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895 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:37:44 ID:bkK3AqX2 2 「軍曹、A中隊のカワイコちゃん達はどこですか?」 「僕は知らない、少尉に聞けよ」 あの日は確か……2007年12月、いや、11月の終わりだったな。たぶん20日だ。  遠い爆音を聞きながら、バスケットコートから程近い、格納庫の前に置かれた簡易テーブルで適当な雑誌を読んでいた僕に、ウォルト。ウォルター・ハンセン一等兵が声をかけてきたのを覚えている。 「バースと賭けをやってるんっすよ。 そして、ラッキーなことに今日は俺らの勝ちだ」  ハイスクール時代はさぞモテたというハンサムな笑顔を浮かべながら、パットことペーター・ハミルトン一等兵が続いた。 「あまりくだらない事をやってくれるなよ」 「そう馬鹿にしたもんでもないですって」 「そうそう『金は時なり』」  そう、ウォルトが神妙な顔で言った時、ふと周囲が騒がしくなり、数台のハンヴィーが飛び込んできた。 「どうしたんだ?」 「さぁ? ところでさっきの話っすけど……」 「おい、待てよ兄弟。 ありゃ、A中隊のブリーチャーじゃねぇか?」  顔を見合わせてから走り出した二人に続いて、歩み寄っていくうちに徐々に周囲が騒然とし始めた。 「どうした? 何があった?」  僕は車体に体を預けるように力無く立っている隊員に説明を求めるように声をかけた。 「自動車爆弾が、その後に襲撃を受けて……まだ現場で立ち往生してる連中が……」 「なんてこった、大丈夫なのか?」 「自分は大丈夫ですが、仲間が……」  見ると周囲では次々と負傷者が地面に降ろされて治療を受けている。  うちの二人も片目を覆うように包帯を巻いて血まみれの片足を引きずる男を支えるように医務室に運んでいた。 「軍曹、すぐに準備をして車に乗れ! 友軍が孤立し、攻撃を受けている!」 896 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:38:32 ID:bkK3AqX2  その後の時間は矢のように過ぎたさ。  とにかく戦闘できる態勢が整って全員が車に乗り込んで出発した。  中隊総出で取り残された連中を助けにいったのさ、だけど……  僕が詳しく思い出せる限りでは、車列が移動中に前の車の下だった地面が膨れ上がって、ついでに僕たち も吹っ飛ばされ、僕は意識を手放した。  次に思い出せる記憶は、激痛と消毒されたベッドの匂い。 とにかく全身が痛かったのを覚えている。 「大丈夫ですか?」  よく見えなかったが僕が痛みに呻いたことで、部屋にいた人間は僕が目を覚ましたことに気がついたよう だった。 「ここは?」 「安全な所です、デュケスン2等軍曹」  僕は痛みにまとまらない思考の中、回収されてキャンプの病院にいるものだと当たりをつけた。  少なくともタリバーンが捕虜の世話を『女性』にやらせる筈も無い。 「……部隊は?」 「無事、だと思います」 「よかった……」  痛みで自由の利かない体に鞭打ちながら上体を起こすと、清潔なシーツが僕の上半身から滑り落ちた。  それで気がついたのだが、僕はどうやら服を着ていないようだ。 897 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:40:39 ID:bkK3AqX2 「まだ、動いてはいけませんよ?」  声の主が暗がりから歩み寄り、僕は息を呑んだ。  中央アジア人らしい健康的な肌に、艶やかな黒髪。そして寧ろ現実感すら感じられない、ある意味人間離れした愛らしさを持つ少女が部屋着であろうラフな格好でそこに立っていた。 「あなたは一週間近くもそうやって眠っていたんです」  少女が微笑むと、その美しさはさらに輝きを増した。  多少たれ目気味なブルーの瞳が彼女が純粋な東洋系ではないことを示しているが、それは彼女のエキゾチックな美貌を損ねるどころかいっそう際立たせていた。 