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288 :星屑ディペンデンス 第三話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/15(日) 21:05:38 ID:Gs/Z9.w6 「……まだ、帰ってきていない?」 「え、ええ。夕食を取りに来なかったので、作った分を家に届けに行ったら、まだ帰ってきていない様子でしたよ」 咲が王宮に出かけた次の日。無事に報告を済ませ、予定通りに帰ってきた彼女は、家に龍が居ない事を不審に思い、自分が留守の間、彼の世話を頼んでおいたアルフォンシーナの元へと来ていた。 「いくら出かけるのが遅かったとしても、私が出発した日には家を出ていた筈だ。祠までは片道30分程だし、今日のこの時間まで戻ってきていないという事はない筈……」 「あ、そういえば」 不意にアルフォンシーナが手を叩く。 「セイムさんが、森で男に襲われたー、手も足も出なかったー、ぶちころしてやるー、と言っておられましたよ」 のんびりとした彼女の言動からは想像もできないような下品な言葉が出た。もちろん、彼女の言葉ではないが。 「……何?セイムがやられた?」 セイムと言えば、召還者の中でも良くない噂を持つ男だ。不良と言っても差し支えないだろう。 それに、まがりなりにも『騎士』の能力者なので、それなりには強い。訓練を怠らない咲には到底敵わないが。 そのセイムがやられるとなれば、同じ能力者、それもかなりの手だれだろう。 咲の脳裏に一抹の不安が過ぎる。 「……有難う御座いました。ちょっと、森の方へ行って来ます」 「咲も気をつけて下さいね」 彼女は一つ礼をすると、森へ向かって脇目も振らずに駆け出した。 289 :星屑ディペンデンス 第三話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/15(日) 21:07:13 ID:Gs/Z9.w6 ◇◆◇◆◇◆◇◆ 会話が聞こえる。 「お父様。彼は人間の身でありながら、魔族である私を助けてくださいました。ですから、彼の為に部屋と食事、その他生活に必要な物を用意させて欲しいのです」 「うむ。他でもない我が娘を助けたという男だからな。種族に関係なく、恩は返すべきだ。至急、用意させよう」 「あ、有難う御座います!!」 話しているのは、女性と男性の様だ。今自分が寝ているベッドの近くではなく、この部屋の入口付近から聞こえてくる。 とりあえず、聞いたことのない声なのは確かだ。 状況を整理しよう。 ええと……俺は確か、少女を助ける為にチンピラを追っ払って、魔力を使い果たし気絶したんだっけか。 しかも驚く事に、その少女が魔王の娘だったんだよな。そして美少女。 まさか、俺が魔王なんてものと間接的にでも関わるとは思いもしなかったぜ。 ではこれらの事を踏まえて、此処はどこなんだ? あの道を通りかかった親切な誰かさんが運んでくれたのかな。 て、いうか死んでは……いないよな。 だって今これを考えているのは俺だもの。 我思ふ、故に我在り。 ……何か違う気がするけど、きっとそんな感じだ。うん。 そんな事をつらつらと考えていると、入口で話し込んでいた人物2人が俺の下へと歩いてきた。 「……あ、お目覚めになられたのですね!」 そう声をかけて来たのは、見紛う事なかれ、その白銀の髪と金色の双眸。あの時助けた魔王の娘(自称)である。 ……あぁ、こうして見ると、本当に美人だ。 いや、美人というには少し語弊があるかもしれない。美しいではなく可愛いの方がしっくりとくる。 女優ではなくアイドル、といえば分かり易いだろうか。 そんな彼女は少し前まで何か心配事でもあったのでろうか、ほっと安堵からと思われる溜息を付くと、にっこりと微笑んで見せた。 誰だ、こんな可愛い娘に心配かけさせる阿呆は。 ……自惚れでなければ、その阿呆とはまさに俺の事である。 「……先日は、その、助けて頂いたお礼も申し上げず、あんな事を言ってしまって……本当に御免なさい!」 彼女は深々と頭を下げると、そう言った。 俺はベッドから上体を起こし、それに答える。 「ああ、いいよいいよ。それより、無事でよかったね」 『あんな事』とは、何故助けたのか、云々の事だろう。 確かに、お礼の言葉と思って聞いてみれば、そんな非難がましい事を言われたのだから、驚かなかったと言えば嘘になる。 しかし、謝られる程の事でもない。俺はそこまで心の狭い人間ではないのだ。 と、先程その少女と会話していたであろう男性が言葉を発した。 「ステラよ。お前は彼に何か失礼な事を言ったのか?」 この少女、ステラという名前らしい。 ステラは一瞬びくっ、と体を強張らせてから問いに答える。 「……は、はい。私は彼に助けて頂いた時、あなたは人間なのに、何故魔族の私を助けるのですか、と言ってしまいました……」 と、男性は窘める様な口調で、 「駄目ではないかステラ。そういう時は、種族云々の話ではなく、先ず助けてもらったお礼を言うのが先であろう?」 「はい……しかし私は、人間に優しくしてもらった経験など無くて、俄かには信じ難く……」 「言い訳をするな」 なんだかステラが可愛そうになってきたので、助け舟を出す事にした。 「あの、俺は気にしてないんで、そんなに彼女を責めないであげて下さい」 男性は俺の言葉を受け、俺の方に向き直ると、 「突然だが、君はステラを魔族と知っていて尚助けたのかい?」 「いえ、知りませんでした」 ステラは物凄いショックを受けた顔したが、気にせず続ける。 「でも、仮に魔族だと知っていても助けたと思います」 この言葉に驚いた表情をしたのは男性の方だった。 「君は人間で、私たちは魔族だ。何故そんな風に接する事が出来る?」 俺は少しムッとして、こう返した。 「魔族だったら、助けちゃいけないっていう理由になるんですか?」 290 :星屑ディペンデンス 第三話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/15(日) 21:08:12 ID:Gs/Z9.w6 辺りが静まり返る。 やべ、俺なんか駄目な事言ったかな……。 耳が痛いほどの静寂とはこの事を言うのだろうか。 今言った事のどこが問題点か、真剣に悩みだした頃。 真剣だった表情を崩し、男性はにんまりと笑った。 「気に入った!私は君が気に入ったよ!まったく、面白い男だな、君は!」 先程までの威厳のある口調は何処へやら、急に砕けた態度で接してきた。 「君の様な男が、まだ人間にも残っていたとは!そうだ!今日はお祝いにしよう!乾杯だ!」 わははは!と豪快に笑い続ける男性。ていうか、声がデカい。無駄にデカい。 この状況をどうすべきか、答えを出しあぐねている俺に、ステラは半ば呆れた様な声で話しかけてきた。 「御免なさい。お父様はこういう人なんです。いえ、決して悪い人という訳ではないんですよ?」 「分かる。悪い人ではないっていうのは分かるよ」 ステラは確か、男性の事を『お父様』と呼んでいた。 と、言う事はこの男性は魔王だということになる。 しかし、いかにも愉快そうに笑う男性は、魔王だというのに荘厳だとか、悪の総大将だとかいう雰囲気は皆無だった。 「全然、魔王っていう感じがしないね」 俺がそう言うと、彼女は驚いた顔をして、 「あの……魔王っっていう話、信じてくれるんですか?」 「え?嘘だったの?」 「い、いえ!本当です!」 ぶんぶんと手を振って応じるステラ。 確かに、地球に居た頃の常識で考えてみると、魔王っていうのはもっと厳かなイメージがある。 しかし、目の前の男性はどうだろうか。初めの方ならまだしも、今の彼の話し方はいかにも庶民のお父さんのそれだ。 「お父様は確かに、少し優しすぎかも知れませんけど……それでも魔族を統べる王なんです。