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14 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:43:03 ID:vXnZtfxw  4年前  「ヒーローに、なりたかった」  「はぁ?」  「昔の話だ、九重。だから、そんな汚物を見るような目を向けること無いだろ」  「ああ、そう。でも、キミが今も年甲斐も無く子供向け特撮ヒーロー番組のオタクやってるのって……」  「うん。その想いがあったからだと思う」  「ボクは女子だから分かりかねるのだけれど、ヒーローってそんなに良い物なのかな?」  「ヒーローは、1人だけど、1人じゃないから」  「どーゆーこと?」  「ヒーローって、戦ってるのはヒーロー1人でも、彼らの守っているたくさんの人と、応援で、声援で、支援で、繋がってるから。絆があるから。だから、俺も少しでもそんな風になれたらって」  「そう。良く分からないけどね、ボクには」  「うん、そうかも」  「しかし、キミに英雄願望なんて大それた代物があったなんて知らなかったよ」  「英雄なんて大それたものじゃない。大それたものでなくていい。ただ、少しでも誰かの助けになって、誰かを笑顔にして―――」  「誰かに恩を売って?」  「恩って……。まぁ、感謝はされたいかな。それで、誰かと繋がれれば」  「そっか。まぁ、幼少時代のエピソードとしては中々微笑ましいものだったね、戯れに耳を傾ける意義はあった」  「それは重畳」  「ウン、興味深かったよ。千里は昔から千里だったんだなって」  「どう言う意味、それ?」  「言葉通りの意味」  「うぐぅ……」  「でも、その英雄願望。現実問題として、実現するのは無理だろうけど」  「そっか、無理か」  「そう、無理。どれだけ頑張っても、どれだけ時間をかけても、キミはヒーローやら、正義の味方やらにはなれない」  「……うん」  「キミになれるのは、せいぜいヒーローの真逆の引き立て役。英雄に否定され、主人公の踏み台にされ、騎士から斬り捨てられ、他者から拒絶され、誰からも忌み嫌われる―――敵役だけ、だ」 15 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:43:37 ID:vXnZtfxw  現在  「・・・・・・う、うう」  俺は呻き声をあげながら、重い眼を開けた。  窓の無い、殺風景な部屋の中だった。  体が痛い。  まだ痺れる。  酷い気分だ。  って言うか、酷い目にあった。  いや、実際どういう目にあったのか、俺もいまいち把握していないのだが。  「あら、あらあらあら。気がついちゃったみたいね」  うわぁ・・・・・・  最初に目が合ったのは、嗜虐的な表情を浮かべた明石だった。  正直、寝起きに見るにはかなり刺激が強かった。  ましてや、自分を昏倒させた相手となればなおさらだ。  「おはよう、明石」  けれども、俺はいつも通りの笑みを作り、余裕な振りをしてそう呼びかけた。  「それに、三日も」  三日は、明石の後ろ、部屋の隅に立っていた。  ここからでは表情は窺い知れない。  けれども、俺の言葉に何も反応しない。  どうやら俺は、この2人に呆気なく捕えられてしまったらしい。  「しかしまぁ、明石。随分と見事な手際というか見事な出来栄えだねぇ。三日を囮役にして、スタンガンで不意打ったってワケね。」  「余裕ね、こうしてなすすべも無く閉じ込められたって言うのに」  明石の言う通り、俺は見覚えの無い、室外から施錠されたドアのある無機質な部屋の中、椅子に縛られていた。  それも、よくよく見れば両手足に胴体を縛る縄にプラスして手錠まで。  念の入った話だった。  「まぁ、こうなると初台詞が『お前も仲良くするのだ~!』だった奴とは思えないけどね」  「そんな台詞、覚えてる人も信じてる人もいないでしょ」  「いや、信じてる人はいると思うけど……。それにしてもそれを差し引いても、いやはや、見事な連携だよ、2人とも。これが友情パワーって奴なのかな」  単なる軽口でもなく、これが2人の友情の成果だと言うなら、自分の状況を棚上げにして素直に称賛したかった。  これが明石と三日の絆の証だと言うなら、三日のためならば、一応、何とか、許せる。  しかし、  「友情?」  養豚場のブタでも見るような眼をして、明石は言った。  「勘違いしてもらっちゃ困るわね、緋月三日はただの私の駒よ」  ………は?  「明石、今のもう一度言ってくれないかな?どうも、酷い聞き違いをしちゃったみたいでね」  「聞きたいなら何度だって言ってあげるわ。友情なんてくだんない。ソコのソレはただの駒よ」  その言葉、昨日の憔悴した三日、そして今の無言の三日、俺の今の状況。  一瞬、頭が真っ白になってから――――それでも全てが繋がった。  「………お前、今、三日のこと、自分の親友のことなんて言った?」  