「それに、もう少し寝ておいたほうがいいと思います」  言葉を失っている僕の、上半身にゆっくりと手を添えてベッドに戻す。  まるで慈しむ様な動作に、僕の心臓はとたんに早鐘を打つのを感じた。 「あ、ありがとう」  どもりながらそういうと少女はくすくすとおかしそうに笑い、僕の頭を撫でた。 「ジョージ、あなたはジョージよね?」  彼女が自分のポケットからドックタグを取り出し名前を読んだ。 「はい」  ついつい生真面目に答える僕に再び笑顔を向けると彼女は僕の個人情報をそらんじ始める。   血液型から始まり年齢や所属、IDナンバー、果てには両親の名前や、実家の住所、極めつけは…… 「キャサリンという娘がいますね? 今年いくつになりますか?」 「2歳……いや、3歳だ」 898 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:42:11 ID:bkK3AqX2  聞かれたことにすらすらと答えてはいけない。   理性では分かっていても体が、長年クソまじめといわれ続けた本能がそれを許さなかった。 「ああ、ジョージ。 それじゃ、昔の話をしましょう?」 「ま、まってくれ、これは尋問なのか?」  僕の質問に驚いたような顔をして見せてから、少女は再び微笑んだ。 「いいえ、そんな無粋なものじゃありません」  そう言うとまるで櫛を入れるように僕の切りそろえられた髪を、いや頭をゆっくりと撫でる。 「そうですね、ピロートークとでも思ってください」 「なんだって?」 「では、昔の話です。 あなたがハイスクールを卒業するかしないかの時期の話を」  僕の質問をまるで聞こえないかのように軽く聞き流して、少女は言葉を続ける。  仕方なく僕も当時を思い出そうと頭を捻った。 「そうは言っても10年近く前の話だろう?」 「8年と4ヶ月それと半月です」  まるで昨日の夕飯のメニューを聞かれるように答えて見せてから、話を促すように頭を撫でていた手を動かした。 899 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:43:46 ID:bkK3AqX2 「当時は……そうだ、普通に就職するか、入隊するかで悩んでいた。 進学をするにしても学費を貯めるためには働く必要があったからね」 「そうですか、それで?」 「結局、入隊する道を選んで……順調に昇進を続けてここにいる」 「……」  少女の手が止まり、表情が心なしか曇った。  微笑は消え、奥の見えないブルーの瞳には何か思案の色が浮かんでいるようにも感じた。 「それでは私のお話も聞いてくださいますか?」  少女は頭を撫でていた手を下ろし、僕の包帯だらけの手を握りながらそう呟いた。 「ああ」 「……あるところに、うまく言葉が喋れず、あまり友達のいない幼い女の子がいました」  まるで遠い昔のことを語るような口調でありながら、どこか懐かしむような表情。 「少女はいつも一人で遊んでいましたが、ある時、おうちから遠く離れた場所で迷ってしまい途方にくれ、ついには泣き出してしまったのです」  黙って彼女の話を聞くうちになんだか既視感を感じた。  いつだったか泣いている女の子を…… 「そこで現れたのは地元のハイスクールの制服を着た男の子でした。 男の子は言葉の通じない女の子をなんとか泣き止ませようと苦労して、何とか聞き出した住所へ女の子を連れ帰ってくれました」 「君は、あのときの?」 「思い出していただけましたか?」  女の子といってもジュニアスクールにあがるか上がらないかの年齢だった記憶がある。  その後も何度か会話をしたような記憶があるが、僕が入隊する事を選び実家を離れてからどうなったかは知らなかった。 「それにしても、驚いたな。 こんなに綺麗になっていたなんて」  僕の言葉に、頬を染めながらうつむいて、握っていた僕の手をさらに力を込めて握り。 「父はこの辺りでは実力者ですから、ここは安全ですよ」  そのまま完璧な笑顔でそう言い放った。