だからこんなに大きなお城だって……」 「……お城?」 「あ、彼方はまだ見てないんですもんね。ここは魔王城の本城、5階の部屋なんですよ」 どうやら俺は、魔王の城、RPGで言ったら最終ダンジョンに値する場所に居るようだ。 「……俺って確か、倒れたんだよね。君が助けてくれたの?」 「ええ。魔法で、運んできました」 「そっか、有難う。じゃあ、俺も村に帰らないといけないから……」 「あの……暫くこの城に泊まっていきませんか?」 「……え?なんで?」 「はい。助けていただいたお礼もしたいですし……」 「ああ。その事なら気にしないでよ。困った時はお互い様だし。それに、泊まっていくなんて悪いよ」 「でも……」 「いいんだって。村で心配してる人も居るだろうし……」 「まぁ落ち着きたまえ」 と、殆ど忘れられていた魔王様が口を挟んできた。 正直、アンタに落ち着けと言われたくないと思ったが、黙って耳を傾ける。 「ステラは君と話がしたいんだそうだ。魔族である自分を偏見なしに助けてくれた君と、ね」 「……そうなの?」 ステラは俯きがちに、さらに頬を多少紅く染めながら、小さく頷いた。 ……そ、そんな反応されたら、断れないじゃないか! 「ま、まぁ、そういう事なら……」 そもそも、こんなに可愛い女の子に泊まっていけと言われて、断れる男が居るだろうか。 ……いや、居ない! と、まぁそんな理由もあるにはあるが(寧ろこの理由が9割を占めている)、仮にも魔王と呼ばれる人物が、俺に好意的に接してきているという事も理由としてあげられる。 早い話が、この機会に魔族について見極めておきたいのだ。 「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰って……」 「おお!じゃあ早速パーティの準備だ!」 「お父様!またその話ですか?もう、少しは落ち着いてください!」 子供の様にはしゃぐ魔王を宥めながら、俺とステラは顔を見合わせ、苦笑したのだった。 291 :星屑ディペンデンス 第三話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/15(日) 21:09:22 ID:Gs/Z9.w6 その後俺達は下の階に下りて、客間の様な場所へと向かった。 小さな丸い木のテーブルを囲む様にして3人で座り、メイドさん(実物は初めて見た!)が持ってきた紅茶を飲みながら、話を始めた。 「まだ自己紹介していませんでしたね。私、ステラ・アルメル・ラ・デゥエムと言います。魔王であるお父様の第2子女です。ステラと呼んで下さい」 以後お見知りおきを、と小さくお辞儀した。 「私は魔族を統べる王、レジス・リオネル・ラ・デゥエムだ。レジスおじさんとでも呼んでくれ」 「お父様、おじさんは流石にどうかと……」 「良いのだ!私は彼が気に入った!気軽に接して欲しいのだ!」 「せめて、さん付け程度にして貰った方が宜しいかと……」 「ステラ!お前も家族なんだから、もっと砕けた話し方で良いのだぞ?『お父様』ではなく『お父さん』、いや、最近の娘は父親を『パパ』と呼ぶそうじゃないか!」 「お父様は魔王としての自覚が無さ過ぎます!」 俺の自己紹介をするタイミングが掴めないまま、この漫才の様なやりとりを鑑賞する。 仲の良さそうな親子だなぁ、としみじみ眺めていると、魔王改めレジスがこちらの様子に気付いた様だ。 「おお、まだ彼の名前を聞いていないではないか!こんな不毛な争いをしている場合ではないぞ!娘よ!」 「お父様が悪いんですよっ!」 「さて、君の名前は?」 「あ、日鏃 龍っていいます」 「ふむ……ヒヤジリが姓で、リュウが名前かな?」 「はい」 「あまり聞かない名前だな……もしかして、召還者か?」 「そうです。丁度昨日この世界に来ました」 「ほほぅ。突然異界に召還されて、こんなに動ぜずいられるとは!素晴らしい、益々気に入ったぞ!何なら家の娘を君の嫁に……」 「もうやめて下さい!