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750 名前:ぽけもん 黒  27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01:22:47 ID:7CNDPUVs [2/9] 「私が反ロケット団のリーダーであるシルバーだ、か。いやー、いうねえ」  数時間後。集会が解散した後、僕達はシルバー、そしてシルバーの傍らにいた壮年の男と、休憩室といった趣の小さな部屋にいた。 「うるせえ黙れ。俺にも立場ってもんがあんだよ」  いつもと随分と違うキャラを演じていたことを恥ずかしく思っているのだろう、シルバーは顔を赤くしている。  壮年の男はそれを穏やかな目で見ていた。 「それで、こちらの方は?」  僕がシルバーに彼のことを尋ねると、シルバーが答えるより早く、彼は答えた。 「私はただのしがない年寄りさ。彼の父と親しくさせていただいてね」 「そういうことだ。この人は俺の昔からの協力者さ」  シルバーの父。  その言葉で、先ほど浮かんだ疑問が再燃した。 「そうだ。シルバー、さっきの演説で随分とロケット団を恨むようなことを言っていたけど、いったいどういうことだ?」 「……今は言えねえ。だが、俺にはロケット団を潰す義務がある。ただ、十年前の警察からやられたこと、アレのバックにロケット団の指示があったということだけは言っておく」  彼のこともなげに付け加えたようなその話は、それだけで僕にとっては大きな驚きだった。アレがロケット団の指示だったって、シルバーの父はロケット団の幹部じゃなかったのか?  それに、ロケット団を恨む理由としてはこれで十分であるように思える。  この出来事がきっかけで、すべては変わってしまったのだから。  でも、シルバーはそれをまるでおまけのように語った。じゃあ彼のロケット団を潰す義務ってのはいったい何なんだ? 「お前はまた余計なこと考えてんな」 「余計なことじゃない。大切なことだ」 「ともかく、俺は今お前にそれを言う気はねえ。諦めろ。そもそも、俺はそんな話をしにここにお前等を呼んだわけじゃねえんだ」 「じゃあ何のために……」 「作戦のために決まってんだろうが」 「あ」  うっかりしていた。  集会参加者の何人かと話を交わし、彼らのロケット団から受けた酷い仕打ちにすっかり感情を動かされ、本題を忘れかけていた。 「まったく、俺達はロケット団被害者の会じゃないんだぞ」 「ごめん……。でも、ちゃんと実働部隊の人の能力と性格はある程度調べたよ」 「当たり前だ」  彼はそういいつつ、テーブルの上にラジオ塔の図面を広げた。さらにその上に小銭とメダルを広げる。 「メダルが俺達の戦力だ。そしてこの小銭は敵戦力。小銭の金額はそのまま敵の数として考えろ」 「敵の作戦は分かったのか?」 「いや、ほとんどの団員には古賀根市に集まること以外何も伝えられていない」 「じゃあ作戦は分からずじまいか」 「一応、ぎりぎりまで調べようとは思うが、期待はできないだろう」 「作戦が分かってるに越したことは無いけど、どのみち雑兵にできることなんて限られてくし、この場合は特に僕達の作戦の問題にはならないと思う」 「どういうことだ?」 「入り口や階段、エレベーターの数は限られている。そこを抑えればそれだけでいい」  僕はそういいながら、二機あるエレベーターに一人ずつ、社員用出入り口に二人、階段に二人、非常階段に一人、適切なメダルをおいていく。  二人配置したところは力押しで突破されないよう、弱点を補う、もしくは相互に組み合わせて力を発揮するタイプの人員を、一人配置のところには地形を利用して放水や落石など単純な物量で守れる人員を配置してある。 「敵は航空戦力を使用しないって話だけど、追い詰められたら目立つのを無視して強硬手段に出るかもしれない。それでこうだ」  そういって、僕は屋上に雷タイプのポケモンを二人、飛行タイプのポケモンを二人配置した。 