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873 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:42:14 ID:6bJj/6Gg  「俺達は、ほんの少しだけ絆を深めたんだよ」  なんてクサい台詞をドヤ顔で言った、(ついでに「似合わねー!」「格好付け過ぎ」というブーイングをゼロコンマ1秒で受けた)その日の放課後。  「よぉ」  俺と三日は聞き慣れた相手に声をかけられた。  中性的、というより今となっては凛々しいと表現するべき面立ち。  中学時代と比べるまでもなく、女性として限りなく理想に近い、しなやかな猫を思わせるプロポーション。  その全てを台無しにするシニカルな笑み。  しかし、今この瞬間には、その釣り目に剣呑な表情を湛えた彼女―――天野三九夜(アマノサクヤ)。  「やー、天野。何か用?」  俺はいつも通り、片手を挙げて応じる。  「『何か用』、ね。フン」  俺の言葉を皮肉っぽく返す天野。  「まるでオレちゃんを怒らせたことなんて無かったような言い草じゃぁねーか」  「いや、怒らせた覚えは無いんだけど、なぁ?」  俺は困惑して、三日と目を見合わせた。  「オイオイ。オイオイオイ。見た目だけは品行方正なお前がいきなり無断欠席で、そのオチがデートだっつーんだぜ?コレを怒らずにナニを怒れってぇんだよ。なぁ、キロト」  「キロト言うな、天野(アマノ)ジャクが」  それは、俺の嫌いな仇名だった。  いわゆる1つの黒歴史。  いつも通りを装いながらも、怒りオーラ全開の天野さん。  「ま、良い機会だ。オレちゃんを怒らせるってのはどーゆーコトか。改めてその身に刻みつけてやりに来てやったぜ。ありがたく思え」  「……それは」  危険、では無いだろうか、と言いかけた。  と、言うのも、俺は一度天野に八つ当たり気味にブチキレられて笑えない目に会っているからだ。  あまりに笑いごとで無いので、世間的には無かったことになってはいるが。  「大丈夫だ。オレちゃんが直接手ぇ下すンじゃねーよ。着いてきな」  そう言って俺を促す天野。  「いやだ、と言ったら?」  「もちっと酷い目に会うだけだ。特に、横のちっこいお嬢ちゃんがな」  そう言って、天野は凶悪な笑みを浮かべた。  それでは着いて来ない訳にはいかない。 874 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:42:49 ID:6bJj/6Gg  「さーあ、着いたぜ」  連れてこられたのは剣道場だった。  クラブ活動の無い日なので、中はガランとしており、奇麗に掃除された板張りの床が良く目立つ。  さらに言えば、1人、防具を身につけて道場の真ん中に立つ学生の姿も。  恐らくは、1年生だろうか。  高校生としては小柄な方で、中学生と言われても納得してしまうかもしれない。  細身ながら、防具の上からも、適度な筋肉が着いていることが伺える。  面を被っているので断言は出来ないが、恐らくは男子だろう。  「彼は?」  「ああ、後で紹介するよ。ま、強いて言うなら剣道部のスーパールーキーなスーパーエースってトコロだ」  どうでもいいが、『スーパー』ほど二つ並びでこれほど頭の悪く感じる言葉は無いのではなかろうか。  「それよりもホレ、奥の更衣室でちゃっちゃと着替えて来なよ。胴着は用意してあるからよ」  と、当たり前のように指差す天野。  「着替える、って何でさ?」  「キロト、手前まさか制服でウチのスーパールーキーとやりあう気か?」  だから、キロト言うな。  「確かに、制服じゃ動きづらいけどさ・・・・・・」  「なら良いだろ?嫁さんにはオレが着方教えるから」  「・・・嫁さん、ですか」  天野の言葉を顔を赤らめて反芻する三日。  ヤバい、普通に可愛い。  「だーから、ちゃっちゃと着替えてきな。どの道、地獄を見るのには変わりないからよ」  そう言ってわらう天野の顔は、俺の腑抜けた感想を吹き飛ばすには十分すぎるほど凶悪だった。 