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533 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:19:10 ID:WfeXrh5k  倫敦  ロンドン  LONDON  グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国首都  名の知れた都市にして観光地  名探偵ホームズが活躍した舞台としても有名  そんな場所なので、弐情寺カケルを始めとする、夜照学園高等部剣道部の一年生グループの夏休みの旅行先がロンドンとなったのは無理ならぬことだった。  「来て良かったぜロンドン!必死こいてバイトして旅費貯めた甲斐あったよなー!」  と、カケルの友人の1人が、名探偵の部屋(を模したもの)をパシャパシャ写真を撮りながら言った。  「んー、そだね」  と、興奮気味の友人に苦笑を浮かべながら、カケルは答えた。  カケルの体つきは細く、中性的な顔立ち、温和な印象と相まって剣道部と言うと驚かれることが多い。  それでも、服の下はそれなりに鍛えているだけのことはあるのだが。  「なんだよカケル。お前だってガキの頃は探偵小説読んでワクワクしたクチだろ!?」  乗り気でないカケルに、友人は言った。  どうでも良いが、こんなところで大声を出さないで欲しいとカケルは思った。  このホームズ博物館は名探偵ホームズの住んでいたアパートを再現しただけあり、かなり狭苦しいのだから。  しかも、周囲には外国人―――というより日本人でない人々が過半数を占めているのだから。  むしろ、自分達が外国人。  こういう時に、本当に自分たちはここではよそ者なのだな、とカケルは感じずにはいられなかった。  それはさておき、  「子供の頃はそうだったんだけどね」  と、カケルは友人に答えた。  「今読み返すと、何か萎えちゃってさ、ああいうの」  「そういうもんかね」  不服そうな友人だが、カケルも確かに名探偵の冒険物語に心を躍らせた子供だった。  殺人事件のスリルとサスペンス、引き付けられる難解な謎、そしてその事件を鮮やかに解決する名探偵の英雄的(ヒロイック)な活躍。  ホームズに限らず、ポアロや明智探偵と少年探偵団、金田一、猫の方のホームズと有名どころには大体ハマった。  しかし、ある程度歳を経てから読み返してみると萎えた―――と言うより正直、幻滅した。  1つの事実に気づかされたからだ。  名探偵は誰も救えない、という事実に。  多くの場合、名探偵が対峙して退治するのは殺人事件とその犯人だ。  つまり、前提として人が死ぬ。  少なくとも被害者(死亡者)は1名以上出るし、最悪のケースだと被害者(犯人のターゲット)が全員殺害されてからようやく名探偵が事件を解決する、ということもある。  『解決(そんなこと)なんかして誰が救われるのだろう?』  というのが、改めて探偵小説を読み返したカケル少年の感想だった。  大体にして、この種の物語の犯人は殺人に至る止むに止まれぬ理由を背負っているのがお約束だし。  対する名探偵も、実のところ事件を解決しなければならない動機が薄いことも多い。  依頼であったり、偶然事件に巻き込まれたり、場合によっては単なる知的好奇心に基づいていたりもする。  犯人にしてみても、必死に努力して考えたトリックを、名探偵にそんな動機で明かされるのは屈辱以外の何物では無いだろう。  屈辱を通り越して―――残酷な所業だ。  『そう、名探偵(ヒーロー)は誰も救えない』  彼らは、悪を白日の下に晒しても、決してそれを、誰かを救うことは無いのだ。  彼らは、英雄(ヒーロー)ではあっても救い主ではない。  それに気づかされてから、カケルは探偵小説を読むのをパッタリと止めていた。  人を救えないヒーローである名探偵の姿なんて見たくなかった。  いや、それ以上に、子供の頃に憧れた彼らを憎みたくは無かったからだ。 534 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:19:29 ID:WfeXrh5k  「でもさー、先輩たちも来れば良かったのになぁ」  そんなことを考えているうちに、友人たちの会話は他のことへ移っていたようだ。  