「ランは使わないんだな」 「彼女は最終手段だよ。構内じゃ危なくてとても使えない」 「最終手段?」 「基本はお前とともに電波発信を狙う幹部に対応してもらうつもりだけど、もしそれが失敗に終わったら、ラジオ塔そのものを焼き落としてもらう」 「……随分な作戦だな」 「あくまで最後の手段だよ。最悪の事態を避けるためだ」 「最悪の事態……か」  シルバーはそう言って苦々しげにうつむく。 751 名前:ぽけもん 黒  27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01:23:40 ID:7CNDPUVs [3/9]  そうだ、もしロケット団の作戦がすべてうまくいってしまえば、この国は奴らに乗っ取られてしまう。  それを防ぐためには、いくらかの犠牲と被害を出そうとも、ここを奴らの手中に収めさせるわけにはいかない。 「分かってると思うけど、この作戦の性質上、奴らに先んじて、僕達が施設を占拠しなきゃいけない。だから、敵の作戦決行がいつになるかを先につかむことが肝と言える。おそらく、やつらも目立つをの避けるために、まずは少数精鋭での制圧を行うはずだ。中枢を押さえたら、大部隊を投入して一気に占拠、という狙いだろう。というか、多分、今回集められる部隊のほとんどはラジオ塔を占拠するために用意されたわけじゃないと思う」 「どういうことだ?」 「奴らの作戦が成功した際、いくら世の中が混乱に陥るとはいえ、ラジオ塔を奪還、もしくは破壊するために動く人間がいないとは考えがたい。だから、少なくとも作戦遂行中はラジオ塔を守る人員が必要だろう。そして、流される電波があのときと同じものだとすれば、奴ら側のポケモンも行動不能になる。もし集められた人員の多くが人間ならば、それは多分間違いない」 「分かった、調べよう。もし敵がほとんど人間なら、戦力はポケモンに大きく劣る。守るのは容易か」 「そういうこと。守ることは多分難しいことじゃない。問題は、先に先遣部隊なり何なりにラジオ塔を制圧されてしまった場合だ」  僕はそういってポケギアを操作し、資料を広げる。 「これによると、ラジオ塔側に僕達側の伝手は無いんだよな」 「ああ、それはつい数時間前に話が変わった。プロデューサーの一人から協力を得られそうだ」 「へえ。もともとラジオ塔に知り合いなんかはいなかったんだろ? どうやったんだ?」 「単純に、倫理や立場より話題と視聴率が好きな人間に今回の話の一部を明かしたのさ。そしたらいい特ダネになるとノリノリだ」 「まったく、ろくな人間じゃないな……。まあ、今回に限って言えば好都合か。ならどこかに事前に僕達を潜入させてもらうってことはできないかな」 「相談してみよう」 「よろしく頼むよ。もしこれができれば先手を取れるのは約束されたようなものになる。後は、もし突破された際の話だけど、……」  そうして、僕が計画をすべて話し終えると、シルバーは重々しくうなずいた。 「あとは情報を待つのみか」 「そうだな」 「じゃあ今日はここで解散だ。また後日連絡する」 「……ああ。じゃあ、また」  僕はそう言って、香草さんとやどりさんとともに部屋を出た。  入り口のところで、先ほどシルバーの傍らにいたおじさんを見つけ、軽く会釈する。  いったいこの人は何者なんだろう。  僕はそんな疑問を抱きながら、その場を後にした。  そこから数日、僕達はひたすらポケモンセンターで時間を潰していた。  連絡は未だ無く、しかしいつ作戦が始まるか分からないから動くわけにも行かず、トレーニングもできない。  そして香草さんはやどりさんがいるにも関わらず常にいちゃいちゃしようとしてくるから困る。  どうも人がいるところでいちゃいちゃするのには抵抗が……  それに、特に一緒に旅をする仲間の前というのは。  やどりさんは僕達の様子を見せられて不満げだし、香草さんもいまひとつ僕が煮え切らないのを見て不満げだ。  