895 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:37:44 ID:bkK3AqX2 [1/5] 2 「軍曹、A中隊のカワイコちゃん達はどこですか?」 「僕は知らない、少尉に聞けよ」 あの日は確か……2007年12月、いや、11月の終わりだったな。たぶん20日だ。  遠い爆音を聞きながら、バスケットコートから程近い、格納庫の前に置かれた簡易テーブルで適当な雑誌を読んでいた僕に、ウォルト。ウォルター・ハンセン一等兵が声をかけてきたのを覚えている。 「バースと賭けをやってるんっすよ。 そして、ラッキーなことに今日は俺らの勝ちだ」  ハイスクール時代はさぞモテたというハンサムな笑顔を浮かべながら、パットことペーター・ハミルトン一等兵が続いた。 「あまりくだらない事をやってくれるなよ」 「そう馬鹿にしたもんでもないですって」 「そうそう『金は時なり』」  そう、ウォルトが神妙な顔で言った時、ふと周囲が騒がしくなり、数台のハンヴィーが飛び込んできた。 「どうしたんだ?」 「さぁ? ところでさっきの話っすけど……」 「おい、待てよ兄弟。 ありゃ、A中隊のブリーチャーじゃねぇか?」  顔を見合わせてから走り出した二人に続いて、歩み寄っていくうちに徐々に周囲が騒然とし始めた。 「どうした? 何があった?」  僕は車体に体を預けるように力無く立っている隊員に説明を求めるように声をかけた。 「自動車爆弾が、その後に襲撃を受けて……まだ現場で立ち往生してる連中が……」 「なんてこった、大丈夫なのか?」 「自分は大丈夫ですが、仲間が……」  見ると周囲では次々と負傷者が地面に降ろされて治療を受けている。  うちの二人も片目を覆うように包帯を巻いて血まみれの片足を引きずる男を支えるように医務室に運んでいた。 「軍曹、すぐに準備をして車に乗れ! 友軍が孤立し、攻撃を受けている!」 896 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:38:32 ID:bkK3AqX2 [2/5]  その後の時間は矢のように過ぎたさ。  とにかく戦闘できる態勢が整って全員が車に乗り込んで出発した。  中隊総出で取り残された連中を助けにいったのさ、だけど……  僕が詳しく思い出せる限りでは、車列が移動中に前の車の下だった地面が膨れ上がって、ついでに僕たち も吹っ飛ばされ、僕は意識を手放した。  次に思い出せる記憶は、激痛と消毒されたベッドの匂い。 とにかく全身が痛かったのを覚えている。 「大丈夫ですか?」  よく見えなかったが僕が痛みに呻いたことで、部屋にいた人間は僕が目を覚ましたことに気がついたよう だった。 「ここは?」 「安全な所です、デュケスン2等軍曹」  僕は痛みにまとまらない思考の中、回収されてキャンプの病院にいるものだと当たりをつけた。  少なくともタリバーンが捕虜の世話を『女性』にやらせる筈も無い。 「……部隊は?」 「無事、だと思います」 「よかった……」  痛みで自由の利かない体に鞭打ちながら上体を起こすと、清潔なシーツが僕の上半身から滑り落ちた。  それで気がついたのだが、僕はどうやら服を着ていないようだ。 897 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:40:39 ID:bkK3AqX2 [3/5] 「まだ、動いてはいけませんよ?」  声の主が暗がりから歩み寄り、僕は息を呑んだ。  中央アジア人らしい健康的な肌に、艶やかな黒髪。そして寧ろ現実感すら感じられない、ある意味人間離れした愛らしさを持つ少女が部屋着であろうラフな格好でそこに立っていた。 「あなたは一週間近くもそうやって眠っていたんです」  少女が微笑むと、その美しさはさらに輝きを増した。  多少たれ目気味なブルーの瞳が彼女が純粋な東洋系ではないことを示しているが、それは彼女のエキゾチックな美貌を損ねるどころかいっそう際立たせていた。 