……あの、リュウさんと呼ばせてもらっても良いですか?」 身を乗り出してまた大袈裟な発言をしだした実の父親を押しのけながら、彼女はそう言った。 「呼び捨てでもいいよ?俺もステラって呼び捨てにさせてもらうんだし……」 「……恥ずかしい、です」 「……そ、そう?」 そんなもんかな、と何となく自分を納得させていると、紅茶を飲んで落ち着いたのか、レジスが話し始めた。 「何か相談があれば娘でも私でも、いつでも気軽にしていいからな。私は一応魔王だから、この世界の地理、歴史、その他諸々について人並み以上の知識を持っていると自負している」 「一応魔王って……一応も何も、種族の王なんですからもっと堂々として良いんですよ?」 と、ステラ。 「堅苦しいのは性に合わん!」 「そ、そうですか……」 うむ、と満足気に頷く魔王。嫌に庶民的な思考の魔王だな。 この人が日本の総理大臣だったら、良い意味でも悪い意味でも日本は変われるんだろうな。 「わ、私は一応魔術師なので、その方面の事だったら教えてあげられます……」 「お前も一応って言ってるじゃないか」 「お父様は黙ってて下さい!お父様がそんなだから、私にも伝染ってしまったんです!」 「こんな娘だが、優しくて気立ての良い子なんだぞ。しかも、魔法に関しては天性の才がある。家事はできないがな!」 「……お父様、一言多いです……」 しょげるステラ。 「それに、私は魔法が強くたって何一つ嬉しくない……です」 そして、途端に暗い表情になる。 それを見てレジスは、 「……そうかそうか。お前は優しいものな」 優しく頭を撫でる。彼女は安心するように目を瞑り、それを甘んじて受け入れる。 急展開すぎて話についていけないが、このシーンを見れば成る程親子だな、と思わせられる。 魔王は暗い雰囲気を打ち消すように「さぁ」と声を掛けると、 「今日はリュウの為のパーティだ。夕食まで後1時間ほどかな。私は用があるので少し外すが、夕食には食堂へ来るように」 それまで2人で城内案内がてら、話でもするといい。とレジスは立ち上がった。 そして、急に俺に近づいてきて、小さく耳打ちした。 「何なら、娘を襲ってもいいぞ」 「……襲いませんよ」 この世界の人は、このジョークが好きなのだろうか。普通父親ならば死んでも娘の貞操を死守しようとすると思うけど……. それじゃ、と魔王は長い廊下の向こう側へと消えていった。 「では、私たちも少し歩きましょうか」 「うん」 俺達はステラを先頭に、魔王城観光へ向かう事にした。 292 :星屑ディペンデンス 第三話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/15(日) 21:10:45 ID:Gs/Z9.w6 魔族の長であるところの魔王が所有する城は、その肩書きに恥じぬ広さを持っていた。 敷地は広い森の中にあり、魔王とその家族の生活スペースである本城と、様々な用途に使用される棟が3棟あるらしい。 本城だけで10階あり、外観にも内装にも、さながらヨーロッパの歴史的建造物を彷彿とさせる様式美に溢れていた。 城内を案内されている途中、ステラの事について少し聞いた。 先ずは家族構成。 姉と妹が1人ずつ、兄が2人の5人兄弟。 その際ステラの年齢も聞いたが、俺の1つ下らしい。 そのしっかりとした態度から、年下だとは思いもしなかった。精々同い年くらいだろう、と。 その事を彼女に告げると、 「仮にも魔王の娘なので。しっかりしていないと駄目なんです。お父様もあんな調子だし……」 という答えが返ってきた。 成る程魔王の娘というのも大変なんだな、と薄っすら感じさせられた一幕だった。 俺にも兄妹がいるんだ、と話題に合わせて語りかける。 「兄ちゃんは頼りになるし、妹は年が近いけど、小さい頃はよく可愛がってたなぁ」 「……寂しい、ですか?」 兄妹に会えなくて、という意味だろうか。 「ん?