香草さんには申し訳ないけど、こんなときくらい自重してもらえると助かるんだけどな。  彼女のぬくもりを肌で感じながらそう思う。 「ねえ、ゴールド、大丈夫よね? 死んだりしないわよね?」  香草さんが甘く耳元で囁く。  何度目変わらない、彼女の問いかけ。  その言葉の裏に、この計画に参加するのをやめてほしいという彼女の叫びが聞こえる。 「大丈夫だよ。生き残って見せるさ。絶対に」  僕はその叫びから耳を反らし、また何の役にも立たない、祈りにも似た言葉を重ねた。 752 名前:ぽけもん 黒  27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01:24:28 ID:7CNDPUVs [4/9]  数日後、ラジオ塔内部。  僕達は機材搬入車に入り、難なくラジオ塔の内部に潜入した。  ロケット団の襲撃の日は確定してはいないが、ロケット団の集まり具合や資材の流れから一両日中に行われることがほぼ間違いなくなったので、例のプロデューサーの手引きで内部に潜伏することとなったためだ。  埃臭い、普段は倉庫となっていて、人の入らない資材置き場の一角。  その入り口から死角となる最奥部が、僕達の詰め所となっていた。  そこで僕達は数日前会ったメンバーの一部と再開を果たし、そして作戦を説明する。  もちろん、盗聴防止のため電波探知がかけられ、そして独断での行動を禁止することで、作戦が外部に漏れることを防止してある。  僕の説明を、皆が険しい顔をして聞く。  ちなみに、僕がこの作戦の立案者だとは伝えられていない。  僕はただの仲介役ということになっている。  シルバーと違い、あの演説のように参加者の不安を抑えることなんて僕にはできない。  説明が済んだ後も皆緊張でか言葉少なかったけど、数人、他愛の無い雑談を交わす者もいた。  集められた時は張り詰めていた空気も、何の続報も無く数時間も待機させられたら緩みもする。  どことなく、「もう、今日は来ないんじゃないか」という空気が漂い始めた、そんな頃。  大音量で通信が鳴り響く。 「ロケット団潜入との情報あり。至急行動開始せよ」  そんな簡素な情報に、僕達は一瞬で総毛立つ。  先手を打たれた?  いや、まだ予想の範囲内、いかようにも挽回できる。  しかし僕達が潜入したその日にロケット団が行動を起こしてくるとは。  僕達側の情報網がさすがと言うべきなのか、それとも、敵方の行動の迅速さを褒めるべきなのか。  ともかく、僕達は一斉にそれぞれの持ち場へ向かって走り出した。  まわしてもらった監視カメラの映像には特に敵影は無い。  おそらくまだ進行の初期。排除はたやすい段階だと思われる。  持ち場に合わせて僕達は暫定的に四グループに別れ、担当する持ち場のない余剰人員が予定外の会敵時の対処や内部の人間に対する状況説明、場合によっては持ち場を持った人員に代わって鎮圧を担当することとなっている。  初めはやどりさんを足止めに配置しようかと思ったけど、思ったより人員があまったので僕とともに行動してもらうことにした。  なので僕は香草さんとやどりさんの三人で行動することになる。  早速ガスマスクをつけたロケット団員と、スモッグを吐き散らすマタドガスに出くわした。 「やどりさん、ハイドロポンプ」  やどりさんの放つ激流で毒ガスごと押し流した。  こっちはとっとと所定の位置に全員を配置しなきゃいけないんだ。いちいち構っている暇は無い。  拘束は手が開いている者に任せることにして、気絶しているロケット団員を横目に、僕達はひたすら突き進む。  その甲斐あってか、さらに数人のロケット団員を倒した後、順当に全員を予定の配置につかせることができた。  本格的な戦闘があちこちで開始したようで、はあ、と僕が一息つく周りで、怒号が響き渡っている。 「そうだ、急がないと」  一応、シルバーと協力者が偉い人に話をつけてくれているはずだけど、念のため見に行ってみようか。  