「お前は天野先輩目当てだろ?」  と、友人の1人が言う。  「一応誘ったんだよね、たしか」   と、これはカケル。  「ああ。誘ったんだけど『切り裂きジャックの街ロンドンね。いーじゃねえか、一年組で楽しんでこいよ。オレは夏中ずーっと恋人とラブラブする予定が入ってるからさ』って・・・・・・」  もう片方の友人が、沈んだ調子で言った。  二年生の天野三九夜は、料理部と掛け持ちしているにも関わらず、夏の大会で引退した宝生院共々『剣道部のツートップ』と名高い先輩だ。  ボーイッシュで気さくな面があるため、学年問わず慕う部員は多い。  尤も、当の昔に彼氏持ちだが。  「そんなことしてると、千堂先輩から睨まれそうだね」  と、カケルは友人を茶化した。  千堂先輩とは、その天野の幼馴染であり恋人である。  「ああ。同じ日に天野先輩をチラチラ見てたら、その時の組みの練習で千堂先輩にスゲェボコられた」  その時のことを思い出したのか、ガクガクと震える友人。  「千堂先輩も、普段は天野先輩を空気みたいに扱ってるクセになぁ」  「空気がないと生きていけないってことなんだろうね」  そう言って、皆で笑いあう。  と、同時にカケルは以前、天野先輩から言われた言葉を思い出していた。  強さを追う者として、カケルが天野に投げかけた言葉の答えを。  『強くなる方法、だァ?』  その日、カケルの言葉に天野は怪訝そうな顔で言った。  『そりゃ基本、練習を繰り返すだけだろ。要は慣れだ、慣れ』  と、言ったものの、カケルの微妙に残念そうなのを見て取ったのだろう。  『けど、負けないようにする心構えは知ってる』  そう続けた。  『何の為に剣を振るうか―――ソレをいつも忘れないコトだ』  そう言って、天野は竹刀を取り出した。  『オレはゼン――― 千堂の為に闘う。ヤツにオレが闘う姿を見て欲しいから、それに相応しい姿を見て欲しいから剣を振るうし、練習も重ねる』  そう言って、竹刀を一振りし、天野はシニカルに笑った。  『何の為に剣を振るうか、ソレを忘れると、負けるぜ』  そう語る天野の姿は、どこか自嘲的だった。  『つーっても、オレの場合ゼンの為っつーより自分の為でもあるカンジだけどなー』  前言撤回、惚気だった。  『ま、世の中には他人の為に剣を―――じゃなくて力を振るい、ソレを自分の力に出来るバカもいるけどな』  そう笑う天野の姿はどこか清々しくて―――それ以上に彼女の言葉が印象に残っていた。  『他人の為に力を振るうバカ』と言う言葉が。 535 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:21:57 ID:WfeXrh5k  実のところ、ホームズ博物館を訪れた日の段階で彼らのイギリス旅行は終盤だった。  明後日の朝には、飛行機に乗って帰国する予定だ。  それについて、カケルは少し物足りなくもあったが、正直安堵もしていた。  この遠い異国の地では、やはり自分はよそ者なのだと、ずっと感じていたからだ。  言語のハンデだけではなく、端々の体感レベルで。  「ここは自分の居場所ではない」と。  とはいえ、イギリス旅行を楽しんでいたのも事実だった。  そして、日本に帰る前に一度やってみたいことがあった。  ロンドンの霧の中を歩くこと。  正直、出発前は『霧の都』というイメージが強すぎて、煉瓦造りの街を霧の中で歩くのはそれはそれは幻想的なのだろうと思っていたのだが。  実際は始終曇天と雨ではあったが、濃霧の中で歩くようなことは無かった。  そんな訳で、名探偵ホームズの博物館を覗いた翌日、帰国の前日の早朝。  弐情寺カケルは散歩に出た。  早朝ならば、霧が濃いのではないか、という希望的観測だったが、正直多少当てが外れた感はあった。  「ま、そう上手くはいかないよな」  と、ホテルの近く、うっすらと霧がかった人のいない道でカケルは呟いた。  そういえば、友人が「霧の都の霧ってのは、産業革命期のスモッグが大半だったってコナンの映画で言ってた」とか言っていた気もするし。  