いや、こっちに来てから色んな人に優しくして貰ったし、寂しくはないよ」 「……そうですか。よかったです」 安堵からか、優しげな微笑を浮かべながらそう呟く。 「もし私だったら、家族に会えなかったら寂しくて死んでしまいます」 「そこまでか言うか……」 現代日本の若者でこんな事を素直に言える奴は殆どいないだろう。 ステラにここまで言わせる程、彼女の家族は良い家族なんだろうな。 今は魔王であるお父さんにしか会っていないけど、機会があれば彼女の兄姉妹にも会ってみたい。 「あの、何か困った事とかあったら言って下さいね?いつでも、力になりますから……」 「……うん、有難う」 彼女の言葉に、久しぶりに素直にお礼を言った俺は、急に恥ずかしくなってきて照れ隠しに小さく笑ったのだった。 293 :星屑ディペンデンス 第三話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/15(日) 21:12:59 ID:Gs/Z9.w6 ◇◆◇◆◇◆◇◆ 30分程城内観光をしたおかげで、大分疲れてきていた。 10階もある建造物を上から下まで行き来したのだから、当然と言えるだろう。 「……少し、疲れきましたね。まだ本城しか見ていませんが、今日はこの辺にしましょうか」 「うん。そうだね」 俺達は出発地点のテーブルに付くと、一息吐いた。 「夕食まで30分程ありますね……何か、聞きたい事とか、他にありますか?」 「あ、じゃあ、魔法の事について聞いても良いかな?」 俺の本来の目的は、村長に魔法の事について聞くことだったのだが、この際なので、彼女に聞いても問題はないだろう。 「元の世界には魔法なんて無かったから……」 「はい、分かりました」 少し俯き、考える素振りを見せながら説明を始めた。 「ええと……どこから話しましょうか……では、魔力というエネルギーがあるのは知っていますか?」 「うん……魔法を使うエネルギー、ってことでいいのかな?」 「はい、大体そんな感じです……それで、魔法というのは、この魔力を別のエネルギーに変換して体外に押し出す技術の事を言います」 人差し指を立て、少し得意げになって話を進める。 「例えば熱や炎、例えば冷気や水、例えば光や雷。魔力をこれらのものに変換し、具現化するのが魔法です」 「ふぅん……」 俺の特殊能力『鍛冶師』は、魔力を変化させ武器を生み出す。それと同様に魔力を火や水、電気に変えるのが魔法と言う訳か。 「魔力はとても不安定なエネルギーで、そのまま体外に放出する事は難しいんです。ですから、魔力を別の状態に変えてから体外へ押し出す訳なんです」 「成る程」 発電所の仕組みみたいだ、と俺は思った。 例えば火力発電だったら、『火力』というエネルギーを最終的に『電力』というエネルギーに変える。 この例に当てはめると、例えば炎の魔法と言うのは『魔力』というエネルギーを『火力』に変えていると言う事になる。 「それで、人によって変換できるエネルギーで得意なものが決まっているんです。大体1つ……かな?これを『属性』と呼びます」 「って、言う事は、魔力を炎に変えるのが得意な人は『炎属性の魔術師』ってなる訳だ」 「その通りです」 と、微笑みながら頷くステラ。 「属性の種類は大体、『炎』、『水』、『雷』の3つです。他にも、魔力を生命エネルギーに変換するのが得意な魔術師とか、いくつかあります。『ヒーラー』と呼ばれたりしていますね」 「……有難う、大体分かったよ」 「お役に立てて、嬉しいです。何せリュウさんは私の命の恩人ですから」 294 :星屑ディペンデンス 第三話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/15(日) 21:14:03 ID:Gs/Z9.w6 「だからいいってそれは……あれ?」 「? どうしたんですか?」 一つ気になることが出てきた。 「ステラも魔術師なんだよな。なんの属性なんだ?」 