見取り図をみて、局長室へ向かってみると、机を挟んでシルバーほか数人と局長と思われる人が向かい合っていた。 「話は分かった。だが、君達が下の連中と共謀してないとどうして言い切れる?」  入るなり、局長らしき人の厳格そうな声が聞こえてくる。  これだけの人数の得体の知れない人間を前にして、まったく臆すことなくこんな台詞をいえるなんて、なかなか肝の据わった人だ。  ランは僕たちに気づくなりこちらを睨んできたが、シルバーがちゃんと言ってあったのだろう、僕たちに襲い掛かってくるようなことは無かった。 「あなたの言い分も尤もです。だが、今それを証明することは不可能だし、事態は一刻を争うのです」  一方こちらは、例のシルバーの傍にいた男が交渉役になっているようだ。  確かに、シルバーは交渉役には不向きだろう。 753 名前:ぽけもん 黒  27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01:25:08 ID:7CNDPUVs [5/9] 「証明できない、時間も無い、だが信じろ、か。無理を言う」 「無理を承知で言っています。それに、先ほどから警備と連絡がつかないんでしょう?」  それを聞いて、局長は少し顔を歪めた。 「おそらく、ロケット団にやられたのでしょう。今このビルが占拠されていないのは、うちの者が各所で奮戦してくれている結果です」 「ふん、仲間を本気で攻撃する馬鹿はいまいよ」  局長はあくまで譲らないようだ。確かに、僕達がロケット団とグルじゃないと証明する手段もない。  部屋に怜悧な空気が張り詰めるなか、一報の通信が入った。 「た、対空部隊です。敵地上部隊の雷の乱発により、飛行ポケモンが使えません! 同時に、敵ポケモン数人がその中を雷の中を突破、突破、窓を破って構内に侵入されました!!」 「分かった。対空部隊はこちらも雷で対抗しろ。これ以上敵を中に入れるな!」  外はそんなことになっていたのか。  窓の無い場所を走ってきた上に、戦闘音で雷の音も聞こえなかったから気づかなかった。  ラジオ塔の周囲での雷乱発に、窓を破って進入とは、敵もなりふり構わなくなってきた。  これは僕達の防衛が上手くいっていることの証明であると同時に、敵が物量に任せて短期決戦を狙ってきてあるということでもある。  しかし対応が迅速すぎる。  もうしばらくは無理に突破しようと無駄な兵力と時間を浪費してくれると思っていたのだけれども。  敵もこのような事態になってもいいよう、対応策を考えてあったのだろうか。 「ふん、そちらの自慢の戦力というのも大したこと無いな」 「大したことない戦力ですから、ラジオ塔側の協力が必要となるのですよ。今の通信でお分かりのとおり、もう事態は切迫しているのです」  そう言われて、局長は苦々しげに顔を歪める。今、彼の内ではさまざまな感情と思惑が渦巻いているんだろう。  そして、数十秒の沈黙の後、彼は机に備え付けの端末をなにやら操作した後、口を歪めた。 「……分かった。だが停波はできん。こんな事態を報道せずしてどうして報道機関を名乗れようか」  部屋に張り詰めていた空気が少し緩んだのを感じる。  おそらく、話がつかないようであれば力ずくでことを進める気だったのだろう。 「では、全隔壁閉鎖のほうは」 「もう通知した。まもなく閉鎖されるはずだ。職員への退避命令もな」  局長はそういって腰を上げた。  あわせて、部屋にいた全員が局長室を退室する。ここもまもなく封鎖されるだろう。普段ならここに篭城すれば安全だが、ラジオ塔崩落の危険がある今は、ここはただの頑強なだけの棺桶になってしまう可能性がある。 「では、私は避難させてもらう。後は勝手にやれ」 「いいんですか? こんな大事件を現場で体験しなくて」  散々言われるだけ言われた仕返しか、男が皮肉気に言う。 「体験している者はもう十分にいる。それより頭が火中にあっては手足もまともに動かせんだろ」  彼はそう言って、意地悪げに口角を上げた。  