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334 :『嘘と秘密』2 ◆CxSWttTq0c:2012/04/26(木) 12:06:15 ID:1gwF8KZs 【嘘を吐く事と、語弊があり相手に誤解させる言葉をわざと言う事は、 哲学的に言えば、似ている様でしかし全く違う事であり、後者は悪ではない。】 ‐マイケル・サンデル‐ 「ねえこーくん。橘春奈…さんって、どんな人?」 「そ、そうだな、ただちに影響はない、人……かな?」 「……。よく話したりするの?」 「あんまり話さないよ。席も近い訳じゃないし。(後ろから視線は感じるけど)」 「じゃあ、仲良い訳じゃないんだ?」 「あんまり話した事もない人だから(真衣にキスの事は言えない……)」 「……ふーん。分かった。ごめんね こーくん。なんか聞きにくい事聞いちゃって」 「気にしなくていいよ」 「! そう……。ねえ こーくん、私の事好き?」 「……? 好きだよ。真衣」 「私も好き。愛してる」 「……ふふ。ねえ こーくん。私知ってるんだぁ。こーくんは私に嘘吐いた事ないって」 「私、知ってるんだぁ。……んふふ」 「愛してるよ。こーくん」 ――――――――――――――――――――――――― 春奈にキスされてから二ヶ月が経った。 あれから春奈はこちらをジッと見つめたり笑顔で手を振ってくるだけで、春奈から話しかけて来る事も、キスして来る事も無くなった。 初印象から、少し気味悪く思いながらも、害がある訳では無かったのでだんだんとキスの事は気にしなくなっていった。ただ、学校生活において、いつも意識のどこかに笑顔の春奈が居た様な気がする。 そして心の片隅に小さな春奈が住みつき、少しずつ春奈を好意的に見始めた僕が居た。 その春奈から放課後、体育委員の仕事を手伝って欲しいと言われたのは、バケツをひっくり返した様な大雨の翌日だった。 ――――――――――――――――――――――――― 夕暮れ時の西日が前日の大雨で出来た大きな水溜まりに反射して少し眩しい。 グラウンドの水捌けの悪く通常の練習が出来ない陸上部やサッカー部、野球部は、室内トレーニングや外周走り込みに行っているようだ。 春奈曰く、その間にグラウンド端の外器具庫の清掃をするんだとか。今日は遅くなりそうだから先に帰っていてと真衣にメールし、上だけ体操着に着替えてから器具庫に向かった。 335 :『嘘と秘密』2 ◆CxSWttTq0c:2012/04/26(木) 12:06:52 ID:1gwF8KZs 「来てくれてありがとう」 器具庫に入ると、春奈が少しはにかんで笑った。 「いいよ。何すればいいの?」 土煙と埃っぽさに若干辟易する。 「この棚の重い奴を下に降ろして欲しいの。わたしじゃ重くって」 「あ、扉は閉めてくれる?風で埃が舞うから」 確かにここで砂埃が舞ったら大変かもしれない。 「……、分かった」 扉を閉めると。 聞こえるのは遠くを通る車の音が少しだけ。薄暗くなった密室には僕達二人。 春奈は俯いていて、表情はよく分からない。 これまで何もして来なかった春奈の不気味さを今頃思い出しながら、激しい鼓動の音を感じる。彼女の近くまで行き、指示された物に目を向けた瞬間。 体当たりする様にして押し倒された。 「イタッ」 「ごめんね」 「でもどうしても幸一君とこうしたくて」 砂埃が舞うと同時に、白い柔らかな高跳び用マットが二人の衝撃を吸収してくれた。 春奈を見上げる僕の目に、彼女の少し紅潮した頬と抑えきれない笑みが零れる口元、三日月の様な瞳が映り込んだ。 「ねえ。エッチ、しよ」 いつか嗅いだあの甘い匂いがした。 「んっ……はぁ、ちゅるっ……んふぅ……ちゅ、ちゅ、……」 「やめろ!」 「あんっ いた」 キスしてきた春奈を怪我させない様に少し手加減して突き飛ばす。 「もー。……んふふ。気持ち良くなかった?」 「……っ」 口の周りに着いた唾液を舌で舐め取りながらゆっくり近づいてくる春奈。 気持ち良かった。だから自分の顔が赤くなるのがよく分かる。 「幸一君、内心わたしの事ちょっと良いかもって思っていたでしょ?無理しないで」 唇を舐めながら四つん這いで近づいてくる春奈。艶めかしい唇と豊かな胸が目を奪う。 「……わたし、幸一君が好き。好きで好きで堪らないの。高一の時からずっと狙ってた」 「なにを、」 ゆっくりと近づく甘い匂い。 「だからお願い……真衣さんと別れてわたしと付き合って」 「なにを言って、」 「セックスならわたしとしよ?」 衣擦れの音と共に彼女が覆いかぶさって来ると、再び彼女を見上げる状態になる。 「そんなの無理だよ……。僕は……真衣と付き合ってるんだから……」 「……わたしの事、嫌い?」 