「それに、もう少し寝ておいたほうがいいと思います」  言葉を失っている僕の、上半身にゆっくりと手を添えてベッドに戻す。  まるで慈しむ様な動作に、僕の心臓はとたんに早鐘を打つのを感じた。 「あ、ありがとう」  どもりながらそういうと少女はくすくすとおかしそうに笑い、僕の頭を撫でた。 「ジョージ、あなたはジョージよね?」  彼女が自分のポケットからドックタグを取り出し名前を読んだ。 「はい」  ついつい生真面目に答える僕に再び笑顔を向けると彼女は僕の個人情報をそらんじ始める。   血液型から始まり年齢や所属、IDナンバー、果てには両親の名前や、実家の住所、極めつけは…… 「キャサリンという娘がいますね? 今年いくつになりますか?」 「2歳……いや、3歳だ」 898 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:42:11 ID:bkK3AqX2 [4/5]  聞かれたことにすらすらと答えてはいけない。   理性では分かっていても体が、長年クソまじめといわれ続けた本能がそれを許さなかった。 「ああ、ジョージ。 それじゃ、昔の話をしましょう?」 「ま、まってくれ、これは尋問なのか?」  僕の質問に驚いたような顔をして見せてから、少女は再び微笑んだ。 「いいえ、そんな無粋なものじゃありません」  そう言うとまるで櫛を入れるように僕の切りそろえられた髪を、いや頭をゆっくりと撫でる。 「そうですね、ピロートークとでも思ってください」 「なんだって?」 「では、昔の話です。 あなたがハイスクールを卒業するかしないかの時期の話を」  僕の質問をまるで聞こえないかのように軽く聞き流して、少女は言葉を続ける。  仕方なく僕も当時を思い出そうと頭を捻った。 「そうは言っても10年近く前の話だろう?」 「8年と4ヶ月それと半月です」  まるで昨日の夕飯のメニューを聞かれるように答えて見せてから、話を促すように頭を撫でていた手を動かした。 899 :Homefront ◆VxHCGt/UxY:2012/09/14(金) 01:43:46 ID:bkK3AqX2 [5/5] 「当時は……そうだ、普通に就職するか、入隊するかで悩んでいた。 進学をするにしても学費を貯めるためには働く必要があったからね」 「そうですか、それで?」 「結局、入隊する道を選んで……順調に昇進を続けてここにいる」 「……」  少女の手が止まり、表情が心なしか曇った。  微笑は消え、奥の見えないブルーの瞳には何か思案の色が浮かんでいるようにも感じた。 「それでは私のお話も聞いてくださいますか?」  少女は頭を撫でていた手を下ろし、僕の包帯だらけの手を握りながらそう呟いた。 「ああ」 「……あるところに、うまく言葉が喋れず、あまり友達のいない幼い女の子がいました」  まるで遠い昔のことを語るような口調でありながら、どこか懐かしむような表情。 「少女はいつも一人で遊んでいましたが、ある時、おうちから遠く離れた場所で迷ってしまい途方にくれ、ついには泣き出してしまったのです」  黙って彼女の話を聞くうちになんだか既視感を感じた。  いつだったか泣いている女の子を…… 「そこで現れたのは地元のハイスクールの制服を着た男の子でした。 男の子は言葉の通じない女の子をなんとか泣き止ませようと苦労して、何とか聞き出した住所へ女の子を連れ帰ってくれました」 「君は、あのときの?」 「思い出していただけましたか?」  女の子といってもジュニアスクールにあがるか上がらないかの年齢だった記憶がある。  その後も何度か会話をしたような記憶があるが、僕が入隊する事を選び実家を離れてからどうなったかは知らなかった。 「それにしても、驚いたな。 こんなに綺麗になっていたなんて」  僕の言葉に、頬を染めながらうつむいて、握っていた僕の手をさらに力を込めて握り。 「父はこの辺りでは実力者ですから、ここは安全ですよ」  そのまま完璧な笑顔でそう言い放った。

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