部屋にいた大半は局長と一緒に脱出するようで、僕やシルバー達数人と別れた。  これで打てる手は打ったけど、戦いは終わりでもなんでもない。  ロケット団を全滅させるのが理想だけど、それが無理でも、少しでもロケット団に打撃を与えたい。  それに、今作戦には幹部も参加しているはずだ。  それを見逃す手は無い。  先ほどの連絡にあった、雷の嵐の中を切り抜けて突入してきたそれが、只者ではないことは想像に難くない。  幹部、ないしはそこそこの立場にいる人間であることはほぼ間違いないだろう。  今のところ、各所に配置した人員から特に連絡はない。  つまりまだその幹部と会敵してはいないということだろう。  守っている人員を排除して、突破口を開くことが進入の目的ではないとしたら、あの大量の下っ端は陽動と割り切り、隠密行動――というには大分派手だけど――で、放送室に向かい、例の電波を流してしまうことが目的と考えられる。  ならば向かう先は決まっている。  通信機に向かって呼びかける。 「みんな、さっきの通信で分かってると思うけど、局内にかなり場慣れしていそうな敵が侵入した。みんな背後にはくれぐれも気をつけて作戦を続行してほしい。もし見かけたら、必ず通信してください。すぐに増援を送ります」  通信機からは了解、隊長という声が聞こえてくる。  恥ずかしいのだけれど、作戦を説明したからか、みんなは僕をからかうように、隊長、と呼んでくる。  それを聞いて、シルバーがニヤニヤしてこっちを見てきた。  糞、自分だってリーダーなんて呼ばれてる癖に!  ともかく、その間にも僕達は進み続け、そして目的の場所にたどり着いた。 754 名前:ぽけもん 黒  27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01:26:17 ID:7CNDPUVs [6/9]  通信施設へと続く通路。  ここは防火扉をかねた無数の隔壁で完全に封鎖されている。  そこを塞ぐ鋼鉄の壁が見事に打ち破られていた。  辺りには腐臭が漂っている。  これは……毒か?  どうやら侵入者は毒で隔壁を溶かして突破したらしい。  やどりさんに頼んでこびりついた残りを除けてもらい、穴の開いた隔壁を通り抜ける。  まずい。隔壁さえ降りれば簡単には突破されないと思っていたのに。  とにかく道を急ぐ。  皆異常を訴えていないから、毒ガスが充満したりしてはいないらしい。  進むにつれて、また妙な臭いがしてきた。  破られた隔壁を更に抜け、広いオフィスに抜ける。  視界の先が紫色の霧で埋まっている。  やどりさんのハイドロポンプで押し流す。  もやの向こうに、数人の人影が見えた。 「イドロ、ガドータ、ヘドロ爆弾」  もやの向こうから男の声が聞こえ、その直後、二つの黒い塊がもやを突っ切って飛んできた。  ヘドロ爆弾は着弾と同時に炸裂し辺りに有毒のヘドロを撒き散らす。何かに隠れないと。  咄嗟に遮蔽物を探すが、めぼしいものが無い。 「ラン、火炎放射で打ち落とせ」  二つのヘドロの塊は灼熱の火炎に包まれ、灰となって消えた。 「だ、誰だ!」  僕は煙の向こうに呼びかける。 「ハシブト、風起こし」  今度は羽ばたきの音に続いて、紫煙が突風とともにこちらに向かってきた。 「やどりさん、サイコキネシスで押し戻せ!」  両者の力が中間地点でぶつかり、渦巻く。  行き場をなくした力は窓の強化ガラスを破って、毒ガスとともに外部に流れていった。  煙が晴れたことで、向こうの姿が見える。  全身を粘液で包まれた、二十前半と思われる物憂げな表情をした女性と、薄煙に包まれ、宙に浮かぶ目つきの悪い女性。  その後ろに控えるようにして立つ、黒い服に全身を包んだ――その胸にはやはり血のような赤でRが刻まれている――四十がらみの人相の悪い男と、それに寄り添うようにして、烏の髪と、烏の翼を持った、美しいながらも、明らかに日の下を生きる者とは違う、退廃の空気をまとった、毒婦のような妖しい色香を持つ少女が立っていた。 