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194 名前: ◆sM/QAprqYA[sage] 投稿日:2012/11/22(木) 23:26:27 ID:ctrs5uFg [3/4] 大抵の人は寝静まっているであろう深夜、独り、狩りへと向かう。 武器を持ち、街を駆け回るその姿は、さながら歴戦の兵士のようであった。 「ふーっ。」 一人、息をつく。 傍にあったペットボトルを手に取り、中身が入っていないことに気付き、気だるげに首をパキパキと鳴らしながら台所へと向かった。 ――今日も調子良さ気だな、この調子ならなんとかかんとかクリアまで無事辿りつきそうだ。 忙しい学生生活の合間を縫い、夜更けを厭わずゲームにどっぷりと浸かるのが、数少ない彼の趣味の一つだ。 ほんの少しの青春すら謳歌できず、友達などと呼べる関係の人物すらいない中で寂しい人生を送っている彼にとっては、それは生きがいと呼んでも過言ではない。 そんな境遇からの反動もあってか、彼はよく、人とより深く繋がることの出来るオンラインゲームを選り好んでプレイした。 長かった一週間の内の平日も終え、ようやく週末を迎える事もあってか、例に漏れず、仮想空間の友達、そして暗闇の部屋を照らすモニタへと、夜通し向かい続けるのであった。 ふと、時計を見ると、時刻はすでに丑三つ時を半刻以上も過ぎていた。もうこんな時間か、次がラストかな。 最後の締めに、オフライン、すなわち一人でプレイしてその日を終えるのが習慣となっている。 ゲームを立ち上げ、淡々とプレイを開始する。 ああ、今日も一日が終わったなあ……――。 その日起こった変わった出来事を振り返りながら、彼はふと、ある出来事を思い出した。 ――昼休み、何を思ったか突然話しかけてきた藍澤さん。あれは何だったんだろう……。 相も変わらず穏やかな日差しの差し込む冬の昼休み、彼女は突然やってきた。 「――ねえサトルくん、昨日のあのコンボなんだけどさあ……――。」 伏せていた顔を上げ、話しかけてきたのは『あの』 藍澤さんだと認識した。瞬間、彼の視界は真っ白になった。 唯でさえ普段からクラスメートと会話と呼べる程度のコミュニケーションすら交わさない彼だ、ましてやクラスの、いや校内一の美女と言っても過言ではない彼女から生まれて初めて声を掛けられ、脳内はパンク寸前であった。 彼女は何を話している? それが第一印象であった。構わず、彼女は話し続ける。上手く決まったよね、痺れちゃったぁ、あそこはギリギリだったね、うふふっ……。 頭が、回らない。相槌すら、打てない。グルグル、グルグル。 目立ちすぎず、かといって地味すぎない色に染められた茶髪、くっきりとした睫毛、二重目の大きな瞳、桜色の頬、妖しく揺れる艶のある唇。そして、其処から透き通った声で紡ぎ出される言葉。 全てが、彼を、飲み込もうとする。 ふと気がつくと、彼女の端正な顔立ちが目前にあり、肩を揺すられていることに気付いた。 「もう、私の話ちゃんと聞いてた? 」 ――あ、ああ……。 あまりに緊張しすぎて、喉がカラカラに渇いていた所為か、きちんと声を出せたかすら曖昧だった。だが、にこやかな表情で頷く彼女の様子を見る限り、その心配は必要なさそうだった。 「もうこんな時間かあ、もっとお話していたかったんだけど……。それじゃあ、また夜にね! 」 嵐が通り過ぎた後のような静けさ。彼は半ば呆然としながら、『夜』 とは一体どういう意味であったのか、ぼんやりと考えながら、立ち去る彼女の背中を見送った。 妖しく揺れる、艶のある唇を、嘗め回しながら立ち去る、彼女の背中を……。

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