「駒」  俺の言葉に、明石は冷たく答えた。  即答した。  言い放った。  言い放ち、やがった……! 16 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:43:56 ID:vXnZtfxw  「………り消せ」  全身が沸騰しそうになるほどの激情を全力で抑え込み、俺は言った。  「はぁ?」  侮蔑に満ちた顔をする明石。  「取り消せと言ったァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」  直後、怒轟と共に俺は明石に飛びかかっていた。  椅子に体を拘束されたまま、腹の筋肉だけで、椅子を前方に倒れこませ、奴の喉笛に噛みつかんとする!  「ヒッ!?」  しかし、すんでのところで避けられてしまう。  俺は、椅子に座った姿勢のまま、フローリングの床の上に転がる。  今、もう少しでアイツの喉笛を噛み千切れたのに。  畜生。  ど畜生。  「あは、あはははは……」  がくん、と床の上に尻を突き、強がるように笑う明石。  「強がっちゃって、無茶をするわね無駄をするわね。アンタは所詮単なる餌。どうこうしてもどうしようもできない、どうでも良いモブでしかない。そこで大人しくしているが良いわ」  「……」  明石が何か言っているが、その言葉は怒りでほとんど聞こえない。  誰かを殴ったことは何度もあるが――――誰かを殺したいと思ったのは、これが初めてだった。  ……ズ……ズ……と。  床の上をもがき、尻もちをついた明石の元に這い寄っていく。  「動かないで!」  悲鳴のように、明石が叫ぶ。  三日を指差して。  「さっきも言ったでしょう!緋月三日は私の駒!私の意のままに動かせる!どんなに酷いことだってさせられる!殺せと言えば殺す!死ねと言えば死ぬ!そうさせるだけ脅迫して屈伏させたんだから!」  屈伏させた……?  脅迫して、だって……?  「私に危害を加えれば、この部屋から出ようとすれば、私がどんな命令をするか、このコがどんな目に会うか。分からないアンタじゃない―――わよね?」  つまり三日は明石の仲間でも無く、協力者でもなく、囮役でも無く――――人質、か?  おい。  おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。  俺は知らない。  俺は聞いてない。  こんな展開なんて。  こんなことになっているなんて。  「そう言うことだから、大人しくしてなさい、餌役さん!」  そう言って、俺の頭をゴッと蹴り飛ばす明石。  「……っつ!」  さすが水泳部、良い脚(力)してるよ、へたりこんだままでも。  忌々しい。  「…!?」  三日が息をのむ声が聞こえる。  「だい……じょうぶだから、俺は」  何とかそう言ったが、半ばうめき声のような声でどこまで安心させられたか分からない。  そうこうしている内に、明石がフラリと立ち上がった。  「じゃあ、緋月三日。約束の日までこの餌頼むわよ、良いわね」  明石の言葉に「…はい」と消え入るような声で答える三日。  約束の日?何の話だ?  「じゃぁ、また。もっとも、次に会う時が最後でしょうけど」  そう言って、部屋のカギを開けて(部屋の中にも鍵があるのだ、ココは)出て行こうとする明石。  「待て、どこへ……」  「どこ、ですって?」  不思議そうな顔をする明石。  「決まってるでしょ?学校に、行くのよ」 17 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:44:44 ID:vXnZtfxw  御神千里と緋月三日が失踪した。  その事実は瞬く間に学校中に伝播した。  本人たちは否定しているものの、2人は校内でちょっとした有名人であり、恋人同士だったからだ。  姿を消した理由ははっきりしないが、駆け落ちをしたとも、事件に巻き込まれたとも、様々な憶測が飛び交った。  とは言え、この事件に対する反応は千差万別だった。  その行方を、面白半分で話題にする者、心配する者、探す者、気にする者、気にしない者。  そして、何の進展も無いままに、千里と三日が不在の夜照学園高等部の学校生活は、今日も何事も無く過ぎて行き……。  事件の情報を最も早く掴んだのは、前期生徒会役員たちだった。  「御神後輩と、あの不愉快な男の妹が失踪?」  ある空き教室の中で、氷室雨氷は怪訝そうな顔で相手に聞き返した。  「その通りなのでござる」  情報を伝えたのは、李忍。  いつも通りの奇妙な口調だが、心配そうな色が滲んでいる。  その場には、一原百合子の恋人たちが集っていた。  但し、百合子本人はいない。  「とにかく、その話を一原会長……もとい前会長の耳に入れないよう尽力しなくてはなりませんね」  「氷室殿!?」  冷たく言い放った氷室に、李は抗議の声をあげる。  それも当然だった。  