「まったく、ことごとく我々を邪魔するつもりらしいな。お前等はいったい何だ?」  男が、その容姿に見合った、ドスの利いた声で問いかけてきた。 「反ロケット団、といえば言葉は知らなくても俺達が何なのかは分かるだろう」 「反ロケット団……くっ、随分と面白いことを言うんだな」 「面白いか? 自分の終わりが」 「いや、出来過ぎだと思うよ。俺の人生のストーリーとしてな。まさにおあつらえ向きの障害だよ、お前等は」 「その障害に潰されて死ね」  シルバーの言葉とともにランが火炎を放った。  それをガドータと呼ばれた女性が口からガスを吐き出して応じる。  火炎はそのガスを破れず、消えた。 「不燃ガスか」 「そら、今度は毒ガスだ」  その言葉通り、今度は先ほどと違う種類のガスが放たれた。 「面倒……まとめて、潰す」  やどりさんがそう呟き、ほとんど同時にこちらに流れ込もうとしていたガスが下方向に沈んだ。  同時に相手も何かの力に押さえつけられるように体をかがめる。  それに続いて、周囲の机類が吸い寄せられるように彼らを巻き込む。  そしてかき混ぜられるように机が回り始め、見る見る灰色の濁流となっていく。 「ラン、仕上げだ」 「はい」  その渦にランの火炎放射が加わり、渦巻きは火柱と化した。 「ちょ、やりすぎだろ!」 「何だ? この期に及んでまだ人殺しはいけないとか言ってるのか?」 「それもあるけど、こんなに派手に壊して、ここを廃墟にする気かよ! それに、おそらく相手はヒラの団員じゃないんだろうから、生かしておいたほうが色々都合がいいだろ!」 「……前半はおそらくそのとおりになるが、後半に関しては、心配する余裕はなさそうだ」  いまや溶けてくっつき、何かのオブジェのようになった黒い塊が、突如として弾け飛び、中から粘性の高い液体が噴き出してきた。 「衝撃吸収に耐熱か。本当に便利だな、うらやましいね」 「そりゃどうも」  中から出てきた男が不吉に微笑む。  冗談だろ!? まさかそんな方法であの攻撃を防ぐなんて! 「だが万能ではなさそうだ。その鳥、その泥落とさないと飛べないだろ」 「ああ。それに一張羅が台無しになるという欠点もある」  男はそういって両腕を振り、泥を飛ばした。 「燃えて真っ黒になるよりはましだろうさ!」  シルバーの声に答えるように、ランの両腕から火炎放射が放たれる。 「ああ! それには同感だな!」  それを二人の女性が不燃ガスと不燃泥で防ぐ。いや、それどころか押し返してくる。 755 名前:ぽけもん 黒  27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01:27:25 ID:7CNDPUVs [7/9] 「やどりさん!」  僕がそういうと、彼女は頷き、中空に右腕を差し出す。  再び、相手に上方向からの圧力が降りかかる。 「ラン、火力を上げろ。周囲の被害もやむを得ない」  ランがそれに答え、熱量を上げた。  炎の色が変わり、その熱波で景色が揺らぐ。  この熱量なら、あるいは。  いや、そうでなくても、炎で包み続ければ、いずれ息が続かなくなって窒息死だ。  後は、下方向から逃げられるのを防ぐために、敵がいる泥の塊を空中に浮かべれば完璧だ。  僕がやどりさんにその意図を伝えようとしたとき、おかしなことに気づいた。  敵の、ハシブトと呼ばれた女性がなんだか揺らいで見えるのだ。  ランの炎のせいだろうかと思い、一瞬で思い直す。 「やどりさん、後ろだ!」  僕がそう叫んだ瞬間、ハシブトの姿は揺らいで消え、やどりさんの背後に現れた。  やどりさんの背中に突き刺さろうかという鍵爪の一撃を、僕がナイフで受ける。  硬質の物同士が打ち合わされる高い音とともにナイフは折られ、僕は弾き飛ばされた。  やどりさんの背中にぶつかり、そのまま二人そろって倒れこむ。  無防備に晒された僕の腹部に、彼女の足が振り下ろされた。  