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417 :初めから ◆efIDHOaDhc:2011/11/09(水) 17:57:54 ID:yJjgeAWs 結局彼女は無口なままだった。初じめの挨拶は、それはもう元気な声で 喋るものだから最初に受けた印象とは違い、明るい子なのだろうと 思ったのだが。彼女は教室の隅、窓際の席に座る。 最初俺と目があった時、驚いたような顔でさらに目を見開いていた。 先週の金髪といい、俺の顔がそんなに珍しいのか? しまいにゃ泣くぞ? 「なんだ?あの子気になるのか?」 ん?ん?といちいちウザイ語調で話しかけてくる歳久。こいつは翔太程とは いかないまでも、この性格がなければ恐らくモテる。顔の作りからして 既にイケメン臭が漂っているのだ。 こんどさりげなく注意してやろう。 「そりゃ、こっち見てあんな元気に挨拶されたらな」 実際彼女の豹変ぶりにはクラス全体が驚いている。だがそのお蔭で 彼女のクラスでの印象は内気だけど元気な子、そんな風に固まりつつあった。 それに―― 「なんかずっとこっち見てるし」 ジーっと俺を凝視している少女。その仕草がどことなく妻を連想してしまう。 思わず吹き出しそうになった。思い描いた妻と彼女が完全にダブったのだ。 少女を見て受ける印象と妻を見て受ける印象とでは雲泥も違うのに。 妻は――まぁ美人と呼ばれるような事はなかったろう。初めて会った時は 中々喋ってくれず、苦労もしたものだ。 それに対してこの少女は、妻と同じく気難しい印象を受けるものの、その容姿に おいては――妻に悪いが――圧倒的に美しいと言っていい。 まぁ、人は見た目だけではない。 無論大事な要素ではあるが、数ある選択肢の一つに過ぎない。 「しかし…」 似ていない。似ていないはずなのだが… 「ほらっ先生来るわよ!私語禁止!」 委員長の鶴の一声で静まり返る教室。そうだ、今はそんな事を考る時ではない。 授業は授業、休憩は休憩、こういう所はしっかりしないといけないな。 「よっし!歳久、委員長、ちょっと買い物に付き合え!」 放課後。俺の誘いに良いわよ~と気楽な返事を返す委員長。歳久の方はなんかゴソゴソやってる。 ふと気になって、教室の隅を見る。彼女――如月 咲はやはり、俺を見ていた。 なんとも、ここまで情熱的な視線を浴びせられたら誘わない訳にはいかないだろう。 「如月。お前も一緒にどうだ?」 彼女は戸惑いつつも頷いた。 今日は両親共に忙しいため、久しぶりの自炊になる。それなら他の奴も 誘ってワイワイ騒いだほうが良いだろう。それに如月の歓迎の意味も込めてやれば 彼女も馴染みやすくなる。そんなことを考えて彼女も誘ってみたのだが、 どうにも取っつきにくい。 「如月は前はどこの学校にいたんだ?」 「――」 相変わらずの無言。ここまで『あいつ』に似なくても。 しかし、どうにもこれは俺に対してだけなようで、歳久や委員長の問いかけにはスラスラ答えてくれる。 嫌われた――ということはないだろう。未だに熱っぽい視線を送ってくるのだから。 しかし、何故?まだ初対面に等しいはずだが? 「あ、そこが俺の家だ」 今後仲良くなれるはず。そんな事を考えながらも今日の午後は過ぎていった。 418 :初めから ◆efIDHOaDhc:2011/11/09(水) 17:59:24 ID:yJjgeAWs 「――お見合いしろと?」 「いや、そうではなくてだな…」 叔父が困ったように頬を掻く。叔父は単に私を心配しているだけだ。 それは分かる。だが私は誰とも会いたくないのだ。 「美代子…お前だってこのままで良いとは思ってはおるまい?」 それも分かる。叔父は本当に私の身を案じてくれているのだろう。 そんな叔父の気遣いは今の私にとってたしかにありがたい。 だが、そんな叔父の頼みでも人前に顔を出したくないのだ。 それに向こうも私を見て何と思うだろう? 「頼む。向こうにはもう約束してしまったのだ」 叔父にはあの事故以来色々お世話になっている。 そんな叔父の頼みを無碍にはしたくない。 だが―― 「会うだけで良いんだ」 「……」 叔父が私に対して深く頭を下げる。 私は静かに頷くしかなかった。 「……」 予想通りに無言だった。彼も私を見た瞬間、顔に影が差した。 私は話す話題など――そもそもあまり喋りたくない――ないし、おまけにこんな顔だ。 私自身こんな女と喋るのはためらう。それなのに彼は席を立とうとしない。 ただ無言だ。 「お名前を伺っても?」 「……」 何も答えず、ただ喋らずにいればこの人も諦めるだろう。 そう考えていたのに彼は話しかけてきた。よくこんな『化け物』に話しかけようと 思うものだ。私だったら絶対にしない。 だけど――嬉しいのは確かだった。 「わ、私は、――と言います」 「……」 挫けずに話しかけてくる。中々肝の座った人だ。普通の人はさっきの無視に、 怖気づくか諦めるかそのどちらかだった。こんな反応をしてくれるのは 叔父位だ。 彼は困ったように頬を掻く。全く叔父と同じ動作で。 少しクスッと来た。 「あの、突然かもしれませんが!」 私のその反応に少しは緊張が和らいだのか、背筋を伸ばし 顔は少し上を向いて、話し出した。 「今度デートにでも行きませんか?」 本当に突然のお誘いだった。 突然の誘いだっだが、無言で頷いた。 何故か分からないけど、彼を少し信じてみたい。 そんな風に思えたから―― 419 :初めから ◆efIDHOaDhc:2011/11/09(水) 18:00:30 ID:yJjgeAWs 早いもであれから二年半経っていた。