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539 :月夜の晩に:2012/05/24(木) 18:38:20 ID:l1Lepm72 月が……。 煌々と青白く輝く月が、わたしを見下ろしていた。 *** どうやらすっかり寝入ってしまっていたらしい。 目を瞬かせ、ぼやけた思考回路を軽く頭を振って立て直す。 部屋の電気は全て消されており、窓から差し込む月明かりだけがこの空間を薄暗く照らしている。 ありふれたマンションの一室たるこの部屋だが、こうして月の光に照らし出してみると、なかなかに幻想的な雰囲気を醸し出していた。 わたしはつい、と窓の外に目を見やった。 夜空に輝く、大きくて丸々とした月。 黒い折紙を丸く切り抜いたようなそれが放つ青白い光は、まるでスポットライトのよう。 そうしてしばらく月に見蕩れていたわたしだったが、やがてあることを思い立った。 この天然のスポットライトの下、映画や舞台に出てくる登場人物さながらに、夜の街を闊歩するのも良いかも知れない。 そんな考えが不意に、頭を過ったのである。 そうとなっては善は急げだ。 わたしは意気込んで立ち上がろうとして、――――――すぐにそれが、最早叶わぬ夢なのだと思い出した。 ああ、どうしてわたしはこんな当たり前のことを忘れていたのだろう? ひょっとしてわたしの頭は、未だに夢から覚めきっていなかったのだろうか。 ―――――四肢を鎖で繋がれていては、散歩はおろか立つことすらできないだろうに。 540 :月夜の晩に:2012/05/24(木) 18:39:16 ID:l1Lepm72 *** そもそもの発端は、今から三ヶ月ほど前に遡る。 一介のしがない会社員だったわたしは、同僚のKから誘いを受けて、所謂合同コンパに生まれて初めて参加したのである。 とはいえ、生来わたしは皆で騒ぐよりも一人静かに過ごすことの方が好きだったので、どうしても場の空気に馴染むことができなかった。 時折話しかけてくる相手方の女性に適当に受け答えしつつ、わたしはただ早く時間が過ぎ去ってお開きになるのを待っていた。 しかし待てども待てども合コンは一向にお開きにならず、それどころか時間が経つにつれて益々盛り上がりを見せ始めた。 メンバーはKを含め完全に出来上がってしまっており、彼らを置いて先に帰るのも憚られる。 どうしたものかと途方に暮れていたわたしだったが、そんな時に声をかけてくれたのが、相手方の女性の一人であるIだった。 聞けばIもこういった集まりは苦手らしく、今日は急に来られなくなった友人の代わりに来ただけなのだと言う。 すっかり意気投合したわたしたちは、何やら酒の一気飲みなどを始めたKたちを尻目に、二人だけの会話を楽しんだ。 それ以降、わたしとIは何かと連絡を取り合うようになった。 別れ際に電話番号とメールアドレスは交換していたし、何より、あの夜の彼女とのひと時はとても心地良いものだったからだ。 Iもそう思ってくれていたようで、電話で他愛も無い話をしたり、休日には共に遊びに出かけたり、お互いの家に行き来したりもした。 やがて一ヶ月もする頃には、わたしとIはまるで何年来かの親友のようになっていたのである。 そんなある日、会社帰りに高校時代に仲の良かった唯一の異性のMと偶然出くわした。 久しぶりに会ったため会話が弾み、せっかくなので二人で食事をして帰ったのだが、自宅に帰りつくなり、Iから電話がかかってきた。 見ると先ほどから何度も電話がかかってきていたようなのだが、今の今までマナーモードにしていたためまるで気付かなかったのだった。 わたしが電話に出るなり、Iは酷く取り乱した様子でわたしとMの関係について問い質してきた。 どうやらIは、わたしとMが連れ立って歩いているところを目撃したらしい。 わたしはいつに無く取り乱しているIに内心戸惑いつつも、Mとの関係について説明した。 Iは尚も何か言いたげにしていたが、わたしの説明に納得してくれたようで、どうにか落ち着きを取り戻してくれた。 Iとの電話を切った後、わたしは先ほどのIについて考えを巡らせた。 わたしが女性と肩を並べて歩いているのを見てあそこまで取り乱すということは……やはり、そういうことなのだろう。 