875 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:44:22 ID:6bJj/6Gg  「つーワケで、ヤロウ共。罰ゲームのルールを発表しまーす」  胴着に着替えた天野が宣言した。  「罰『ゲーム』なのか?」  「・・・・・・」  「うるせーぞ、ヤロウ共」  ちなみに、防具と竹刀を身に着けてるのは男子のみで、天野と三日は胴着のみ。  ショートヘアの天野が身に着けた胴着は、彼女の宝塚的な凛々しさを強調させ、黒髪ロングの三日には和装が良く似合うことが再確認される。  ウン、やっぱり和服には黒髪ロングだよね。  じゃ、なくて。  「ルールは何でもあり(バーリトゥード)。とにもかくにも、暴力行為で相手を『参った』と言わせれば勝ち。以上!」  「負けたら?」  「オレの言うことを1つ聞いてもらう」  酷いルールだった。  「質問は他に無いな。それじゃあ、はじめ!」  有無を言わさず宣言した天野の声に、俺はためらうことなく――――相手の顔面に向かって脚を跳ね上げた!  「・・・剣道じゃない!?」  「言ったろ、バーリトゥードって」  後ろで三日と天野が話しているが、それに答えるつもりは無い。  天野が何を考えているのかは知らないが、少なくとも長引かせても仕方が無い。  不意打ちであろうが掟破りであろうが、速攻で決めさせてもらう!  しかし、  「そう上手くはいきゃぁ、オレちゃんを差し置いてエースなんて呼ばれちゃいねーさ」  天野の言葉通り、俺の蹴りは彼の両手に持った竹刀で受け止められていた。  「!?」  「せいや!」  それでも、少年は俺の蹴りの勢いを殺しきれない―――が、その勢いを逆に利用して鋭い脚払いをかける。  「うお!?」  丁度片足立ちになったところに、モロに入る一撃に、俺は板張りの床の上へ無様にたたき付けられる。  「ハイィ!」  倒れこんだところに、竹刀が飛び込んでくる。  避けるか―――いや。  「うおら!」  床の上から跳ね起きると同時に、掌打を伸ばす。  交錯する拳と竹刀。  俺は竹刀を起きると同時に避け―――相手は拳を頭を逸らして避ける。  「!?」  「っしゃぁ!」  少年は避けると同時に正拳突きを放つ。  「ク!」  俺はその鋭い拳をいなすと同時に拳打を打とうとするが、逆に顔面へ裏拳を連打される。  何が『剣道部の』スーパーエースだ。  確実に剣道の動きではないだろうが!  「・・・・・・ゥエイっ!」  俺が驚愕している間に、相手は身体を沈め、腹部に突き上げるような掌打を見舞う。  胃の中のものが逆流しそうな感覚。  『感じても思っても考えても仕方がないものがあるなら―――全て無視してしまえば良い。そしたら、何も無かったのと同じになる』  瞬間、昔聞いたある言葉が思い出された。  九重、お前はいつだって正しいな、残酷なまでに。  俺はその痛みを堪え、否、無視し、体制を立て直すと、彼の掌打を竹刀を抑えようと振るった。  少年は片手を制されてもひるむことなくもう片方の手に持った竹刀で、俺の鳩尾に鋭い突きを見舞う!  同時に、封じられた方の手を振りほどいた少年は、俺に向かって反撃の暇も与えることなく、突き上げるような掌打を次々に見舞う。  190cm代の俺とは身長差があるため、少年の攻撃はどうしても突き上げるような軌道を描かざるを得ない。  彼自身、俺のような相手との戦いは慣れてもいないだろう。  しかし、それでも彼が繰り出すのは、一切の無駄のない、鋭くまっすぐな攻撃だった。  「・・・強い」  「オレらには負けるがな。まぁ、アイツもガキんちょの頃から剣道やってたらしいしなー」  「・・・でも、あの動き・・・・・・」  「あー、アイツ前の部長経由で良い先生を紹介してもらったかんな。その人との稽古で剣道の腕も一気に上がったけど、あーゆーいらないモンも一気に身に着けて帰ってきやがった」  「・・・誰ですか、そのいらんことしいな先生は」  「アンタの姉さん」  背景でずっこける音。 