私自身予想もしていなかったことに 私は彼と付き合っている。おかしな人だった。私の『これ』を気にせずに ここまで接してくれるのが。 「美代子、あ~その~なんだ。言いたいことがある」 優しい人だった。私に話を聞かせたいって、毎日毎日家まで来て明日も 仕事なのに夜遅くまで話してくれた。ただ無言で頷く私を見て笑顔で 毎日去っていく。そんな日々を続けていた。 「俺は、お前の事が好きだ。お前のその顔の火傷ごとお前を愛せる」 ヤンチャな人だった。私が家から出ないからって、休日にゲーム機を持ち込んで 二人で遊ぼうと誘うのだ。酷い時にはゲームセンターまで連れて行き近所の 子供たちを叩き伏せて、自慢する。そんな幼い人だ。 「それに、このままいけば昇進も間違いない――俺は家族一つ養える」 頼りになる人だ。私の顔の火傷を見て、嫌味を言ってくる不良達を 怒鳴りつけていた。私はもう慣れていたけど、やはり怒ってくれる 人が居るのはとても嬉しい。 「だから――俺と結婚して欲しい」 素敵な人だ。声を震わせながら、ガチガチに緊張して指輪を差し出してくる。 昇進はまだしておらず、毎日毎日私の所にやってくる。そんな中で良く指輪 を買うお金を貯めたたものだ。 「――はい」 初めてまともな返答が出来たと思う。 土砂降りの大雨の日だった。突然始まった陣痛に驚きつつもどうにか 電話で病院に連絡する。今日『夫』は会社で重要なプレゼンテーション がある。邪魔をしては悪い。そう思い連絡を控える。 今日はいい日になりそうだ。 「可愛いお子さんですね」 隣の夫婦に話しかけられる。どうやら彼女らも今日出産を終えたようだ。 奥さんの方は、頑張って意識を保っている。それほど我が子が愛おしい のだろう。彼女たちの子も実に可愛い。 かくゆう私もどうにか意識を保っている。せめてあの人がくるまでは。 「そうだ――この子達許嫁にしません?」 勿論この子達が自分達で判断できるようになったら、その時決めさせる。 私のこの思いつきの提案に彼女達は笑って頷いてくれた。 言った私が言うのもなんだけど心の広いお二方だ。 そばで話を聞いていた私の母が証人になるとまで言い出した。 母も初孫で気が大きくなっているのだろう。 私達の子は遺伝子的な病を負っている。けどこれ位大した問題には ならない。彼と一緒なら―― 「大変だ!近場で事故があった!」 その時からだろうか?私には記憶がない―― 420 :初めから ◆efIDHOaDhc:2011/11/09(水) 18:01:43 ID:yJjgeAWs 「咲何故だね?何故成城に戻らない?」 気が付けばこれだ。如月 咲として名家に生まれ新しい人生を送る。 そんな、下らない事になっていた。以前よりも大きな屋敷、以前よりも 物に溢れ、以前よりも綺麗になって だが、なんだというのだ? おじい様とやらは、さっきからしつこく私に言ってくる。 やれ、お前の成績なら問題ない。やれ、あの女に似て強情な そんな事しか言わない。 咲の両親は自分たちの愛に殉じた。少なくとも『私』よりは余程幸福に 死んでいった。そんな人達をバカにするこの人の言う事など聞いて やる気にもなれない。 「……行ってきます」 さっさと、朝食を済ませ屋敷をでる。ここに長居はしたくない。 だが今日行く先は違う学校だ。三年の間に頻繁に転校を繰り返している。 おじい様の考えだ。私が成城に行けば転校をやめる。 そういった考えだろう。本当に胸糞の悪くなる『おじい様』だ。 憂鬱で仕方がない。そう考えながら学校へ向かった。 「――わ、私は如月 咲と言います!よろしくお願いします!」 思わずだった。普段とは全く違う調子になっている。その原因の 男子生徒が一人奥の席にいる。全く違う容姿だ。だが瞳に湛えている『何か』が彼を連想させる。 私だけかと思っていた。だが他にもいるという可能性があったのだ。 もしかしたら――そう思い彼をただ見つめるしかできなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 家で騒いだ帰り道。駅まで見送りに行くことにした。 歳久のバカはともかく。咲と委員長は狙われても不思議ではない。 「また明日」 いつもどうりキリっとした態度で綺麗に話す委員長。一方の歳久は これからが本番と称し、夜の街に更けていった。なるべく非行に走らない で欲しいものだが… 「如月は近いんだっけ?送るよ」 俺の問いかけに無言で頷く如月。妻のこともあるから別に構いは しないが、本当にこの子はこれで大丈夫なんだろうか? 中学校にもなれば、いろんな問題が出てくる。この子の性格で やって行けるか心配だ。 「……」 お互いに無言で歩く。当初は緊張したものの今はむしろ落ち着ける。 妻と歩いているような感覚だ。あいつもデートの時は、俺の半歩後ろを ついてきていたな。 「あなたは――人を愛したことがありますか?」 「あるよ」 突然の質問だった、が直ぐに答えることのできる内容だ。俺は 今でも『あいつ』を愛してる、断言できる。だが―― 「その人は――今」 「自殺したよ。何でそんな真似したんだか」 怒っている。無論俺が居ない後の生活は苦しいかもしれない。 しかし、彼女の実家は裕福だしそれに俺の保険金だってあったろう。 もしかしたら、後追い自殺かもしれない。どんな理由にせよ、娘を一人残して 死んだのは許せない。 「もしあいつに会えるなら、一度本気で怒らないとな…」 俺の怒気に気づいたのか彼女は少し震えていた。

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