千里と三日は彼女のクラスメートで、生徒会の活動も手伝ってもらったこともある友達なのだから。  面と向かって友達だと言ったことは無かったが、少なくとも李自身はそうだと感じている。  「李前書記も、一原前会長の性格を知っているでしょう。彼女のことです。話を聞いたら、喜々津……もとい嬉々としてこのトラブルに首を突っ込むに違いありません」  「でござるから……!」  「自分の受験勉強を放り出した上で、ね。それは、避けるべき事態です」  冷静に語る氷室。  「友の安否より受験の方が大事と言うのでござるか!!」  「李、気持ちは分かるけど……」  「イマはcool downにcalm downです」  喰ってかかろうとする李を、周りにいる霧崎涼子やエリス・リーランドが押しとどめる。  「今は、彼女にとって大事な時期。一原前会長は、これまで学園の為、一般生徒たちの為―――つまり、他人の為に尽力してきました。だから、もう良いでしょう。彼女が自分の為に尽力しても」  冷たい声音の氷室だったが、その言葉には百合子への気遣いが感じられる。  そして、それは氷室達全員の統一見解でもあったはずだった。  生徒会長で無い百合子が、他人の為に身を削ることはもう必要ない、と。  一方で、元生徒会メンバー達はヒトとしての能力こそ規格外ではあっても、百合子という中心人物が無ければその能力を十分に発揮できないことも確かだった。  いくら規格外と言った所で、所詮は個人レベルに過ぎないのだ。  言わば、彼女たちは百合子と言う剣士に振るわれる刀のような存在だ。  扱う剣士がいなければ、どんな名刀も単なる棒きれでしか無い。  「今のお姉は生徒会長じゃないしね。あんま無茶もさせらんないし」  一原愛華が言うように、この学園の生徒会長は絶大な権限を与えられている。  人事権を始め、様々な権利を与えられている。(愛華が1年生にも関わらず生徒会に所属できたのはこの権利の濫用である)  それに、多少の無茶も学園側からのフォローがある。もっとも、これは顧問であるエリスによる部分も多分にあったが。  「私達の時のように、『終わっても何事も無かったように』とはいかないかもしれませんわ」  と、鬼児宮左奈は言った。  「だからと言って、今御神氏たちがどのような目にあっているのかも分からぬというのに……!」  「どのような目に会っているとしても、御神後輩が切り抜けられないかも分かりませんがね」  もどかしげな李に向かって、氷室は静かに言った。  「御神後輩も、私や一原前会長と中等部時代から行動を共にしてきた者。多少のことでどうにかなる道理は――――ありません」 18 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:45:38 ID:vXnZtfxw  「直子ちゃ~ん、直子ちゃ~ん?」  料理部の活動中、河合直子は部長の由良優良里(ユラユラリ)先輩に呼びかけられて我に返った。  「あ、部長」  「はい~部長です~」  相変わらずおっとりとした、しかし温かな笑顔を浮かべる由良部長。  「それよりも~、直子ちゃん~?」  「何でしょう?」  「あなたの~そのお鍋~、噴きこぼれてないかしら~?」  「うわ、マジっすか!?って言うかマジだ!?」  慌ててコンロの火を止める河合。  「何で早く言ってくれなかったんですかー!って、ゆらゆらな由良部長に言っても仕方無いですね」  「ごめんなさいね~。でも、珍しいわね~」  「何がですか?」  「直子ちゃんが~、料理しててボーっとしてるなんて~」  言われてみればそうだった。  今までは、横に御神千里先輩がいたので、談笑で手元がおざなりになることはあっても(それでよく千里に注意されたものだ)、上の空になることなど、一度も無かった。  けれども、今は……  「先輩が、いないですから……」  「やっぱり~、心配に~なるわよね~」  でもね~、と気遣わしげに直子の肩に手を置く部長。  「大丈夫よ~、絶対。私達の助っ人くんは~そう簡単にどうにかなるような子じゃないもの~」  「そう、ですよね……」  自分に言い聞かせるように呟くと、両の頬をパンと叩く直子。  「ぃよし!御神先輩が帰ってきた時の為に、エンジン全開ガンバルオー!」  空元気の声を上げる直子。  それを、穏やかな笑みで見つめる部長。  その部長の頭に、ポンと手が置かれる。  「あんまり気ィ張りすぎないで下さいよ、部長も」  「あら~、三九夜ちゃん~」  部長の後ろに立っていたのは、女子制服の美少女、天野三九夜。  「ちゃんって言わないで下さい。何かこそばゆいンですよ」  「ごめんね~。でも大丈夫よ~。私はいつもど~り~」  「塩と砂糖を間違えない、水と料理酒を間違えない、大根とにんじんを間違えない。そんなアナタのどこがいつも通りですか」  「あら~、そう言えばそうね~。今日は一回も間違えてないわ~」  「……ったく、心配で来てみればご覧の有様かよ」  「何か言った~?」  