それが僕の腹に突き刺さる前に、香草さんの蔦による横薙ぎの一閃で弾かれる。  翼を広げ体勢を立て直そうとする彼女に、香草さんの蔦が殺到する。  それを両の翼で切り払い、さらに数歩距離をとる。  そこに無数の葉が突き刺さるが、いつの間にかそこに彼女の姿は無く、それは地面に突き刺さっていく。  左右に彼女の姿は無い。  ふと、背筋に寒いものを感じ、慌てて上を見ると、そこには僕に向かって振り下ろされる鋭利な鍵爪があった。  僕の脳に電気信号が閃き、無数の対抗手段が瞬時に浮かぶ。  そしてそのどれもが手遅れだと悟った瞬間、彼女の体は飛来した水球によって弾き飛ばされた。  どっと冷や汗が噴き出す。  ほんの一瞬、彼女が弾き飛ばされるのが遅ければ、今頃――  視界に火花がちらつき、一瞬、正常な思考ができなくなる。  そのせいで、注意が遅れた。  飛ばされたハシブトは再び姿を消し、一拍の間も置かず、今度はランの頭上に現れた。  シルバーが突き出したナイフを体を捻ってかわし、ランの肩に深々と鍵爪を突き立てた。  それは容易に彼女の皮膚を突き破り、肉を抉り、骨を砕いた。  骨が軋み、砕ける何とも形容しがたい不快な音が、ここまで聞こえてくる。  残るもう片足がランの頭部に突き立てられようというところで、ランの体が火に包まれる。  慌てて逃げようとするハシブトの脚を掴もうとランは無事なほうの手をハシブトの脚に伸ばすが、再びハシブトは消え、その手は宙を切った。  火炎放射が止んだことで毒ガスとヘドロがこちらに向かってくる。  それをやどりさんがサイコキネシスで強引に押し返した。  それに遅れて、ランの絶叫が室内に木霊する。  ランの肩から下はぐっしょりと血に濡れ、腕は力なくぶら下がっている。 「ラン!」 「寄るな!」  慌ててランに駆け寄ろうとしたが、拒絶されてしまった。  しかしランに手当てが必要なのは間違いない。  僕はリュックから応急救護セットを取り出すと、シルバーに放り投げた。 「とりあえずこれで治療してくれ。やどりさん、毒ポケモン二人の相手を頼む。香草さんはやどりさんとシルバーとランを敵から守ってくれ」  体勢を立て直そうとする敵二人に向かってやどりさんはハイドロポンプを放ち、体勢を崩す。  後はハシブトとロケット団の男だけど……  そういえば、敵二人の後ろに控えていた男がいつの間にかいなくなっている。  やどりさんの攻撃で飛ばされたのかと一瞬考えたが、もしかしたら……  彼女達のはるか後方から、爆発のような音が聞こえてきた。 「しまった! この二人はただの時間稼ぎだ! 本命は奥だ!」  ハシブトはどこに消えたと思っていたら、男とともに奥の隔壁を破壊しに行っていたのか!  先ほどの自在に姿を消すような攻撃方法を見ていたら、こちらはそれに警戒せざるを得ない。  あの攻撃の目的はそうやって僕達の注意をひきつけることだったのか! 「やどりさん、あの二人を頼める?」  毒ポケモン二人は相性の問題もあるのだろうけど、大して強くは無い。もしくは力を温存しているか。  やどりさん一人でお釣りがくるだろう。 「任せて」 「じゃあお願い! 香草さん! 僕と一緒に来てくれ!」  問題はあの悪ポケモンのほうだ。神出鬼没でやどりさんの念力がまともに当たらない上、攻撃力も非常に高く、やっかいだ。 756 名前:ぽけもん 黒  27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01:27:52 ID:7CNDPUVs [8/9] 「お、おいゴールド!」 「お前は早くランの血を止めろ!」  僕はそう言って香草さんとともにイドロとガドータに向かって駆け出す。 「そんなことは」 「させない」  当然、僕達の前に立ちふさがろうとする二人は、まるで巨大な手に払われたように右方に弾き飛ばされた。  すぐに体勢を立て直した二人に、香草さんは蔦で机を掴み、叩きつける。 