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876 名前:天使のような悪魔たち 第24話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 22:32:31 ID:O8Q4sbvo [2/6] 雨に打たれながら待っていると、ようやく知らない番号からの通知が来た。 言われずともわかる。これはあいつの番号だ。俺は何の躊躇いもなく、受話ボタンを押した。 「よう、佐橋。」 『…光から話は聞いた。神坂の居場所を占って欲しい、だそうだな。』 …はて、そんな風に伝わっていたか。ニュアンスは確かに間違ってはいないが。 「まあ、そんな所だ。どうもあいつは厄介ごとを惹きつける事に関しては天才のようでねぇ… 何でもいいんだ。どんな些細な事でも。」 『…些細な事でも、か。簡単に言ってくれるな、お前も…分かっているとは思うが、俺は好きな時に好きな未来を視れる訳じゃないんだぞ。 俺は予言者じゃない。もしそうなら今まで苦労などしてこなかったさ。 ───善処はする。視えたら、すぐに教える。だが…あまりアテにするな。 自分でも、扱いに困ってる能力なんだからな。』 ………それもそうか。 だが、少なくともただの死に損ないたる俺よりは遥かにアテにできるよ、お前は。 俺は受話器越しにそう言ってやった。 せいぜい雨に打たれ続けても風邪を引くような事はない。俺の利点なんてそんなもんだ。 ひと呼吸おき、どちらともなく通話は切れた。 …さて、俺はまた捜索に入らなければならない。 あの委員長が何を思って飛鳥ちゃんを連れ出したのかは未だわからないが、どちらにせよ急がなければ。 …今の結意ちゃんなら、理由がどうあろうと穂坂に木刀で殴りかかるだろう。 そうなる前に。結意ちゃんが本当に″人間の血で手を汚す″前に止める。 それこそが俺の、恐らく最後の役割だ。 悔しいけど、やっぱり結意ちゃんを幸せにできるのはアイツしかいない。ならば俺は、あの2人の幸せを守る。 住宅街の一区画に見切りを付け、さらに奥へと進もうとした時、二度目の着信があった。 佐橋か!? と慌てて携帯を開くが、画面に表示されていたのは結意ちゃんの名前だった。 …見つけたのか? ワンテンポ、自分の心を落ち着かせ(るように努めて)、受話ボタンを押した。 「もしもし、結意ちゃん…? なにか、あったのか…?」 『……見つけたよ、斎木くん。』 奇しくも俺は、この時点で結意ちゃんが、穂坂宅を見つけたのではないという事に気づいてしまった。 声のトーンに、迷いが感じられる。もし穂坂宅を見つけたのなら、静かな怒りと冷静さを混ぜ合わせたような、もっと冷たい声がするはずだから。 「亜朱架さんを、か?」 『…! わかるの…?』 「わかるさ。だって、彼女は俺と同じモノだからねぇ。」 実際はそんなことない。気配すら読めなかったのに。だけど、そういう事にしておこう、と思った。 どんな時でも剽軽なお調子者。それが俺というキャラクターなのだから。 …しかし、こうなるとまずは先に亜朱架さんの状態を確かめないといけない。 亜朱架さんの安全の確保と同時に、情報の整理もだ。闇雲に穂坂宅を探しても見つかりっこないし、一度出直すべきだろう。 …果たしてお姫様は納得してくれるだろうか? 「いったん合流しよう、結意ちゃん。」 すると結意ちゃんはその一言だけで悟ったのか、『…そう、だね。…病院が、いいかな。』と答えてくれた。 決まりだ。電話を切ると俺は結意ちゃんのいる商店街の方面に向かって駆け出した。 水たまりでスラックスが濡れようと、構うものか。 今度こそ守らなければいけないんだ。結意ちゃんも、亜朱架さんも、飛鳥ちゃんも。 そのために、俺はここにいるのだから。 877 名前:天使のような悪魔たち 第24話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 22:34:23 ID:O8Q4sbvo [3/6] * * * * * ほんの少しだけ雨は勢いを落としたようだが、相変わらずの悪天候には変わらない。 もはや傘を差す意味があるのかすら怪しい状態で病院へと戻ってきた。 自動ドアが開くと、漂白されたような息苦しい酸素が外へと逃げてくる。 正直、この独特の病院臭はあまり好きではないのだが。 