何となく気付いてはいたのだ。 わたしがIを見る目と、Iがわたしを見る目には違いがあるということに。 だがわたしは、敢えてそれに気付かぬふりをしていた。 要するに怖かったのだ、わたしは。Iと、親友よりも更にその先の関係に進むことが。 まったく、我ながら何と情けない男なのだろうと思う。 それでもやはりわたしは、彼女とのこの心地良い関係を壊したくなかったのだ。 しかし、この時のわたしは、まだ気付いていなかった。 他ならぬわたしのそんな態度こそが、彼女の内なる狂気を育んでいたのだということに。 541 :月夜の晩に:2012/05/24(木) 18:40:35 ID:l1Lepm72 Mとの一件以来、Iの様子は目に見えておかしくなっていった。 まず、これまでは日に一度程度だった(それでも十分多い気がするが)電話の数が格段に増した上に、一度毎の通話時間も長くなった。 メールの数に至っては電話よりももっと多くなり、ほとんど毎時間置きかそれ以上の頻度で送ってくるのだ。 そしてそれらを無視しようものなら、Iはこちらが反応を示すまで狂ったように益々たくさんの電話やメールをしてくるのだった。 まあ、それだけならまだ良かった。 量が増えただけでメールや電話の内容は以前までと変わらなかったし、こちらが無視さえしなければ至って平和なものだったからだ。 だがIの暴走は、それだけに留まらなかった。 Iは次第に、わたしを監視するようになっていったのである。 朝は出勤しようとするわたしを家の前で待ち伏せし、会社帰りには会社までやってきて、出来る限りわたしを近くに置こうとしてきた。 また、自宅にいる時でもふとベランダから外を見ると、Iが物陰からこちらの様子を伺っていたということも一度や二度では無かった。 メールや電話の頻度はここにきて更に増し、いずれもわたしの動向を探るようなものばかりになった。 特に昼休みには必ず電話をかけてきて、昼休みが終わるまでわたしに電話を切ることを許さなかった。 そんなことが何日も続き、さすがに耐え切れなくなったわたしは、ついに彼女に対して言ってしまったのだ。 「いい加減にしてくれ!君のしていることは悪質なストーカー行為以外の何物でも無い!もう二度と、わたしの前に現れないでくれ!」 Iは泣きながらわたしに縋りつき、何度も何度も謝罪してきたが、わたしはとうとう聞く耳を持たなかった。 *** わたしがIに一方的に決別を言い渡してから三日後の夜、一日の労働から解放されたわたしは一人、家路を急いでいた。 そういえばあの日の夜も、今日と同じくらい月が綺麗な夜だった……気がする。 あれ以来、Iは一度もわたしの前に姿を現していない。 あれほどしつこくしてきた電話やメールもすっかり鳴りを潜め、自宅前や会社で待ち伏せされることも無くなった。 わたしは安堵する反面、どこか寂しくも思っていた。 Iがわたしにしたことは決して許されることでは無いが、それでも彼女は確かに、わたしの親友だったのだ。 そんなIともう二度と会えないというのは、いくらわたし自身が言ったこととはいえ、やはり悲しい。 もう少し違うやり方があったのではないかという考えが、どうしても胸に去来する。 だが全てはもう遅い、遅いのだ。 そんなことを悶々と考えながら夜道を歩くわたしの後姿は、さぞ隙だらけだったに違いない。 いや、実際隙だらけだったのだろう。 何故ならその時のわたしは、後ろからそっと近づいてきている影に、まるで気付いていなかったのだから。 542 :月夜の晩に:2012/05/24(木) 18:41:32 ID:l1Lepm72 突然だった。 突然首筋に、とてつもない電流が走ったのである。 あまりの衝撃にわたしは地面に倒れ伏したが、幸か不幸か、気を失いはしなかった。 わたしは突如現れた襲撃者の顔を見るため、痺れて上手く動かせない身体をどうにか捩りながら、天を仰ぎ見た。 そこには月明かりを背に、まるで聖母のような微笑を浮かべたIの姿があった。 Iは芋虫の如く地べたを這うわたしの姿を、陶然たる面持ちで見つめていた。 そして追い討ちとばかりにもう一度、手に持ったスタンガンを動けないわたしの首筋に押し当てた。 