「何でも無ぇッス」  そっぽを向きながら言う三九夜。  『御神、あんまりコイツらに心配かけないで緋月と早く戻ってこい。オレだって―――』  三九夜は、どこにいるとも知れぬ友に向かって、心の中でそう呼びかけた。 19 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:46:26 ID:vXnZtfxw  「みかみん……」  午後の授業を片手間に受けながら、葉山正樹は虚ろに呟いた。  教師がチョークを振るう音を聞き流し、正樹はちらと隣の席に目をやった。  いつも見慣れた、本来あるべき御神千里の姿が無く、まるで大穴がぽっかりと空いたようだった。  ――――お前は、それで良いの……!?―――  千里の席を見るたびに、彼が言い残した言葉が繰り返し思い出される。  本人は平静を装っているつもりでも、もどかしさや気遣いが隠しきれない、優しくも激しい言葉。  (しっかたねーじゃんよ)  聞く者の無い答えを、正樹はひねり出す。  (何もかもが異常で異形で非常事態なンだよ。こんなンなっちまったのに、何か出来るってンだよ。何が出来るってンだよ。俺が聞きてぇっての)  言い訳だ。  それは、正樹自身が一番良く分かっている。  自分がすべきなのは、自分が想うべきなのは、自分が、決めるべきなのは―――  そんなことを想っている内に、授業終了のチャイムが鳴る。  「やほー、まーちゃん!!」  授業が終わるのとほぼ同時に、明石朱里が彼に声をかけてくる。  「う……あ、ああ……」  明石の登場に、今までの思考が胡散霧消する。  「さっきの授業、ノート取ってたー?いやー、アタシ途中で寝ちゃってさー」  そう言いながら、当り前のように千里の席に座る朱里。  ―――何も言えず、何も言わず、ただ唯々諾々と流されて。それを恐れるばかりで何もしないで―――  その後、千里は何と言いたかったのだろうか。  分からない。  けれども、正樹は何か言わなくてはいけない気がした。  強く。  「朱里……そこ、みかみんの席だ」  振り絞るように、正樹は何とか、朱里に向かってそう言った。  「え、ああ。そうだっけ?」  とぼけた風に言う朱里。  気のせいか、その声音にはどこか意地の悪い響きがあるように聞こえた。  「……そーだよ。だから……お前が我が物顔で我が物みたく座るのは、その……どーなンだよ?」  「意外と細かいコト気にするんだねー!」  そう、朱里は正樹の言葉を笑い飛ばした。  「良く分かんないけど、緋月三日と御神千里はまだ見つかって無いんでしょ?」  「……ああ、万里さんが探してる。……『心当たりはあるから心配しないで』って言ってた」  「あー、万里さんからの電話!?アタシん家にも来たよー!なんかー、あの人クラス全員に電話かけて御神千里と緋月三日が来てるか確認したみたいだねー!すごいよねー!こう言うの、『親の鑑』って言うのかな!?」  「かも、な。……まぁ、こればっかは大人のヒトに任せるっきゃねーんだろーな。……みかみん達を探したくても、アイツらがどこにいるのかなんて、見当もつかねーし」  「なら、遠慮なく座ってもそんな問題無いじゃん!」  本格的に背もたれに体重を預け、朱里は笑う。  「高校生のアタシらにはどーしよーも無いし!それに、万里さん『心配しないで』って言ってたんでしょ!?だったら……」  「……わ、悪い、朱里……」  ハイテンションに台詞を捲し立てる朱里を何とか遮る正樹。  「……悪いけど、ホント、今、お前と話したい気分じゃ無いんだ。後にして……くれねーか?」  「へぇ……」  戦々恐々としながらも言葉を発した葉山に、朱里はコールタールのようにドロリとした視線を向ける。  「イヤなんだ。私と話すの私と話すのに恋人(わたし)と話すの、イヤなんだ」  詰め寄る明石にたじろぎそうになる葉山。  「うぅ……キ、キブンの問題だよ。こう言っちゃなんだが、心配するなと言われて心配しないほど、俺も割り切った性格しちゃいねーし」  「じゃあ、最近緋月三日と御神千里を見た――っていう情報を私が持っていても?」  「本当か!?」  朱里の言葉に、思わず身を乗り出す葉山。  その姿を見た明石が、心の中で歪な笑みを浮かべていたことなど、親友の身を案じる葉山に分かるはずも無かった。 20 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:47:07 ID:vXnZtfxw  そうして、世間様に嘆きや心配や寂しい思いや迷惑や期待をさせている最中の数日間、俺がどうしていたかと言うと、何もしていなかった。  と、言うより何かする気も起きなかった。  俺の心は、御神千里の心は、これ以上無く折れていた。  ポッキリと折れきっていた。  最初は、明石に対する怒りや殺意しか無かった。  けれども、冷静になるにつれ、そうした感情は自分自身に向けられた。  自己嫌悪になった。  俺は、どうして誰も救えなかったのか。  