幻想的な霧の都のイメージなんて夢物語でしか無いのだろう。  そんなことを考えながら、煉瓦造りの橋の上に差し掛かる。  ロンドン橋とまではいかないまでも、下の川まで結構な高さがあり、ここから落ちたら確実に死ねるな、と彼は思った。  と、そんなことを考えていると、橋の向こうから声が聞こえた。  「・・・・・・じす、ふぉーりんだん、ふぉーりんだん・・・・・・」  歌声である。  「ろーんどんぶりっじす、ふぉーりっだん、ふぉーりんだ・・・・・・」  そのロンドン橋の有名な童謡だ。  カケルも子供の頃に聞いたことがある。  「・・・・・・ろーんどぶりっじす、ふぉーりんだん・・・・・・」  目を凝らすと、1人の少女が橋の端―――石造りの欄干の上で歌い、舞っていた。  幻想的な光景。  一瞬、幽霊かとも思うほどに現実離れした姿だったが、少女が舞うたびに揺れるロングスカートやセミロングの髪の動きは確かに実体の重みを感じさせた。  少女は愉快そうに、夢見心地に、童謡を繰り返し、そして舞う。  カケルも、そちらの方に引き寄せられるように歩いていく。  頭上を見つめる少女は、カケルの接近には気づかない。  そうしている内に、少女とカケルは橋の真ん中まで差し掛かる。  さて、どうしたものかとカケルが考える、その前に。  「まい、ふぇあ・・・・・・」  少女の歌が途切れ、終わる。  「うぇる!」  同時に、少女の髪がふわりと舞い、落ちる。  否、落ちたのは少女自身。  橋の上から人が落ちた!  それを見た瞬間には、カケルの体は動いていた。  少女のいた位置に走り、体を乗り出す。 536 :ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:22:16 ID:WfeXrh5k  「掴まれ!」  その答えも待たず、自由落下する少女の手を掴んでいた。  今まで夢見心地だった少女が驚いた顔をする。  落下の力と少女の体重に引きずられ、カケルまで落下しそうになる。  地面から体が離れる感触。  「・・・・・・やろぉ!」  咄嗟に欄干に足を引っ掛け、何とか踏ん張る。  「手、離した方が良くない?キミまで落ちるよ?」  「離すか!」  少女の言葉に、カケルは柄にも無く叫んでいた。  「名探偵でなくて良い!でも、でもさぁ・・・・・・!」  人一人の重みを、たった二本の手で支える痛み。  けれども、それをカケルは必死にこらえる。  こらえなければ、絶対に後悔するから。  「目の前で人になんて死なれてたまるかぁ!」  そうだ。  自分は人を救える名探偵に、いや、天野先輩の言う『人の為に力を振るうバカ』になりたかった。  だから、ここで手を離してはいけない!  「ふぁ、い、とおおおお!」  思い切り踏ん張り、自分の体を縮めるようにして少女の体を引き上げる。  「いっぱああああつ!」  グン、と思い切り力を入れ、少女を橋の上へと引き戻す。  その勢いで、カケルは大の字になり、少女は橋の上に転がる。  最後の最後に思わずネタが入ったのが格好悪いが、それでもどうにか少女を救い出せた。  石畳の上に転がった少女はきょとんとした様子で体を起こす。  「バカヤロウ!」  少女に向かって、カケルは叫んでいた。  「その歌は橋『が』落ちる歌だろう!?橋『から』落ちてどーするんだ!?」  カケル自身にも訳が判らない怒声に、あるいは別のことにきょとんとした顔をする少女。  「・・・・・・驚いたー」  大きな目をパチパチと瞬いて、少女は言った。  同時に、カケルは遅まきながら少女が日本語を話していたことに気が付いた。  「助かったー、助かっちゃったー、助けられちゃったー」  そして改めてカケルの方を見る。  「助けられる人が、いた」  そして、少女は笑った。  「あっはー」  と、とても嬉しそうに。  キュッと目を細めて。  「キミ、『誤って橋から落ちそうになってくれたところ』を助けてくれてありがとー」  はしゃいだ声で、少女は言った。  「名前を教えてくれないかなー、意味のある人」  そう言って、少女は狐のような笑みで、カケルに問いかけた。

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