「あ、私は少し特殊で……」 と、再び説明を始めるステラ。 「私は生まれつき、魔力を変換せずに体外に押し出す事が出来る魔術師なんです。そのかわり、属性魔法は使えないですが……」 「へぇ……どういう事?」 「ええと、魔力っていうのはとっても高エネルギーで、凄い威力を秘めているんです。しかし、普通はその不安定さからそのままエネルギーを使う事は危険なので、別のエネルギーに変換します。でも私は、その魔力の純粋な破壊力を、安定して体外に発現する事が出来るんです」 「へぇ……ゴメン、良く分かんないや」 「ふふ、ですよね」 炎とか雷とかならイメージできるけど、魔力そのもので攻撃っていうのはどういうことなんだろ……謎だ。 「まぁでも、ステラは凄い魔術師だってことだよね?」 「ええ……私はこんな力、必要ないですけど」 そう言うステラの翳った表情は少し気になったが、それよりも自分の中の疑問を解決したかった。 「じゃあさ、ステラは自分であのチンピラを撃退できたんじゃないの?」 先程の説明は良く分からなかったが、一つ分かったのはステラは超強力な魔術師って事だ。 あんな田舎ヤンキーは、それこそ指先一つでちょちょいのちょいなのではないだろうか。 「……ええ。あの方達を"殺す"事は簡単です。でも……」 清楚なお嬢様、といったステラからは見当もつかない程物騒な発言が飛び出したが、あえてその言葉を使った様に聞こえた。 「私は、人を"殺し"たくありません」 そしてはっきりと言った。 「私は幼い頃から、魔王であるお父様の下で、人間と魔族の戦いを見てきました」 人間と魔族の戦い。 この話は、俺の一つの疑問である人と魔族、善と悪に関する核心を突きそうだった。 「私は、人間と魔族が争っている理由を知りません。お父様に聞いてもはぐらかされます」 だからなのかも知れませんが、と真剣な表情で続ける。 「いつも思うんです。人間と魔族って仲良く出来ないのかな、って」 俺が知る限りでは、魔族が人間に何か害を加えているという話は聞いていない。 争っているのは知っているが、別に魔族が攻め込んでいるという雰囲気でもない。 証拠としては弱いかも知れないが、俺がいた村には警備をしている兵らしきものも居なかったし、村人も武装している空気ではなかった。 尤も、こちらの世界に来てから少ししか経っていない俺の知識内であれば、だが。 「私、人間と仲良くなりたいなぁって思うことが良くあるんです。いえ、魔族全体が考えている事かも知れません」 「……うん」 「でも、人間の多くは、私たちが魔族だという理由だけで忌み嫌います。現に私は何度も人間の村へ行きましたが、身分を明かすと同時に、攻撃されたり逃げられたりしました」 ステラは悔しそうな、泣きそうな表情で、声を震わせる。 と、言うことは俺がステラを助けた時も人間の村へ向かう途中か、もしくは帰る途中だったのだろう。 それにしても、よくめげずに何度も人間に会いに行けるな、と思う。 俺がそんなに何度も拒絶されたら、ああ、人間と仲良くなるのは無理なんだな、と思って諦めるだろう。 もちろん、俺はそこまで空気を読めない男ではないので、口には出さなかったが。 「でも、あなたは人間なのに、初めて私に優しく接してくれました」 それはもう本当に嬉しそうな表情で、彼女はそう言った。 そんなに喜ばれると、こっちは逆に申し訳なく思ってしまう。 「い、いやでもほら、俺はこっちの世界の人間じゃないし……」 「いえ、いいんです。私は、助けられた事自体が、とても嬉しかったんですから」 頬を赤らめながら、嬉しそうに言うのだ。 それはフォローの言葉の1つも言ってしまいたくなるだろう。 「……いや、でもその、ステラならきっと人間とも仲良くなれるよ」 「ふふ、リュウさんが言うのなら、きっと本当ですね」 さっきまで泣きそうな表情だったのが嘘のように、彼女は屈託なく笑う。 それを見て俺も一緒に笑うのだった。 