俺は、どうして親友に伝えるべきことを伝えるのが遅れてしまったのか。  俺は、どうして親友に想いを寄せる少女の暴走と破綻を止めなかったのか。  俺は、どうして大切な人を守れず、それどころか、彼女の危機を気付くことさえできなかったのか。  俺は、本当に、何も学んでいない。  俺は、正しくあることができなかった。  俺は、主人公(ヒーロー)でも英雄(ヒーロー)でも騎士(ヒーロー)でも無い。  俺は、無力だ。  そんな人間に、明石を恨む道理は無い。  「…千里くん」  縛られた俺の膝の上で、三日が俺の首に白い手を回す。  「…千里くんは何も気にしなくて良いんです。…何も考えなくて良いんです。…何も心配しなくて良いんです。…全てが、上手くいきますから」  無表情に言葉を紡ぐ三日。  三日のその言葉は、毎日のように繰り返されていた。  まるで、壊れたレコードのように。  それは、俺にと言うよりも、三日自身に言い聞かせているようにも聞こえた。  三日は明らかに無理をしていた。  精神的な負担を強いられていた。  それに対して、俺は何も言わない、しない、出来ない。  俺のような、人間失格には。  誰かマトモな奴なら、それこそ一原先輩みたいな人なら、今の三日の危うさなんて、一言で解消してくれるのだろうけれど。  ここには、その一原先輩はいない。  一原先輩のみならず、俺と三日の2人しか人間がいない。  明石は俺を閉じ込めたあの日以来、電話越しでしか連絡を寄越さないし。  そんな有様だから、俺の想いは沈んでいく一方だった。  沈みに沈み、自分のキャラクターすら保てないでいた。  元々、俺の緩いキャラクターは、ここ数年でようやく関わりを持てた、家族や友人と言った、俺に好感を持ってくれているみんなとの人間関係の中で、無我夢中で構築し、維持してきたものだ。  誰かがいなければ、保てない、急ごしらえで薄っぺらなものだ。  だから、みんながいなければ、俺のキャラクターは崩れていくほかない。  これが本当のキャラ崩壊。  全然上手く無い。  全てが上手くいかない。 21 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:47:33 ID:vXnZtfxw  放課後  「……本当に、こっちなのか。その……みかみん達を見たっていうのは」  人の少ないビル街を、葉山正樹は明石朱里に案内されるままに歩いていた。  「ウン、大体この辺りでチラッとだけ2人の姿を見たんだってー!」  キョロキョロと近くを見回し、いかにも辺りを探してますと言う風を装いながら朱里は答えた。  「見たって言うと?」  「アタシの友達の友達の、そのまた友達!大体、2日前くらいだって!」  「2日か……。……じゃあ、今居るかどうかは微妙なラインだし、見間違えかもしれねーよな」  「どーするー!?このまま帰るのもアリだと思うけど!その後ついでにここら辺デートしたり!!」  「こんな雑居ビルが集まったトコにデートスポットがあるとも思えないけどな……」  久々のツッコミを入れながら、逡巡する正樹。  「……とりあえず、近くを探して良いか?……正直、みかみんが心配で藁にもすがりたい思いだし」  「アイアイサー!」  そうして、近くのビルの中に入る2人。  「?……ひょっとしてココがらんどうか?」  「そうそう。元々はマンションとして建設されたんだけど、建物が完成したって時に大元の会社が潰れちゃったんだってー!いやー、不景気はイヤだよねー!」  「く、詳しいんだな……」  「アタシが情報通なのは、学園内だけじゃないんだよ!」  えへん虫、と胸を張りながら、中を探索する。  「でも、ちょーっと分かんないかな!」  「……な、何がだ?」  「何でそんなに御神千里を心配するのかな!噂じゃ、前期の生徒会の無茶にも付き合ってたらしいし、大抵のことは1人で何とかなるんじゃない、アレ」  放っておこうよ、という意味を暗に込めて朱里は言う。  「……確かに、アイツはトラブルに場慣れしちゃいる。けど、それだけだ」  「それだけってー!?」  「……意外と危ういンだよ、メンタル的に。普通にしてればなんてこと無いんだけどよ。一度沈むとトコトン沈む。一度キレるとメチャクチャ性質が悪い。初めてアイツと会った時なんて、九重以外のありとあらゆる人間にガン飛ばしてた位だったんだぜ」  「普段温厚な人ほど怒ると怖いってコトー?」  「……まぁ、な。だから、アイツは心配なんだ。生死とかフィジカルなトコだけじゃなくて、メンタルの部分もな」 22 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:47:58 ID:vXnZtfxw  その廃ビルの一室に、俺達は居た。  「…はむ、ンちゅ…ふにゅ…あむ…」  三日の口の中で丁寧に細かく刻まれたコンビニ弁当の唐揚げが、マウストゥマウスで俺の喉の奥に押し込まれる。  所謂口移しと言う奴だ。  