「……嫌いじゃないけど、こんなのやっぱり……」 彼女の大きな胸が揺れる。 「……………………」 本当に大きい。真衣より一カップ以上大きいかも知れない 「……おっぱい気になる?わたしのおっぱい、真衣さんより大きいよ?」 「わたしと付き合ってくれたら……このおっぱい、幸一君の好きにしていいよ……」 「……無理だよ……真衣と別れるなんて……」 「…………なら二番でもいい」 「え……?」 「わたし、本気だから」 336 :『嘘と秘密』2 ◆CxSWttTq0c:2012/04/26(木) 12:07:30 ID:1gwF8KZs そう言うと春奈は立ち上がり、スカートのファスナーを降ろすとパンツごと脱いでしまった。 「幸一君……」 「んっ」 体を寄せキスする春奈。 感じるのは甘い匂いと柔らかい唇。 本当なら拒絶しなきゃいけないはずなのに、雰囲気に呑まれ彼女のキスを許してしまった。 (イイ匂い……この匂い、クラクラする……) なんだかキスの時に目を開けているのが非常識な気がして、瞳を閉じた……。 思い起こせば今まで告白された事はあっても、こんなに迫られた事はなかった。 だから女の体は真衣しか知らなくて。春奈の匂いは、とても興奮するモノだった。 「ん、ちゅ……はぁ……んはぁ……ちゅ……」 激しさを増す彼女とのキスはとても気持ち良く、だんだん頭がぼーっとして来る。ベルトを外されズボンを降ろされても、ああ、これからセックスするんだとぼんやり思うだけだった。 「んはぁ大きい…………挿れるよ……」 彼女の腰が持ち上がり、亀頭に温かみを感じると徐々にその温かみが竿全体に広がり、オンナに飲み込まれていく。 「ふぁぁぁ……」 腰が密着すると春奈が吐息を洩らして抱きついてきた。 おぼろげに真衣を裏切った事を感じていると 「……っふ、んっく……は……うぅぅあぁ」 春奈が泣いていた。 「ど、どうしたの?」 「……グズッ……ごめんなさい、少し嫌な事思い出しちゃって……。わたし……、中学一年の時にレイプされた事があるの」 「え?」 突然の予期しない告白に戸惑う。 「……夜の公園で知らない人に押し倒されて無理やり犯されたの……。やめてって言ってもやめてくれなくて。力ずくで犯されたの……」 「それから男の人が怖くなって、当時好きだった人も信じられなくなった」 「…………………」 「高校に入っても、男の人が怖くて近づけなかった」 「……男の人が信じられなかったから……」 「でも少しずつその最悪の出来事を思い出さなくなって来た去年の春に、一組のカップルを見つけたわ」 「女の子の方はとっても幸せそうに笑ってた。そんな風に女の子を幸せそうに出来るあの男の人は、きっと優しい良い人なんだろうなって、そう思ったの……」 「…………………」 「それから、その男の人を見るといつも目で追ってた。体育でグラウンドを走っていたり、購買でパンを買ってたり。……気がつくといつもその人の事を考えてたわ。きっとあの人は信じられる人なんじゃないかって」 「考える時間が多くなるほどその人が気になった。そして、気付いたらその人を好きになってた……」 「…………………」 「あなたに彼女がいるのは分かってる。でもあなたを諦めきれなかった。それで……こんな方法になっちゃった……あはは、これじゃわたしもあの強姦魔と一緒だよね…………」 「……春奈さん……」 「わたし……あんなに嫌だったのに……泣いてたのに……同じ事しちゃった……」 春奈の目から、止めどなく涙が溢れてくる。 「わたし……最低だ……ごめんね……うぅ……はぅ」 春奈の涙を見ていると、同情心が湧きとても可哀相な女の子に思えてきた。 そして目の前の女の子が自分に助けを求めていて、助けられるのは自分だけの様な……。そんな錯覚に陥った。 【憐憫はさも愛情に似たり】 かの演出家も誰かにこんな気持ちを抱いていたのかもしれない。 一度憐れに思うと、心に燻っていた春奈への好意的な気持ちが爆発的に膨らんだ。 彼女が泣いている。可哀相だ。彼女が愛しい。ならどうする?キスだ。キスしよう。 泣いている彼女を慰めようと、顎を持ち上を向かせると、初めてこちらからキスをした。 「んっ……」 「はぅん……グズッ……幸一君?」 「……君は強姦魔じゃない。こうすれば、君は同じじゃない」 「幸一君……」 「………ん」 「あぁ……幸一君……」 そう、これは慰めているだけ。悪じゃない。そう自分に言い訳をして、僕達は再び繋がった。 こうしてまた一つ、僕達に秘密が増えた。 それはいつかの秘密より大きくて。甘くて……。 僕らは互いの熱を分け合った。

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