ざっと辺りを見回すが、結意ちゃんの姿はない。…まだ着いてないのだろうか? 外来のベンチを見渡していると、不意に白衣を着たお姉さんから声をかけられた。 「…もしかして斎木 隼君?」 「そう…ですけど、何でしょう。」 「織原 結意ちゃんからことづてを頼まれたんだけどね…お友達ならもう来てるよ。小っちゃい女の子の方は今、ベッドで寝てる。 結意ちゃんは、身体中びしょ濡れだったから今、ナースステーションで着替えてるよ。」 どうやら、向こうの方が先に着いたみたいだ。俺は白衣のお姉さんに案内されて、そのナースステーションへと向かった。 2階にあるナースステーションは病室のエリアの中心にあり、一層の薬品臭が漂う。 ガラス越しにデスクが並ぶ空間の奥には仕切られた一角がある。 テレビで見たが、あれは裏方だろう。 「こっちよ。」白衣のお姉さんはその裏方へと俺を連れてくれた。その敷居の裏側には、ハロゲンヒーターの目の前で暖をとっている結意ちゃんの姿があった。 ハロゲンヒーターの上には結意ちゃんのブレザーがハンガーにかけて干されている。 だが、まるで傘などなかったかのような濡れっぷり。この程度では乾くまい。 「それはお互い様…って言いたいけどねぇ、」白衣のお姉さんは「何があったかなんていちいち聞くつもりはないけれど…肺炎だなんて、洒落になってないよ。」と言った。 …肺炎!? あの亜朱架さんが? 「会わせてください。俺、聞きたいことがあるんだ。」俺はお姉さんの目つきなど気にもせずに、食ってかかった。…だが。 「何を馬鹿言ってるのよ。39度も熱を出してうめいてる女の子に会って、何を聞くって?」 「そ…れ、は…」 「…今日は諦めなさい。まず明日まで起きないわよ。」ぴしゃ、とお姉さんはそう言い切った。 でも…亜朱架さんが、肺炎? 馬鹿な。だって亜朱架さんは俺と同じで…心臓が消されてもそこから生き返ったのに。 頭の中で早鐘が鳴らされてる感覚だ。何か、取り返しのつかない事が起きてる。このままではダメだ、と俺の直感が告げている。 「斎木くん。先生のいう通りだよ。」それまで沈黙していた結意ちゃんが、口を開いた。 「もう少し、体調が落ち着いてからにしよう?」そう言った結意ちゃんの目からは…なんていうか、疲れとでもいうのか。それが見て取れた。 それから数分後、巡察と言って若い看護婦と入れ代わりに白衣のお姉さんはナースステーションを出て行った。 看護婦はこちらをちらちらと気にしながらも、デスクワークに取り組んでいる。俺たちの間に割って入る素振りは、なかった。 凍りついた空気では何一つ打開できやしない。何か喋らなければ… と考えていると、先に結意ちゃんの方が口を開いた。 「…たぶん、斎木くんの考えてる通りだよ。」 「えっ…?」 「私を殺そうと思ったなら、あの力を使えばすぐ済んだのに、そうしなかった。 …使えなかったんだと思う。もしかしたらそのせいで肺炎なんかに…」 「ちょ、ちょっと待ってくれ。…亜朱架さん、そんな事を…?」 …どうやら、2人の間で一悶着あったようだ。けど、どうして亜朱架さんが結意ちゃんを殺そうとする? 「…あれはお姉さんじゃなかった。ねえ、覚えてる? 白陽祭の時、私とそっくりな女の人がいたじゃない。」 「あ、ああ…もちろん。」 忘れるわけがない、俺の姉にして最愛の女性のことを。 「あの人の力は斎木くんだけの力じゃあ抑えきれなかった。けど…その後お姉さんの言ったセリフ、覚えてる?」 「セリフ? ええと…何だ?」 「『私もあんたと同じ、お母さんと同じ力を持ってる。 あんたの力は、全部封じ込めちゃったから。』 …お姉さんは、そう言ったのよ。」 「優衣姉と…同じ力───ま、さか、そんな!?」 878 名前:天使のような悪魔たち 第24話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 22:36:26 ID:O8Q4sbvo [4/6] そこまで言われてようやく俺はソレに気づくことができた。 亜朱架さんには、復元する力はない。けれど、優衣姉は消去と復元を同時に使うことができた。 それと同じということは、あの時、亜朱架さんには復元の力があったに違いない。 …でも、なぜ? 「こうも言ってたわ。『───兄貴を、返せ』」 「!!」 そのセリフは…! 飛鳥ちゃんを兄貴と呼ぶ奴はあの子しかいない。 