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636 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(男子) ◆yepl2GEIow:2011/08/25(木) 20:01:15 ID:uGE1Sjto  『人は皆、それぞれの…カンテン…に従って生きている』  「寒天ですか?」  『観点だ』  俺からのお約束のボケにツッコミを入れてくれる月日さん。  俺こと御神千里と、緋月月日さんとの、ある日の通話でのことである。  『例えば、君のような一般市民代表は、今の日常が概ね変わることなく続いて行くと思う、という…カンテン…に従っている』  「まー、非一般人にはそうそう持ちようが無い観点ですよね」  『しかし、ソレは本当に1人残らず誰しも等しく同じく…キョウユウ…されるものなのかな?』  「と、言いますと?」  『一般市民と言っても、それぞれがそれぞれで別人別固体だ。個性と言えば聞こえは良いが、考え方、物の見方…カンテン…は絶望的に異なる』  「ああ、雑煮の中身って意外と地域家庭によって違うとかそういう話ですか?」  『微妙に違うような…まぁ、…ダイタイ…あってる』  そこで、月日さんは言葉を切り、続ける。  『人と人とは…チガウ…。違うが故に分かりあえない、という…ハナシ…さ』  「まぁ、現実にはじーえぬ粒子とか無いですからねぇ」  『あったとしても…分カリアエル…かは分からないけどね』  「アレって普通の人をテレパシー使いに変えるだけですし」  『そんなことはともかく』  「はい、脱線しましたのでともかく」  『…ソレ…を意外と忘れがちなんじゃぁ無いか、ということだよ』  人と人とは、分かりあえないということを。  「それは、三日との関係で、ってことですか?」  『…ソレ…以外でも、だよ』  と、月日さんはシニカルに言った。  『当り前の顔をして談笑していても、その相手とはどうしようもない断絶がある。それを忘れると、致命的な…ジャクテン…になる』  「あー、カレーとかお雑煮の味付けが家庭によって違ったりとかですね」  『そうして…分カリアエナイ…ことを認識していない。その弱点を突いて私が壊したのがレイちゃんだ』  俺の軽口をスルーして、月日さんは言った。  「……はい?」  『そう。私が壊した』  あっさりとした風を装ってはいるが、その言葉にはどこか懺悔のような響きがあった。  「壊したって……。詳しくは存じませんが、それこそ観点の違いというかすれ違いというか……」  『…イイヤ…間違い無くレイちゃんの心を壊したのは私だよ』  飄々とした、しかしどこか反論を許さない、立ち入ることを許さない口調で月日さんは断じた。  『そう言う意味じゃぁ、レイちゃんが行った全ての行動の責任は私にある。だから、君は私を怨もうが憎もうが好きにするが良いさ』  独特の節回しが無いのは、言い間違いでは無いだろう。  「別に、そんな風に思っちゃいませんよ」  『…ソウ…かい?』  「ええ、それこそ寒天の違いって奴です」  『そう思いたいなら…ソウ…思えば良いさ』  フゥ、とため息をつきながら、月日さんは言った。  「まぁ、アレですね。せいぜい月日さんみたいな人に自分の心を壊されないようには注意しますよ。ご忠告通りに」  『別に…ソウイウ…ことは言って無いけど』  「いやいやいや」  そんな具合に、俺達の通話は終わった。  零日さんの心持が、月日さんのせいで壊されてしまったのかどうかは分からない。  それこそ、観点の問題だ。  きっと、彼女の心を壊してしまったという意識は、その罪の意識は月日さんのもので。  月日さんはそれを一生抱え続けることを望んでいるのだろう。  こればかりは、俺のような若造にはどうしようもないし、どうしていいのかも分からない。  「それにしても、観点ね」  価値のある話を聞いた、とも思う。  価値のあることを教えてくれた、とも思う。  緋月家、傾向と対策。  緋月家のメンバーは、例え悪ぶっていても良い人たちで揃っている。  要はヤンデレでも、ツンデレなのだ。 637 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(男子) ◆yepl2GEIow:2011/08/25(木) 20:02:07 ID:uGE1Sjto  そんなやり取りとは関係なく数日後。  「お前、ぶっちゃけ緋月のドコが好きなわけ?」  「ブ!」  その日の午後、葉山正樹の口に出された言葉に、俺は飲み物をむせた。  ある休日、2人で映画を見に行く道すがらである。  「いや、何でそんなこと今更急に聞くわけ?」  ゲホゲホと咳き込みながら、俺は言った。  「いやー、今まで聞こうと思って聞けなかったからなぁ。今までは緋月がいたし」  今日は三日は明石と御用事。  宿題の類は当に終え(三日と一緒にやると効率がダンチなのだ)、バイトなどがあるわけでも無い俺は非常に暇だった。  ならば、と俺は暇つぶしに葉山を誘ったわけである。  ちなみに、三日は明石との用事を取るか、俺と一緒にいるか、死にそうな勢いで悩んだが、  『どうでも良いけど俺は友達を大事にする女の子とか嫌いじゃないな、いや一般論だけど』  という俺の独り言で、三日は明石の家に直行した。  閑話休題  「好きとか嫌いとかさ、ストレートに言われても困るって」  「でも、お前ら付き合ってるんだろ、俺的には不本意だがよ」  本気で不本意そうな葉山。  「そりゃ、向こうから頼まれたしね」  「それだけでくっつかねーだろ、お前なら特に」  随分と買い被られたものだ。  