強烈な電流が、またしてもわたしの身体を襲う。 そうして今度こそ指の一本も動かせなくなったわたしは、Iに引き摺られ、そのまま連れ去られてしまったのだった。 わたしを拉致したIはしかし、すぐにはわたしをマンションへと連れ帰らなかった。 彼女はまずわたしを人気の無い手近な裏路地へと連れ込み、そこで思う存分、自らの欲望を満たしたのだ。 身動きの取れないわたしには最早Iに抗うすべも無く、ただ彼女からの陵辱を甘んじて受け入れるしかなかった。 Iは執拗にわたしの身体を弄り、舐め回し、蹂躙した。 その時の彼女の瞳は酷く混濁していて、まさしく情欲に狂った獣のそれであった。 わたしはIに、何度も何度も射精を強いられた。 わたしが彼女の膣内に精を吐き出す度、Iは大粒の涙の流しながらうわ言のように愛していると宣い、貪欲にわたしの唇を貪った。 そんな行為を繰り返されるうち、次第にわたしの意識は遠退き、ついには気を失ってしまった。 そして次に意識を取り戻した時には、わたしはすでにこの部屋のベッドに寝かされ、四肢を鎖で繋がれていたのである。 *** あの夜から二週間、わたしはいまだこの部屋に縛り付けられている。 食事は全てIから口移しで与えられ、入浴は身体を濡らしたタオルで拭くだけ、下の世話も全て彼女によって行われている。 その見返りとばかりにIはわたしの身体を求め、わたしは日に幾度と無く彼女に犯されるのだった。 何度も逃げ出そうと試みたが、鎖は頑丈にベッドに繋がれていて外すことが出来ず、全て徒労に終わった。 わたしはもう一度、首だけを動かして窓の外を見た。 ガラス板一枚隔てた向こう側には、月光に照らされ、不眠の賑わいを見せる夜の街の姿があった。 けれど、どれほど手を伸ばそうとしても、わたしにはもうそこに辿り着くことはできない。 その時、玄関で物音がした。Iが帰ってきたようだ。 恐らく今夜もまた、わたしは彼女に良いように弄ばれるのだろう。 知らず、涙が零れた。 そんな哀れなるわたしを、月はいつまでも無言で見下ろしていた。
539 :月夜の晩に:2012/05/24(木) 18:38:20 ID:l1Lepm72 [1/4] 月が……。 煌々と青白く輝く月が、わたしを見下ろしていた。 *** どうやらすっかり寝入ってしまっていたらしい。 目を瞬かせ、ぼやけた思考回路を軽く頭を振って立て直す。 部屋の電気は全て消されており、窓から差し込む月明かりだけがこの空間を薄暗く照らしている。 ありふれたマンションの一室たるこの部屋だが、こうして月の光に照らし出してみると、なかなかに幻想的な雰囲気を醸し出していた。 わたしはつい、と窓の外に目を見やった。 夜空に輝く、大きくて丸々とした月。 黒い折紙を丸く切り抜いたようなそれが放つ青白い光は、まるでスポットライトのよう。 そうしてしばらく月に見蕩れていたわたしだったが、やがてあることを思い立った。 この天然のスポットライトの下、映画や舞台に出てくる登場人物さながらに、夜の街を闊歩するのも良いかも知れない。 そんな考えが不意に、頭を過ったのである。 そうとなっては善は急げだ。 わたしは意気込んで立ち上がろうとして、――――――すぐにそれが、最早叶わぬ夢なのだと思い出した。 ああ、どうしてわたしはこんな当たり前のことを忘れていたのだろう? ひょっとしてわたしの頭は、未だに夢から覚めきっていなかったのだろうか。 ―――――四肢を鎖で繋がれていては、散歩はおろか立つことすらできないだろうに。 540 :月夜の晩に:2012/05/24(木) 18:39:16 ID:l1Lepm72 [2/4] *** そもそもの発端は、今から三ヶ月ほど前に遡る。 一介のしがない会社員だったわたしは、同僚のKから誘いを受けて、所謂合同コンパに生まれて初めて参加したのである。 とはいえ、生来わたしは皆で騒ぐよりも一人静かに過ごすことの方が好きだったので、どうしても場の空気に馴染むことができなかった。 時折話しかけてくる相手方の女性に適当に受け答えしつつ、わたしはただ早く時間が過ぎ去ってお開きになるのを待っていた。 しかし待てども待てども合コンは一向にお開きにならず、それどころか時間が経つにつれて益々盛り上がりを見せ始めた。 