876 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:46:13 ID:6bJj/6Gg  「・・・お姉様!?二日お姉様ですか!?私の知らないところで何やったんですかあの人って言うか私聞いてないです!!」  「あー、あの人も大概にしてシャイだからなぁ。何でも、前部長と一緒に市の体育館レンタルしてこっそりやったとかって聞いてるぜ。オレも詳しくは知らんけど」  「・・・剣道部に剣道以外のことを教えて、何考えてるんですか・・・・・・」  とどのつまり、この少年の動きは劣化二日さんということか。  二日さんの戦いを直接見たことは無いが、少なくとも金持ちの家のSPを倒してしまうほどの腕前だ。  その弟子だと言うのなら、なるほど確かに強いはずだ。  俺は素早い掌打を避け様に、その隙をねらい打たんと手足を大きく振るい、勢いのある突きや蹴りを繰り出そうとする。  しかし、そのことごとくを避けられ、いなされ、同時に瞬時にカウンターを決められる。  俺は、それに対して思いつく限りの返し技を相手に打ち込もうとする。  攻防は、いつしかカウンター合戦の組み手のような様相を呈していた。  「おーおー、立つねぇ立つねぇ頑張るねぇ」  「・・・千里くん」  「あのバカが逃げないのは、アンタを守るためかい。・・・・・・いや、違うな」  半ば1人ごちるように、天野が言う。  「単に嫁さんを守りたいなら、オレをボコせば良いだけの話だ。それをしないで、こうしてアイツにボコられ痛い思いをしてるのは、オレに対する義理立てのつもりか、謝罪のつもりか・・・・・・。アイツも大概にしてイカれてやがる」  「・・・見透かした風なことを言うんですね」  「そうかい?フツーに素直な感想のつもりなンだがな。一応は長らくアンタのダンナさんのダチをやらしてもらってっし。相応にアイツのことは理解しているつもりさ」  「・・・」  「アイツは狡い手管を使えない不器用者だよ。だから、荒事に巻き込まれたり、手前も暴力を使わなくちゃいけない場面に巻き込まれ易い」  「・・・それは、知ってます」  「だろうな。だから、相応に場慣れしてるし、そこそこ強い。けれども、同時に相手を傷つけたくないって思いも強い」  まったく、本当に見透かしたことを言う。  俺はこれみよがしなフックを放つそぶりを見せる。  それをフェイントに、もっと大振りな踵落しのモーションに入る。  大きく、重い袴を身に着けているが、それだけに見た目が派手に、威圧的になるはずだ。  心の方が折れてくれれば、体が軽傷のまま、この三文芝居を終えられる。  「でも、どーなんだろうねぇ。どーも代わりに自分が身体を張れば、自分が苦労すればそれで良いと思ってるフシがありやがる」  脚を振り下ろす前に、少年は俺に身体を密着、俺がそれを認識した瞬間にはエルボーを見舞っていた。  防具の無い所に叩き込まれた、強烈な一撃。  「それは、確かに時として『誰かのため』ってぇでっかいモチベーションになる。それをオレは否定しない。ソレに助けられたクチだからな。けれども、どうなんだろうねぇ」  グラリ、と体制を崩し、俺は崩れ落ちた。  竹刀を無理やりに掴み、立ち上がろうとする。  「・・・何が、言いたいんですか?」  「ンな自己犠牲を、アイツはどう感じてんのか。・・・・・・や、違うわ」  荒い息を吐き出しながら、痛みをシカトし、疲れを無視し、立ち上がる。  「傍目から見たら、ドンだけ痛々しいか分かってンのかねぇ」  「・・・」  「アンタはどー思う?嫁さん?」  天野の言葉に、三日は答えることは無かった。 877 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:46:32 ID:6bJj/6Gg  その前に、少年が宣言したからだ。  「参りました」  と。  「参った参った参りましたよ!こんだけやられりゃぁ、尊敬する御神先輩がどんだけのお人なのか痛いくらいに分かりました!