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388 名前:ツイノソラ ◆wERQ.Uf7ik[sage] 投稿日:2012/05/01(火) 13:09:39 ID:Bbf8rtn. [2/10]
遠い空を見つめていた。
灰色の空を。
今はもう、誰も使うことのなくなったビル群。
割れたガラス。千切れたシャツ。そして腐った肉。
それらが転がる世界。
大きな戦争が起こって、この国が滅茶苦茶になってしまったのは、僕――カナメが生まれるより少し前のことだ。
大戦以降に生まれた僕のような子供は『第二世代チルドレン』と呼ばれている。
大戦真っ盛りに生まれた『第一世代チルドレン』との違いは、僅かな年齢差と身体能力。
体力的には優れているが、知能の低い『第一世代チルドレン』と、逆に知能は高いが体力の劣る『第二世代チルドレン』。
このような身体的特長が顕著になったのは、大戦中、空が光ってかららしい。
詳しいことは不明だけど……僕――カナメは第二世代チルドレン。
四つ年上の彼女『ケイ』は第一世代チルドレンだ。
僕が生まれ育った『トーキョー』の集落を独り旅立ったのは半年前。
両親が死んだとか、色々理由はあるけれど……何でも自分で選びたい……そんなことを考えている内に、トーキョーを飛び出していた。
そんな僕について来たのがケイ。
第一世代チルドレンの脳筋だ。
ケイはホンモノの馬鹿だ。
力が強い以外は何の取り柄もない。
彼女は取り分け『第一世代チルドレン』の特長が濃い。
他の第一世代と比して腕力はずば抜けているものの、おつむの具合は飛び抜けて悪い。
足し算、引き算は指を使うし、掛け算なんて、もってのほか。当然、一人では火も起こせない。性格も悪く誰とも打ち解けられない。
そのケイが、向こうの廃ビルから駆けて来る。
「カナメっ、カナメっ!」
ケイは嬉しそうに笑っている。また、よくわからない昆虫でも捕まえたのだろう。
そのケイが、自分で適当に切ったバラバラのショートカットの髪を揺らしながら、僕の目の前で停止する。
白痴っぽい笑顔でいう。
「カナメっ、虫けらだ!」
「……うん、虫けらだね……」
ケイが捕まえたのはゴキブリだが、これは確かに昆虫だ。
「食べられるよな? 食べられるよな!?」
馬鹿なケイがゴキブリを捕まえて来たのはこれが七回目だ。
僕は呆れて、いつもの答えを返す。
「ケイ…それは食べない方がいいよ…」
「なんでだ?」
ケイは笑っていたが、一瞬後に険しい表情になった。
「そんなこと言って、またケイを騙して置いて行くつもりだろ!」
389 名前:ツイノソラ ◆wERQ.Uf7ik[sage] 投稿日:2012/05/01(火) 13:10:49 ID:Bbf8rtn. [3/10]
ゴキブリが食用に向かないことの説明と、僕がケイを見捨てることの理由の因果関係がわからない。
とりあえず言っておく。
「ケイ…またお腹が痛くなっても、今度は知らないよ」
「うっ…」
とケイはたじろぐ。
以前、ケイは僕が少し目を放したスキに拾い食いした怪しい生き物のせいで酷い食中毒を起こしたことがある。
あの時は、色々な意味で死ぬかと思った。
自らの吐瀉物と排泄物に塗れ、生死の境をさ迷うケイと、それら汚物の始末とケイの治療にあたる僕。
……思い出したくもない。
「やっぱりっ! カナメは、ケイを捨てるつもりだっ! 捨てるつもりだっ!」
確かに、僕はケイを捨てたい。
そのために夢の島に行ったり、食事中、こっそり逃げたりもした。
そのいずれも、無残な失敗に終わったけれど……。
馬鹿で取り柄のないケイだが、僕のことに関する限り、妙に勘が働く。
僕がどんなに上手く捨てようと、三日以内に見つかってしまう。
見つかる度に泣かれるのも、酷い癇癪の末に拘束されそうになるのも、まっぴらごめんだ。
それに今のことに関しては、
「ケイ、酷い誤解だよ……」
「ほっ、ホントウに……?」
最近、ケイも流石に知恵を付けて来たのか、用心深くいう。
僕より四つも年上で、頭一つ分は上背があるケイだけれど、僕に見捨てられることが一番恐ろしいようだ。
「まあ……その虫けらは捨てようよ……」
「んん……」
ケイは上目遣いに僕を見て、照れ臭そうにゴキブリを差し出す。
「な、なに?」
「カナメにやる」
ケイは、ぶっきらぼうに言い放ち、そっぽを向いた。
……頭が痛くなって来た。
やはり、ケイの馬鹿には付ける薬がない。
いつか、必ず捨ててやる。
この終わり行く世界で、曇った空を見上げ、僕は心に固く誓うのだった。