メンバーはKを含め完全に出来上がってしまっており、彼らを置いて先に帰るのも憚られる。 どうしたものかと途方に暮れていたわたしだったが、そんな時に声をかけてくれたのが、相手方の女性の一人であるIだった。 聞けばIもこういった集まりは苦手らしく、今日は急に来られなくなった友人の代わりに来ただけなのだと言う。 すっかり意気投合したわたしたちは、何やら酒の一気飲みなどを始めたKたちを尻目に、二人だけの会話を楽しんだ。 それ以降、わたしとIは何かと連絡を取り合うようになった。 別れ際に電話番号とメールアドレスは交換していたし、何より、あの夜の彼女とのひと時はとても心地良いものだったからだ。 Iもそう思ってくれていたようで、電話で他愛も無い話をしたり、休日には共に遊びに出かけたり、お互いの家に行き来したりもした。 やがて一ヶ月もする頃には、わたしとIはまるで何年来かの親友のようになっていたのである。 そんなある日、会社帰りに高校時代に仲の良かった唯一の異性のMと偶然出くわした。 久しぶりに会ったため会話が弾み、せっかくなので二人で食事をして帰ったのだが、自宅に帰りつくなり、Iから電話がかかってきた。 見ると先ほどから何度も電話がかかってきていたようなのだが、今の今までマナーモードにしていたためまるで気付かなかったのだった。 わたしが電話に出るなり、Iは酷く取り乱した様子でわたしとMの関係について問い質してきた。 どうやらIは、わたしとMが連れ立って歩いているところを目撃したらしい。 わたしはいつに無く取り乱しているIに内心戸惑いつつも、Mとの関係について説明した。 Iは尚も何か言いたげにしていたが、わたしの説明に納得してくれたようで、どうにか落ち着きを取り戻してくれた。 Iとの電話を切った後、わたしは先ほどのIについて考えを巡らせた。 わたしが女性と肩を並べて歩いているのを見てあそこまで取り乱すということは……やはり、そういうことなのだろう。 何となく気付いてはいたのだ。 わたしがIを見る目と、Iがわたしを見る目には違いがあるということに。 だがわたしは、敢えてそれに気付かぬふりをしていた。 要するに怖かったのだ、わたしは。Iと、親友よりも更にその先の関係に進むことが。 まったく、我ながら何と情けない男なのだろうと思う。 それでもやはりわたしは、彼女とのこの心地良い関係を壊したくなかったのだ。 しかし、この時のわたしは、まだ気付いていなかった。 他ならぬわたしのそんな態度こそが、彼女の内なる狂気を育んでいたのだということに。 541 :月夜の晩に:2012/05/24(木) 18:40:35 ID:l1Lepm72 [3/4] Mとの一件以来、Iの様子は目に見えておかしくなっていった。 まず、これまでは日に一度程度だった(それでも十分多い気がするが)電話の数が格段に増した上に、一度毎の通話時間も長くなった。 メールの数に至っては電話よりももっと多くなり、ほとんど毎時間置きかそれ以上の頻度で送ってくるのだ。 そしてそれらを無視しようものなら、Iはこちらが反応を示すまで狂ったように益々たくさんの電話やメールをしてくるのだった。 まあ、それだけならまだ良かった。 量が増えただけでメールや電話の内容は以前までと変わらなかったし、こちらが無視さえしなければ至って平和なものだったからだ。 だがIの暴走は、それだけに留まらなかった。 Iは次第に、わたしを監視するようになっていったのである。 朝は出勤しようとするわたしを家の前で待ち伏せし、会社帰りには会社までやってきて、出来る限りわたしを近くに置こうとしてきた。 また、自宅にいる時でもふとベランダから外を見ると、Iが物陰からこちらの様子を伺っていたということも一度や二度では無かった。 メールや電話の頻度はここにきて更に増し、いずれもわたしの動向を探るようなものばかりになった。 特に昼休みには必ず電話をかけてきて、昼休みが終わるまでわたしに電話を切ることを許さなかった。 そんなことが何日も続き、さすがに耐え切れなくなったわたしは、ついに彼女に対して言ってしまったのだ。 「いい加減にしてくれ!