「まぁ、マジな願いにはマジに答える主義ではあるけどね。それが相手の意に沿わないとしても」  「で、緋月の場合は意に沿ったワケだ。どういうわけか」  葉山の言うとおり、本気で三日が俺のタイプで無かったらキッパリ断っていたと思う。アイツのためにも。  お情けで付き合いだしても、お互い不幸になるだけだ。  「それが納得いかないと?」  「そう言う事だ」  「九重のこととは無関係に?」  「そのネタはもうやったからな」  九重も、自分がネタ呼ばわりされる日が来るとは思わなかっただろう。  「しっかし、好きなところねぇ・・・・・・」  「嫌いなところからでも良いぞ。むしろそっちからの方が」  何というネガティブキャンペーン。  地獄兄弟が大挙して押し寄せそうだった。  「嫌いなところねぇ。時々、って言うか結構俺に何も言わないで動く所とか?ソレぐらいしか思い浮かばないや」  結構、勝手に追い詰められて勝手に暴走するタイプなのだ、三日の奴は。  前に、料理部の後輩に鉈持って詰め寄ってたしなぁ。自爆同然にことは収まったけど。  「いや、他にもあるだろ。夜な夜な尾けられてて怖い、とか、いつも見られてる気がする、とか、嫉妬深くてヤバい、とか」  そう言えば、葉山は三日のスニーキングにいち早く気づいてた(それで被害を受けた)んだっけか。  「そこいらはそんなに気にならないなぁ。まぁ、ヘタな所を見せて嫌われるのは嫌だけど」  三日も生身の女の子である。  俺の嫌いなところの一つや二つはあるだるし、幻滅することだってあるだろう。  むしろ、それが一番怖い。  「フツー気にするところだろ。明らかにイジョーじゃねぇか」  「たかだか、それ位の異常性に目くじら立ててもねぇ」  生徒会メンバーを始め、エッジの効いた女子は見慣れてるし。  「それが分かんねぇ。って言うか、それが一番ヤバいんじゃねぇの?」  結構マジメな顔で、葉山は言った。  今回は随分しつこい葉山だった。 638 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(男子) ◆yepl2GEIow:2011/08/25(木) 20:03:47 ID:uGE1Sjto  「百歩譲ってみかみんに実害が無いとしよう、今現在は。だがよ、この先もそうとは限らねーだろ」  「それが一番心配なわけだ、はやまんとしては」  ようやく得心がいった。  「まーな。親友の隣にバクダンが転がってると思うと、おちおち夜も眠れやしねぇ」  「そこは、見解の相違って奴だねー」  まじめくさった顔を作り、俺は言った。  「アイツはただ、恋に必死なだけの女の子だよ。爆弾なんかじゃない」  「とてもそうは思えねぇけどなぁ・・・・・・」  渋い顔をする葉山。  「どれほど不安や嫉妬や怒りや悲しみに駆られても、例え心が病もうとも、恋をすることをやめない。そう言う奴だよ、アイツは。そう言うのって―――」  「ヤバいよ」  と、俺の言葉を遮って、葉山は言った。  「どんなになっても、ンな風に手前の意思を押し通そうとするエネルギーが、ほんの少し矛先がズレたら、本気でヤバいことになる。そう言う想いって、むしろ―――怖いよ」  本当に真剣な顔で、葉山は言った。  「怖い、ね。まぁ、それぐらいの方が相手する甲斐があるって言うか」  「お前も、怖いよ」  はっきりと、葉山は言った。  「いっくら中等部時代に滅茶苦茶な連中を相手してきたからって、いや相手してきたのに、未だにそう言う滅茶な連中を受け入れちまう」  そう語る葉山の頬に滴る汗は、気温のせいではないだろう。  「それは怖いしヤバいし―――危うい」  自分自身をヤバくするくらいに、と葉山は言った。  「怖くてヤバくて危うい、ね。じゃ、はやまん、そろそろ俺と友達止めとく?俺らのとばっちり受ける前にさ」  「バカ言うな!今更、ハイさようなら、なんてなってたまるかよ。これでもお前のコト結構好きだしよぉ」  「ウン、俺も同じ」  静かに俺は言った。  「はやまんのことも好きだし、誰かの危うさも、自分の危うさも、みんな好きなものだから。だからみんな自分で背負ってく。本気でヤバくなったら、本気で止める」  そう言って笑った。  「だから、そんな心配しないでよー」  「ゼンブ分かってんじゃねぇか」  やれやれだぜ、と嘆息する葉山。  「けどよ、俺の考えは変わんねーぜ。緋月みてーな奴はヤバいと思うし、奴がマジでヤバくなったらマジでお前を引き離す」  「ン、覚えとく」  そう答え、俺達は映画館に入って行く。  「そーいや、何て名前だっけか?今日観る映画」  「ええっと、『ショーグン・デスティニー:AtoZ 誕生!オール十神勇士大戦』だねー」  「名前からしてキワモノ臭がスゲェな」  「天野のお勧めなら大丈夫じゃない?駄作なら駄作ってハッキリ言うタイプだし」  「まぁ、そーだな。楽しみなような怖いような」  「その時は、天野との話のタネにすれば良くない?『駄作じゃないの!』って」  そう言って、笑いながら劇場の列に揃って並ぶ俺たち。  その時は気付かなかったけれど、俺は後に知ることになる。  危うさに対して背負い込むつもりの俺と、危うさに対して拒絶するつもりの葉山。  その観点の違いがもたらすモノを。  おまけ  後日  「・・・千里くん。・・・今度から何をするにも、千里くんに逐一報告した方がよろしいのでしょうか?」  「ああ、いやそこまでは言わないけど。って言うか、何でその話お前が知ってるわけ?」  「………乙女の秘密です」

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