罰当番だろうが何だろうが、俺に好きなだけ言いつけてくださいよ、先輩」  フルフルと首を振り、少年が言う。  「おや、フルボッコにしなくて良いのかい」  「人をドSみたいに言わないでください。俺はこれでも、目の前に死にそうな人がいたら自然と助ける程度には平和主義者なんですから」  「そのネタは真性のシリアルキラーでないと笑えないジョークだな」  「どこが冗談ですか!とにかく、この勝負俺は降りますからね!」  と、竹刀を振る少年。  白旗を振っているつもりなのだろうか。  「まったく、天野先輩も人が悪いにもほどがありますよ。俺に御神先輩を紹介する条件として、その御神先輩相手にこんなイジメみたいなことを持ちかけるなんて」  不満もあらわに、天野へと詰め寄る少年。  「いや、まー・・・・・・。俺も俺で引き受けた側だしー」  立ち膝のまま、俺は少年をなだめていた。  「いや、先輩はむしろ怒って良い側ですよ!」  「そーだぜ、神の字。ソコはコイツに味方するルートだ」  少年の言葉に、からかうように天野(アマノ)ジャクは笑った。  「天野先輩が言わないでください!」  「まぁ、そー怒るな。約束どおり紹介してやっからよ」  すっかり頭に血がのぼっている少年をからかい混じりにいなす天野。  見事なまでに相手の扱いを心得ているようだった。  「ほんじゃまー、改めて。コイツが我が夜照学園高等部の剣道部1年きっての期待の新人、超人エース、宇宙のエース・・・・・・」  「弐情寺カケル、です」  そう言って少年―――弐情寺カケルは、面を外し、少年らしさの残る素顔を晒した。 878 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:48:27 ID:6bJj/6Gg  「ええっと、弐情寺くん、で良いのかな?」  「あ、俺のことはカケルで良いです。敬愛する御神先輩のことは天野先輩から常々聞き及んでおりました」  弐情寺くんは、ハキハキした少年だった。  まっすぐな瞳で、こちらを見上げている。  容貌としては悪くない部類で、素直そうな印象を見るにそれ相応に女子からの人気はありそうな気がする。  少なくとも、俺個人としては好感の持てる人柄が感じられた。  そんな男の子が、どうして俺のことをキラキラした眼で見つめているのかは、多分に困惑するところではありますが。  「・・・弐情寺くん、そんなに千里くんを見つめないでください。・・・千里くんが引いているのが分からないんですか」  「すみません、敬服する御神先輩の恋人さんであるところの緋月三日先輩」  心持ちトゲのある三日の言葉に、シュンとする弐情寺くん。  裏表の無い性格なのだろう、表情の変化が非常に分かり易い。  「いや、まぁ引いてやしないけどさ」  と、三日をなだめつつ、俺は弐情寺くんをフォロー。  俺と三日は、勝負の後に弐情寺くんと天野に説明を求めていた。  先ほどから、場所は変わらず剣道場。  顔の汗はタオルでふき取ったとはいえ、冬の冷たい空気が、苛烈な殴り合いで火照った身体を冷やす。  ただし、俺たち4人は全員制服に着替え、円になって座っている。  俺と天野が胡坐で、三日と弐情寺くんは正座だった。  三日の正座はごく自然な仕草ながら、純和風の容貌に相応しく、美しい姿勢だった。  随分と手馴れた仕草で座ったので、ひょっとしたら何かしら正座をすることの多いお稽古事でも習っていたのかもしれない。  「それにしても、何でまたこんな勝負を?天野から俺を紹介してもらう条件に―――とか言ってたけど」  「はい。俺は天野先輩や他の方々から、御神先輩の評判を聞くたびに、憧れの念を強め、遂にはお会いしたいと思っていました」  熱烈にと言った調子で、弐情寺くんは語りだした。  「ねぇ、天野ジャク。このコに俺のこと何て言ってたのさ」  「そりゃぁ、千キロト。事実を事実のまま、ありのままに話しただけだぜ?もちろん、隠すところは隠して。つか、天野ジャク言うなや」  ヒソヒソと話す俺と天野。  