草むしりに精を出す雌猫の近くに水筒が。 これを見て、ちょっとした毒薬を混ぜることを思いついた。 量は私が雌猫を見ると催す程度だ。 だが、竜史のかわいいかわいい妹ちゃんなので多めにしてやった。 しばらくすると、水筒の水を飲み始める。 雌猫は剣を振らずに、道場の雑用仕事ばかりやっている、何しに来たんだか。 「おいしい・・・・・・さーて、がんばろっと・・・」 雌猫のまぬけな独り言聴こえてくる、ふふっ、 今に見てろ、すぐに腹を押さえてのたうち回るぞ。 と、ほくそ笑んだが、結局何も起こらなかった。 一体どんな胃袋してるんだか、あれは即効性のある毒なんだぞ。 その後、毒を変えたり、量を増やしたりしたが雌猫は至って健康だった。 毒薬作戦は一旦止めて、雌猫の頭に植木鉢を直撃させる計画を考えた。 下準備として、あいつが良く通る場所の屋根に、重い鉢を設置し、 風圧の天術で落とす、これなら誰にも気付かれまい。 門下生たちの稽古着を持って、洗濯場に向かう雌猫。 よし、乙地点の屋根を通るぞ・・・・・・・・・・・・・今だっ! 雌猫に直撃、やったぞ、あの高さだ、額から血ぐらいは流すだろう。 「わぁ、びっくりしたなぁ~。 あっ、破片片付けなきゃ、次通る人怪我しちゃうよね」 あいつ!頭の土を払うだけで、痛がるそぶりはなしとは・・・・・・。 破片を片付け、むき出しになった植木を近くの鉢に植え直して、 何事もなかったように去って行った。 前回同様、重量を増やして何度も落としたが、 まぬけな驚き声をあげるだけで、一切怪我をしなかった。 鉢を割り過ぎると、誰かに不審がられるので、一旦中止にした。 むぅ・・・雌猫を潰さねば、竜史との未来はない。 まぁ、いい、今日は竜史と二人っきりで出かける約束があるのだ。 もちろん、雌猫には内緒だ、でないと私も行く、とか言いかねないからな。 「よぉ、ネリア、行こうか」 愛しの彼が笑顔で傍に来た。 私は竜史の手を引いて、大通りに繰り出していく。 日が沈んでも、人々の喧騒は止まず、灯りがいたるところで揺れている。 そんな、人ごみの中を連れだって歩き、 普段じゃあまり話さないような話題を交わしながら互いに笑顔になる。 食事をとったり、色んな品物を見たりしている内に、 人気のない公園のような場所に来ていた。 「楽しかったです、ありがとうございます」 「俺もすごく楽しかったよ」 「あの、妹さんと私、どちらが好きですか、女として」 竜史の顔が赤く染まる、まぁ仕方がない。 「まぁ、女性としてなら、ネリアかな・・・なんてなっ」 「じゃあ、しても構わないですよね?」 「何を・・・」 「本当は分ってるんですね、さぁ・・・・・・」 私の唇に竜史の唇が触れる。 「嬉しい、もっとします?」 「まぁ、取りあえず今日はこのくらいでっ・・・ねっ?」 「ふふっ、竜史さんがそう言うなら・・・・・・ふふっ、次は期待し・・・」 「待て、しっ・・・!静かに」 竜史は私を静かにするよう指示し、耳をすませる。 「ネリア・・・・・・なんか、殺気を感じる。 暗がりで姿は確認できないが、間違いなく四、五人はいる、しかも囲まれている」 「暴漢でしょうか・・・ならば、私の天術であなたを守ります・・・!」 「ありがとう。でも、俺はいい、自分の身を守ることは優先してくれ」 気配から、草を踏みしめる足音に変わった。 四方八方から、わらわらと黒づくめの連中やって来た。 149 名前:深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.[sage] 投稿日:2011/07/09(土) 08:17:47 ID:b5apGo9c [5/7] 「女いるじゃねぇか、まあ、後でもう一人分請求すりゃぁいい、殺れ!!」 怒号のような声で竜史の真正面の黒服が叫ぶと、 他の黒服が襲いかかって来た! 真正面の黒服に対して、高圧縮された風圧の球を放ち、先手取る。 もう片方の手にもあらかじめ風圧球を込めていたので、右の黒服にも放つ。 胃液と血を吐きながら、二人は腹を抱えて地に伏せる。 左の黒服は差し迫った間合いにいるため、念じる時間が無い。 なので迷わず刀を抜き、やつの薙ぎ払いを受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。 奴が力で強引に崩そうとするのを逆手にとって、 力を抜いて相手を崩す。間合いを取ることに成功。 対峙したはいいが・・・・・・黒服の刀身の銀色が月光に反射して、 やたらと目に焼きつく。 それを見ていると、殺し合いをしているという現実が徐々に頭を支配するようになる。 切っ先が震える・・・・・・怖い、死ぬの?こんなところで?嫌だ、誰か・・・! 助けを求めるように、一瞬だけ竜史の居た場所を一瞥するが居ない。 刀の金属音だけが遠くで響く。竜史、死なないでっ・・・・・・。 もたもたしていたせいか、痛そうにうずくまっていた黒服たちが起き上って、 鬼の形相でこちらにゆっくりと近づいてくる。 