君のしていることは悪質なストーカー行為以外の何物でも無い!もう二度と、わたしの前に現れないでくれ!」 Iは泣きながらわたしに縋りつき、何度も何度も謝罪してきたが、わたしはとうとう聞く耳を持たなかった。 *** わたしがIに一方的に決別を言い渡してから三日後の夜、一日の労働から解放されたわたしは一人、家路を急いでいた。 そういえばあの日の夜も、今日と同じくらい月が綺麗な夜だった……気がする。 あれ以来、Iは一度もわたしの前に姿を現していない。 あれほどしつこくしてきた電話やメールもすっかり鳴りを潜め、自宅前や会社で待ち伏せされることも無くなった。 わたしは安堵する反面、どこか寂しくも思っていた。 Iがわたしにしたことは決して許されることでは無いが、それでも彼女は確かに、わたしの親友だったのだ。 そんなIともう二度と会えないというのは、いくらわたし自身が言ったこととはいえ、やはり悲しい。 もう少し違うやり方があったのではないかという考えが、どうしても胸に去来する。 だが全てはもう遅い、遅いのだ。 そんなことを悶々と考えながら夜道を歩くわたしの後姿は、さぞ隙だらけだったに違いない。 いや、実際隙だらけだったのだろう。 何故ならその時のわたしは、後ろからそっと近づいてきている影に、まるで気付いていなかったのだから。 542 :月夜の晩に:2012/05/24(木) 18:41:32 ID:l1Lepm72 [4/4] 突然だった。 突然首筋に、とてつもない電流が走ったのである。 あまりの衝撃にわたしは地面に倒れ伏したが、幸か不幸か、気を失いはしなかった。 わたしは突如現れた襲撃者の顔を見るため、痺れて上手く動かせない身体をどうにか捩りながら、天を仰ぎ見た。 そこには月明かりを背に、まるで聖母のような微笑を浮かべたIの姿があった。 Iは芋虫の如く地べたを這うわたしの姿を、陶然たる面持ちで見つめていた。 そして追い討ちとばかりにもう一度、手に持ったスタンガンを動けないわたしの首筋に押し当てた。 強烈な電流が、またしてもわたしの身体を襲う。 そうして今度こそ指の一本も動かせなくなったわたしは、Iに引き摺られ、そのまま連れ去られてしまったのだった。 わたしを拉致したIはしかし、すぐにはわたしをマンションへと連れ帰らなかった。 彼女はまずわたしを人気の無い手近な裏路地へと連れ込み、そこで思う存分、自らの欲望を満たしたのだ。 身動きの取れないわたしには最早Iに抗うすべも無く、ただ彼女からの陵辱を甘んじて受け入れるしかなかった。 Iは執拗にわたしの身体を弄り、舐め回し、蹂躙した。 その時の彼女の瞳は酷く混濁していて、まさしく情欲に狂った獣のそれであった。 わたしはIに、何度も何度も射精を強いられた。 わたしが彼女の膣内に精を吐き出す度、Iは大粒の涙の流しながらうわ言のように愛していると宣い、貪欲にわたしの唇を貪った。 そんな行為を繰り返されるうち、次第にわたしの意識は遠退き、ついには気を失ってしまった。 そして次に意識を取り戻した時には、わたしはすでにこの部屋のベッドに寝かされ、四肢を鎖で繋がれていたのである。 *** あの夜から二週間、わたしはいまだこの部屋に縛り付けられている。 食事は全てIから口移しで与えられ、入浴は身体を濡らしたタオルで拭くだけ、下の世話も全て彼女によって行われている。 その見返りとばかりにIはわたしの身体を求め、わたしは日に幾度と無く彼女に犯されるのだった。 何度も逃げ出そうと試みたが、鎖は頑丈にベッドに繋がれていて外すことが出来ず、全て徒労に終わった。 わたしはもう一度、首だけを動かして窓の外を見た。 ガラス板一枚隔てた向こう側には、月光に照らされ、不眠の賑わいを見せる夜の街の姿があった。 けれど、どれほど手を伸ばそうとしても、わたしにはもうそこに辿り着くことはできない。 その時、玄関で物音がした。Iが帰ってきたようだ。 恐らく今夜もまた、わたしは彼女に良いように弄ばれるのだろう。 知らず、涙が零れた。 そんな哀れなるわたしを、月はいつまでも無言で見下ろしていた。

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