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88 :ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:52:32 ID:SoNptnnM 俺は喫茶店を出ると、今日は俺の好きなマンガの新刊の発売日だということに気がついた。 俺は単語を覚える記憶力は全く持ち合わせていないのに、こういうことだけには記憶力が最大限に発揮されるのである。 先ほどの恐怖体験のことは完全に忘れ、本屋に向けて足取り軽く進んだ。 しばらく歩くと駅前に大きな本屋が見えてくる。5階建てで、実用書から教科書、漫画、小説にいたるまで様々な種類の本を取りそろえている。 俺が昔から行きつけにしている本屋だ。 店内は冷房が効いていて、外の熱気を忘れ、汗を拭くことができた。 「え~っとどの辺にあるのかな・・・。」 俺は今、今月の新刊という書籍コーナーの周りをぐるぐる回っている。しかしなかなか目当てのマンガが見つからない。 「ったく、分かりやすい所に置いておいてくれよな。」 ブチブチと文句を垂れていると、背中をポンとたたく感触があった。 振り向くとまるで天使の笑顔が見えた。その顔は見慣れたものだった。 「お困りですか?池上君。」 「本条さん。ここでバイトしてたのか!」 本条さんこと本条絵里は俺と同じクラスの女の子だ。 米沢とは負けず劣らず可愛い女の子である。でも、小柄な米沢と違って絵里ちゃんはすらっとした長身と大きく膨らんだ胸が特徴的で、クラスの人気を二分する二大美女の一人だ。 「うん。ここって私の家から近いからね。社会経験も兼ねて少しバイトをしているのよ。」 また、ニコリと天使の微笑みを見せる本条さん。 この笑顔を見ればどんな男でもつられて笑顔になってしまうだろう。そうでなければそいつはホモだ。 無駄話もそこそこに俺は本題に入ることにした。 「そうだ、ちょうど良かった。今日入った新刊のマンガってどこに置いてあるか聞きたいんだ。」 すると、本条さんは小首を傾げて考えるポーズをとった。 やっぱり可愛い子って何やっても可愛いんだな、としみじみ思う。 89 :ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:53:14 ID:SoNptnnM 米沢もたまにわがまま言って俺を困らせるけど可愛いから許してしまう。 可愛いってある意味犯罪だ。 「たしか、こっちにあったような気がする。ちょっとついて来て。」 ぎゅっと俺の手をつかんで引っ張ってくる。 彼女の手はふにふにと柔らかく、そして温かかった。その感触にドギマギしてしまう。 結局俺は本条さんに手を引っ張られてお目当ての新刊のマンガの在りかに辿り着くことができた。 「ありがとう、本条さん。このお礼はいつかするから。」 「そんな・・・いいわよ、困った時はお互い様だもの。」 俺は本条さんに感謝しつつレジへ向かった。 「あのぉ、お金足んないんですけど。」 「え?」 「ですからこれじゃ100円足りません。」 し、しまった!さっきの散財でマンガ一冊分の金も残ってねえ・・・。 レジに立つふてぶてしい面をしていたJKが嘲笑するような眼で俺を見る。 『マンガ買う金もないのかよ』と下に見られている気がする。 今、恥ずかしくて俺の顔はおそらく真っ赤に染まっているだろう。 その時、本条さんが少し笑いながらレジのほうへやって来た。 「あっ、本条さん。」 「池上君、お金貸してあげようか?」 「え?」 「このままその漫画が買えないんじゃかわいそうだもの。100円くらいどうってことないわよ」 彼女の心づかいが逆に辛かった。 でも、断る理由なんかないよな。と考え方をすぐにシフトして彼女に向きなおった。 「じゃあ・・・借りようかな、ありがとう本条さ・・・」 「いいえ、借りる必要はないよ、池上。」 90 :ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:54:07 ID:SoNptnnM 誰だ?俺の言葉を遮ったやつは・・・って米沢だった。 なんでこんな所に?漫画を買う金もないことなんて他の人に知られたくないのに! 「米沢・・・さん。」 本条さんがなぜか気まずそうに米沢の名を呼ぶ。 よく考えたらこの二人がしゃべってるの、見たことない気がする。何でだろう・・・。 「列の順序を守ってもらわないと困るわ、米沢さん。」 「池上、私の分奢ってくれたのは嬉しいけどね、自分の懐具合を考えてからカッコつけなよ。ほら、さっきのお礼に私が買って、プレゼントしてあげるから。」 本条さんのつぶやきを完全にスルーして、フッと笑って彼女は俺に我が子を諭すように言う。 なんか、ことごとく情けないな俺って・・・。 その時、ぶつぶつと何かの声が聞こえてきた。 「米沢さん、いくら池上君の知り合いだからって他の人を押しのけてレジの前に入るなんてルール違反だと思いませんか?」 本条さんが両手に握り拳を作って、少し目線を下にずらして、そう言った。 あれ?本条さん、どうしたんだ・・・? なんかとげとげしいオーラが・・・・。 「何言ってんだか知らないけど、私は池上にお金を貸してあげてるだけ。別に私が横はいりして品物を買ったわけじゃないわ。そのぐらいの融通もきかないのかしら、本条さん?」 米沢も本条さんとはクラスメートなのにやたら他人礼儀な話し方をしてるな。 いったい何なんだ?何でこんなに仲が悪いのだろう・・・。 二人とも黙って睨み合っている。俺は壮絶なプレッシャーを感じる・・・。 冷や汗のようなものが首筋から垂れる。 固唾を飲んで見守る俺。 その時、 「あのぉ、カバーつけますか?」 さっきのJKが間の抜けた声を響かせた。 俺はその場でずっこけた。 91 :ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:54:49 ID:SoNptnnM 私は売れ筋の悪い本を本棚から撤去し、新しく入荷した本を本棚に納める作業をしながら、さきほどの出来事を思い出していた。 思い出すだけでもいらいらする。 あの時私はお金を池上君に貸した後、明日映画を見に行く約束を取り付けるつもりだった。 もちろんメールでしてもいいんだけど、直接面と向かってお誘いをした方が礼儀正しいのは間違いない。 でもそれをあの女が邪魔をして、うやむやにしてしまった。 あの米沢という女。 あの女が池上君の事を好いているのはあの女の顔と態度を見れば一目瞭然。 周りのうわさ好きな者たちは原とかいう男とあの女が好き合っていると認識しているがそれは大きな間違い。 原とかいう男はおそらく噛ませ犬。 池上君の気を引こうと手頃な男と付き合ってしまえ、というあの女の策略が手に取るようにわかる。 でも所詮は浅知恵ね。 池上君は、私の池上君はそんな馬鹿なかまかけにひっかかるような安い男の人ではない。 むしろ逆にあの女にとって原という男の存在は枷になっているはず。 あの女は、原を切り離さない限りは、池上君に思いを伝えることはできない。 そう、切り離さない限りは・・・・ね。 「ふふふ・・・楽しみよ。楽しみ。とっても楽しみだわ・・・。」 自然と笑いがこみあげてしまう。 暗く、冷たく笑う私。 隣で立ち読みをしていた男が私の顔を見るなり、そそくさと離れて行った。 いけない、いけない。私は池上君のこととなると、つい本性が表に出てしまう。 私は学校では社交的で明るい女の子で通っている。 でも、本当の私は冷酷で残酷。 きっと、私の本性が曝け出された時、私の周りの人たちはさっきの男の人のように私から離れて行ってしまうだろう。 それでも私は構わない。池上君さえ側にいてくれればいい。 ・・・こんな私でも池上君だけは受け入れてくれるよね。

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