「邪魔よ!」  机がばらばらに砕け、二人が一瞬怯んだ隙に、僕達はその脇を通り抜けた。  奥に、隔壁に向かって攻撃を繰り返している男とハシブトが見える。  香草さんは走りながら机を掴み、それを二人目掛けて放り投げた。  机が扉にぶち当たり、反響音が空気を震わす。  机の奥には人の影も形も無い。  後ろか!  僕が振り向きざまにナイフを突き出すと、それがロケット団の男のものと衝突した。  その男に抱きつくようにしてハシブトもいる。  あの女、自分だけではなく、こうすれば仲間も一緒に姿を消して移動することができるのか!  男がナイフを上方に弾くが、そうして開いた胴部に今度は香草さんの蔦が向かう。  二人の姿が揺らいで消え、香草さんの蔦は宙を切る。 「チコ!」  僕がかがむと、彼女はその意図を察してくれたのか、両腕を振り回して蔦であたり一帯を切り払った。  香草さんを中心に、爆発したように机が宙に跳ね上げられる。 「くっ!」  少し離れたところで、渋い顔をした男と、それを抱えた女が出てきた。 「騙し討ちなんて僕達には通用しないぞ!」 「ああ、そうらしい」  そういいつつ、再び男は姿を消す。  何か新しいことをする気か、それともやどりさん狙いか。  同じ手を繰り返すほど単純じゃないとは思うが、それも含めて、裏を読んでいるのかもしれない。  何せ騙し討ちだ。  迷っている暇も無い。  とりあえず、香草さんに指示して、こちらに背を向けて応戦している毒二人目掛けて机を投げつけてもらう。  もろにぶつかり、派手な音を立てる。  攻撃としてはたいしたこと無いけど、意識をそらすのには十分だ。  再びやどりさんのサイコキネシスが発動し、二人は地面に伏す。  さあこれで相手に猶予は無い。  この状況で狙われる可能性の高いのはまずやどりさん、次に僕だろう。  いくらワンパターンと言えど、状況を打開するために相手はそうせざるを得ない。  案の定、敵はやどりさんの頭上に現れた。  そこにシルバーのナイフが突き刺さる。  男は足に傷を負い、慌てて離脱する。  そうこうしている間にも、毒ポケモン二人はどんどん押しつぶされていく。  骨の軋む音と、女性二人のうめき声が聞こえてくる。 「香草さん、後ろ!」  香草さんが蔦を後ろに薙ぐと、ちょうど現れた二人を見事に捕らえた。  床に叩きつけられ、二、三転すると、再び姿を消す。  敵はただ消耗してゆくのみ。  僕達が油断しなければ、負けは無くなった。 「おとなしく投降しろ! そうすれば命は保障してやる!」  僕は大声で呼びかける。  姿は見えないけど、おそらく聞こえているはずだ。  この状況での相手の投降はすなわち敵の作戦の失敗と同義だ。  おとなしくそうなるとは思えない。  でも、そうなれば一番いい。  それはお互いに同じだと思う。 「うふ、もう勝った気?」  艶かしい女性の声がどこからか聞こえてくる。  同時に、やどりさんが押しつぶしていたうちの一人が押し潰された。  大量の液体が噴き出し、つらつらと地面を流れていく。しょうがないこととはいえ、思わず目を背けたくなる。 「もう勝敗は明らかだろ! これ以上の戦いは無意味だ」 「ぼく、ひとついいこと教えてあげる。投降は、強者が弱者に対して呼びかけるものよ」  何を言っているんだ。現にお前の仲間は一人潰されて……  まて、潰されたはずの死体、何かおかしくないか?  大量の体液が溢れて周囲に流れていくのはまだ分かる。  問題はその流れ方だ。  やどりさんに押しつぶされているってことは、敵の周囲の床はサイコキネシスで撓んでいるはずなのに、その部分に溜まっていない。  いや、それどころか、妙にやどりさん側に流れている?  まさか、これは―― 「逃げ――」  僕に気づかれたからだろう、やどりさんに近づきつつあったソレは、唐突に大爆発を起こした。

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