「しかしながら、どうにも間が悪く、先輩とお会いする機会を得られないままでした」  「コイツがオレに、キロトに会いたい、って言い出したのは今年の夏休み明けだったからな」  夏が明けてから、というのは思いのほか最近だったので意外だったが、同時に納得した。  その上、ここの所明石と葉山関連の一件にかかづらっていたから、弐情寺くんと会う余裕なんて無かったからだ。  今思うと、その辺りのことを、意外と空気の読める天野は敏感に感じてくれていたように思える。  空気の読める部長だけに、見事なエアリーダーである。  「・・・・・・オイ、それあんまし上手くねーぜ、キロト」  「・・・・・・人の心を読むな、天野ジャク」  俺らがバカ言ってる間にも、弐情寺くんは熱の入った口調で話を続ける。  「それで本日、天野先輩にお願いしてみたところ『オーケー分かった。条件として、あのでくの棒と勝負してやれ。イヤだと言うなよ?部長命令だかんな分かったか!?』とすごいイイ笑顔で言われまして」  「閻魔の笑顔の間違いじゃ無い?」  「オレのような聖人君子を捕まえて何言いやがる」  「天野先輩も、普段はこんなじゃ無いんですけどね。スパルタンですけど」  天野の酷さはさておき、話としては分かった。  「んで、天野ジャクはどうしてこんな茶番をマッチメークしたわけさ」  「・・・そうです。・・・大した怪我こそ増えなかったものの、千里くんが痛そうにしているじゃないですか」  そう言って、俺たちは天野の方に目をやった。  「その前に、忘れちゃいないだろうな。勝負のルール」  「まーね」  ルール、負けた方は天野の言うことを1つだけ聞く。  「もっと自分を大事にしやがれ」  そう命令する―――否、懇願する天野の顔は、いつになく真面目だった。  「オレはいつだって真面目だ」  「人の心を読むな・・・・・・って言うのはともかく、どうしたのさ、いきなり」  正直、怒っているものとばかり思っていたのだが。 879 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:49:07 ID:6bJj/6Gg  「あー、ブチ切れてたさ。さんざっぱら心配かけといて、『学校サボって旅行行ってました』なんていう手前に、今朝まではな。ただ、それをゼンの奴にブチ撒けたら、さ」  ゼン、千堂善人。天野の一番大切な恋人。  「アイツ、『外見に似合わず真面目っ子してる御神がそんなことするとは思えないけど?僕たちのときみたいに、誰かのために奔走してたのが丸分かりじゃないか。ホント、嘘吐くの下手だよね、キロトくんも』って言ってさ」  カップル揃って、人の心を読みきったようなことを言う。  「そしたら、別の意味でむかっ腹が立ってきた。何で、オレらに何も言わずにそんな無茶をするのか、そんなにオレらが頼りないのか、ってな」  「いやいや、嘘なんて吐いて無いよ。ホラ、バイクの免許だってこの通り」  と、俺は財布の中から免許証を取りだした。  「って、発行年が去年になってますけど」  「とっくの昔にゲットってるなら、エキサイトして学校サボる理由には、薄いわな」  「……」  自分で自分の首を絞めていた。  「別にナニを隠そうが知ったこっちゃねーがよ。ンなにオレらが頼りねーか?」  「そんなつもりは・・・・・・」  無かった、と言っても説得力は無いだろうなぁ。  実際、先の一件で天野を頼ったことは無かったわけだし。  「今日はその意趣返しを兼ねて、って奴さ。コレでチャラにしてやるよ、今回『だけ』はな」  そう言って、天野は立ち上がった。  「天野?」  「言っただろ、『兼ねて』って。本命は後輩に憧れの先輩と好きなだけ話させてやることの方。用事の終わったお邪魔虫は、一足お先に帰らせてもらうぜ」  そう言って、出口へと天野。  「じゃーな、お前ら。あ、弐情寺、帰りに道場に鍵かけて帰れよー」  そう言って悠々と見せる天野の背中を見て、俺は、俺の周りにはかなわない人が多すぎると思わずにはいられなかった。  「ィよぉ、色男」  剣道場を出た天野三九夜は、校門の前で待っていた相手にそう声をかけた。  