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337 名前:neXt2nExt ◆STwbwk2UaU[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:16:21 ID:nVwOctKE [2/4] ゴトン、ゴトンと体が揺れる。 子守唄が聞こえる。 よく、知っている声だ……… 目を開けると、僕は列車の中にいた。 朝の日差しが、遠く向かい側の席まで僕の影を伸ばす。 ―さっきまでのは、全て夢だったのだろうか。いや、これも… そう思い体を動かそうとすると、動かない。 そして自分の右側に柔らかな重みを感じる。 「…気づいたんだね、コーちゃん。」 僕の愛しい人の、声が聞こえる。 しかし姿は見えない。 体が、言う事を聞いてくれないのだ。 「コーちゃん……私ね、振られちゃった。」 ゴトン、ゴトンと規則的に列車が揺れる。 「ずっと……ずっと好きだった人に振られちゃった。  もう…ね、生きるのに……疲れちゃった………」 窓が開いている。風が、背中を撫でる。 「…でね、私、諦めようと思ったんだけど……ね…  諦められなかったの。コーちゃんを諦められなかった。」 大きく横に揺れる。その反動で僕は座席に横倒しになる。 そして愛しい……スズねぇは僕に被さってきた。 そのまま、僕はスズねぇに口唇を貪られた。 舌すら動けない僕は、拒むことも受け入れることも出来ないままだった。 スズねぇの舌は動かない僕の舌を捉え、引き出し、吸いつく。 嬲るように舌を動かし、舌と舌が卑猥な音を立てる。 「んっ……む………はぁ………  ごめんね、コーちゃん。  動きたくても動けないし、話したくても話せないでしょ?  私がやったの。しびれ薬を寝てる間に盛ったの。」 スズねぇはそのまま僕の上にかぶさり、僕を優しく抱きしめる。 列車の振動が、やけに大きく感じる。 「ねぇ、私分かったの。やっとね、理解できたの。  この世界じゃコーちゃんと幸せになれないって。  だから、ね……一緒に、行こう?」 また、僕の口が貪られる。僕はただ、なすがままだ。 ――そういえば、僕が拾ったキーホルダー……どこ置いたかな…… 落としちゃった……かもな……… 338 名前:neXt2nExt ◆STwbwk2UaU[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:16:47 ID:nVwOctKE [3/4] しばらく列車に揺られた後、僕はスズねぇに抱えられて列車から降りた。 降りた駅の名前は逢瀬岬。 確か、ここの海が見える公園で恋人になったら、幸せになるんだったかな…… 「ス……ズねぇ………なんで…ここに……?」 僕は未だしびれが取れないまま、声を出す。 スズねぇが、変わらない微笑みをぼくに向ける。 「コーちゃん、ここの伝説知ってる?恋人になったら幸せになるっていう伝説。」 僕は頷く。 「実はね、もう一つあるんだ。ここと反対の岬で、とあることをするとね、  ……ずっと一緒にいられるの。」 ―そんなの聞いたことがない。 ここの岬のウワサはひとつだけで、そんな…… 何をするっていうんだ? スズねぇは僕を抱えたまま、険しい反対側への岬の道を登り始めた。 今までのスズねぇの力じゃ考えられないほど、力強く僕を抱えたまま登る。 やがて、岬の端の方まで歩き、僕とスズねぇはそこから座って海を眺めた。 ザァ……と海からの風が頬を撫でる。 近くからはかもめが、遠くからは汽笛が…… 僕とスズねぇは、二人だけの世界に、いた。 「……コーちゃん、私が何しようとしているか……わかる?」 「…うん。」 僕は短く返事をする。 もう、僕はこれから起こる事が分かっていた。 スズねぇはつまるところ、どんな手段を使ってでも僕と一緒にいたいんだ。 僕は手段を選べなかった。 だから、僕は彼女にこんな手段を選ばせてしまった。 もし……もし僕に勇気があれば……… ――いや、よそう。 僕はもう、受け入れるしかないのだ。 この結末を。 「~♪♪」 スズねぇが、曲を口ずさんでいた。 思い出すまでもない。結婚式で有名な曲…… 結婚行進曲だ。 ひと通り有名なフレーズを口ずさんだ後、スズねぇは僕を見た。 「コーちゃん、私はね、夢があったの。」 「白いウェディングドレスを来て、ヴァージンロードを歩いて…  お父さんにエスコートしてもらって、コーちゃんの元まで歩くの。」 「そして、誓いの言葉を述べて、指輪をはめて……口づけするの。  ……愛おしい…貴方と………」 スズねぇはまた目を海に向ける。 その目は切なく、どこも見てはいなかった。 僕はフラつきながらも立ち上がり、スズねぇを立たせ、 ……口づけを交わした。 「コーちゃん……?」 スズねぇは、驚いたように、嬉しいように話しかける。 僕の、僕の心だって決まっている。 「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、  これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを僕は誓います。」 結婚の宣誓の言葉を述べる。 僕にできることは……これくらいだ。 ――スズねぇは泣いた。 この言葉を聞いて、僕を抱きしめながら泣いた。 今、僕が……いや、僕達が居るのは海の岬じゃない。 神聖なる聖堂と、宣誓せし神の前にいる。 そう、僕とスズねぇは今、結婚式を………挙げているのだ。 スズねぇはぼくに寄り添い、お互い歩を進めながら宣誓の言葉を続ける。 「新婦となる私は、新郎となるあなたを夫とし、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、  病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで……いえ、  死すら乗り越え、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓います。」 歩を、進める。 世界がまるで、僕達を祝福してくれているように…明るい。 「ずっと、ずっと……好きでした。鈴香さん。」 ぼくの愛しい人は、真っ赤になって微笑む。 「ずっと…ずっと愛しています。孝太郎さん。」 僕が最期に見たのは。愛おしいお嫁さんの、幸せな顔だった。

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