神坂 明日香。あの子は、消去と復元を使っていた。まさか…でもそれなら俺では抑えきれなかった優衣姉の力を封じられた説明にもなる。 俺と妹ちゃんで、同時に使ったなら。 …だけど、わからない。妹ちゃんは死んだんだ。どうしてまだ″いる″んだ。 それも、生前となんら変わりない、結意ちゃんに対しての憎しみを抱えて。 取り憑かれてるとでもいうのか。妹ちゃんの、妄執に。だからこそ、感情をコントロールできそうにないから。 「……力を、消した?」気付くと、俺はそう呟いていた。 しかし、能力に関しては誰よりも詳しい俺ですら気付けなかった事に気づくなんて。 やはり、結意ちゃんは恐ろしく頭の回る娘だ。 …どう有れ、これで問題がひとつは落ち着いた。解決はしていないけれど、居場所がわかっただけで今は良しとする。あとは、飛鳥ちゃんの行方だけだ。 「結意ちゃん、俺は一度学校に戻る。」 「?」 「情報が足りなさすぎる。穂坂の連絡先、住所。少なくともこれくらいは欲しいだろ?」 「うん…最低でもね。」 「それは俺がやっておく。だから結意ちゃん、今日は帰るんだ。情報は俺が集める。だから───」 「…勝手に何を言ってるの?」と、俺の言葉尻を遮り、ややトーンの低い声で結意ちゃんは言った。 …やっぱり、か。 こんな事を言えば結意ちゃんは拒否するのはわかっていたさ。 飛鳥ちゃんのために、居ても立っても居られないという事ぐらいは。 「わかってくれ。俺は結意ちゃんの為ならなんだって協力するさ。 けどそれは、結意ちゃんの幸せの為だ。そこには飛鳥ちゃんもいなくちゃ駄目だ。 さっきまで雨に打たれてたんだろう? …大事をとって───」 「………私の心配はしなくていいって、言わなかったっけ!?」と、結意ちゃんは語尾を荒げて吐き捨てた。 「…しない訳にはいかないぜ。結意ちゃんの幸せは、飛鳥ちゃんの幸せでもあるんだから。 ここで結意ちゃんに風邪でも引かせたりしたら、俺はあいつになんて言えばいい?」 「そんなの必要ないよ! …ずっとそばにいるって、約束したの! 私が守んなきゃいけないのよ! …それに、どうして私に気を遣うの? 最初の事件の時からずっとそう。私が、斎木 優衣にそっくりだから?」 「!」 「悪いけれど、私は代わりにはなれないよ。私は飛鳥くんだけが…」 成る程。確かに、そう思われていてもおかしくはない。 客観的に見れば、俺の今までの行動は友人に対するそれと比べても行きすぎな感じはする。 優衣姉に対しての代償行為と思われても、無理はない。けれど… 「それは違うぜ、結意ちゃん。確かに結意ちゃんは優衣姉に似てはいる。 だけど、結意ちゃんは結意ちゃんであって、姉さんじゃない。 結意ちゃんの幸せを願ってはいるけど、代わりにしようだなんて思ったこと、一度もないぜ。」 俺は結意ちゃんの瞳を見つめ、まっすぐに伝えた。 …けれど結意ちゃんは、首を縦に振ることはなかった。 「私の幸せなんかどうだっていいのよ! 飛鳥くんがいればそれで十分なの! 飛鳥くんがいなきゃ……生きてる意味なんかないの……!」 いつしか結意ちゃんは、目尻に涙を溜めていた。 879 名前:天使のような悪魔たち 第24話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 22:37:16 ID:O8Q4sbvo [5/6] 「……どうして、そこまで…?」 愛し続ける事ができる? 亜朱架さんのせいで心をズタズタにされても、優衣姉にかまいたちで切り裂かれても。 …妹ちゃんに1度ならず、2度までも殺されかけても、呪詛を吐かれても。 流石にこの俺でも思う時はある。2人はもし出会うことがなかったなら、こんなにも傷付く事なんてなかったんじゃないか、と。 妹ちゃんの件を皮切りに、次々と問題が降りかかる。…まるで、見えない糸が2人を裂こうとせんばかりに。 それでも、この一言で俺は自分自身を納得させちまうんだ。 ───だって、それが織原 結意という人間なのだから。 惹かれてた、って表現はある意味正しいのかもしれない。 あの優衣姉にだってすら、俺は一瞬とはいえ、そう思ってしまったのだから。 そう───愛に狂うその姿は、残酷なまでに美しい、と。

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