俺は手足を拘束されているため、この数日恒例になっていた食事風景だった。  いつものように、俺に口移しで食事を与えていた三日が、  食事や下の処理など、おはようからおやすみまで俺の生命維持のために尽力したここ数日の三日の献身ぶりは語り尽くせないほどだ。  語れば語るほど、俺の無力さが浮き彫りにされるだけとも言うが。  三日の献身に対して、俺は何も応えることが出来ないのだから。  「…そんな顔しないで下さい、千里くん。…全てが上手く終われば終われば、千里くんだって幸せな気持ちになれますから」  唐揚げペーストを俺に嚥下させ、弁当が空になったところで、三日は俺から唇を離し、俺に向かってそう囁きかけた。  俺は、どんな顔をしているのだろうか。  どんな顔でも、もうどうでも良い。  「…全てが上手く終われば、千里くんだって幸せな気持ちになります。なってくれます。なってくれるに決まっています。…だから、私も頑張ります」  三日が繰り返す。  喜ぶ。  幸せ。  それは、俺の望みがかなう、ということだろうか。  俺の、望みは―――  「みんなが、おれのすきなみんなが、わらっていてほしい」  「…」  俺の言葉に顔を曇らせる三日。  彼女は、今笑ってはいないから。  ああ、俺は本当に無力だよなぁ。  みんなの笑顔のために、なんてテレビの中のヒーローみたくなりたかったけどなぁ。  所詮人は人、ヒーローはヒーローか。  俺には、何もできないか。  どれだけ、やりたいと思っても。  あーあ。  やっぱり俺は、『意味ある人』じゃなくて『ある意味人』だよな。  ヒーローどころか、人としてあまりに脆弱だ。  九重、お前はいつだって正しいよ。  けれど。  ―――やりたいなら四の五の言わずにやりなさいよ―――  唐突に、親の言葉が思い出された。  そうか。  どれだけ無力感に苛まれていても、俺の想いだけは、まだこんなにも燻っている。  燻って、消えていない。  キャラはブレても、想いはブレてない。  だったら。  例え、無力でも。  例え、ヒーローにはなれなくても。  例え、『ある意味人』でしかない、人間失格でも。  「おしえて―――教えてくれ、三日」  「…え?」  数日ぶりに力を込めて、想いを込めて発せられた俺の言葉に、驚いた顔をする三日。  「俺は、お前の、お前達の笑顔の為に何ができる?」  「…え、でも」  「どんな小さなことでも良い。お前の望みを言え。それさえ分かれば―――どんな願いも叶えてやる」  「…千里くん」  何となく、三日の表情に元気が戻ってきたような気がした。  「…このタイミングでネタに走らなくても」  「あ、分かった?」  詳しくは『告白の巻』参照。あるいは平成ライダー8作目。  「…くすくすくす」  「あっは、ははははは!」  場違いなネタに、その場違いさ加減がどうにもツボにはまり思わず2人して笑ってしまう。  「…フフ、何だか、1億と2千年ぶりに笑った気分です」  「対抗したね?」  「…はい、対抗させていただきました」  「お前の冗談、マジで今から36万…いや、1万4千年振りに聞いた気分だ」  「…何で言い直すと短くなるんですか」  そう言って、互いに笑いあう。  今までの、沈み続けるような気分が、笑い合ううちに少しずつ薄れて行くのを感じる。  いや、まだ何も何一つ良い方向に向かっちゃいないんだけどね。  ……よし、少しずついつものキャラが戻ってきたぞ。 23 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:48:46 ID:vXnZtfxw  「…真面目な話、この先千里くんに何かしてもらう予定はほとんど無いんですよね、朱里ちゃんの計画には。…元々、ほとんど朱里ちゃん1人でやってるようなものですし」  笑みを消し、キリっとした顔で三日が言った。  「計画って言うと?俺、その内容全然知らないんで教えて欲しいんだけど」  と、言うより教えられる前に監禁されたからな。  実は誘拐犯に向かって悠長に自分が攫われた理由を聞いているようなものだったりするこの状況。  わお、デンジャー、デンジャー、デンジャラス。  「…話せば、長くなるんですけど」  「3行でお願い」  「…千里くんがいなくなると、葉山くんが心配します。  …それを餌にして、朱里ちゃんが葉山くんをこの家におびき寄せます。  …そしたら、そのまま2人きりでずーっと一緒。  …みんなハッピー」  「3行と言いつつ4行って……」  「…え、そう言うお約束じゃないんですか?」  「まぁ、そうだけど」  それで素で4行にする辺り、すごいというか何と言うか。  「って言うか、思いのほか杜撰な計画だな」  「…杜撰、ですか?」  「詰めが甘い、って言った方が良いけど。大体、警察が動き出したら、居場所なんて一発だぜ。何せ、そして4人もいなくなるんだし。」  俺に関しては、明石に脅されて「ちょっと自分探しの旅に出るから」と家の留守電に入れてるけど、それを信じるような人ばっかりでも無いだろう。