「やぁ、美人さん」  それに対して相手、千堂善人は慣れた調子でそう返した。  善人は、心身共に幼さのあった中学時代と比べ、かなりの程度精悍な印象が強くなっていた。  御神千里ならば「男前が増した」と手放しに褒めることだろう。  「寒空の下、態々待っていてくれるとは、よほどオレちゃんのことを気にしていてくれたのかい?嬉しいねぇ」  「気にもなるさ。三九夜(サク)のような美女が、密室に男2人を連れ込むんだからさ」  「妬いてるのかい?益々もって嬉しい限りだぜ。ムカシなら考えられなかったからねぇ」  慣れたやり取りなのか、心底愉快そうに笑う天野。  「よしてくれよ、昔の話は。一応、反省してるんだし」  と、子供のようにすねた表情を作る千堂。  「ハハ。悪い悪い。まぁ、ナニも無かったのは言うまでもねーがな。女のコも一人いたしよ」  「と、女の子と言えば」  天野の言葉に、何かを思い出した様子の千堂。  「何だ、オレちゃん以外の女郎に目移りか?」  「そ、そうじゃなくて・・・・・・」  一気に殺気を帯びた天野の視線に気圧されながらも、言葉を続ける千堂。  「さっき、剣道場の方から、見慣れない女の子が出てくるのが見えて、さ。それで」  「見慣れない女?黒髪ロングのクリっとした目のちっこいコじゃなくてか?」  怪訝そうな顔をして、取りあえずは三日の特徴を伝える天野。  「違う違う。そんな背は低くなくて、いや高くも無かったかな・・・・・・ちょっと覚えてないけど」  「どっちなんだよ」  「何だか、印象に残りづらいって言うか、特徴らしい特徴が思い出しづらくて」  「いや、自分から話題振っといて・・・・・・」  ツッコミを入れながらも、剣道部部長としても先を促す天野。  「うーん。強いて言えば、長い髪に、糸目の、どこかとらえどころの無い狐みたいな娘だったかなぁ」 880 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:53:36 ID:6bJj/6Gg  その後、俺と弐情寺くんは、三日を交えて帰り道に安めのファストフード店に寄り道して、長々と話し込んだ。  半分は、俺の過去の行いをぼかしぼかしの紹介で、俺を英雄のように持ち上げようとする弐情寺くんには苦笑せずにはいられなかった。  三日までそれに乗っかるので(『・・・天空から私を助けに現れた千里くんは、天使よりも美しかったです』だの)、俺はブレーキをかけるのでやっとだった。  もう半分は、『人を助ける』ということについて。  と、言うか、高校生男子らしい正義論。  推理小説の名探偵を例に出した弐情寺くんの持論は、中々興味深く、同時に彼の存外思慮深く洞察力のある、それこそ名探偵のような一面を垣間見て、話は思いのほか白熱した。  「とどのつまり」  と、俺は考えを整理しつつ、柔らかに言った。  「人を助けるという行為を選んだ瞬間に、その人は当事者の側になっちゃってるんだと思うなー。あくまで、その人も助けられる側と同様当事者として動いただけで、その間に上下関係は無いんだと思う」  コーラを片手に、俺は言う。  「助ける側がすごいとか、えらいとか、そんなことは無くてさ」  「けれども」  と、弐情寺くんは食い入るように反論した。  俺を尊敬していると言いつつ、その意見に唯々諾々と従わない姿勢には、むしろ好感が持てた。  素直で芯が強い、と言うある種の矛盾を両立させた彼の性格は、ある意味非常に少年漫画的な主人公向きだと内心感服せずにはいられない。  「『助けた』『助けられた』という関係性が成立してしまってることは事実じゃないですか?いや、まぁ、そこに恩義を感じるかどうかは人それぞれですけど。助けた側が英雄的ヒーロー的で強力なポジショニングになったのは確かなわけで・・・・・・」  うーん、と唸る弐情寺くん。  彼の中でも、考えが纏まりきっていないようだ。  「・・・私なら」  と、考え始めた弐情寺くんの間をもたせるように、ジュースの入った紙コップを置いて三日が言った。  