同時に三人相手なんて無茶だ、出来っこない・・・・・・誰か、誰か、お願いっ・・・! 「なんだお前、引っ込めっ!」 私と他の黒服共々、怒鳴り声をあげる黒服の方へ向く・・・・・・雌猫?なんでっ・・・!? 怒鳴り声を上げた黒服が、雌猫に近付いて行く。 すると、雌猫まであと三歩というところで、夜空に盛大な血しぶきが上がる。 ??・・・・・・!!ひっ・・・黒服の頭がないっ!? 「なっ、なんだお前!!何をしたっ!!!」 「頭を蹴っただけだよ?」 二人の黒服は大慌てで雌猫に襲いかかる。 雌猫は右の黒服の突きをひらりとかわし、 もう一方の黒服が斬り下ろしてきた刀を素手で掴み、 へし折ると同時に、空いた方の手で腹を殴る・・・・・・いや、突き刺した! 雌猫の腕は腹部を突き破って、空高く上がっていた。 血だらけになった手をすぐに抜き、 尋常ならざる機敏さで、残りの黒服に接近し、胸倉と袖を掴んで頭から叩き落とす。 鈍い音が大地に響く。 首があり得ない方向へ曲がって、背中の骨が突き出ている。 血だらけの雌猫は私を一瞥して、近寄ってくる。恐怖で体が動かない。 「ば、化け物っ!!!来るなっ!」 「大丈夫?助けにき・・・」 殺されると思い、走って奴から離れた。 雌猫が異様な怪物に映って、竜史のことを考える余裕はなかった。 「四人もやられた、クソっ・・・強ぇじゃないかよ、こいつ・・・・・・割りに合わん」 「我流は基礎できていないから、脇が甘い・・・・・・死にたくないだろ?失せろ」 なんとかまだ生きている、首の皮一枚残っているような状況だ。 太股と肩を斬り付けられてるが深くはない。 しかし、ネリアが気がかりで、あまり集中できない・・・・・・。 それにしても、こいつら誰なんだ? 「お前、誰に雇われてんだ」 「ああ?金さえ貰えりゃ、誰に雇われようが、知ったこっちゃねぇ」 雇われただけのゴロツキのようだ・・・・・・誰が指示したんだ? 「大人しく・・・・・・死ねっ!!」 「胴がガラ空きだ!」 強烈な一振りを捻じ込み、黒服をよろめかせる。 最後に延髄に一撃。泡吹いて気絶。 もちろん峰打ちだ、殺しなんて御免こうむる。 「ネリア!!」 休む間もなく、全力で丘を駆け上がり、ネリアを探す。 すると、いつもの見慣れた顔があった、ミュー・・・? 「どうしたんだ?」 「コルネリアさんなら大丈夫だよ、走ってお家に帰ったのぉ」 「どういう事だ?」 「私が助けたんだよ、ほら見て!悪い人が眠ってるでしょ」 下方に目を向けると、無残な人型が三体。 恐る恐る近づき、一体一体生死の確認をする・・・・・・だめだ、完全死んでいる。 150 名前:深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.[sage] 投稿日:2011/07/09(土) 08:18:12 ID:b5apGo9c [6/7] 「ミュー・・・・・・いや、何も言うまい。 ありがとう、ネリアを助けてくれて」 うん、と無邪気な微笑みを見せる。深優が幼い頃の笑顔とそっくりだった。 「ネリアが心配だから、あとを追おう」 「コルネリアさんは大丈夫。それより、お兄ちゃんいっぱい怪我してる。 ・・・・・・許せない、許せない・・・!誰がやったの?」 「ああ、あっちで気を失っているよ。後で治安隊に突き出す。 って・・・・・・おい!どこ行く!」 目にも止まらぬ速さで丘を下って行く。 その僅か二秒後、肉を包丁でぶっ叩いたような音が四回聴こえる。 その後、ミューが嬉しそうに丘を駆け上がってきて、俺に抱きつく。 「お兄ちゃん、キズ見せて、治すよ」 ミューのあまりにも無慈悲な行動は、俺から気力を奪った。 まじまじと傷口見つめ、恍惚とした表情になるミュー。 「痛かったでしょう? 良く頑張ったね・・・・・・舐めたら治るかも・・・・・・ぴちゃ、ぺろっ・・・」 優しい滑らかな舌使いで、患部を刺激する。 痛さと気持ち良さが半々といったところか。 「お兄ちゃんの血、お兄ちゃんの血・・・はぁはぁ・・・・・・鉄の味がするぅ・・・」 「治るわけないだろ、そんなので」 「じゅっる、ん、ぴちゃぺろぺろ、はぁはぁ・・・・・・すごく綺麗になったよ。 お兄ちゃんの体の一部が・・・私の体に取り込まれているなんて、ぞくぞくするよ」 ミューはこんな残酷で淫らな顔をする子じゃなかった。 優しく、清楚な子になるよう育てたのに、 どうしてこんな一面を持ち合わせるようになったんだ、俺はどうすればいいんだ・・・。 「ねぇ、世の中って意地悪な人いっぱいるね」 「そうだな」 「お兄ちゃんと二人っきりの世界に行きたい。 そうすれば余計な心配もしなくて、 お互いだけを見ていられるのにね・・・・・・はみゅ、ぺろぺろ・・・」 ミューの混じりっ気のない白い肌と鮮やかな朱色が、月の光で美しく煌めいている。

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