(大体、ウチの親が信じたのかも分からないし)  葉山や明石までいなくなったら、ほぼ確実に捜索願が出されると見て良い。  ウン、だんだんと頭が働いてきたぞ。  「…確かに、国家権力が動き出したら面倒ですけど」  「って言うか、警察動くだろ、絶対」  「…でも、お母さんたちだって大丈夫ですし」  「お前の両親とは、状況は違うだろ。少なくとも、月日さんは今の状況にある程度納得しているし」  誘拐と同居では天と地ほどの差がある。  「…いえ、今はそうした大人の事情はお母さんがどうにかしているらしいですし」  「あの人一枚噛んでるのかよ!?」  俺の驚きにコクンと頷く三日。  学生ばかりで計画された誘拐計画だと思っていたのに、超展開だ。  「一体全体どうしてンなことに」  「…何でも、雨の日に偶然会ったとかで」  「捨て猫を拾ったみたいな話だな……」  それにしても、零日さんが絡んだ件は、俺の迂闊さがあからさまに露呈することが多い気がする。  その上、三日を窮地に追いやるし。  いや、まだ2回だけだけど。  「そうは言っても、警察を誤魔化すにしても、あの人が出来ることにも限界があるでしょ。何のかんの言っても、一介の女優さんでしかないでしょ?」  「…それはそうですね」  って言うか、あの人はヤバくなったらさっさと逃げそう。  大体、零日さんは人助けなんて殊勝な理由で動くタイプの人じゃ無いし。  「零日さんの助けは、長期的にはあんまり期待できないと思う。だから、大事になる前に、はやまんを攫うなんて止めた方が良いかもしれない。本当に、葉山と明石の行く末を思うなら」  「…でも、朱里ちゃんは2人きりで、時間をかけて、ここで想いを伝えたいって言ってました」  「あー、ゴメン」  「…はい?」  「それ、多分ムリ」  「無理!?」  「今まで割かし言葉濁してたけど、はやまん明石に本気でビビッてるからなぁ。こんなところに閉じ込められた日には、明石の言うことなんて聞く耳持たないよ」  「…そう、なんですか」  「ぶっちゃけ、葉山は漫画のヘタレ主人公みたいなモンだ」  「…ヘタレ主人公そのものですね」  「だから、今の葉山に押せ押せで行くのは逆に下策だと思う」  「…押して、上手く行くと思ったんですけど」  「こればっかりは、巡り合わせが悪かったとしか言えないなぁ。ただ単に明石が自分の想いを明かすだけならこうはならなかったんだろうけど、はやまんは明石の狂烈な部分まで知っちゃったから」  今の冷酷非情な恋愛暴走特急状態が明石の本質だとは思わないが。  そいつを明石の本性だと思ってるのが今のはやまん、といったところか。  いや、まぁ、明石の一部ではあるんだろうけれど。  それだけじゃ無いと思うんだよなぁ。  葉山にとっても。  はっきりとは分からないけれど。  うーみゅ。  「みんな幸せ、って言うのは難しいのかなぁ」  「ええー!?」  三日からのブーイングが聞こえる。 24 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:49:10 ID:vXnZtfxw  「そう言うのも分かるけど、葉山と明石っていう二項対立が完全に出来ちゃったからなぁ」  逃げるはやまん、追う明石、みたいな。  「…それなら、私は明石軍に入ります」  「あー、そこはブレないんだ」  「…親友ですから。………朱里ちゃんは、そうは思ってくれてないようですけど」  「ンなことは無いと思うんだけどなぁ」  「…ありがとうございます。…慰めでも、気が楽になりました」  「いや、マジでマジで」  あの時はブチ切れたけど、改めて思うと明石の『駒』発言が本当の本心だとは思えないんだよな、何となく。  明石自身が自分の想いをないがしろにしているだけで。  極めて感情的な理由で動いている癖に、感情を一番後回しにしているという矛盾。  ヤンデレてる明石は気付いて無いんだろうなぁ。いや、もしかしたら気付いていて気付かないふりをしてるのか。  「…それで、千里くんはどちらの味方になるんですか?」  三日がそう問いかけた。  問いかけに躊躇が無い辺り、俺が三日と同じ側に立つことを期待&確信しているのだろうけれど……  「俺は、2人のどちらとも味方で居たかったんだよなぁ」  ため息交じりに俺は答えた。  「今となっては難しいけれど」  「…葉山くんが朱里ちゃんのモノになってくれれば、万事解決なんですけど」  「それが二項対立なんだよなぁ」  「…対立してると思うのに、両方の味方になりたい、ですか。…何だか、頭がこんがらがってきました」  三日がそう言うのも無理無いだろう。  現在の状況を二項対立として捉えながら、対立する2人の両方の味方でいたい。  そんなものは虫の良い考え方だし、矛盾した考え方だ。  