「『助ける』という行為の前に、誰を助けるのかを選ぶところから始めると思います。・・・その人が困っているから、とかじゃなくて、その人が私にとってどんな人なのか・・・力になりたい、と思える人なのか、とか」  「大事なのは誰を助けるのか、誰を助けたいのか、ですか」  「ある種、とても人間らしい回答だね。最適解の1つとも言える」  この辺りは、つい昨日まで親友がトラブルを抱えていた三日自身の経験を踏まえた上なのだろう。  「さっきまでの、御神先輩のお話じゃ無いですけど、ヒーロー的に鮮やかに誰かを助けるってのは「カッケェ!」と思うんですけど、同時になんかやらしさを感じると言うか・・・・・・」  「力を見せ付けてるみたいに、ってコトー?」  俺の言葉に、迷いながらも頷く弐情寺くん。 881 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:54:11 ID:6bJj/6Gg  「・・・最初の『ウルトラマン』でもありましたよね。・・・ウルトラマンや特捜隊が、正義の名の下に弱者を虐げてるんじゃないか、みたいな」  「ジャミラ回か」  若い子には分かりづらいたとえを出せる三日だった。  初代ウルトラマンとか、普通若い子は映画でしか知らないんじゃないだろうか。  「もし、そこらへん勘違いしてるなら、俺の持論を言わせてもらうけど。その助ける奴の凄さとか優れているとか、そう言うのって大したイミ無いと思うんだよね」  三日にならって、俺も自分の経験を踏まえて、言わせてもらうことにした。  「意味、ですか?」  「そう。正直、格好良いだの悪いだの、強いだの弱いだの、頭良いだの悪いだの、機転が利くだの利かないだの、優れているだの劣っているだの、勝つだの負けるだのなんて、俺にとってはくだらねーカスでしか無いんだよ」  「・・・・・・カス、って、それは・・・・・・」  「だって、格好良いだの悪いだの、強いだの弱いだの、頭良いだの悪いだの、機転が利くだの利かないだの、優れているだの劣っているだの、勝っているだの負けてるだので、人の心は振るわせられやしないんだからさ」  「・・・・・・」  「そんなモンで、人は恋に落ちてくれない」  そう、実際俺がどれだけ格好をつけても、どれだけ強くあろうとしても、どれだけ賢くあろうとしても、どれだけ機転を働かせようとしても、どれだけ優れていようとしても、どれだけ勝とうとしていても、そしてどれだけ助けても―――  彼女は俺に「好きだ」と言ってくれたことは一度としてなかった。  彼女は、九重カナエは。  「だから、助けるだの助けないだの、目に見える分かり易いところじゃなくて、それが周りの人の心にどう響くかが大事―――なんて、俺も偉そうなことを言えるほどの者じゃあ無いけどさ。ゴメンね、下らないこと上から言って」  そう、俺は、にへらと笑って自論を笑い飛ばした。  「・・・・・・いえ、大変参考になりました」  しかし、弐情寺くんは深々と頷いていた。  「正直、白状すると、俺旅先で女の子をちょっと助けたことがあったんです」  「いかにもロマンスに発展しそうな話だね」  「正直、俺もちょっとそう言うの期待してました。そこまではいかなくても、彼女を助けたことを、誇り、驕っていました」  自らの行為をはっきりと卑下する弐情寺くん。  「ま、結局その後イイ雰囲気になるどころか、連絡1つもらえませんでしたけどね!まぁ、アレですよね。俺の行いが、俺が思ってたよか、あの女の子の心に響かなかったってことなんでしょうねー。ハハッ!」  そう言って、空しくわらう彼の姿に、昔の俺が重なった。  ひょっとしたら、彼が助けたのは、九重カナエ、のような女の子だったのかもしれない。 882 :ヤンデレの娘さん 再会の巻 ◆yepl2GEIow:2012/01/24(火) 14:54:49 ID:6bJj/6Gg  「先輩がた。今日は、貴重なお時間を取らせていただき、ありがとうございました!」  