295 :星屑ディペンデンス 第三話 ◆TvNZI.MfJE:2012/04/15(日) 21:17:08 ID:Gs/Z9.w6 その後も俺達は他愛の無い話を続けた。 「そういえばリュウさんのリュウって、どういう意味なんですか?」 「うん?ああ、リュウっていうのは……ドラゴンって分かる?」 「はい。この世界にも居ますよ」 「あ、居るんだ!?ドラゴンって本当にいるんだ!?」 「ええ。居ますよ。どうしたんですか?」 俺は召還された時に言語のフィルターのような魔法が掛けられているらしい。 それは俺の頭の中の地球語での知識が、言葉として口から出す時そのままこの世界の言語として変換されるといったものだった。 と、言う事は、だ。 俺の言う『ドラゴン』が相手に通じているとすれば、俺の想像している通りの『ドラゴン』と言う事になる。 ……流石、魔法の使える世界なだけあって、ファンタジーだぜ。 「……いや、何でもない。で、リュウってのは俺の世界でドラゴンって意味なんだ」 「へぇ、そうなんですか。何でそんな名前を付けられたんですか?」 「いや、『龍みたいに伝説に残るような男になれ』だってさ。適当すぎて笑っちゃうよな」 「いえ、とてもいい由来だと思います」 「……そう?」 俺はもう少しマシな名前、いやこの名前でもいいんだけど、もっとマシな理由で考えて欲しかったなぁ。 何か恥ずかしいので、ステラにも聞いてみる。 「ステラは名前の由来とかあるの?」 「あ、私はですね……」 そういってまた思案気な表情をする。 「さっきも言ったと思うんですが、私は凄い特殊な魔術師なんです」 「えっと確か、魔力をそのまま攻撃の手段としてつかえる、だっけ?」 「そうです。それで、他の属性魔術は『炎属性』とか『水属性』とかはっきりとした名前が付けられているんですけど、この魔術は名前を付けられていないんです」 「ああ、何となく分かる」 炎とか水だったら『炎魔術師』とか『水魔術師』とかってできるけど、この場合は何て言ったらいいのか良く分からないからな。 「この魔術はとても珍しいと言う事もあって、正式な名前とかは無いんですが、便宜上こう呼ばれています。『星属性』と」 星属性とは、中々にファンシーな名前である。 しかし、魔術属性の中で実質最強らしいので、何かしら意味はあるんだろう。 この世界には宇宙の学問とかはないんだろうから、星なんてものは不思議な存在であるに違いない。 空高くに浮かぶ謎の物体。 そこに何らかの力を見出し、またそれにこの類稀な魔法を重ね合わせているんじゃないだろうか。 「お父様とお母様は私が生まれた時、私がこの魔術属性を持っていることを知って大層驚かれたそうです。そして、私の名前をこの魔法にかけて名づけようと決めたとか」 そして、と続ける。 「ステラとは"星"という意味の言葉なんです。……安直ですよね?」 「いや、とても良い名前だと思うよ」 確かに安直と言えるのかも知れないが、シンプルながらも女の子らしさが出ていて良い名前だと思う。 「ふふ、有難う御座います。……でも、そう考えると、私のこの銀の髪の毛と金の瞳も星のように見えてきます……よね?」 これには本心から頷いた。 何せ俺は初めてステラを見たとき、正しく星に例えて表現したのだから。 「リュウさんのその黒い髪と瞳も珍しいですよね……この世界では全然見かけません」 「ああ、俺の住んでた国は皆黒い髪の毛と黒い瞳なんだ。女性の黒髪の例えに『烏の濡れ羽色』なんて言葉があるくらいだよ」 「へぇ、一度見てみたいです……あ」 と、ステラが何かを思い出したように声を上げる。 「そろそろ夕食の時間ですね。行きましょうか」 「うん」 そういえば、腹が減ったなと、言われてから気付く。 魔王城で出される食事ってどんなものなんだろう、と想像を膨らませながら俺達は階段を下りた。

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