「それもそうだけど……」  ……二項対立  ……叱咤激励  ……葉山の恐怖  ……明石の狂愛  ……人間関係  ……友情  ……愛情  ……感情  ……矛盾  ……虚偽  ……真実  ……覚悟  ……決意  ……構築  ……崩壊  ……絆  ……ヤンデレ  今までの状況と、今まで俺が感じてきた物が、俺の頭の中で集束していく。  「二項対立、ね」  そう呟いた俺は、どんな顔をしているのだろうか?  「あは……」  少なくとも、笑顔の形はしていたのだろうけれど。  「あはははは……」  「…千里くん?」  三日が心配そうに声をかけてくるが―――『そんなものはどうでも良い』。 25 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:54:11 ID:vXnZtfxw 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは 「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは 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「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 26 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:54:44 ID:vXnZtfxw  狂ったように、狂気その物の哄笑を一しきり上げると、俺は口元に鮫のように獰猛な笑みを作る。  「覚悟を決めたぜ、三日」  そう嗤った俺の顔は、間違い無く獣のようだっただろう。  え、俺のキャラ?何それおいしいの?  「俺は、二項対立の三項目になる」  「…はい?」  俺の滅茶苦茶な発言に、当然困惑したような顔を浮かべる。  「葉山と明石。あの2人に否定され、2人の踏み台にされ、2人から斬り捨てられ、2人から拒絶され、2人から忌み嫌われる奴に―――2人の敵になってやる」  拳を握り込み、言葉に力を込めて言い放つ。  「協力してくれるよなぁ、三日?」  そうは言った物の、俺は拒否権なんて認めるつもりはさらさらなかった。  こうして、物語に無理矢理エンドマークを打つための、主役を無理矢理に表舞台に引き上げるための、乱雑で乱暴で粗暴で蛮行その物の戦いが始まろうとしていた。 27 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22:55:09 ID:vXnZtfxw  おまけ  バー『ラックラック』  都内某所にある小さなバー。  英語での綴りは"Luck Lack"(幸運欠如)  看板は四つ葉のクローバー、ただし一枚だけ葉が落ちている。  うす暗く、ジャズのレコードがささやかな音楽を奏でるだけだが、店内は隅々まで清潔にされている。  静かで穏やかな雰囲気、美味なカクテル、内密な話をするには最適な席の配置。  何より、分煙が行き届いている。  職業柄、役者の至近距離まで近づくことも多い『彼』は、煙草を含めたあらゆる臭いに対して気を使っていた。  役者の中には喫煙者も多いが、少なからず嫌煙家も少なくない。  衣服に煙草の臭いをつけたりして、仕事中相手に不快な思いをさせてくないという、『彼』の当り前のプロ意識だった。  そんな訳で、バー『ラックラック』は『彼』―――御神万里の行きつけのバーとなっていた。  「来たわね、レイちゃん」  いつもの席で、普段通りグラスを二つ並べた万里は、店内に入ってきた相手に言った。  「フフ…待たせちゃった…かな?」  そして、いつも通りどこか虚ろな笑みで万里に応じる相手、緋月零日。  「久し振り…だね。万里ちゃんにこのお店に誘われ…たの」  「そぉ?」  「前の時は、ご用事だった…ね?」  「そんな昔のこと、忘れたわ」  零日の言葉に恍ける万里。  「7月のこと…だよ?」  「歳を取ると物忘れがひどくてね」  「もう…」  そんな雑談をしながら、席に着く零日。  「だったら、忘れちゃった…かな?私に搦め手は…無意味」  「そうだったわね」  「何事もストレートなのが好み…なんだよ?」  コクリ、と首をかしげる零日。  「そうね」  「だから、ウィスキーもストレート」  「それは初耳」  どうやら、零日は飲まないだけで、飲めない訳では無いらしい。  本当に彼女のキャラクターは掴めない、と万里は思った。  「じゃ、ストレートに」  「ストレート…に」  「ウチのセンと三日ちゃんが居なくなってるから、居場所教えてもらう」  万里の言葉に、零日はスッと目を細める。  「どうして、私に聞くの…かな」  「アナタしかいないからよ。センはともかく、三日ちゃんの行方をレイちゃんが把握してないとかあり得ないでしょ?さぁ―――教えて?」  御神万里と緋月零日。  ここでもまた、深く、静かに、戦いが始まろうとしていた。

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