「いやいや、俺らも丁度暇だったしー」  「・・・あなたが千里くんに手を出す同性愛者で無いことが分かっただけ、この時間は貴重でした」  そう言って、俺たちと弐情寺くんは別れた。  「しっかし、『助けること』ねぇ。ヒーローオタクとしては、中々感じ入るものがあったなぁ」  三日と2人、自宅のマンションのエレベーターの中で、俺は誰にともなく言った。  「・・・ヒーロー、と言うよりは千里くんそのものだったようにも思えますけれど」  「それはアレだよ。俺が子供の頃に夢見た正義のヒーローをロールモデルにして生きているからじゃない?まぁ、ロールモデルというより、劣化コピーと言った方がいいだろうけど」  「・・・いいえ、千里くんは、十分ヒーローです。・・・ただ1つを除いて」  俺の方をまっすぐに見上げ、三日が言った。  「ただ・・・1つ?」  「・・・心があることです。作り事の登場人物と違って」  まっすぐにこちらを見る三日の本心は読めない。  いや、本当に読めないのは・・・・・・・  「・・・千里くんは、何度と無く私を助けてくださいました。・・・けれども、その行為は千里くん自身の心には・・・どのように響いたのでしょうか」  「・・・・・・俺の、心に?」  「・・・千里くんは、どうして私を助けてくれるんですか?守ってくれるんですか?・・・優しく、してくれるんですか?」  「それ、は・・・・・・」  質問ニ答エヨ  密室の中、黒く淀んだ彼女の瞳がそう言っているように見えた。  「・・・私は、千里くんが好きです。・・・何度もそう言ってきたつもりですし、その言葉に千の偽りも万の嘘も1つたりともありません」  エレベーターの密室、逃げようの無い状況でこんな風に切り込んだ、三日のある種の引きの良さに戦慄せずにはいられない。  「・・・けれども、千里くんは・・・どう・・・なんですか?」  本人は狙っていないのに、俺が勝手に追い詰められる!   「・・・一度も、私に言ってくれたこと無かったですよね」  静かな声音の中にも、強い響きがある。  「・・・私を助けることが苦・・・ではないと、私を守ることを厭う・・・ていないと、私に優しくすることは気持ち悪い・・・わけでは無いと」  答えることを強要するような、強力な響きが。  「・・・私のことが・・・好きだと」  と、そこで唐突にエレベーターの扉が開いた。  予兆も伏線も何もかも吹き飛ばして。  まるで不意打ちのように。  扉の先には、人がいた。  1人の女の子が。  見慣れた相手、と言うと語弊があるだろう。  けれども、一度たりとも、一瞬たりとも、忘れたことの無い相手。  その彼女に、俺の眼は自然と吸い寄せられる。  「・・・・・・九重」  三日に問い詰められる以上の戦慄を覚えながらも、俺は彼女の名前を口にしていた。  「九重・・・・・・かなえ」  それに対して、目の前の少女は、以前と変わらぬ、狐のような笑顔で、  「やぁ、久しぶりだね、千里」  と、まるで何の感慨も無いかのように、当たり前に言ったのだった。  おまけ 夜照学園学内施設解説 ・各種武道場/剣道場  本校は進学校ではありますが、部活動も盛んです。  その為、体育館に隣には、この剣道場をはじめとする武道場や各種スポーツのコートが設けられています。  十分なスペースに板張りの床(柔道場を除く)、各道場には男女の更衣室・空調設備も完備されています。  体育の選択授業に使われることも多々あるこれらの道場ですが、その維持・管理には学生たちによる自主的な清掃・維持が不可欠です。  今日も、彼らが自らピカピカに磨いた道場で稽古する声が校内に響きます。  生徒からの声  「掃除が生徒主体だから汚い部の道場はドキータねぇンどってるのはベツにどーでも良いんだけどよ、補修やら何やらそれ以外の全部部費でまかなえってのはどうにかなりませんかねぇ?おかげで毎年、各部で部費の取り合いが鬼のよ(以下検閲削除)」 (夜照学園高等部入試案内用広報誌『SATELITE 30』より抜粋)

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